東京地方裁判所 昭和58年(ワ)12196号 判決 1997年6月30日
東京都世田谷区用賀二丁目三五番六号
甲事件原告、乙事件被告
オサ機械株式会社
右代表者代表取締役
長稔
右訴訟代理人弁護士
尾崎行正
右
同 原田進安
右
同 服部明人
右
同 野嶋慎一郎
埼玉県戸田市下戸田二丁目二六番一三号
甲事件被告、乙事件原告
谷沢菓機工業株式会社
右代表者代表取締役
谷沢秀夫
右訴訟代理人弁護士
井上義男
右訴訟復代理人弁護士
宮城島幸与
右
同 田中その子
東京都国立市富士見台二丁目四六番二号富士見台団地二-四-五〇六
甲事件被告、乙事件原告
中宿雄惣
右訴訟代理人弁護士
高橋郁雄
右
同 橋本正勝
主文
一 甲事件被告らは、甲事件原告に対し、各自金六八二二万四九五〇円及びこれに対する内金二〇四六万八五五〇円については昭和五八年一二月三〇日から、内金三五二万三五〇〇円については昭和六〇年七月九日から、内金三七七万二五〇〇円については平成元年一二月七日から、内金四〇四六万〇四〇〇円については平成六年一月一日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 甲事件原告のその余の請求を棄却する。
三 乙事件原告らの請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は、甲事件について生じた費用についてはこれを四分し、その三を甲事件原告(乙事件被告)の、その余を甲事件被告ら(乙事件原告ら)の負担とし、乙事件について生じた費用は乙事件原告ら(甲事件被告ら)の負担とする。
五 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。ただし、甲事件被告らが、個別に又は共同して、金八〇〇〇万円の担保を立てたときは、担保を立てた甲事件被告らは、仮執行を免れる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 甲事件原告(乙事件被告)
1 甲事件の請求の趣旨
(一) 甲事件被告ら(乙事件原告ら。以下「被告ら」という。)は、甲事件原告(乙事件被告)に対し、各自金二億八四五一万一〇五〇円及び内金二二九四万六五五〇円については昭和五八年一二月三〇日から、内金二八〇三万二〇〇〇円については昭和六〇年七月九日から、内金一億三三五三万二五〇〇円については平成元年一二月七日から、内金一億円については平成五年一〇月二三日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 訴訟費用は被告らの負担とする。
(三) 仮執行宣言
2 乙事件の請求の趣旨に対する答弁
(一) 被告らの請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は被告らの負担とする。
二 甲事件被告ら(乙事件原告ら)
1 乙事件の請求の趣旨
(一) 乙事件被告(甲事件原告。以下「原告」という。)は、乙事件原告(甲事件被告)谷沢菓機工業株式会社(以下「被告会社」という。)に対し金二〇〇万円、乙事件原告(甲事件被告)中宿雄惣(以下「被告中宿」という。)に対し金三〇〇万円及び右各金員に対する昭和六〇年一一月八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
(三) 仮執行宣言
2 甲事件の請求の趣旨に対する答弁
(一) 原告の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
第二 当事者の主張
一 甲事件の請求原因
1 当事者
(一) 原告は、肩書地においてチョコレート製造用機械を製造、販売する会社である。原告は、昭和七年から、チョコレート製造用機械の製造を行っており、業界のリーダーとしての立場にある会社である。
(二) 被告会社は、かねてから肩書地で米菓機械、製餅機械の製造、販売に従事し、昭和五五年夏頃からチョコレート製造用機械の製造、販売をしている会社である。
(三) 被告中宿は、昭和三二年二月から原告に勤務し、昭和五五年五月二〇日まで原告の製造技術関係の仕事を担当し、退職までの約一〇年間は設計課長の要職にあった。被告中宿は、原告を退職した直後から、被告会社に勤務した。
2 被告らの不法行為1(ノウハウ侵害)
(一) 設計図に化体された原告機械のノウハウ
(1) ノウハウとは、ある者の事業に使用され、それを知らない他の競争者に対して有利性を得る機会を与えるような製法、機械、工夫、情報の集積を意味する。
(2) 原告が販売する、別紙原告機械目録記載のチョコレート製造用機械(以下、総称して「原告機械」という。)は、日本各地に所在するチョコレート菓子製造業者の注文に応じて製造、販売されるものであり、その各々の機械の製造について、原告において長年にわたる試行錯誤が繰り返され、その結果として、各々の機械について膨大な設計図が作成されている。すなわち、一台の機械を製造するためには、設計図を作成し、その機能、意匠等に関し何回もの手直しを加え、その都度設計図を修正するものである。また、最終的に完成された設計図についても、一枚の全体的な設計図のみならず、機械の各部分ごとに詳細な設計図が必要とされるのであり、一種類の機械を市場に送り出すためには、数枚から数十枚の設計図が必要とされる。このように原告機械の設計図には原告機械についての原告の工夫、情報が表現されており、原告機械の設計図にに基づいて製造された原告機械は、顧客の間で、その性能、品質について多大な信頼を受け、原告はこれにより競争者に対して有利な地位を確保している。
また、原告は、右資産価値を有する設計図については、企業秘密としてこれを保管し、その保管方法としては、設計室の鍵付きの専用キャビネットに保管するという方法がとられていて、みだりに外部の者の目に触れないような配慮がされている。また、就業規則(甲第一六号証)においても、企業秘密を洩らしたり、持ち出そうとする行為を禁じ(同規則五一条七号、九号及び一一号)、したがって、原告の設計図は企業秘密としての秘密性の要件も充分満たしている。
このように、原告機械の設計図は、原告機械のノウハウを化体した極めて高度な企業秘密であり、原告にとって重大な価値を有する資産である。
被告らは、原告機械の設計図の作成があたかも、被告中宿によってなされたかのように主張するが、事実に反する。機械の設計に当たっては、従来から長年にわたって蓄積してきた技術、経験、資料に加えて、同種機械を研究して最適な機械の設計を行う努力がされるのである。このため、設計関係には、常に数名の設計技術者を擁し、これらが共同して新技術の開発に当たり、新たに機械の設計を行ったのである。被告中宿は、これら多数の技術者の一人であって、原告機械の設計当初には、むしろ若年技術者として、多くの先輩の指揮下に置かれていたのである。
(3) 原告機械のうちの個々の機械のノウハウについては、(三)において述べるとおりである。
(二) 被告らの権利侵害行為
(1) 被告中宿
ア 被告中宿は、原告との雇用契約の存続期間中、原告の有する企業秘密を盗用したり、外に洩らしてはならない契約上の義務を負っていた。
被告中宿は、原告の有する原告機械の設計図が原告の重要な資産であり、かつ、これが部外者には秘密にしてある企業秘密であることを熟知していた。
しかるに、被告中宿は、後日被告会社に転職した際に、原告に無断で原告機械の設計図を被告会社のために使用することを意図しながら、被告会社と共謀して、原告に在職中、原告機械の設計図を無断で複写し、これを模写する等して被告会社が被告機械を製造、販売することを可能にし、原告機械について原告が有するノウハウを侵害したものである。
イ 右事実は、後記設計図の対比を行なう七機種についてはその対比自体から明らかであるが、それ以外の一七機種についても、次の事実から推定される。
被告中宿が一人残業し、いかなる行為を行っていたかは断定できない。しかしながら、昭和五五年一月から同年五月にかけて原告のコピー使用量が急増していたことは事実である。これを証するのが甲第五七号証である。原告では、昭和五五年当時、毎月青焼きコピー用紙を複写総合センター三洋社から毎月の使用量に応じて購入していた。同社からの請求書につき原告に残存していたものを調査したところ、昭和五四年八月から昭和五五年五月までの毎月のコピー用紙購入金額は、別紙設計図用コピー用紙購入一覧表記載のとおりであった。被告中宿が一人残業していたことが明らかな昭和五五年一月のコピー用紙購入金額は、五万八六四〇円と際立って高額であること、及び昭和五四年八月から同年一二月までの五か月間で、合計九万六四四〇円(一か月平均一万九二八八円)であるのに、昭和五五年一月から同年五月までの五か月間では合計一八万七五九二円(一か月平均三万七五一八円)であることが特筆される。以上のとおり、被告中宿が原告を退職する直前五か月のコピー使用量は、その前期五か月の使用量のほぼ二倍になっているのである。
(2) 被告会社
ア 被告会社は、被告中宿が、右のとおり不法に複写した設計図を使用して、チョコレート製造用機械を製造しようとしていることを知りながら、被告中宿と共謀し、不法に複写した設計図を使用して、原告機械と同一か又は極めて類似する別紙被告機械目録記載のチョコレート製造用機械(以下、総称して「被告機械」という。)を製造し、原告の従来の顧客に販売し、原告機械について原告が有するノウハウを侵害したものである。
仮に、被告会社の故意、過失が認められないとしても、被告中宿は、被告会社の従業員であるから、被告中宿が原告の設計図を盗用して、被告機械を製造した点で悪意であり、その行為が不法行為を構成する以上、被告会社は使用者としてもその責めを免れない。
イ 被告会社について、右事実は、後記設計図の対比を行なう七機種についてはその対比自体から明らかであるが、それ以外の一七機種についても次の事実及び証拠から推定される。
被告機械中、被告機械一六を除く二三機種が、昭和五五年に被告会社がチョコレート製造用機械の製造、販売に着手した後遅くとも昭和五八年一〇月までの三年の間に被告会社によって製造、販売された。
このことは、甲第七号証等により明らかである。甲第七号証の写真集は、被告会社が製造したチョコレート製造用機械の写真集であり、原告は本件訴訟提起後の昭和五八年末に、名古屋の製菓業者株式会社ロイスの社長から入手した。この写真集の各写真には、被告機械のうち、被告機械一六、被告機械一九のうちの<6>デポジッタープラント用竪型クーリングトンネル及び<7>デポジッタープラント用ディモルダー、被告機械二一AのうちのTSE型エンローバー六〇〇の三機種四機械を除いた残り二一機種が撮影されている。右各写真の殆どにはその撮影年月日が記入されており、昭和五八年一〇月までに撮影されている。しかも、甲第七号証に撮影されていない三機種のうち、被告機械一九の<6>、<7>については、後記2(三)(19)イ
チョコレート製造用機械は、被告会社がそれまでに製造、販売していた米菓機械と異なり、複雑な機能と構造を有し、一台の機械を作るためには、設計図は数十枚、部品に至っては数百個又は数千個も必要となる。いかに被告中宿が原告の設計課長をしていたとはいっても、このように多種類の機械の数多くの部品につき、逐一その形態及び寸法を記憶していたということはあり得ない。新たに機械を開発するには試作品の設計図を作成するだけでも平均三ないし六か月、その後、この試作品の設計図に基づき試作品を完成させ、かつ、そこで発見した種々の設計上、製造上の問題点を解決し、改良を加えて最終製品を顧客に納入するためには、更に平均四ないし六か月を要する。このため、原告は三〇年以上の長期間をかけて原告機械を開発したのである。このような機械について、被告会社が右三年の短期間にこれを開発し、製造、販売できるということは、原告機械の設計図の模倣なくしては絶対あり得ないことである。
(三) 原告機械の各機械が有するノウハウ及び各機械についての設計図盗用、模写による原告機械のノウハウ侵害の事実は、次のとおりである。
なお、次に示すノウハウは、原告機械に含まれる無数のノウハウの一部を列挙したものに過ぎない。
(1) NAT-三〇〇オートテンパー(以下「原告機械一」という。)とSAT-三〇〇オートテンパー(以下「被告機械一」という。)
ア 原告機械一の概要及びノウハウ
オートテンパーは、熱交換機であり、前工程で溶融された液状チョコレートを適宜な温度に冷却することによつて、次工程における加工のための最適な温度及び硬度を保つものである。この工程は、同時に、チョコレートの成分(油脂分、糖分など)の混和状態や析出状態に大きい影響を及ぼし、最終製品の味、歯ざわり、舌ざわり等チョコレートの性質、商品の良否に大きく影響し、高級チョコレートの製造の基本を決定することになる。このため、冷却工程は、単に温度を一定とする結果が得られれば足りるのではなく、その速度、冷却段階の進展度、工程中の混和方法・状態など、極めて微妙なコントロールが必要であり、これこそ長年の経験や勘に裏付けられたノウハウが不可欠な分野である。
横型三段階冷却方式
世界的にみて、殆どのメーカーは、チョコレートを上方から下方へ流す方式か、逆に下方から上方へ送り出す方式をとっている。これに対し、原告のみは、チョコレートを水平方向へ移動させつつ、三段階にわたって熱交換を行う構造を発明し、原告機械一を製造し、約二〇年間、原告機械一を日本市場に独占的に供給し、高級チョコレートメーカーには不可欠の存在であった。この横型三段階冷却方式こそ、原告機械一の基本的ノウハウである。
被告らは、原告機械一に先行するものとして外国二社の製造するオートテンパーを挙げるが、それらはスクリューは横型であるものの、冷却筒は一段であり、チョコレート処理能力を高めるために冷却筒を長くし、機械の占有スペースが大きくなるという欠点を有している。これに対し、原告機械一は冷却筒を上下二列(二本)とするものであり、かつ、冷却部を更に三段階に分けて冷却効率を高めているうえ、機械のサイズは小さく設置場所をとることのないように工夫されている。加えて、原告機械一の第三冷却部の最後部にリヒート部を設置することで結晶の安定を図るという独自の工夫を凝らしているのである。オートテンパーの製造につき、横型二列三段階冷却方式を採用しているのは国内外において原告のみである。
オートテンパーにおいては、シリンダー部(冷却部)が長いほど冷却能力が大きくなって生産が増加し、かつ、徐々に冷却できるためカカオバターの結晶が適量、良質となるが、他方、シリンダー部が長くなると機械が大きくなるという問題がある。シリンダー部を二本とするのは、この悩みを解決し、コンパクトな形で多量、良質のチョコレートの生産ができるように原告によって考案された工夫である。また、機能的には二本の冷却筒はそれぞれ二つのセクションに分かれ、全体で四つのセクションに分かれており(別紙説明図1のロ参照)、それぞれのセクションで独立した温度調整ができるようになっている。
チョコレートを冷却するには、徐々に冷却する必要があるが、右のように四つのセクションに分けて、独立に温度調節するというのは、チョコレートの冷却時に温度を微妙に調節しつつ、徐々に冷却するための工夫である。
更に、二本のシリンダーの連結部に撹拌翼を設置してあるが、これによってチョコレートを上部から下部へ送り込むと同時に、チョコレートの冷却温度のむらを少なくする作用も果たしており、原告機械一における技術的工夫の一つである。
オートテンパーにあっては、シリンダー表面に設けられたスクリュー溝と冷却筒の内径との間にチョコレートがつまっており、それがスクリューの回転につれて順次前方に送られて行くとき、冷却筒の外側を流れる冷却水によって序々に冷却されていく機構となっている。このスクリューの上端と冷却筒の内径との間にクリアランス(隙間)があるが、それが狭すぎれば内容物が詰まってスクリューと冷却筒との間に固着し、シリンダーの円滑な回転を妨げ、スクリューを動かなくするし、広すぎればその間からチョコレートが漏れ、前後のスクリュー溝へ移動し、冷却度の違うチョコレートが混和し、温度を順序だって冷却しようとする機械の本質的機能を阻害する。したがって、オートテンパーの製造者としては、いかなる数値の間隔を設けるべきか、シリンダー、冷却筒及びスクリューの加工精度をいかに上げるか、大いに苦心するところである。原告機械一は、クリアランスを〇・二五ミリメートルとしているが、これは右のような考慮に基づくものであり、原告機械一の最重要ノウハウの一つである。
シリンダーの外径と冷却筒の内径との間隔(スクリューの螺旋の高さ、すなわち溝の深さ)にチョコレートが詰まっていて、それがスクリューの回転によって前方に移動するとき、冷却筒外側を流れる冷却水で冷却される原告機械一にあっては、移動するチョコレートの量、すなわちチョコレートの厚みがどれだけかが、冷却の度合いを大きく左右する。その間隔(溝の深さ)、すなわちチョコレートの厚みが狭ければ冷却効率が良く、広ければ冷却効率が悪くなる。最適条件の下で冷却するのにいかなる厚みのチョコレートの流れを作るべきか、この溝の深さの決定は、原告機械一の性能を決定する最高度のノウハウ部分であり、原告機械一は、これを九・七主ミリメートルとしている。
原告機械一は、その他にも、チョコレート内部の砂糖のカーボン化によるトラブルを防止するため、独特の機構的工夫を採り入れている点、機械の振動によって温度調節のための計器類が狂わないように、計器類を機械と一体にしないで別に取り付け、機械との間に防振装置を設けてある点、機械の下部に手動シャッターを取り付け、随時簡単に途中で取り出しができるようにしてある点及びスクリュー軸を回転させるスポロケットにシャーピンと呼ばれる安全装置を付けて、チョコレートがシリンダー内で固まった場合、安全装置が働き、スクリューの回転を停止するようにしている点、感熱計に技術的工夫がある。
イ 設計図盗用、模写によるノウハウ侵害
後に、
被告機械一の設計図として提出されている乙第一四号証、乙第一八号証と原告機械一の設計図である甲第一号証の対応関係は、別紙「NAT三〇〇とSAT三〇〇 両設計図の図面対応表」のとおりであり、この対応関係の順序に右各号証を複写し直したものが甲第五五号証である。以下、主要なものについて対比する。
甲第八五号証の一は、原告機械一の冷水、温水配管系統図であり、甲第一号証の二の図面を部分複写し、温水の流れを赤色で、冷水の流れを青色で、チョコレートの流れを茶色で表示したものである。これを更に分かりやすくしたものが、甲第八五号証の二の「NAT三〇〇オートテンパー配管系統ダイヤグラフ」である。
甲第八六号証の一は、甲第八五号証の一に対応させる目的で被告機械一とは処理能力が異なるのみである被告機械四の電気配線図を部分複写したものであり、温水の流れを赤色で、冷水の流れを青色で、チョコレートの流れを茶色で表示している。また、甲第八六号証の二は、甲第八五号証の二と対比する目的で被告機械一の総組立断面図(乙第一四号証の二)を複写し、冷却系統及び駆動系統を説明するために着色、書込みを加えたものである。なお、被告会社は昭和五七年七月に森永製菓株式会社鶴見工場に被告機械四を二台納入したが、この際、被告会社が森永製菓に提出した図面が甲第八六号証の一の図面である。原告は、平成三年一二月に、森永製菓から右図面を入手した。
右各証拠によれば、被告機械一の冷却工程は原告機械一のそれと同一である。すなわち、いずれも横型三段階冷却方式をとり、機械に供給される摂氏三五度ないし四〇度のチョコレートは第一冷却スクリュー及び第二冷却スクリューにより順次移動し、移動中にスクリュー外側の冷却筒を循環する冷却水により徐々に冷却される。第一冷却スクリュー部及び第二冷却スクリュー部には、各感熱部が設置され、移動中のチョコレートの温度が計測され、設定した希望冷却温度に調温するために、冷却管の電磁弁が開閉され、冷却水の量を調整する装置が具備されている。第二冷却スクリュー中途からリヒート部となり、冷却筒を循環する温水によりチョコレートは適温(摂氏二八度ないし三一度)に保温され、次工程であるデポジッター又はエンローバーに搬送される。
スクリューと冷却筒のクリアランスに関する設計図
甲第一二〇号証の三は原告機械四のクリアランスに関する設計図であるが、原告機械一の設計図もこれと同様である。
[乙第一四号証の一〇、一一と甲第一号証の一三、一七(甲第五五号証の九の一、二、甲第五五号証の一〇の一、二参照)]
乙第一四号証の一〇、一一は被告機械一のスクリューの部品図であり、甲第一号証の一三、一七が順次対応する。
この図面のうち、青丸で囲んだ九・七五ミリメートルの寸法は、原告が原告機械一を作成するにあたり最も苦心した部分である。前記のとおり、この寸法をどの程度にするかは、スクリューの回転数、冷却水の温度、流量とあいまって決定されなければならず、原告も他機種のオートテンパーの経験から割り出し決定したものである。このように、この寸法は経験によって決まるものであり、他の部分の寸法、構造と綿密に関連して決定されるものであるから、同一であることなどあり得ない。この一事をもってしても、原告機械一の設計図の模写が明らかである。
[乙第一八号証の一と甲第一号証の一(甲第五五号証の一の一、二参照)]
乙第一八号証の一は被告機械一の外形姿図であり、甲第一号証の一と対応する。両図面を対比すると酷似している。
[乙第一四号証の四ないし九と甲第一号証の四六、四六<3>、一二<2>、七、六、八(甲第五五号証の三ないし七の各一、二参照)]
乙第一四号証の四ないし九はいずれも被告機械一の駆動部装置の部品図である。
原告図面は、見出しの順序で被告会社図面に対応するが、両者を対比するとその酷似性は明らかである。
特に、乙第一四号証の九のシャーピンは安全装置としてのピンの図面である。このピンに一定以上の強い力が加わるとピンが切断され、機械の作動が停止する仕組みになっている。そこでピンの切断点の直径をいくつにするかがこのピンの要となるが、この値は経験によって決定するしかない。にもかかわらず、原告機械一、被告機械一ではこの値がともに七Ψとなっている。これは被告が原告機械一の設計図を模写したからこそ起こり得たことである。
[乙第一四号証の二四と甲第一号証の一四(甲第五五号証の二一の一、二参照)]
乙第一四号証の二四は被告機械一の感熱部取付け部分の部品図であり、甲第一号証の一四が対応する。
前記のとおり、原告機械一の構造は、チョコレートがシリンダーとスクリュー軸との間の九・七五ミリメートルの隙間を流れて行き、その間にそのシリンダーの外側を流れる水により冷やされる、というものである。そして、流れているチョコレートの温度を計り、その高低により流す水の温度、量を調節し、チョコレートを希望の温度まで冷やすのである。そこで、チョコレートの温度を正確に計る必要があり、原告では、スクリューの一部を削り、その部分に感熱計を差し込んで計る方法を考案した。それが甲第一号証の一四の右側の部分である。
しかるに、被告会社でも同一の方法をとり、しかも、その図面は原告機械一の図面に酷似している(感熱計差込み部の大きさが少し異なるが、これは市販の各社の感熱計のうち、どれを買ってくるかの相違に過ぎない。)。
<1> 駆動系統全体
甲第八五号証の一、甲第八六号証の一によれば、被告機械一の駆動系統も原告機械一の駆動系統と同一である。すなわち、機械内に設置された減速モーターからAスポロケットに動力が伝達され、第二冷却スクリューが回転してチョコレートを移動させる。AスポロケットからチェーンによりBスポロケットに更に動力が伝動され、第一冷却スクリューが回転する。
被告らは、甲第八五号証の一と同号証の二とは同一の図面とはいえないと主張し、その理由として冷却水の開閉バルブに関し、前者は一部手動弁となっているのに対し、後者は全て電磁弁であることを述べている。この点について説明すると、原告は、昭和四七年に原告機械一の第一号機を昭和四七年に納入したが、その時点では一部手動弁とし、残部を電磁弁としていた。しかしながら、翌昭和四八年に原告機械二を製造する際に、冷却水開閉バルブを全て電磁弁に切り替えた。その後、原告機械一についても、顧客かち全て電磁弁としてほしい旨の要望が強まり、昭和五六年以降は冷却水開閉バルブを全て電磁弁に改良して現在に至っている。甲第八五号証の一は、図面作成日が昭和四八年三月二九日であり、当時の原告機械一は、冷却水開閉バルブの一部が手動弁、残部が電磁弁となっていたものである。これに対し、甲第八五号証の二は、昭和五六年作成の図面であり、同年に原告機械一は全て電磁弁に切り替えられたために、手動弁の記載がないものである。このように、甲第八五号証の一と同号証の二とは冷却水開閉バルブについては相違しているが、その他については両図面は基本的には同一である。
<2>[乙第一四号証の三と甲第一号証の五、一二(甲第五五号証の二の一ないし三参照)]
乙第一四号証の三は被告機械一の駆動装置部の組立図であり、甲第一号証の五、一二がこれに対応する。
駆動装置自体は市販品を購入してくるだけであるから、メーカー、型番の相違によりその形状は当然異なるが、性能は同一である。スポロケット部分にはその対応関係が明らかになるように着色を施してあるが、この部分の構造は同一である。チエーンの歯が原告機械一では二列であるのに対し被告機械一では一列であるという相違はあるが、これはチェーンの強度の違いであって、機能的には何ら異ならない。
<1>[乙第一四号証の一二ないし一四と甲第一号証の一四、一六(甲第五五号証の一一の一、二、同号証の一二の一ないし三参照)]
乙第一四号証の一二ないし一四はいずれも被告機械一のシリンダーの部品図であり、甲第一号証の一四が乙第一四号証の一二に、甲第一四号証の一六が乙第一四号証の一二、一三に対応する。
両図面を対比すると、赤丸を付したとおり、主要寸法がミリメートル単位で同一であり、緑丸を付した部分も、材料の加工の程度による差に過ぎない。また、作図法を見ても原告機械一の設計図を模写したものといえる。
<2>[乙第一四号証の一五と甲第一号証の一八(甲第五五号証の一三の一、二参照)]
乙第一四号証の一五は被告機械一のブラケットの部品図であり、甲第一号証の一八が対応する。
ブラケットは、スクリュー軸の先端を固持、固定する部品である。材質は鋳物であるが、原告では、まず木型を製作し、それにより鋳造し、更に研磨等の加工をして製造している。そのため、大変複雑な形状をしている。
ブラケットは、右のとおり、スクリューの先端を固定できさえすればよい部品であり、しかも、原告では、木型から作図して作成するという複雑な工程によっており、形状自体も複雑である。しかるに、両図面を対比すると、形状、作図法が酷似しており、寸法も機能的に何ら影響のない部分が〇・五ミリメートルないし二ミリメートル程度異なるのみで(緑の丸を付した部分)、その他の部分は全く同一である(赤丸を付した部分)。これは、被告会社が原告機械一の設計図を模写したからにほかならない。
<3>[乙第一四号証の一六と甲第一号証の一九(甲第五五号証の一四の一、二参照)]
乙第一四号証の一六は被告機械一のベアリングハウジングの部品図であり、甲第一号証の一九が対応する。
この部品は、甲第五五号証の一四の赤印の部分を見れば判るとおり、ベアリングを固定するためのものであり、各社で木型を作成したうえで製造し、研磨等の加工をするものである。そのような過程を経て作成される部品であるにもかかわらず、両図面を対比すると、形状から寸法に至るまで全く酷似している(赤丸は同一寸法であり、緑色の部分も数ミリメートルしか違わない。)。原告機械一の設計図を模写しなければ起こり得ないことである。
<4>[乙第一四号証の一九と甲第一号証の二〇(甲第五五号証の一七の一、二参照)]
乙第一四号証の一九はグランドパッキング押えの図面であり、甲第一号証の二〇が対応する。
この部分は材質は鉋金製であり、木型を製作し、鋳造加工して作るものであるにもかかわらず、両図面は一見して同一の形状をしている。やはり、これは模写なしにはあり得ないことである。
<5>[乙第一四号証の三三と甲第一号証の一二(甲第五五号証の二九の一、二参照)]
乙第一四号証の三三は被告機械一のパッキングの部品図であり、甲第一号証の一二が対応する。
両図面を対比すれば、その酷似性は明らかである。原告機械一においては、パッキング用素材(幅一〇ミリメートルの部分)の間にプラスチック(幅三又は三・二の部分)をはさんで形が崩れるのを防いでおり、これは原告が考案して、特にパッキング会社に作らせているものである。このような部分まで酷似するのは、原告機械一の設計図を模写した以外にあり得ない。
本来類似しないはずの部分の設計図の一致
<1>[乙第一四号証の一七と甲第一号証の二三(甲第五五号証の一五の一、二参照)]
乙第一四号証の一七は被告機械一のベアリング部分の蓋の部品図であり、甲第一号証の二三が対応する。
この部分は、ベアリングへの異物の混入を防止するためだけのものであり、どのような形状のものでもよい。原告では、木型を製作のうえ鋳造して製作している。しかるに、両図を対比すると、形状、寸法が酷似しており、原告機械の図面を模写したのでなければあり得ないことである。
<2>[乙第一四号証の一八と甲第一号証の二一(甲第五五号証の一六の一、二参照)]
乙第一四号証の一八はシールハウジングの部品図であり、甲第一号証の二一が対応する。
このシールハウジングも、木型を製作のうえ鋳造する鋳物の部品であり、機能的にも、ベアリングを押さえさえすればどのような形状、材質でもよいものである。しかるに、両図面を対比すると全く同一の形状をしており、原告機械一の図面を模写したのでなければあり得ないことである。
<3>[乙第一四号証の二〇と甲第一号証の二二(甲第五五号証の一八の一、二参照)]
乙第一四号証の二〇は被告機械一のスリーブ部品図であり、甲第一号証の二二が対応する。
スリーブは、スクリュー軸とグランドパッキングとの間に挿入し、スクリュー軸の摩耗を防止するための部品である。すなわち、スクリュー軸が回転する際、スクリュー軸とグランドパッキングとが直接接触すると、スクリュー軸自体が摩耗し、軸の中心にくるいを生じ、将来軸全体を取り替えなければならなくなるので、スクリュー軸にこのスリーブを被せ、将来摩耗したときにはこのスリーブのみを取り替えればよいようにしてあるのである。
両図を対比すると、材質、形状とも同一で、寸法も酷似している。特に、スクリュー軸とスリーブを固定するためのビスの位置が、ともに端から四五ミリメートルの位置に設定されているが、この穴の位置はどこに設定しても構わないものであり、その一致は原告設計図の模写を示している。
<4>[乙第一四号証の二五と甲第一号証の二七(甲第五五号証の二二の一、二参照)]
乙第一四号証の二五は被告機械一の安全弁兼用デイスチャージャーの組立図であり、甲第一号証の二七がこれに対応する。
この部分は冷却したチョコレートの取出口であり、しっかりと取出口を開け閉めできれば、どのような形状、構造のものでもよい。しかるに、色分けをした両図面を見ると、その構造、形状があまりに酷似しており、原告機械一の図面を模写したのでなければあり得ないことである。
<5>[乙第一四号証の二六、二七と甲第一号証の二八、二九(甲第五五号証の二三、二四の各一、二参照)]
乙第一四号証の二六、二七はチョコレートの輸送管の図面であり、甲第一号証の二八、二九が順次対応する。
この輸送管は、冷却されたチョコレートを輸送するだけの機能しか有しないものであり、どのような形状でも構わないものである。しかるに、一見して両図面の形状、寸法が酷似しており、被告会社が原告機械一の図面を模写したのでなければこのようなことは起こり得ない。
<6>[乙第一四号証の二九ないし三二と甲第一号証の三六、三五、三一、三二(甲第五五号証の二五ないし二八の各一、二参照)]
乙第一四号証の二九ないし三二は被告機械一のチョコレート取出口の部品図であり、甲第一号証の三六、三五、三一、三二が順次これに対応する。
これらも、元来異なる会社の機械において酷似することはあり得ないはずなのに、構造、形状、寸法とも酷似している。
<7>[乙第一四号証の三四と甲第一号証の三四との対比(甲第五五号証の三〇の一、二参照)]
乙第一四号証の三四は被告機械一のハンドルの部品図であり、甲第一号証の三四が対応する。
シャッター用のハンドルは、シャッターを開けさえすれば、丸棒、角棒等どのような形のものでもよいのであるのに、両図面を対比すると、全く同一の形状をしており、被告会社が独自に設計したのであれがこのようなことは起り得ないことである。
<8>[乙第一四号証の三八と甲第一号証の四二(甲第五五号証の三三の一、二参照)]
乙第一四号証の三八は被告機械一のコモンベースの図面であり、これに対応するのが甲第一号証の四二である。
コモンベースは機械を載せる台であり、機械の荷重に耐え、その寸法に合ってさえいれば、どのようなものでもよく、特に設計上の規格などは全くないものである。しかるに、両図面は基本的構造が同一であり、被告会社が原告機械一の図面を模写したのでなければあり得ないことである。
原告機械一の見積図(甲四一号証の一)と被告機械一の見積図(甲四一号証の二)とを重ね合わせてみると、両者の一致は明らかである。
以上のとおり、乙号証として提出されている設計図自体も原告機械一の設計図と酷似してはいるが、根本的には、次に述べる理由から、被告機械一の設計図であるとして被告らが提出する乙第一四号証、乙第一五号証は、被告らが改竄したものではないかと疑われ、証拠価値に疑問がある。
<1> 被告らの説明によると、被告会社製SAT-六〇〇オートテンパー(以下「被告機械二」という。)の設計図(乙第一六号証)を昭和五五年九月から同年一〇月末頃に完成し、これに従った製品を、同年一二月一五日、客先フルタ製菓株式会社(以下「フルタ製菓」という。)に納入していたところ、昭和五六年九月三〇日納入の被告機械一を製作するに当たっては、構造、機能等が殆ど同一で、処理能力のみ異なる被告機械二の設計図の寸法等を一部変更して利用することとし、乙第一五号証(被告機械二の設計図である乙第一六号証に訂正を施したもの)を用いて被告機械一を製造し、後日(乙第一四号証によると、昭和五六年一〇月一六日から同年一二月一二日にかけて)これに基づいて乙第一四号証を作成したというのである。
しかし、乙第一六号証を修正して乙第一四号証を作成するつもりであるならば、被告機械一の製作にかかる前に修正図を整理して正規の設計図を作成するのが当然の手順であるのに、乙第一四号証を製図することもなく、乙第一五号証のような一時的な図面に基づいて被告機械を製造したというのは不自然である。すなわち、被告らが、被告機械二の設計図(乙第一六号証)について主張するように、原告機械二の設計図を模写しないで、わずか三か月の間に数十枚(乙第一六号証が設計図の全部ではない。その他多数の部品が必要である。)の設計図を創作できるのであれば、乙第一六号証の手直し図である乙第一五号証から乙第一四号証を作成するのは一挙手の労に過ぎない。わざわざ、乙第一五号証のような臨時図面に基づいて製品を製造し、その後に乙第一四号証のような正規の設計図を製図するはずがないからである。
被告らは、原告機械の設計図の模写に基づいて被告機械一を製作、納入しながら、その事実を隠すために乙第一四号証を作為的に作成したが、不注意にもその納入日を忘れ、製図日をそれ以降として裁判所に提出してしまい(第五回準備手続期日)、その後で、この失敗に気付き、理屈を合わせるために乙第一五号証を重ねて偽造して、次回の準備手続期日(第六回準備手続期日)に提出したものとしか解しようがない。
また、被告機械一の製造には数十枚の設計図が必要であるのに、乙第一四号証では、その一部しか提出されていないのも不自然である。
<2> 乙第一四号証の一を一見すると、操作盤と計器盤のところに、従前の図面を抹消した痕跡が明らかに認められる。同号証の一の左図の本体部上から約二センチメートル及び約五センチメートル下に横線の痕跡が、本体部の上方に計器四個を抹消した形跡が、また、同号証の一の右図の本体部上部左肩に斜線の痕跡が明らかに認められるのである。
この従前の痕跡の図面こそ、本来の被告機械一のものであり、操作盤が組込型である点で原告機械一と同一の外形を有するものであったばかりか、被告会社自身が顧客に配布した見積図(甲第四二号証の二)の外形とも合致している。
被告らが、自ら製造、販売した機械と全く異なる設計図を提出していることは明らかである。
<3> 被告機械一は温冷水切換が手動で行われ、これが自動的に行われる被告機械二とは異なっている。この切換バルブの存在は、被告機械一の見積図(甲第四二号証の二)上には「温冷水切換バルブ四ケ」と表示されており、被告機械二には存在しないから、被告機械一において独立の設計図を必要とする。
ところが、被告機械一の設計図である乙第一四号証の一の外形姿図上には右温冷水切換バルブが表示されていない。真実製造に用いられた設計図であれがこのような誤謬が生じるはずがない。
<4> 更に、乙第一四号証が実際には使用されていない設計図であることが同号証中の記載から明らかである。
乙第一四号証の二七は、乙第一四号証の一の左の図の右寄りに表示されているチョコレート供給管の部品図であるが、乙第一四号証の二七によれば、この管の直径は三インチ(Bとはインチのことである)と二インチであるのに、乙第一四号証の一では四インチと二・五インチになっている。乙第一四号証の一は、各部品図をもとに作成した部品を組み立てた最終的な姿図であって、それと各部品図の寸法が違っていては、組み立てられた機械は、乙第一四号証の一の姿図とは全く異なった外形の機械となってしまう。もし、乙第一四号証が真実製造に使用されていたのであれば、この間右の間違いに気づかないはずがない。
(2) NAT-六〇〇オートテンパー(以下「原告機械二」という。)とSAT-六〇〇オートテンパー(以下「被告機械二」という。)
ア 原告機械二のノウハウ
NAT型オートテンパーは、基本的構造は同一であり、処理能力の違いがあるに過ぎない。したがって、機械の特徴及びノウハウは、原告機械一と同様である。
イ 設計図の盗用、模写によるノウハウ侵害
後に述べるように、被告らが被告機械二の設計図として提出している証拠には不自然な点があるが、それでも原告機械二の設計図と被告機械二の設計図として提出されているものとは酷似している。
原告機械二の設計図と被告機械二の設計図との対応関係は、別紙「NAT六〇〇とSAT六〇〇 両設計図の図面の対応表」記載のとおりであり、甲第五四号証は、両設計図を各対応図面ごとに並べたものである。
以下、主要なものについて述べる。
原告機械二、被告機械二はそれぞれ、原告機械一、被告機械一と処理能力を異にするのみであり、機械の構造は同一であるから(単に冷却部のセクションの数が異なるのみである。)、この点についての主張は、前記2(三)(1)イと同一である。
スクリューと冷却筒とのクリアランスに関する設計図
この点は、原告機械二と同一の構造を有する原告機械四の設計図(甲第一二〇号証の三)に示されている。
[乙第一六号証の一七、一八と甲第四一号証の五、八(甲第五四号証の一三の一、二、甲第五四号証の一四の一、二参照)]
乙第一六号証の一七、一八はともに被告機械二のスクリューの部品図であり、甲第四一号証の五、八がそれぞれ順次対応する。
この点の主張は、前記2(三)(1)イ
[乙第一七号証と甲第四一号証の一(甲第五四号証の一の一、二参照)]
乙第一七号証は被告機械二の外形姿図であり、これに対応する原告機械二の図面が甲第四一号証の一である。
両図面は、一見して酷似していることが明らかである。他社製オートテンパー機械のカタログと対比すると、原告機械二は独特な形状、構造をしており、他社製品には見られないものである。それにもかかわらず、数十点の部品を組み立てて出来上がった姿図がこのように酷似するのは、被告らが原告機械二の設計図を模写したからにほかならない。
[乙第一六号証の一五と甲第四一号証の三(甲第五四号証の一一の一、二参照)]
乙第一六号証の一五は被告機械二のシリンダー内を流れるチョコレートの温度を計るための感熱部を取り付ける部分の部品図であり、甲第四一号証の三の右側部分と対応する。
この点の主張は、前記2(三)(1)イ
<1>[乙第一六号証の一六と甲第四一号証の六との対比(甲第四一号証の一二の一、二参照)]
乙第一六号証の一六は被告機械二のテンパリングシリンダーの部品図であり、甲第四一号証の六と対応する。
この点の主張は、前記2(三)(1)イ
<2>[乙第一六号証の八と甲第四一号証の九(甲第五四号証の五の一、二参照)]
乙第一六号証の八は、被告機械二のブラケット(駆動側)の部品図であり、甲第四一号証の九がこれに対応する原告機械二の図面である。
この点の主張は前記2(三)(1)イ
<3>[乙第一六号証の一三と甲第四一号証の二(甲第五四号証の九の一、二及び同号証の一〇の三参照)]
乙第一六号証の一三は被告機械二のベアリング・ハウジングの部品図であり、これに対応する原告機械二の図面が甲第四一号証の二である。
この点の主張は、前記2(三)(1)イ
<4>[乙第一六号証の一〇と甲第一号証の二〇(甲第五四号証の七の一、二及び同号証の六の三参照)]
乙第一六号証の一〇は被告機械二のグランドパッキングを押さえて固定する部品の図面である。原告では原告機械一の図面を転用しており、それが甲第一号証の二〇である。原告機械二の第一次冷却筒組立図である甲第五四号証の六の三にこの部品が描かれている。
この部分の主張は、前記2(三)(1)イ
<5>[乙第一六号証の五と甲第五四号証の四の二(甲第五四号証の四の一参照)]
乙第一六号証の五はパッキングの部品図であり、これに対応する原告機械二の図面は甲第五四号証の四の二である。
この点についての主張は、前記2(三)(1)イ
<1>[乙第一六号証の一四と甲第一号証の二三(甲第五四号証の一〇の一ないし三参照)]
乙第一六号証の一四は被告機械二のベアリング部分の蓋の部品図である。原告は、この部分については、原告機械一の設計図を転用しており、これが甲第一号証の二三である。
この点についての主張は、前記2(三)(1)イ<1>と同様である。
<2>[乙第一六号証の九と甲第一号証の二一(甲第五四号証の六の一ないし三参照)]
乙第一六号証の九は被告機械二のシールハウジングの部品図である。これについても、原告では原告機械一の設計図を転用しており、甲第一号証の二一がそれである。原告機械二の第一次冷却筒組立図である甲第五四号証の六の三にこの部品が描かれている。
この点の主張は、前記2(三)(1)イ<2>と同様である。
<3>[乙第一六号証の一一と甲第五四号証の八の二]
乙第一六号証の一一は被告機械二のスリーブの部品図であり、これに対応する原告機械二の図面が甲第五四号証の八の二である。
この部分の主張は、前記2(三)(1)イ<3>と同様である。
<4>[乙第一六号証の二八と甲第一号証の二七(甲第五四号証の二一の一、二参照)]
乙第一六号証の二八は被告機械二の安全弁兼用のディスチャージャーの組立図面である。原告は、この部分について原告機械一の図面である甲第一号証の二七を転用している。
この点の主張は、前記2(三)(1)イ<4>と同様である。
<5>[乙第一六号証の二六、二七と甲第四一号証の一三(甲第五四号証の二〇の一、二参照)]
乙第一六号証の二六、二七は被告機械二のチョコレートの輸送管であり、甲四一号証の一三と対応する。
この点についての主張は、前記2(三)(1)イ<5>と同様である。
<6>[乙第一六号証の三〇ないし三三と甲第一号証の三六、三五、三一、三二(甲第五四号証の二二ないし二五の各一、二参照)]
乙第一六号証の三〇ないし三三は被告機械二のチョコレート取出し口の各部品図である。原告は、この部分について原告機械一の図面を転用しており、右被告機械二の部品図に順次対応するのが甲第一号証の三六、三五、三一、三二の図面である。
この点についての主張は、前記2(三)(1)イ<6>と同様である。
<7>[乙第一六号証の四と甲第一号証の三四(甲第五四号証の三の一、二参照)]
乙第一六号証の四は被告機械二のシャッター用のハンドルの図面である。この部品図も原告機械二では原告機械一と共通であるため、後者の設計図である甲第一号証の三四と対比する。
この点について主張は、前記2(三)(1)イ<7>と同様である。
<8>[乙第一六号証の二三と甲第四一号証の一二(甲第五四号証の一九の一、二参照)]
乙第一六号証の二三は被告機械二のコモンベースの図面であり、甲第四一号証の一二が対応する。
この点についての主張は、前記2(三)(1)イ<8>のとおりである。
<9>[乙第一六号証の三と甲第一号証の三三(甲第五四号証の二の一、二参照)]
乙第一六号証の三は被告機械二のピンの図面である。原告の設計図では、この部品は原告機械一と共通であるため、原告機械一の図面をそのまま転用しており、その図面は甲第一号証の三三である。両図を見れば、その類似性は明らかである。
<1> 被告らが、被告機械二の設計図として提出している乙第一六号証の一は、被告機械二の写真(甲第七号証の一、二)、見積図(甲第一〇号証の一)、年賀状に印刷された形態(甲第一九号証)と比較すると、明らかに外形が異なる。
しかし、第一に右各甲号証は被告らも成立を認めているものであり、そこに表示されている被告機械二は、原告機械二の形状と瓜二つであること、第二に、乙第一六号証の一を熟視すると、かすかではあるが操作盤部分に抹消の痕が認められる。その痕跡からすると、原図は右各甲号証に表示されている形状で、原告機械二と全く同一構造の操作盤組込型機械であったものと認あられることに照らすと、乙第一六号証の一と原告機械二の外形が異なるのは、ことさらに図面を改竄したことにより生じたとしか考えられない。
<2> 乙第一六号証は、昭和五五年九月二七日から同年一一月三日までの三八日間に書き上げられたことになっている。
被告らの主張によると、この程度の機械は三か月もあれば各部品を含めた全設計図を作成することは充分できるというのであるが、このことは少なくとも三か月は必要であることを意味し、乙第一六号証のように三八日という短時間で作成できるはずはない。チョコレート製造用機械の製造に長年携わり、専門的スタッフ多数擁する原告でさえ、原告機械二の設計には、少なく見積もっても一六八八時間を要しているのである。まして、この設計者が被告中宿一人となっていることから、かかる設計が何の手本もなく、模写も行わずにできるはずがないことは、技術者の常識で明らかである。
<3> 見積図作成時期との関係
機械設計の原則的手順をみると、全体的な概念図を描きながら、簡単な部品設計から開始し、これらを組み合わせ、順次進行して、最後に総組立図、姿図に達する。したがって、完成した機械の全体としての寸法、形状は、最終的に全ての部品図が完成し、これが組み合わされた形で確定するのである。そして、総組立図に基づいて見積図が作成されるのである。
被告機械二の見積図(甲第一〇号証の一)をみると、一九八〇年(昭和五五年)九月、被告中宿によって作図されている。しかも、その図では、ミリ単位で寸法が特定されている。見積図のミリ単位の寸法が真実製品の寸法に合致しているとすれば、それは、その前に全ての設計図が完成し、総組立図が確定していたからである。
ところが、乙第一六号証は、右見積図の作成以後である昭和五五年九月二七日から同年一一月三日にかけて完成されたというのであるから、乙第一六号証とは別個の真実の製作に用いられた設計図が先行して存在していたのである。
<4> 被告会社が、見積図の作成より前に設計図に基づく製造を開始していたことは、次のことからも明らかである。すなわち、被告らによれば、被告機械二の一号機は、昭和五五年一二月一五日にフルタ製菓に納入されたという。この程度の機械の一号機の製作には、原告のような類似機種を多数製作している専門メーカーであっても、最低四か月は必要であり、まして、このときまで一台のチョコレート機械も製造した経験のない被告会社が一号機のために、材料、部品の品揃えから鋳物部品の手配、金型の製造にいたる複雑な準備を整え、機械類の加工を十分の精度のもとに行うためには、更に多くの日数を要するのである。仮に、原告と同様四か月で製造し得るとしても、昭和五五年一二月一五日の納入のためには、同年八月初めには製造に着手しなければならず、設計図もそのときまでには存在していなければならないのである。
そうすると、その当時存在していた設計図というのは、原告の設計図自体か又はその模写であったのである。
被告らの主張に対する反論
被告らは、空気穴について言及しているが、空気抜け穴のような簡単な構造については、加工者に指示すれば足りるので、図面上に表示しないことはたびたびある。現に、被告会社の見積図(甲第一〇号証の一)にも空気抜け穴が記入されていないが、現物には存在するのである。
(3) NAT-一五〇〇オートテンパー(以下「原告機械三」という。)とSAT-一五〇〇オートテンパー(以下「被告機械三」という。)
ア 原告機械三の概要及びノウハウ
NAT型オートテンパーは、処理容量に応じてスケールアップないしスケールダウンしているものであり、原告機械三の構造、機能及びノウハウは、基本的に原告機械一、二、四と同様である。
イ ノウハウ侵害
原告機械三、被告機械三はそれぞれ原告機械一、二、被告機械一、二と処理能力が異なるに過ぎない。そこで両機械の類似性については、原告機械一、二と被告機械一、二の対比についての主張を援用する。
(4) NAT-一〇〇〇オートテンパー(以下「原告機械四」という。)とSAT-一〇〇〇オートテンパー(以下「被告機械四」という。)
ア 原告機械四の概要及びノウハウ
NAT型オートテンパーは、処理容量に応じてスケールアップないしスケールダウンしているものであり、原告機械四の構造、機能及びノウハウは、基本的に原告機械一、二と同様である。
各ノウハウが図面にどの部分に表象されているかを示すと次のとおりである。
冷却筒内径とスクリュー軸先端部との隙間(クリアランス)を〇・二五ミリメートルと決定したこと(甲第一二〇号証の三)。
スクリュー軸の条数、リード、ピッチ、溝の深さの決定(甲第一二〇号証の一)。
冷却筒内に内蔵したベアリング部分にチョコレートが滞留してカーボン化(炭化)することでベアリングが回転不能となる故障を防止するため、ベアリング内に侵入するチョコレートが再度スクリューにより冷却筒内を循環し得るようにベアリングハウジング内部にチョコレートの通過抜け道を設定したこと(甲第一二〇号証の三、ベアリングハウジング部)。
イ ノウハウ侵害
原告機械四、被告機械四は、いずれもそれぞれ、原告機械一、二、被告機械一、二と同一機構を有する機械であり、これらの設計図を流用して製作することが可能である。
そして、原告機械一、二と被告機械一、二についてその設計図が酷似していることは前記のとおりであるから、右主張、立証は原告機械四と被告機械四の設計図についても推定される。
(5) SGチョコレートポンプ(以下「原告機械五」という。)とTG六五AVチョコレートポンプ(以下「被告機械五」という。)
ア 原告機械五の概要及びノウハウ
原告機械五は、チョコレートを一定方向に押し出すためのポンプである。チョコレートを押し出すための機械的仕組みとしては、ロータリーポンプを使用するもの、ギヤーポンプを使用するもの、ベーンポンプを使用するもの、スネークポンプを使用するもの等、様々な機構のものが存在するが、原告機械五は、ギヤーポンプを使用するものである。すなわち、二本の軸にはすば歯車が据え付けられており、この両軸が回転することにより、二つのはすば歯車がかみ合いながら回転し、チョコレート吸込口から流れ込んだチョコレートを排出口へと送り出してゆくのである。
ノウハウ
<1> チョコレートポンプは、まず、抽送機構をロータリーポンプ、ギヤーポンプ等のいずれにするかによって、基本的な構造、能力が決まる。そして、そのうちのギヤーポンプを選んだ場合には、今度は、そのギヤー(すなわち歯車)の構造、外形をいかにするかを決定することにより当該機械の性能が決まる。すなわち、歯のモジュール、歯の数、歯の高さ、歯の角度、歯の幅、中心距離をそれぞれいくつにするかにより、当該機械の処理能力が決定される。この歯車は、市販品を買ってくるのではなく、全て自社で製作するものであり、その形状、寸法等は、複雑な計算と経験に基づいて決定されるものであり、第一の重要なノウハウである。
<2> 第二に、機械の内部を移動するチョコレートのもれを防ぐために特殊なパッキング(シール)を回転軸の両側に設置している。
<3> 第三に、ポンプに異物が混入し、ポンプに一定限度以上の力が加わったときに自動的にポンプの作動が停止するよう、シャーピンという安全装置をモーターとポンプ部の中間(フランジ部)に設置していることも重要なノウハウである。
イ 設計図の盗用、模写によるノウハウ侵害
原告機械五は、昭和三九年に最初に設計され、その後多数の改良を加えている(例えば、甲第二号証の一、下余白部分に「41.5.13訂正 池田」とあるのはこの改良の例である。)。その後、昭和五五年一二月頃に変更を加えた折に図面の製作日付自体を変更したが、このとき、多くの図面については新たに図面を引き直すことをせず、旧版の原図自体を直接書き変える方法で新図面を作成した。そのため、旧図面の原図自体は存在しなくなってしまった。しかし、いくつかの図面については、旧図面のコピーが保存してあり、これが甲第一三六号証である。甲第二号証の各枝番と甲第一三六号証の各枝番との対応関係は次のとおりである。
甲第二号証の一 甲第一三六号証の一
甲第二号証の八 甲第一三六号証の二
甲第二号証の一〇 甲第一三六号証の三
甲第二号証の一四 甲第一三六号証の四
甲第二号証の一五 甲第一三六号証の五
甲第二号証の一六 甲第一三六号証の六、七(時期が異なる二種類のコピーである。)
甲第二号証の一七 甲第一三六号証の八
甲第二号証の一八 甲第一三六号証の九
甲第二号証の二及び甲第二号証の一一ないし一三は昭和三九年作成の図面であること、甲第二号証の一の組立図には設計者欄に被告中宿の印が押印されていること、甲第二号証の一ないし九、一四には、昭和四一年、昭和四六年、昭和四七年に変更が加えられた旨が記入されていることから判断しても、原告機械五の旧版の図面が昭和五五年五月の被告中宿の退職以前から原告に存在したことは明白である。
そして、昭和五五年一二月頃の変更は機械の仕様を変更するものではないので、甲第二号証と被告中宿が無断で複写した設計図とは基本的な構造等については同一であり、甲第二号証を用いて原告設計図と対比しても、両設計図の同一性、酷似性は十分に立証できる。
歯車に関する設計図
原告が独自の計算と経験に基づいて開発したはすば歯車につき、小数点以下ミリメートル単位で同一の歯車を被告らが盗用していることは、甲第五一号証の一ないし三により一目瞭然である(甲第五一号証の一は被告機械五の歯車の部品図である乙第一九号証の一四の写し、甲第五〇号証の二、三は原告機械五の歯車の部品図である甲第二号証の七、九の写しである。)。このはすば歯車の同一性こそ、被告らが原告機械五の設計図を盗用したことの最大の証明である。
原告機械五と被告機械五とは、ギヤーを用いてのポンプであるという機械の原理において同一であって、設計図上、次のとおり似ている。
甲第八三号証は原告機械五の組立図であり、甲第二号証の一の図面を複写し、チョコレートの輸送工程及び駆動系統を説明するために着色、書込みを加えたものである。甲第八四号証は被告機械五の組立図であり、乙第一九号証の一五の図面を複写し、右同様着色、書込みを加えたものである。
両図面を対比すると、原告機械五と被告機械五の圧送工程は全く同一である。すなわち、吸込口に挿入されたチョコレートは、黄色と緑色に着色された二つのはすば歯車が噛み合いながら回転する(緑色歯車は時計方向に、黄色歯車は反時計方向に各回転)ことに伴い、歯車とケーシングの間の歯溝部分を通過して、取出口に送り出される。なお、乙第一九号証の一五でははすば歯車をヘリカルギヤーと称しているが両者は同義である。また、両機械の駆動系統も同一である。すなわち、ポンプ部横に隣接するギヤードモーターから<7>主動軸に動力が伝動され、<7>主動軸が回転する。<7>主動軸に組み込まれた黄色の<9>はすば歯車が<7>主動軸とともに回転する。黄色の<9>はすば歯車と噛み合う緑色の<9>はすば歯車が黄色<9>はすば歯車と連動し(但し、両歯車の回転方向は逆である。)、緑色<9>はすば歯車が組み込まれている<9>従動軸がこれにより回転する。
両機械の部品図の対応は次のとおりであり、各図面を対比すると、いかに似ているか一見して見てとれる。
(乙第一九号証の枝番号) (甲第二号証の枝番号)
一 二
二 三、四
三ないし六 一一ないし一四及び一六
七 一〇
八 八
九 市販品につき図面なし
一〇 市販品につき図面なし
一一 市販品につき図面なし
一二、一三 五、六
一四 七、九
一五 一
被告機械五の設計図の作成日付をみると、乙第一九号証の一五の組立図は、昭和五五年七月九日に被告中宿が設計し、その他の各部品図面は、同月七日又は八日に被告会社従業員山口が製図し、被告中宿が検図している。
被告中宿の被告会社への入社は、同年五月ないし六月であり、それまで被告会社は、チョコレート製造用機械を扱ったことはなかった。したがっ、て、右山口もチョコレート製造用機械に関しては未経験であったと考えられ、このような者がわずか二日間で被告機械五の部品図を書き上げられるとは到底考えられない。このような短期間に製図できたとすれば、それは原告機械五の設計図を参照しつつ行ったこと以外に考えようがない。
また、もし被告機械五の設計図を右山口が独自に製図したのであれば、まず最初に、被告中宿により全体的な組立図が製図され、それを部品図に展開するという方法で各部品図が製図されてしかるべきところ、これとは逆に被告機械五の設計図では、組立図が部品図の完成後に作成されており、この点も、被告らが独自に設計したものではなく、原告機械五の設計図を参照、模写して作成したことを物語っている。
<1> 被告らは、両機械ではその処理能力に差があり、その差に由来する範囲内で各部品図における寸法及び形状の相違が随所に見られると主張し、その相違として、はすば歯車とヘリカルギアーの長さの違いを挙げている(乙第一九号証の一四、甲第二号証の七、九、両号証を対比したものとして甲第五一号証の一ないし三)。
確かに、両図を対比すると、原告機械五の歯車の長さが七七ミリメートルであるのに対し、被告機械五のヘリカルギアーの長さが七〇ミリメートルであり、その結果、毎分の処理能力も約七五キログラムと約六五キログラムとの差がある。しかし、設計図を詳細に検討しても、両機械の能力差の原因は、歯車の長さの違いにしか見出せない。
チョコレートポンプは、まず抽送機構をロータリーポンプ、ギヤーポンプ等のいずれにするかによって、基本的な構造、能力が決まる。そして、そのうちのギアーポンプを選んだ場合には、そのギヤー(歯車)の構造、外形(歯のモジュール、歯の数、歯の高さ、歯の角度、歯の幅、中心距離)をいかにするかを決定することにより機械の性能が決まる。よって、被告らが、最初から自力で能力の小さいポンプを作成しようと考えたのであれば、当然、独自の歯車の構造、外形を考案したはずである。
しかるに、被告機械五は、原告機械五と全く同じ構造、外形(モジュール、歯数、ねじれ角、中心距離、転位係数が同じ。)の歯車を採用し、ただ単に歯車の長さを短くして能力差をつけたのみである。
<2> 被告らは、モーターに接続するための駆動軸が、原告機械五では片側にだけしか出ていないのに対し、被告機械五では両側にある点で相違していると主張する。しかし、この違いは、被告機械五では主軸を延長して機械の左側にも突き出させ、モーターを右からでも左からでも接続できるようにしただけのことであり、機械の本質的部分とは何らの関係もない。
また、被告らは、その結果シールハウジングの形状が異なると主張するが、これも単に本体を固定する台をどのような形にするかという問題に過ぎないし、パッキングについても、市販品を使用するのであるから、何を買ってくるかの相違に過ぎない。
(6) 原告製移動式チョコレートポンプ(以下「原告機械六」という。)と被告製移動式チョコレートポンプ(以下「被告機械六」という。)
ア 原告機械六の概要及びノウハウ
原告機械六は、チョコレートを輸送するポンプである。SG七五チョコレートポンプが架設された配管を通じてチョコレートを目的機械に搬送するものであるのに対し、原告機械六は、ストレージタンクに貯蔵されているチョコレートを一旦移入し、原告機械六自体を目的機械の側部まで移動させ、原告機械六のタンクからチョコレートを汲み上げて目的機械に対し、チョコレートを供給するというものである。すなわち、少量のチョコレートを搬送したい場合や、搬送先の目的機械までパイプの架設ができない場合には、チョコレートポンプ自体を移動する必要があり、この目的のために開発されたのが原告機械六である。
ノウハウ
移動式のチョコレートポンプは、原告が初めて開発したものであり、原告機械六を移動する間、少量のチョコレートを一定温度で保温する装置、タンク内に格納したギヤーポンプによって所定の距離までチョコレートを圧送する装置にノウハウが存在する。特に、ギヤーポンプにおける歯車の構造、外形、歯のモジュール、ねじれ角、中心距離、転位係数等はすべて複雑な計算と経験に基づき原告が到達、獲得したノウハウである。甲第九二号証の一の部品番号(部番)一六番には『SGギアポンプのものを使用』と記載されている。甲第一二一号証の一は甲第九二号証の一を複写し、説明書きを加えたものである。
また、ギヤー歯車が噛合する部分にチョコレートが侵入し、それが滞留してカーボン化(炭化)することにより、ギヤー部の回転が阻害され故障することをいかに予防するかが重要なノウハウの一つである。原告機械六では、この対策として、部番一八番の歯車受軸及び部番一九番の側板を加工して特殊の溝を設け、侵入チョコレートが閉じ込められることを防ぎ、再度ギヤーポンプにより前方に押し出されるような逃げ溝を設定した(甲第一二一号証の二、歯車軸部部品図・側板部品図)。
イ 設計図の盗用、模写によるノウハウ侵害
甲第八号証の八、九は原告機械六の写真であり、甲第七号証の八、九は被告機械六の写真である(両者を対比したものが甲第六〇号証の一の1、2である。)。両写真を対比すると、両機械がほとんど同一ともいえるほどよく似ていることが明らかである。
甲第九号証の六は原告機械六の見積図であり、甲第一〇号証の六は被告機械六の見積図であって、両図面の類例点に赤印を付したものが甲第六〇号証の二、三である。赤印のある全ての寸法及び仕様書の記載事項が両者で全く同一である。両見積図はミリメートル単位の詳細寸法が記入されており、設計図を基に縮図した図面であるから、両見積図の詳細寸法が全て同一であるということは、両機械の設計図が同一であることを意味する。なお、被告らは、甲一〇号証の六の見積図について、被告中宿の指導の下で、被告会社の井原が原告機械六のカタログ等を参照して作成したと主張するが、原告機械六は滅多に販売実績のない特殊な機種であり、そのため原告は原告機械六についてカタログを作成していない。
(7) AT-三〇〇オートテンパー(以下「原告機械七」という。)とPAT-三〇〇オートテンパー(以下「被告機械七」という。)
ア 原告機械七の概要及びノウハウ
コンチング工程(精練工程……混合練肉を経たチョコレート原料を加熱溶解し、良く練り合わせて全体の組織を均質化し、完全な乳化を果たし、口当たりのよいものとする工程)を経たチョコレートは、直接、又はストレージタンクと呼ばれる貯蔵タンクに貯蔵された後、調温(温度調節)工程に移る。
原告機械七は、この調温工程に使用される連続自動チョコレート温度調節機である。すなわち、コンチングを終えたチョコレート原液を冷却調温すると同時に、カカオバターの安定した結晶核を適量析出させ、その分散を十分にし、結晶核を融解消失させることなく成型しやすい粘性を備えさせることを目的とする機械である。これによって、チョコレートの型入れ、型抜き工程における作業を円滑に行えるよう適切な粘性をチョコレートに与えると同時に、品質の良い風味をチョコレートに与えることを実現する。
ノウハウ
<1> 鉋金製撹拌用篭
AT-三〇〇シリンダー部の構造はNAT型と異なり、縦型となっている。原告機械七には、別紙説明図2イに記載されているとおり、外側冷却筒、内側冷却筒の間に鉋金製撹拌用篭(別紙説明図2のロ参照)が設置されている。チョコレートは撹拌篭の上部のギヤー(ポンプ)から供給されるが、この撹拌篭が回転することにより撹拌され、同時に、内側冷却筒と外側冷却筒の中を流れる冷却水によって両側から冷却されるという仕組みになっている。内側の冷却筒はNAT型と同じように螺旋状に溶接されたリードに沿って冷却水が流れ、ムラのない冷却効果を与えるように工夫されている。
右のような篭を使用した構造にすると、撹拌力が強いため、チョコレートの冷却に無駄がなくなり、かつ、内外の両側から冷却できるので、冷却効果が大きく、しかも均等に冷却できる。したがって、シリンダー部を短くしてもテンパー(調温)の役割を有効に果たすことができ、機械を小さくコンパクトに製作できるという利点がある。
<2> シャッターバルブ等
右工夫のほかにも、シャッターバルブを取り付けて、チョコレートの途中の取り出しを簡単にできるようにした点、チョコレート流量の調節もハンドル一つで簡単にできるようにした点等の工夫がある。
<3> 駆動系統
駆動系統中、もっとも注目すべきは甲第七九号証の一中の「<4>ギヤー」及び「<5>ギヤー」である。ホッパーに供給されたチョコレートを「<5>B冷却用撹拌筒」から「<6>A結晶拡散用撹拌筒」を経て、遠方のデポジッターまで搬送するためには圧送ポンプが必要であるところ、原告は独自に一般的なチョコレートポンプとは異なる特殊ギヤーポンプを開発して本機に装備したのであり、この特殊ギヤーポンプが「<4>ギヤー」及び「<5>ギヤー」なのである。この特殊ギヤーポンプは他社製自動テンパリングマシーンには見られない原告独自のノウハウである。「<4>ギヤー」についての部分設計図が甲第七九号証の三(甲第三号証の三八を複写したもの)であり、「<5>ギヤー」についての部分設計図が甲第七九号証の四(同図の寸法変更部分△2以外は甲第三号証の五を複写したもの)である。
イ 設計図の盗用、模写によるノウハウ侵害
甲第七九号証の一、二は原告機械七の組立図であり、甲第四三号証の一の設計図を複写し、説明の便宜上番号を振り、色分けをしたものである(冷却されるチョコレートを茶色で、温水を桃色で、冷却水を水色で示している。)。
甲第八〇号証の一、二は被告機械七の組立図であり、乙第二〇号証の一の設計図を複写し、説明の便宜上番号を振り、色分けをしたものである。
右甲第七九号証の一と甲第八〇号証の一とを対比すると、両者の冷却工程は全く同一である。すなわち、図面中央上部のホッパーに供給された摂氏三五度ないし四〇度前後のチョコレートは<4>ギヤー及び<5>ギヤーにより冷却する目的で<5>B冷却撹拌筒部に送られる。同筒内を通過中に、チョコレートは、同筒内側、外側両面の冷却水により温度調節され、摂氏二八度ないし三一度前後に調温される。さらに<6>撹拌翼に送られて、同撹拌翼により結晶核の拡散を施され、デポジッターに搬送される。
シャッターバルブ等に関する設計図(甲第四四号証の九ないし一四と甲第四五号証の九ないし一四)
両図面はチョコレートの取出口のシャッターの部品図である。このうち、同号証の九、一〇、一一の各部品は、原告機械七、被告機械七を全体として見た場合には重要な部品ではなく、機能さえすればどのような形状であろうと差し支えないもので、設計者の意図や好みが自由に入り込める部分である。それにもかかわらず、両図面で部番、部品名が同一のうえ、寸法、形状、曲線部分のR、角度、仕上げ記号(▽)までもが同一であることは、浜田広(以下「浜田」という。)が模写したからこそあり得たことである。
<1> 甲第七九号証の三は甲第七九号証の一中「<4>ギヤー」と表示されているギヤーの部分設計図であり、甲第三号証の三八を複写したものである。甲第七九号証の四は甲第七九号証の一中「<5>ギヤー」と表示されているギヤー部分の設計図であり、甲第三号証の五を複写したものである。甲第八〇号証の三は甲第八〇号証の二中「<4>ギヤー」と表示されているギヤーの部分設計図であり、乙第二〇号証の三四を複写したものである。甲第八〇号証の四は甲第八〇号証の二中「<5>ギヤー」と表示されているギヤー部分の設計図であり、乙第二〇号証の三三を複写したものである。
後記
<2> 甲第四四号証の二七、二八と甲第四五号証の二七、二八
両図面は、駆動部の部品のうち、プーリー駆動に特有のものの設計図であり、甲第四五号証の三六の桃色の部品に相当する。これらの部品図は、もし被告機械七が当初からチェーン駆動であったなら存在しない図面であり、浜田が単純に原告機械七の設計図を模写してしまったことを示すものである。
乙第二〇号証は被告機械七の設計図で、甲第三号証の原告機械七の設計図に対応するものであり、この両者の対応関係を示したものが別紙AT三〇〇・PAT三〇〇対応表である。
両設計図を対比すると、その形状のみならず、寸法、カーブの切り方まで殆どの箇所が同一である。甲第四三号証の一ないし五七は、原告機械七の設計図(殆どが甲第三号証と同一図)を乙第二〇号証の順序に並べ、同一寸法の箇所に赤丸を付したものであるが、両者の酷似していることから写したものとしか考えられない。更に、甲第四四号証、甲第四五号証は、説明の便宜のために、乙第二〇号証、甲第三号証のうち、特に酷似しているもの数葉を、対応するように複写したものである。その際、同一寸法の箇所は、被告機械七の設計図に赤丸を付すとともに(甲第四四号証)、原告機械七の設計図は半透明紙に複写してあるので(甲第四五号証)、両者を重ね合わせるとその酷似性が一見して明瞭となる。以下、甲第四四号証、甲第四五号証に基づいて、両設計図の類似性を指摘する。
<1> [甲第四四号証の一と甲第四五号証の一]
両図面を重ね合わせてみると、両設計図はぴったりと一致するとともに、両図に記載されている寸法(小数点以下まで)、度数、曲線のカーブ(R)、材料表面の粗さを表わす仕上げ記号(▽)が、黄色の丸を付した三一mmを除き全て同一である。しかも、唯一異なる右黄色丸部分も、乙第二〇号証の一〇の部品図では甲第四五号証の一と同一寸法になっている。異なる二社の設計図が同一であることなど考えられないことであり、被告中宿から原告の社名入りの図面を渡されて作図したとする証人浜田広の証言を裏付けるものである。
<2> [甲第四四号証の二ないし八と甲第四五号証の二ないし八]
両図面は駆動部の部品図であるが、各対応図を重ね合わせると、両者がいかに酷似しているかが判る。
<3> [甲第四四号証の一六と甲第四五号証の一六]
両図面はタンク底板の図面であるが、図面を見て判るとおり、大変細かく数値が記入された設計図である。それにもかかわらず、寸法、度数、曲線カーブ(R)、仕上げ記号(▽)が全て同一である。
<4> [甲第四四号証の二三と甲第四五号証の二三]
この図面は、設計に当たり、度数、曲線カーブの決定が難しい図面である。それにもかかわらず、両図面では部品名、部番、寸法、度数、曲線カーブ(R)等が、仕上げ記号(▽)の数か所を除き全て同一である。
<5> [甲第四四号証の二四と甲第四五号証の二四]
この両図面では、部品名、部番、寸法、度数、曲線カーブ(R)、仕上げ記号(▽)の全てが同一であるうえ、作図位置まで同一である。
<6> [甲第四四号証の二五、二六と甲第四五号証の二五、二六]
これらの図面は、原告機械七、被告機械七の冷却筒の部分の図面であって、両機械の心臓部とも言える部分である。この心臓部までも、被告機械七の設計図は原告機械七のそれと全く同一なのである。
<7> [甲第四四号証の三三、三四と甲第四五号証の三三、三四]
これらの図面は、タンク内のチョコレートの撹拌羽である。甲第三号証の一の左側の図面(上方からみた全体図)において、丸い釜の中の右上の方に伸びている長い羽(回転方向と書いてある部分)が甲第四四号証、甲第四五号証の各三三であり、その反対に左下に伸びている短い羽が甲第四四号証、甲第四五号証の各三四である。この羽には、まず底面に斜め三〇度の角度で板が溶接してあり、また各羽の先端部分にもスクレーパーと呼ばれる真鍮板がボルトで止めてある。そして、この二葉の羽が回転することにより、羽の底面に溶接された板、先端部のスクレーパーにより釜の中のチョコレートが撹拌、交流されるのである。機械全体の機能から見た場合、この撹拌羽は釜の中を撹拌していれば足りるものである。ゆえに、底面に溶接した板の厚さや高さをどのくらいにするか、角度を何度にするか等は、一義的に決まるものではない。しかるに、甲第四四号証と甲第四五号証とでは、寸法、角度、曲線カーブ(R)、仕上げ記号(▽)、部品名、部番等全てが同一なのである。このようなことは、被告会社が原告機械七の設計図を模写した場合以外には起こり得ないことである。
乙第二〇号証と甲第三号証の各対応設計図を比較した場合、各部品の部番が殆ど全て一致している。
部番とは、各部品に付された認識番号であり、部品組立図に棒を引いて<1>等と表示することにより、各部品が部分組立図におけるどの部分のものであるかを明示することができるものである。
部番は、初めてその機械が設計され、作成される当初において、最も重要な役割を果たす。すなわち、設計者は、まず大まかの部分組立図を何枚も作成し、その後、それらの部分組立図を各部品図に展開していく。このときに、部分組立図に、この部分の部品は部番<1>というように書き込み、その後その各部番の部品を設計図を作成していくのである。部番は、設計時における設計者の便宜のためにもっとも意義のあるものであり、一旦機械の設計が終了してしまうと、どの部品が全体の構造の中でどの部分のものであるかを示す用は果たすとはいえ、機械の構造を熟知している設計者や組立者にとってはさほど重要な番号とはいえない。そこで、各設計者が、かなり恣意的に部番を付している。
このように、一般的な原則に従って規則的に付されているのではなく、かなり恣意的に付されている部番が、全く別個に設計された二組の図面で一致することなどあり得ない。
しかるに、乙第二〇号証と甲第三号証とでは、全五一か所のうち、七つを除いた四四か所の部番が一致しているのである。これは、まさに被告機械七の設計図を作成した浜田が原告機械七の設計図を参照しながら乙第二〇号証を作図したからこそ生じた事態である。
別紙AT三〇〇・PAT三〇〇対応表の作成日付の欄を見ると、被告機械七の設計図は、昭和五六年二月二〇日から同年五月二〇日までという実に短い期間に作成されており、そのうえ、乙第二〇号証の四二、四三、五六、五七を除くと、同年三月一六日までに作成し終えている。各日付に作成された設計図の枚数は、同年二月二七日が八枚、同年二月二〇日、三月四日、同月六日が各七枚等であり、右三月六日まで、一日の作成枚数が極めて多い。これらの設計図の作成者である浜田は、昭和五五年一一月に被告会社に入社し、同社で初めてチョコレート製造用機械の設計に携わるようになった者である。そのような浜田が、右のように、連日多数の設計図を作成し得るはずがなく、それができたのは、原告機械七の設計図を模写、参照したからである。
浜田は、本件において証人として、昭和五五年、五六年当時、被告会社には原告の社名入りの原告機械七の設計図があり、被告中宿に命じられて、同設計図を模写、参照して被告機械七の設計図を作成した旨証言している。
乙第二〇号証の設計図は、六〇以上の部品図又は組立図からなっているが、同号証の一、二、四二を除いて全て浜田の署名がされているから、浜田が証言した設計図は被告機械七の設計図に相違ないと考えられ、この証言が原告の主張を裏付けている。
原告機械七の駆動系がプーリー駆動であるのに対し、被告機械七はチェーン駆動とのことであり、確かに、乙第二〇号証の一の総組立図を見ると、図面中央の左下寄り、「冷却水入口」の記載の右側部分にチェーンの受け軸があり、この部分がプーリー駆動である原告機械七の設計図と異なっている。
しかし、部品図自体を見ると、乙二〇号証の三の頁に記載されている部番13、14、20、26、36の各部品、同号証の三三、三四の頁に記載されている部番11、12の各部品に×印が付されているところ、これらの部品はプーリー駆動系の部品であり、同号証の一の総組立図に従えば不要な図である。しかも、これらの各部品は、甲第四三号証の三、四、八、九、三七、三八から明らかなとおり、部番、形状、寸法とも原告機械七の部品図と同一である。
これらの点から見ると、被告機械七も当初は原告機械七と同様のプーリー駆動であったが、後にチェーン駆動に改造したか、浜田が誤って不要な部品図まで写してしまったかのいずれかであり、原告機械七の設計図の模写、参照を否定するものではない。
フルタ製菓からの設計図の借受けについて
原告において、フルタ製菓に問い合せたところ、同社は原告機械七の設計図を受け取ったことはなく、したがってそれを被告会社に貸したこともない、原告機械七を購入したとき、原告から取扱説明書に記載してある配管系統図と組立図を受領したが、これらの図面には寸法の記載はなく、部番の記載もない、との回答をフルタ製菓から受けた。右回答により、被告らの主張が事実と異なることは明らかである。
(8) PAT-五〇オートテンパー(以下「原告機械八」という。)とDAT-八〇オートテンパー(以下「被告機械八」という。)
ア 原告機械八の概要及びノウハウ
原告機械八は、原告が外国会社製のオートテンパーと類似の製品の製造を依頼され、試作品として開発したものである。同じオートテンパーではあるものの、NAT型及びAT型のいずれとも基本構造を異にする機械である。
しかしながら、試作品を製作したものの市販するに至らず、その設計図を他の機種の設計図とともに保管中である。
ノウハウ
他のオートテンパーと同様、チョコレート加工の目的に照らし、適正な温度、粘度の維持、流量の調整、それを確保するための圧力の適否等に関し、機構上の工夫を凝らしている。
イ ノウハウ侵害
原告が製造した試作品である原告機械八の写真(甲第二七号証)と被告機械八の写真とを対比すると、外形からみて同一機械である。
(9) H三〇ホンダントビーター(以下「原告機械九」という。)とFB四〇ホンダントビーター(以下「被告機械九」という。)
ア 原告機械九の概要及びノウハウ
原告機械九は、砂糖からホンダントクリームを製造する機械である。ホンダントとは、フランス語で「溶けてトロトロした」という形容詞であり、パンのトッピング材料やクリームチョコのセンター(芯菓子)の材料に使用される舌ざわりの良いソフトな糖菓をいう。
精製された砂糖(しょ糖)を水で溶解し、更に加熱して煮詰めた溶解液が原告機械九に供給投与されると、原告機械九は、右シロップを適温に冷却し、かつ摺り混ぜ、撹拌することにより、ホンダントを製造するものである。
ノウハウ
原告機械九は、シロップを適温に冷却し、かつ撹拌する機械であり、八時間当たり四〇〇〇キログラムのホンダントを製造する大型機械である。したがって、<1>効率よくシロップを冷却、撹拌し、かつ、<2>機械の大きさをできるだけコンパクトにしながら、大量処理が可能な機械を開発することが必要であった。
第一に、冷却効率を高めるために、シロップを冷却筒内において冷却スクリューにより螺旋状に移動させ、冷却筒に循環させている冷却水により移動中のシロップが冷却されるという冷却構造をとつた。シロップは冷却スクリューの溝部を螺旋状に移動しながら冷却されるため、冷却効率が高まり、かつ冷却のムラが少なくなる。シロップの温度が高温であるため、冷却スクリューが熱膨張することを防止する目的で、スクリュー内側にも冷却水が循環されている。
第二に、機械の大きさをコンパクトにするため、右冷却筒を上下二本とする構造を採用した。
第三に、機械下段の冷却筒には、撹拌羽を設置し、シロップ内の結晶の撹拌、混合を図り、きめ細かな上質のホンダントを製造できるようにした。
第四に、シロップをスクリューの回転により移動させるに際して、外側を流れる冷却水との接触を最適にし、かつ、適切なスピードで移動させることが冷却効率の最適化に資する。そこで、スクリューの溝の深さ、歯を工夫し、最適スクリュー回転数とスクリューの溝の間を流れるシロップの量との相関をいかにして調整するかという問題を解決するため、駆動系統に工夫を凝らし、かつ冷却スクリューの構造につき試行錯誤のうえ、最適なスクリュー構造を開発した。
イ 設計図の盗用、模写によるノウハウ侵害
原告機械九は、昭和五〇年に最初に設計された機械であり、各図面の作成日付については、甲第四号証の一(外形図)には昭和五〇年九月二〇日の作成日付が、同号証の五、六(プーリー軸メタル台)には昭和五〇年一〇月三〇日の作成日付がそれぞれ記入されている。同号証の二ないし四、七ないし一八には作成日付の記載がないが、これらは全て昭和五〇年に第一号機を作成したときの図面であり、作成日付のないものも、右同様、昭和五〇年一〇月頃に作成されたものである。
また、作成者については、同号証の五、六、一六ないし一九を除いては、全て「ENGINEER IN CHARGE」(設計責任者)の欄に被告中宿の署名があるし、同号証の一六ないし一八についても図面中の文字は被告中宿の筆跡であるので、これらの図面が被告中宿の原告在籍中に作成されたものであり、昭和五五年の被告中宿の退職時に原告に存在したことは明らかである。
機械全体の構造及び冷却筒に関する設計図
甲第八七号証の一は原告機械九の外形図であり、甲第四号証の一を複写し、処理工程及び駆動系統を説明するため着色し、書込みを加えたものである。甲第八七号証の二は甲第四号証の二(上部ギヤー軸部組立図)を、甲第八七号証の三は甲第四号証の三(シロップ投入口部組立図)を、甲第八七号証の四は甲第四号証の四(プーリー軸部組立図)を、甲第八七号証の五は甲第四号証の七(製品出口部組立図)をそれぞれ複写し、説明の便宜上色分けをし、書込みを施したものである。
甲第八八号証は被告機械九の総組立断面図である乙第二一号証の四一を複写し、色分けをし書込みを加えたものである。
機械全体の構造の説明に際しては、乙第二一号証の四一のような総組立断面図を利用することが便宜であるものの、原告では原告機械九を作成するに当たって総組立断面図を作図せず、機械全体の外形図と機械各部の部分設計図を作図し、これに基づいて原告機械九を試作、製造したものである。原告機械九と被告機械九との酷似性については、後記各設計図の対比で明らかにしているところであるので、原告機械九、被告機械九の機械全体の構造を説明するについては、便宜上甲第八八号証(被告機械九の総組立断面図)に依拠して行うこととする。甲第八八号証の総組立断面図は、シロップ処理工程の順に大別すれば、シロップ投入口、冷却部、撹拌部及び製品取出口部とからなり、駆動系統としてプーリー軸及び上部ギヤー部が重要であるところ、これら各部に対応する原告機械九の各部分設計図が甲第八七号証の二ないし五である。これら原告部分設計図を総合して総組立断面図を製図すれば、乙第二一の四一(すなわち甲第八八号証)と主要部分で同一のものとなるであろう。
原告機械九、被告機械九の冷却工程は同一であり、これを便宜上甲第八八号証に基づいて説明すると次のとおりである。
摂氏一一〇度ないし一二〇度に煮詰められたシロップは同図左上記載のシロップ投入口から機械に投入される。供給されたシロップは同図上段の上部冷却部をスクリューの回転に伴い押し出され、水平方向に螺旋状に移動する。移動中のシロップは強制循環されている冷却水により徐々に冷却されていく。第一冷却部を通過したシロップは、同図下段の第二冷却部に移され、スクリューの回転に伴い水平方向に螺旋状に移動する。移動中のシロップが冷却されるシステムは第一冷却部における仕組みと同一である。但し、第二冷却部では、後半部に撹拌羽が設置されており、移動中のシロップは撹拌羽によって撹拌され結晶が拡散されながらホンダントとなりホンダント取出口から取り出される。
甲第八七号証の一には機械全体を循環する冷却水の流れが記載されているところ、右冷却水の配管は甲第八八号証のそれと同一である。
甲第四号証の七と乙第二一号証の一八との対比により設計図の盗用、模写の事実が明らかである。
<1> 原告機械九、被告機械九の駆動系統も同一であり、便宜上甲第八八号証を引用して説明する。
機械上部に設置されたモーター(甲第八七号証の一参照)から動力が部番二〇番Vベルトによって主軸プーリーに伝動される。これにより主軸が回転し第二冷却部のスクリュー及び撹拌羽が回転する。他方、主軸には部番一九番のはすば歯車が取り付けられており、同はすば歯車は従動軸に取り付けられた部番一八番のはすば歯車と噛合している。そのため部番一九番はすば歯車と噛み合う部番一八番はすば歯車は主軸の回転に連動して回転し、これにより従動軸も回転する。従動軸の回転により第一冷却部のスクリューが回転するのである。以上の駆動系統については、原告機械九の部分設計図である甲第八七号証の二、四に記載されている。
駆動系統の要であるプーリー及び二つのはすば歯車の形状、寸法は両機械において全く同一である。本来独自に開発する機械につき、その駆動部のうち、とりわけプーリー、はすば歯車は各社独自に設計するのが常識であるところ、被告機械九が原告機械九のこの部分を盗用していることこそ、被告会社が被告機械九についても原告機械九の設計図を盗用し盗作したことの最大の証明である。
<2>[甲第四号証の四と乙第二一号証の一九、二六]
甲第四号証の四は原告機械九のプーリー軸部の組立図であり、第二冷却部前部、すなわち第二冷却部に移ったシロップがスクリューにより水平方向に移動を開始する部分である。甲第八七号証の四は甲第四号証の四を複写し、説明の便宜上色分けをし、書込みを施したものである。この一部に対応する被告機械九の部品図が乙第二一号証の一九、二六であり、両者を重ね合せると(甲第四八号証の三の一と同号証の三の三、四)、両者がぴったりと一致し、そこに記入されている寸法も一致している。
甲第四号証の一八は原告機械九のスクリューの部品図であり、これに対応する被告機械九の図面は乙第二一号証の一三、一六である。両者と対比すると(甲第四八号証の一五の一と甲第四八号証の一五の二、三)、両者の形状が酷似している。また、スクリュー山の高さ、幅が全く同一であるが、この高さや幅は液体がスムーズに流れるように勘に頼って決定するしかないものであり、原告機械九の設計図を参照したのでなければ一致するはずのないものである。
<1>[甲第四号証の二と乙第二一号証の二五]
甲第四号証の二は原告機械九の上部ギアー軸部組立図であり、第一冷却部の最後部、すなわち第一冷却部を通過したシロップが下段の第二冷却部に移されるまでの部分に位置する。甲第八七号証の二は甲第四号証の二を複写し、説明の便宜上色分けをし、書込みを施したものである。この一部に対応するのが被告機械九についての乙第二一号証の二五の図面であり、両者を重ね合わせてみると(甲第四八号証の一の一と同号証の一の三)、両者はぴったりと一致する(微妙に誤差が出るのは甲第四八号証の作成に当たって数度にわたる複写を経たためである。)。また、両図に記入される寸法自体を比べても全く一致している。このギアーは、市販品を購入するものではなく、各社で製造するものであるから、寸法がこれほどまでに一致することは偶然ではあり得ない。
<2>[甲第四号証の三と乙第二一号証の二二]
甲第四号証の三は原告機械九のシロップ投入口の組立図である。シロップ投入口から投入されたシロップは上段の第一冷却部に入り、スクリューの回転により水平方向に移動する。甲第八七号証の三の図面は、甲第四号証の三を複写し、説明の便宜上色分けをし、書込みを施したものである。このうちのシロップ投入ホッパー部分の被告機械九の部品図が乙第二一号証の二二であり、両者を重ね合わせてみると(甲第四八号証の二の一と同号証の二の三)、両者はぴったりと一致する。
このシロップ投入ホッパーも市販品ではなく、各社で製造するものであり、かつ、その機能はシロップを機械に投入する入口となるに過ぎないから、形状、寸法等が一致する必然性はないにもかかわらず、両者では、形状ばかりでなく、上部、下部の直径、ホッパーの機械への固定の仕方までが一致している。
<3>[甲第四号証の七と乙第二一号証の四一の一部]
甲第四号証の七は原告機械九の製品出口部の組立図であり、甲第八七号証の五は甲第四号証の七を複写し、説明の便宜上色分けをし、書込みを施したものである。この部分に対応するのが乙第二一号証の四一の一部であり、この両者を対比すると(甲第四八号証の四の一と同号証の四の二)、形状が一見して同一である。
<4>[甲第四号証の一六と乙第二一号証の三六ないし三八]
甲第四号証の一六は前記甲第四号証の七(製品出口部分組立図)の部品図であり、これに対応する被告機械九の図面は乙第二一号証の三六ないし三八である。両者を対比すると(甲第四八号証の一三の一と同号証の一三の二)、両者は一見して形状、寸法とも酷似している。
<5>[甲第四号証の八と乙第二一号証の二八]
甲第四号証の八は原告機械九のフレーム図であり、これに対応する被告機械九の図面は乙第二一号証の二八である。両者を対比すると(甲第四八号証の五の一と同号証の五の二)、まず形状が同一であり、寸法も、使用する鉄板の厚さの違いにより多少の差があるものの、ほぼ同一である。
<6>[甲第四号証の九と乙第二一号証の二七、三四]
甲第四号証の九は原告機械九のモーター取付部及びギアーケースカバーの図面であり、これに対応する被告機械九の図面が乙第二一号証の二七、三四である(甲第四八号証の六の一、二参照)。この両者を対比すると、その形状が極めて類似している。
モーターの形状が若干違い、その関係で台座、固定螺子等の寸法が異なっているが、これは使用している市販品のモーターの寸法が異なるからに過ぎない。両機械では、モーターの容量が異なるにもかかわらず、その伝達力を受ける軸径、プーリー、ギヤーが殆ど同一寸法であることは本来あり得ないことである。
<7>[甲第四号証の一〇と乙第二一号証の二九]
甲第四号証の一〇は原告機械九のベルトカバー図であり、これに対応する被告機械九の図面が乙第二一号証の二九である。この両者を対比すると(甲第四八号証の七の一と同号証の七の二)、単なる外側のカバーであって、どのような形状のものでよいにもかかわらず、両者は大変類似している。
<8>[甲第四号証の一二と乙第二一号証の三〇、三四の一部]
甲第四号証の一二の原告機械九の部品図に対応する被告機械九の図面は乙第二一号証の三〇、三四の一部に見られ、両者を対比すると(甲第四八号証の九の一と同号証の九の二ないし四)、これらの部品もその形状、寸法に特段の必然性はないにもかかわらず、両者の形状、寸法は酷似している。
<9>[甲第四号証の一三と乙第二一号証の一]
甲第四号証の一三は原告機械九の本体たるシリンダー部分の部品図であり、これに対応する被告機械九の図面は乙第二一号証の一である。
両者を比較すると(甲第四八号証の一〇の一と同号証の二)、被告機械九の図面は二段に書かれているのに対し、原告機械九の図面は三段に書かれているが、被告機械九の下段のシリンダーの中央左寄り部分、台が突き出している部分のすぐ左側を見れば判るように、被告機械九のシリンダーも下段は二本のシリンダーを接続したものであり、構造自体は同一であって、組み立てたときの形状は同じである。また、寸法も赤丸の部分を見れば判るとおり、同一の箇所が多く、異なるところは使用している材料の肉厚の違いによるに過ぎない部分が多い。
<10>[甲第四号証の一四と乙第二一号証の二ないし五]
甲第四号証の一四は原告機械九のシャフト関係の部分の部品図であり、これに対応する被告機械九の図面は乙第二一号証の二ないし五である。両者を対比すると(甲第四八号証の一一の一と同号証の一一の二)、両者は形状、寸法とも酷似している。
<11>[甲第四号証の一五と乙第二一号証の三六ないし三八]
甲第四号証の一五は原告機械九の部品図であり、これに対応する被告機械九の図面は乙第二一号証の三六ないし三八である。両者と対比すると(甲第四八号証の一二の一と同号証の一二の二)、両者は形状、寸法とも酷似している。
<12>[甲第四号証の一七と乙第二一号証の一五、一八、二三、二四]
甲第四号証の一七は原告機械九の部品図であり、これに対応する被告機械九の図面は乙第二一号証の一五、一八、二三、二四である。両者を対比すると(甲第四八号証の一四の一と同号証の一四の二ないし五)、両者は一見して形状、寸法とも酷似している。
特に甲第四号証の一七(甲第四八号証の一四の一の緑縁内)と乙第二一号証の二四(甲第四八号証の一四の三)とは記入されている寸法が全て同一である。
原告機械九は、昭和五〇年初頭、納入後五年間は他社に納入しないという条件でユニオン商事株式会社と契約した特注機械であり、したがって、カタログ、資料等を配布したことはなかった。
その後、ほぼ五年を経過した昭和五五年一二月頃、カバヤ食品株式会社(以下「カバヤ食品」という。)から同機種の注文があったため、右ユニオン商事の了解を得て、同年一二月一三日に見積書を提出した。
ところが、カバヤ食品は、結局、原告とは契約せず、昭和五六年二月頃被告会社と契約し、被告会社は、同年五月、被告機械九を二台納入した。
原告は前記ユニオン商事に販売したとき、それ以前にホンダントビーターの製造経験があったにもかかわらず、それでも開発開始時から八か月後を納期としたし、右カバヤ食品に対する見積書でも契約後六か月後を納期としている。しかるに、被告会社は、初めてのホンダントビーターの製作であるのに、契約後三か月で二台を納入している。このような短期間で設計、製造を一から仕上げられるなど、機械メーカーの常識では考えられず、まさに原告機械九の設計図が被告会社内に存在したからこそなし得たことである。
<1> 被告らは、甲第四号証の一三、乙第二一号証の一のシリンダーの図面において、機能的に重要なスクリューのピッチが、原告機械九で一〇〇ミリメートルであるのに対し、被告機械九では一二〇ミリメートルであり、また、シリンダーの内径も異なると主張する。
ホンダントビーターは、ホンダントクリームを作る機械である。そのために、まず二重の筒を作り、内側の筒の中に更に、スクリューのついた軸を入れる。そして、この内側の筒とスクリューのついたシリンダーとの間にシロップを流し込み、軸を回転させることによりシロップをスクリューに沿って流していく。このとき二重の筒の間に冷却用の水を流し、その水の冷温によりシロップを冷やすのである(甲第五二号証)。この冷却水を流すときに、冷却効果を高め平均化させるため、水の流れのガイドとして作られている道筋がこのスクリューであるに過ぎない。そして、実際に冷却の程度を調節するときには、水の温度、水量を変えることによって行っており、このガイドのピッチとは何ら関係がないのである。
また、被告らは、シリンダーの外径が異なると主張する。しかし、このシリンダーは市販品を購入してきて使用するもので、そのとき原告が八Bステンレスパイプ外径二一六・三ミリ(肉厚八・二ミリ)のものを購入してきているのに対し、被告らは八Bステンレスパイプ外径二一六・三ミリ(肉厚六・五ミリ)の薄い廉価な材料を使用しているに過ぎず、何ら重要な差異ではない。
この機械でもっとも重要なスクリューは、冷却水のための前記スクリュー(螺旋)ではなく、甲第四号証の一八、乙第二一号証の一三、一六のシロップを流すためのスクリューである。このスクリューのねじれ角、リード寸法、リードの高さにより、シロップが具合よく流れるか、また満遍なく冷却されるかが決まるのである。そして、この真に重要な部分において、被告機械九は、ねじれ角、リード寸法、リードの高さが原告機械九と全く同一である。
<2> 被告らは、甲第四号証の一四、乙第二一号証の二ないし五において、スクリューと中空軸との接続の仕方が異なると主張するが、機械の本質的性能には何ら関係がない。
筒が一体型か否かの相違も、同様、本質的性能とは関係がない。
<3> 原告機械九のドレン受けがパイプと一体となっているのに対し、被告機械九では取外し可能である点、コモンベースの寸法の差異、ブランケットの部分のOリングの取付け溝の有無も、いずれも機械の本質的部分に関係がない。
(10) PC一ペーストクリーナー(以下「原告機械一〇」という。)とLC一リキッドクリーナー(以下「被告機械一〇」という。)
ア 原告機械一〇の概要及びノウハゥ
原告機械一〇は、チョコレート等の粘度の高い液体中の異物(不純物)を除去する高速分離機である。高粘性液体中の異物は、表面に細かい穴の開いた円錐形のスクリーンの高速回転による遠心力作用により分離除去される。原告機械一〇は単体として使用されることもあるが、通常は、チョコレートの連続輸送工程中に設置される。
ノウハウ
第一に、高速で回転するスクリーン(一分間に一七五〇回転)につき、その形状を最良のバランスのとれるよう計算された円錐形とし、高速回転によるひずみを防止するためその材質、板厚、メッシュ(孔径)、孔の配列に独特の工夫を凝らしていること、
第二に、スクリーンを回転させる取付軸につき、従来は上下一個ずつしかベアリングが付けられていなかったものを、軸の回転を滑らかにし、ベアリングのもちをよくするために、ベアリングを一個追加して三個取り付け、更に独特のテーパ軸を採用していること、
第三に、クリーナーの蓋を外すだけで電源の切れる安全装置を取り付けたこと、
第四に、クリーナー本体の材質にアルミニウムを、スクリーンの材質にステンレスを採用していることである。クリーナー本体の材質は、チョコレートと接触するため衛生面を考慮すべきであり、かつ保温ヒーターに関し、熱伝導の優れた材質を確保するため、アルミニウムを採用したのである。スクリーンの材質については、右衛生面、高速回転に耐え得る強度をもつ必要性及び残留した異物の廃棄にあたり水洗いを加えることを勘案して、ステンレスを採用したものである。
イ 設計図の盗用、模写によるノウハウ侵害
被告らは、甲第五号証の三と乙第二二号証の一一のスクリーン図において、網目の間隔が異なると主張するが、両図とも穴の中心間の距離は二ミリメートルであり、同一である。また、総体としての形状も酷似しており、薄い円錐台を補強するため、上部、下部の両円周にリングを溶接している構造も同一である。被告らは、その補強用リングの形状が異なるというが、これは、補強ができさえすれば、どのような形状のものでもよいものに過ぎない。
スクリーン取付軸のベアリング数等
この点は甲第五号証の一と乙第二二号証の二六との対比から明らかである。
原告は、昭和三六年に原告機械一〇の販売を開始して現在に至っているが、安全装置を原告機械一〇に取り付けたのは昭和五二年である。長期間にわたり製造してきた機械に付加的な改良として簡易な部品を取り付け、その一部を変更する場合については、ことさらに組立図全体を書き替えないことが多いものであり、原告は甲第五号証の一七の図面下部に「LS」(リミットスイッチ)なる記載を加えることにより(同図作成は昭和五二年)、この部分に安全装置を取り付けたことが図面上識別できるようにしたのである。そして、CADにより設計図の整理をした昭和五九年一月の段階で組立図の中に安全装置を記載するに至った。なお、甲第六一号証の三のカタログ中には同種機械である原告機械一一の写真が掲載されているが、同写真には安全装置が写っている。
この点は甲第五号証の一と乙第二二号証の二六との対比から明らかである。
甲第八一号証は原告機械一〇の組立図であり、甲第五号証の一(作成年月日昭和四一年三月一四日)を、昭和五九年一月にCADにより再製し、作図したものである。甲第八一号証は、チョコレートの異物除去工程を茶色の矢印で図示するとともに、駆動系統の説明の便宜上色分けを施した。
甲第八二号証は被告機械一〇の組立図であり、乙第二二号証の二六を複写し、説明の便宜上チョコレートの異物除去工程を茶色で図示し、色分けを施したものである。
両機械における異物除去工程は同一である。すなわち、投入供給されたチョコレートは、高速回転するスクリーンの回転に伴う遠心力作用により、異物が除去されスクリーンの網目を通過して製品取出口から取り出される。他方、高速回転により除去された異物はスクリーンの網目を通過することができずスクリーン内に残留する。駆動系統も同一である。すなわち、モータープーリーからVベルトにより動力が主軸プーリーに伝動される。これにより主軸プーリーと同調する主軸が高速回転(原告機械一〇では一分間に一七五〇回転、被告機械一〇では一分間に一七二〇回転)する。締付ナットにより主軸に固定された回転板(ドラム)及び回転板(ドラム)に取り付けられたスクリーンは主軸とともに高速回転する。スクリーンの高速回転中に蓋が外れた場合には押え板によりリミットスイッチが作動し、スクリーンの回転は停止する。
被告らは、甲第八一号証は甲第五号証の一の一部に寸法変更を加えていることを、寸法変更の部位を特定、明示することなく主張している。しかしながら、被告らの主張する寸法変更とは、モーターの高さを〇・五ミリメートル変更するものにとどまり、その他の寸法は両図面で同一なのである。原告機械一〇のモーターは市販品を使用しているものであり、市販モーターの寸法変更があればモーターのサイズに変更を生じるのは極めて当然のことである。甲第八一号証の図面をCADで再製した昭和五九年の時点で、たまたま市販のモーターの高さが従来のそれと比べて〇・五ミリメートル寸法を異にしていただけのことである。
被告らは、モーターの相違を指摘するが、モーターは市販品を買ってきて据え付けるだけのものであるから、何ら被告らの独自性を表わすものではない。
リミットスイッチの有無も、市販品を買って取り付ければよいだけの問題である。しかも、原告機械一〇でも、被告中宿が退社する以前である昭和五二年までには、リミットスイッチを付けるように改良済みである。すなわち、昭和五二年に作成された甲第五号証の一七を見ると、その下段右側に回路図の下の部分に「LS」の文字があり、これがリミットスイッチを意味している。原告が、この改良を組立図に記載しなかったのは、それがあまりに簡単な改良に過ぎず、かつ、他へも影響を与えないため、わざわざ組立図を修正する必要性を認めなかったからである。
また、被告らは、被告機械一〇においては、コントロールボックスがモーターとドラムの間にあり、改良されている旨指摘しているが、位置については原告機械一〇の組立図でも同様の位置にあるうえ、形状、大きさについても、前記甲第一七号証の左上の図を見れば、原告機械一〇でも昭和五二年までに大きな型に改良されていることが判る。
<1> 甲第五号証の一六と乙第二二号証の二五の保温用ヒーターとを対比すると、両図は同寸法の円形のヒーターである点で同一である。このようなヒーターは、自社で製作せず外注に出すものであり、ドラムの保温の用を果たしさえすればどのような形状、様式のものでもよい。それなのに、形状、様式、取付け方法が全て同じであるのは不自然である。しかも、被告中宿は、被告機械一〇の設計図を昭和五五年七月一四日から同月二三日までという短期間に作成しており、これは原告機械一〇の設計図を参照、模写したからにほかならない。
<2> 被告らは、甲第五号証の一一と乙第二二号証の五、甲第五号証の八と乙第二二号証の六の各部品図における取付穴の数が異なり(すなわち、取付けに使用するビスの数が異なる。)、また、乙第二二号証の四にはプーリーの張り具合を見るための穴が開いているというが、いずれもあまりに些細な相違点に過ぎない。
<3> 更に、被告らは、甲第五号証の一二と乙第二二号証の一六、一八の座金が一段か二段かの相違があると指摘するが、この部分はプーリーを固定するためのものに過ぎず、これまた些細な相違である。
(11) PC三ペーストクリーナー(以下「原告機械一一」という。)とLC五チョコレートクリーナー(以下「被告機械一一」という。)
ア 原告機械一一の概要及びノウハウ
しかしながら、原告機械一一は、スクリーンを一分間に一五〇〇回転させるという高速度の分離機であるために、スケール・アップするに当たっては、材質やスクリーン等の部品の形状、大きさ、組立ての角度等について改良を加える必要があり、改良には相当の期間を要する。
ノウハウ
原告機械一一のノウハウは、原告機械一〇のノウハウと同一である。すなわち、スクリーンの形状、材質、寸法及び二重スクリーンの構造等はすべて原告機械一〇のノウハウであり、これが甲第一二二号証の設計図に表象されている。
イ 設計図の盗用、模写によるノウハウ侵害
被告機械一一の写真が甲第六一号証の一であり、原告機械一一の写真が甲第六一号証の二、同機械の外形見積図が甲第六一号証の三である。両者を対比すると両機の外形が極めて似ていることが明らかである。
両機は、それぞれ原告機械一〇、被告機械一〇の改良機であり、機構、機能、ノウハウは同一であり、前記のとおり原告機械一〇、被告機械一〇の設計図は詳細に対比されているから、両機について設計図を対比する必要はない。
(12) STストレージタンク五〇〇、一〇〇〇、二〇〇〇、三〇〇〇(以下、総称して「原告機械一二」という。)とTTストレージタンク五〇〇、一〇〇〇、二〇〇〇、三〇〇〇(以下「被告機械一二」という。)
ア 原告機械一二のノウハウ
ストレージタンクとは、溶解されたチョコレートを貯蔵するタンクであり、摂氏五五度ないし六〇度で溶解されたチョコレートを緩やかに徐々に冷却し、次の工程であるオートテンパーに供給するまで常に保温撹拌しながら貯蔵するタンクである。
モデル名に付されている数字はタンクの容量(単位はキログラム)を示すものである。原告機械一二については、スケール・アップが比較的容易であり、どの容量のストレージタンクも構造、機能、駆動系統、ノウハウが同一である。
ノウハウ
第一に、均一温度でチョコレートを保温するためには、タンクの内側に貯蔵されたチョコレートを十分に撹拌、交流させ、タンクの二重外壁の中間を流れる温水に均等に接触させる装置が必要となる。原告は、この課題を克服するため、まず、特殊構造の撹拌翼を独自に設計し、各羽の取付け角度を異にし、チョコレートを十分撹拌し得るようにした。また、撹拌翼の一部には先端部にスクレーパーを取り付け、温水ジャケットに接触するチョコレートを絶えず交流撹拌させるという温水の強制循環装置を開発した。この点は甲第九五号証の二の図面に明らかである。
第二に、タンク内の撹拌翼を回転させる駆動系統についても原告独自のノウハウが存在する。タンクに貯蔵されている大量のチョコレートを撹拌翼で撹拌するために撹拌翼には回転に伴い巨大な圧力が加わる。他方、動力モーターから撹拌翼に動力を伝達するためにモーター軸と撹拌主軸は連結されなければならないところ、同連結部には撹拌翼の回転に伴い強大な圧力がかかることになるため、特に連結部を強固な構造にしなければならない。そのため、原告はモーター軸と撹拌翼主軸の連結部のチェーンカップリング方式を取り入れた。
第三に、チョコレート内の砂糖のカーボン化を防止するように、撹拌翼主軸下部及び軸受部を特殊な構造とし、更に、軸受部を釜外に出すことにより、パッキングの交換等の修理を容易にした。甲第一二三号証はタンク底部軸受部の設計図であり、同図面上、撹拌軸下受部がタンク外部に出ていること及び軸部からのチョコレート漏出を防止するためにグランドパッキングという特殊シールを使用していることが明らかである。
第四に、タンクの底部の中央をへら絞り型とすることにより、内部のチョコレートの取出しを容易にした。この点は甲第九五号証の一に明らかである。
イ 設計図の盗用、模写によるノウハウ侵害
甲第六号証はST-五〇〇という容量〇・五トンの原告機械一二の設計図であるのに対し、乙第二三号証はTT-五〇〇という容量〇・五トンの被告機械一二の設計図であるとされていながら、TT-三〇〇〇(三トン)、TT-二〇〇〇(二トン)の設計図が混在している。そのため、厳密な意味では両設計図は対応する機械の図面とは言い得ない。しかし、それにもかかわらず、両設計図を対比すると、別紙ストレージタンク図面対応表記載のとおりの対応関係がみられる。これらの対比を容易にするため作成したのが甲第五三号証の一の一ないし同号証の一〇の一である。
<1> 被告機械一二の撹拌翼の部分図が甲第九〇号証の二であり、これを原告機械一二の撹拌翼(甲第八九号証の三)と対比すると、被告機械一二の撹拌翼の構造が原告機械一二のそれと全く同一であることは一目瞭然である。撹拌羽の構造、取付け角度が同一であるばかりか、スクレーパー取付部の詳細図にいたるまで、右両図面は作図法、記入位置を同じくしている。
<2> [甲第六号証の四と乙第二三号証の九(甲第五三号証の二の一、二参照)]
両図面は撹拌翼の組立図であるが、一見して図面の書き方、配置、形状が酷似している。特に、赤枠で囲ったスクレーパー、取付け金具の作図法、記入位置は全く同一である。
撹拌翼の形状は、内部のチョコレートが撹拌できればどのような形状のものでもよいのに、このように酷似しているのは原告機械一二の設計図を模写した以外にはあり得ない。
<3> [甲第六号証の九、一〇、一六、一九、二一と乙第二三号証の九、一一(甲第五三号証の六の一ないし一〇の一参照)]
原告機械一二の図面はいずれも撹拌翼の部品図であるが、被告機械一二ではこれらに対応する部品図が提出されていないので、撹拌翼の組立図である乙第二三号証の九を色分けしてその対応を示した。これらを対比すれば、両図面が酷似していることが明白である。
また、甲第六号証の一〇と乙第二三号証の一一(甲第五三号証の七の一及び同号証の六の二のうち「乙第二三号証の一一」の部分)とは、ともにスクレーパーのピンの部品図であるが、このような機械の本質的部分でない部品についてまで、赤丸に示したごとく、寸法の一致がみられる。
被告らは、ピン穴の直径が異なるというが、あまりに些細な相違に過ぎない。
駆動系統に関する設計図
被告機械一二の駆動系統も原告機械一二のそれと全く同一である。すなわち、両機械ともタンク上部にギヤーモーターを設置し、モーター軸と撹拌翼主軸を連結させ、モーターの動力が撹拌翼主軸に伝動されることにより撹拌翼が回転する。とりわけ、両機械はモーター軸と撹拌翼主軸の連結部につき全く同一のチェーンカップリング方式を採用している。甲第九〇号証の三には被告機械一二のモーター軸と撹拌翼主軸の連結部分が図示されているが、これを原告機械一二の部分図である甲第八九号証の四と対比すれば、原告機械一二のチェーンカップリング方式と全く同一の連結部構造を被告機械一二が盗用していることは一目瞭然である。
<1>[甲第六号証の二と乙第二三号証の六(甲第五三号証の一の一、二参照)]
両図面は、容量が異なるため寸法の対比はできないものの、対応する部分に色付けをしてみると、機械の形状、図面の書き方が酷似している。
両図面は主軸受部の部品図である。他社のストレージタンクのカタログを見ると、この部分はタンクの内部の下部で受けているのが一般的であり、その結果、外部から見た場合、この主軸受部は見えない。これに対し、原告機械一二では、後々の修理が簡単なように、この主軸受部のタンクの外部に出した構造としているが、そのため、この部分を製作するには木型を製作し、鋳造しなければならず、この構造、形状は原告機械一二に独自のものである。しかるに、両図面では、この構造、形状が全く同一である。
<2>[甲第六号証の八と乙第二三号証の一ないし三との対比(甲第五三号証の五の一、二参照)]
両図は、主軸受部の部品図であるが、形状が酷似している。被告らは、フランジに補強リブ、Oリングがある点が異なるというが、些細な相違である。この部分は木型を作って鋳造するものであるのに、この複雑な形状がこれほどまでに一致していることにこそ注目すべきである。
<3>[甲第八九号証の五と甲第九〇号証の四]
右両図面を対比すると、被告機械一二においても撹拌翼主軸の底受部をタンク外に設置しており、かつ軸受部の構造が原告機械一二と全く同一であることが明らかである。
[甲第六号証の七と乙第二三号証の八(甲第五三号証の四の一、二参照)]
両図面はタンク本体の図面であるが、これも一見して形状、図面の書き方が同一である。
被告らは、被告機械一二にはドレン、エアー抜きの穴があるのに原告機械一二にはないと主張するが、これらは原告機械一二にもあり、被告機械一二では、原告機械一二と同一箇所のほかに、もう一個ずつ付けてあるに過ぎない。すなわち、甲第六号証の七のタンク断面図右脚の付け根のすぐ左に「3/4ソケット」とある部分がドレンであり、同断面図右側上部に「3/4ソケット・オーバーフロー用」とあるのがエアー抜きの穴であるところ、これらは乙第二三号証の八でも同一の箇所にあるのである。
また、被告らは、温度計の接続口の形状等が異なるという。これは、上記断面図左側の中段やや下にある「七〇Φ 五五Φ 一〇八Φ 一三〇Φ 一七〇Φ」と書かれた部分の穴であるが、形状、設置箇所は同一で、ただ穴の大きさが異なるに過ぎない。また、この穴は、市販の温度計を購入してきて差し込む部分であるから、穴の直径がいくつになるかは、どのような温度計を購入するかによって決まることである。
更に、被告らは、脚や温水の出入り口の大きさが異なるというが、形状は同一であるうえ、機能的にも何らの差異をみない。
甲第八九号証の一は原告機械一二の見積用断面図である(甲第九号証の四、Aは原告機械一二の見積用外形図である。)。原告、被告会社とも右各機械については総組立断面図を作成していないため、機械の構造の説明について右見積用断面図を使用する。更に、機械各部の構造を説明するための図面が甲第八九号証の二(本体部組立図)、甲第八九号証の三(撹拌翼組立図)、甲第八九号証の四(駆動部組立図)、甲第八九号証の五(底部軸受部部分図)であり、それぞれ甲第六号証の七、四、一、二を複写し、説明の便宜上色分けをし、書込みを加えたものである。
甲第九〇号証の一(タンク本体部品図)、甲第九〇号証の二(撹拌翼部組立図)、甲第九〇号証の三(駆動部組立図)、甲第九〇号証の四(底部組立図)は、被告機械一二の部分設計図であり、それぞれ乙第二三号証の八、九、七、六を複写し、色分けをし、書込みを加えたものである。
甲第八九号証の一に基づいて原告機械一二の工程を概観すると次のとおりである。コンチングを終えた摂氏六〇度前後のチョコレートは原告機械一二上部から投入供給され、タンク内に貯蔵される。タンク内では撹拌翼の回転に伴いチョコレートは交流撹拌される。タンクの外壁はジャケットという二重外壁構造からなり、同ジャケット内を温水が強制循環されている。タンク内のチョコレートは温水ジャケットに接触することにより、摂氏四〇度前後に冷却され、同温度で保温される。タンクには、チョコレートの温度を計る温度計とジャケット内の温水の温度を計る温度計とが組み込まれており、循環させる温水の温度を調整することにより、チョコレートを希望する温度で冷却、保温することができる。貯蔵されたチョコレートはタンク下部の取出口から取り出され、オートテンパーに搬送される。なお、同図ではチョコレートを投入するに際し、ベーストクリーナーを使用することを想定して作成されているが、必ずしもペーストクリーナーにより投入しなければならないものではない。
甲第八九号証の一、二と甲第九〇号証の一とを対比すると、被告機械一二のタンクは、タンク底部の形状、チョコレートの取出口の構造にいたるまで原告機械一二のタンクと同一である。甲第九〇号証の一の桃色部分は温水ジャケットであり、これによりチョコレートが冷却保温されること、タンクにはチョコレート温度計と温水温度計が各設置されていることも原告機械一二と同一である。
[甲第六号証の六と乙第二三号証の一四(甲第五三号証の三の一、二参照)]
両図面を対比すると、一見して形状、図面の書き方が同一である。この部分は機械の蓋に過ぎないにもかかわらず、これだけ酷似するのは18:58 2009/02/12、原告機械一二の設計図を模写したからとしか考えられない。被告らは、蝶番、ボルトの数、チョコレート入口の大きさが異なるというが、些細な相違に過ぎない。
甲第九号証の四、甲第一〇号証の四は、それぞれ原告機械一二のカタログ、被告機械一二の見積図であるが、両図は形状、寸法が全く同一である。特に、寸法は、ミリメートル単位の寸法が記入されているにもかかわらず、殆ど全て同一である。たとえば、各社独自に作成する梯子の幅が二〇八ミリメートルと等しく、タンク本体の高さ(H)及び脚の長さ(四五〇ミリメートル)が等しい。モーターの高さ(G)は異なるが、これは市販品を購入して取り付けるために過ぎない。タンクの直径を示す寸法表D欄の数字が両社で二ミリメートル違っているのは、タンクの板厚が両社間で一ミリメートル違っていることによるものに過ぎない。
証人浜田は、同人が被告中宿から原告機械一二の図面を見せられて、部下に設計図を引き直させたことを証言している。
(13) M一〇〇メルチング・アンド・テンパリングケトル(以下「原告機械一三」という。)とMKT一〇〇メルチング・アンド・テンパリングケトル(以下「被告機械一三」という。)
ア 原告機械一三の概要及びノウハウ
原告機械一三は、チョコレート・ブロックを溶解(メルチング)する目的の機械であるが、更に、溶解したチョコレートを調温(テンパリング)する機能をも有するため、メルチング・アンド・テンパリングケトルと命名されている。
チョコレート製品ができるまでの工程は、大きく分けて板物チョコレートや被覆チョコレートの原料ともいうべきビターチョコレートを造るまでの一次工程と、ビターチョコレートにミルク、粉糖、カカオ及びバターを加えて最終製品化する二次工程とに分かれる。原告機械一三は、二次工程におけるメルチングを行う機械である。
ノウハウ
機械の第一の課題は、硬いチョコレート・ブロックをいかに迅速に溶解するかにあり、釜の形状、寸法やモーターの動力装置は重要な要素ではない。釜内部のチョコレートを均一の温度に保ちながら速く溶解させるために、いかなる撹拌装置を開発するかということが最重要であり、原告の開発したスクリュー式二重撹拌装置こそ、他社に例をみない画期的装置であり、撹拌装置及びこれを作動させるピンギヤー部分にノウハウが凝集されている。また、釜の内部の支柱もノウハウである。
右のうち、スクリュー式二重撹拌装置、すなわち撹拌羽に二個のスクリューを取り付け、撹拌羽の回転及びスクリュー回転によりチョコレートが撹拌される構造は甲第一二四号証から明らかである。
また、ピンギヤー部分は、動力伝達装置をひとつにする目的で撹拌羽の回転に伴いスクリューも回転するよう採用したものである。いかなる寸法、形状のピンギヤーを使用するかは原告のノウハウであり、撹拌羽を回転させる水平方向ギヤーの回転はピンギヤーを介して垂直方向ギヤーに伝達され、これによりスクリューも回転させる仕組みとなっている。ピンギヤー部の構造等のノウハウについては、甲第六三号証の五の図面から明らかである。
更に、釜の内部に支柱を立てることにより、駆動軸と撹拌羽の連結部分を釜の上部に設置することとし、連結部にチョコレートが侵入しない構造とした。この結果、連結部のベアリング箇所付近にチョコレートが侵入し滞留してカーボン化するという事態が発生しなくなるというメリットが得られるとともに、ベアリング部分のメンテナンス上も大きなメリットがある(甲第一二四号証)。
イ ノウハウ侵害
甲第六三号証の一のカタログに掲載されているのが原告機械一三であり、甲第七号証の一〇及び一一が被告機械一三の写真である。
これを対比すると、両機械の外形がよく似ていることが判る。更に、これらの写真は撹拌装置及びピンギアーを撮影しているが、この部分についても酷似している。被告会社が原告機械一三のノウハウを盗用していることが明らかである。
(14) SMストリングマテック六〇〇、一〇〇〇、一二〇〇(以下、総称して「原告機械一四」という。)とDMデコレーター六〇〇、一〇〇〇、一二〇〇(以下、総称して「被告機械一四」という。)
ア 原告機械一四のノウハウ
原告機械一四は、チョコレートの模様を掛ける装置である。液状のチョコレートが原告機械一四のパイプに開けられた小さな穴(ノズル)から落下し、これによりパイプの下をベルトに乗って水平方向に移動するチョコレート及び芯菓子の上に模様掛けが行われるものである。モデル名に付されている数字は、模様掛けを行うコンベアーの有効幅をミリメートル単位で表示したものである。
ノウハウ
パイプが規則的に自由自在に動くように機構上の工夫を行い、多様な模様掛けができるようにしたことが第一のノウハウである。第二に、原告が原告機械一四を開発するに当たって、技術的に困難であった課題は、チョコレートの模様を掛けるチョコレート取出口(ノズル)にゴミ等の異物が混入することを防止する(目詰り防止)機構を作ることにあった。ノズルに異物が混入すると思いどおりの繊細な模様掛けをすることができなくなるため、原告は、ノズルの目詰り防止のために、原告が開発したフィルター装置(ストレーナーともいう)を内蔵させたのである。甲第九六号証及びそれを複写して注釈を付記した甲第一二五号証に右各ノウハウが示されている。
イ ノウハウ侵害
甲第六四号証は原告機械一四の写真であり、これを被告機械一四の写真(甲第七号証の五)と対比すると、両機は外形がよく似ていることが判る。
原告機械一四の見積図(甲第二六号証の一の一)と被告機械一四の見積図とを対比すると、形状、寸法が全く同一とは言えないものの、部品の配置、設計の構想がよく似ていることは明らかであり、被告会社は原告機械一四の設計図を基本とし、これに若干の修正を加えて被告機械一四を製造したことが推定される。なお、甲第二六号証の一の一の原告機械一四の設計図にはフィルター装置の記載がないが、これはフィルター装置について甲第二六号証の一の二の設計図を作成していたために、見積図にはフィルター装置を記載しなかったためである。甲第二六号証の二の被告見積図右端のフィルター装置は、甲第二六号証の一の二の原告機械一四の設計図を基に作成されたことは明らかである。
このことは、浜田証人が「被告会社のデコレーターは浜田が被告会社で開発したと言えるものではなく、被告中宿が保管していた原告の社名入りの図面に改良を加えて製造したものであり、改良の対象はノズルの部分に過ぎない。」旨証言していることによっても裏付けられている。
(15) CMD型チップチョコ・デポジッター(以下「原告機械一五」という。)とチップチョコ・デポジッター(以下「被告機械一五」という。)
ア 原告機械一五の概要及びノウハウ
原告機械一五は、小粒のチョコレートであるチップチョコを製造する機械である。溶解され、更に調温加工された原料チョコレートを、チップチョコ用に充填(デポジット)することを目的とするものであり、少量(一個当たり最少で〇・二グラム)かつ小粒のチョコレートを一回当たりできるだけ多数の粒数正確な容量で充填することができる。
ノウハウ
原告機械一五は、従来のチップチョコ・デポジッターの充填能力を高めるために開発したものであり、これを実現するために、第一に、デポジッター内の充填用ピストンの本数を数倍に増やす機構を考案した。それまで横型に配置され、水平方向に作動していたピストンを縦型に配置し、垂直方向に作動させる発想に基づき、これを可能にするように装置を改良した点が、本機における最も重要なノウハウである(甲第一二六号証の一、甲第九七号証の一)。
第二に、垂直方向に配列したピストンのチョコレート充填方法として、吸引と吐出の切替えにつきシャッター方式を採用した。チョコレートを吸引したピストンは上部に持ち上げられ、その際、ピストン先端部の下部にあるシャッター板が水平方向に移動する。すなわち、ピストンが持ち上げられた瞬間にピストン真下のシャッター板は注入穴の開いている部分がくる。持ち上げられたピストンが充填のために降下してシャッター板の穴部分を通り、チョコレートがベルト上に充填される仕組みとなっている。ピストンが次の充填用にチョコレートを吸引する以前にシャッター板は移動し、シャッター板に掘られた溝の部分(そこをチョコレートが通過している。)がピストンの真下にくるために、ピストンは次の充填用のチョコレートを吸引することになる。シャッター板は甲第一二六号証の二の図面(甲第六五号証の四を複写し、注釈を付記した図面)に表示されている。
第三に、ピストンの垂直方向の動きは、原告機械一五のプレートカム部が水平方向に前後運動することにより動力が伝達される。ピストンの上下運動が正確にしてかつ滑らかな動きをすることが一回当たりの充填量を正確にし、かつ、充填が綺麗に行われるために不可欠である。そこで、ピストンの駆動系統が原告機械一五の重要なノウハウの一つであり、ピストンの上下運動はプレートカム部の水平方向の動きにより動力を伝達されるため、プレートカム部の水平運動が正確、滑らかに行われるよう原告は独自の技術的工夫を施している。すなわち、プレートカム部がむらなく、がたつきがなく、滑らかに動くように、プレートカム部のベアリングを特殊構造としていること、更に、プレートカム部を加工して特殊の溝を設けていることが重要なノウハウである。甲第一二六号証の三はプレートカム部の部分設計図であり、同図に特殊ベアリング及び特殊の溝が表示されている。
第四に、多数のピストン及びシャッター板からなる原告機械一五の充填ヘッド部は、それ自体立体的なボックス運動を行うよう設計されている。すなわち、ベルトの移動に同調して充填ヘッド部自体も移動しながら充填を行い、充填終了と同時にヘッド部は上部に持ち上げられ、充填開始位置に戻る(但し、ヘッド部が戻る間もベルトは移動し続ける。)。これは、充填先のベルトが水平方向に移動していることから、ベルトヘの充填に伴い充填ヘッド部分も水平方向に移動する必要があるためである。そして、充填完了後に充填ヘッド部分はベルト上の手前の方向に後退し、元の位置に戻り次の充填に備えるよう設計されている。このように、充填ヘッド部分については、ベルトの動きに同調しつつ垂直、水平方向に動くように駆動部が設計されており、充填ヘッド部の駆動部は同カム部において特別の技術的工夫が施されている。充填ヘッド部の右運動を調整する駆動カム部は甲第一二六号証の四の図面に表示されている。
イ ノウハウ侵害
被告会社は、昭和六一年に、被告機械一五に関して特許を出願し、その公開特許公報(甲第一一八号証の四)にその出願の内容が示されている(なお、同出願は、特許登録に至らなかった。)。その中には、被告機械一五の内部の略図が記されており、これを原告機械一五と比べたところ、同一又は酷似している。すなわち、甲第一一八号証の五は、同号証の四の公開公報所掲の内部図の第四図と第五図とを拡大したものであり、甲第一一八号証の六は、右第四図に対応する部分の原告機械一五の設計図である。それぞれの対応図を対比すると、この両機は全く同一の構造をしており、例えば、被告会社が特許出願に際し番号を付して名称を示している部分を原告機械一五の設計図で探すと、ほぼ全て同一の場所にこれらの部分を見出し得る(甲第一一八号証の六、七の赤丸の数字)。両機械は、その全ての部分が必然的に一通りの構造にしかなり得ないような種類の機械ではないから、右のような酷似が生じるはずもなく、このように酷似したとすれば、被告会社が原告機械一五の設計図を盗用したからでしかあり得ないのである。
(16) 原告製キスチョコ製造プラント(以下「原告機械一六」という。)と被告製キスチョコ製造プラント(以下「被告機械一六」という。)
ア 原告機械一六の概要及びノウハウ
当プラントは、キスチョコ製造に必要な次の主要機械から構成される。
<1> CMD型キスチョコ・デポジッターないしKCD型
<2> クーリングトンネル
<3> クーリングコンベアー
<4> NAT-三〇〇オートテンパー
すなわち、溶解された原料チョコレートを<4>のオートテンパーで調温加工し、そこから搬送されたチョコレートを<1>のデポジッターによりキスチョコ用に少量小粒大に充填し、充填されたチョコレートを<3>のコンベアーに乗せて、<2>のクーリング装置内で冷却し、最終製品として凝固させるという一連の作業を行うプラントである。
<1>の機械は、原告機械一五と同一の機械である。<2>、<3>の機械は、原告製エンローバープラント(後記原告機械二二)に含まれるクーリングトンネル、クーリングコンベアーと同一である。<4>の機械は原告機械一と同一である。
ノウハウ
右各同一機械のノウハウと同一である。
イ ノウハウ侵害
原告は、被告機械一六の写真、見積図とも入手していないが、被告会社が、被告機械一六をエイコウ製菓株式会社(以下「エイコウ製菓」という。)に納入したのと同時期の昭和五六年、被告会社は被告機械一、被告機械一七をエイコウ製菓に納入しており、右被告各機械が原告機械の対応機種を模倣したことは明らかであること、被告会社が他社に納入した他機種の機械も原告機械の模倣品であることからみて、被告機械一六も同様であることは、疑いを容れないまでに強く推定できることである。
(17) DC二七五デポジッター(以下「原告機械一七」という。)とTMP二七五デポジッター(以下「被告機械一七」という。)
ア 原告機械一七のノウハウ
一次工程で製造されたビターチョコレートを原料として、これに加工を施し最終製品を完成させるのが二次工程である。二次工程は、最終製品の種類に応じて工程が異なるが、大別すると板チョコレートを製造する工程、被膜チョコレート(ビスケット等の芯菓子をチョコレートで被膜した商品)を製造する工程及びその他のチョコレート(例えば、キスチョコ等の小粒チョコレート)を製造する工程に分類できる。
板チョコレートの製造に当たっては、溶解されたビターチョコレートにバター、粉糖等を加えてこれを混合し、レファイナーロールで粒子を微細化し、さらに精練、調温を施して、これをデポジッター本体においてチョコレート・モールド(流込型)に充填し、タッピング工程を経て冷却装置を通過させ、最終的に冷却固化させるという工程をたどる。
原告機械一七は、デポジッター本体であり、チョコレート・モールドに液体のチョコレートを充填する機械である。デポジッター本体により流込型に充填されたチョコレートは、デポジッタープラントに組み込まれ、冷却を施して固化される。デポジッタープラントは別名モールディング・プラントとも称される。デポジッター本体である原告機械一七は、正確には、デポジッタープラントの最初に位置する機械であり、デポジッタープラントそのものを構成する機械ではあるが、説明の便宜上、またデポジッター本体のみを単体として販売することもよく行われるので、プラントと分離して取り扱う。
ノウハウ
チョコレートの充填機を開発するに当たって、解決すべき課題は次の諸点である。
第一に、充填するチョコレートの温度を的確にコントロールしないとチョコレートの結晶状態が不良になる。しかも、充填するチョコレートの種類に応じて保温する温度が異なる。したがって、温度に極めてデリケートなチョコレートの温度調節を種類に応じて十分行える充填機でなければならない(チョコレートの温度調節)。
第二に、チョコレート製品は、その他の菓子と比較して、原料たるチョコレートのグラム単価が格段に高額である。したがって、充填するチョコレートの量が正確無比でなければならない(充填量の正確性の確保)。
第三に、充填するチョコレートの量は、デポジッターを使用するユーザーの需要に応じて対応できるものでなければならない。したがって、充填量を簡単に調節でき、大量のチョコレートを充填し得、かつ充填場所を自由に設定できる装置でなければならない(充填量及び充填場所の設定の自由度の確保)。
第四に、デポジッター本体により充填されたチョコレートを冷却するに当たっては、横振動、冷却処理を施す時間が、チョコレートの種類によって異なる。したがって、後続のデポジッタープラントにおけるコンベヤーの回転速度に連動させてチョコレートを充填する速度を自由に調節できる装置でなければならない(モールドの移動とチョコレート吐出の調和を図る駆動装置)。
第五に、モールド及びプラント機械の汚れを回避する装置でなければならない(充填時の液だれの回避)。
第六に、チョコレートの付着、固化防止である。
第七に、モールドが充填場所にこない場合の無駄な充填が防止できる装置でなければならない(空充填の防止)。
第八に、充填部位の目づまりの防止(原料チョコレート内の異物の除去)である。
原告は、右の各課題につき、次のような創意、工夫をもつて対処した。
第一の的確な温度調節については、チョコレートホッパーのジャケット内の温水は、サーミスターによりコントロールされ、別に設置されたポンプにより強制循環され、ホッパージャケット内の温水温度は常時一定温度を保ち、チョコレートの種類によって自由に温度調整ができるようにした。
第二のチョコレートの充填量の正確性については、一回の充填量を最少五〇グラムがら最多四五〇グラムまで、ハンドル操作で自由に調節できるようにした。更に、モールドの面子の数に応じてピストンリングによりピストンを自由に取外し可能とする、ディスコネクション方式を採用し、充填量の正確性をより確実なものとした(甲第一二七号証の一)。
第三に、チョコレートの充填位置を自由に設定、変更できるようにし、多様な形状の板チョコレートの製造を可能とするため、左右に一八本以上、合計三六本以上のピストンを採用し、一本のピストンからモールド内の数個の面子に分注するノズル・プレート方式を採用し、一枚のモールド内最大七二面子まで均一にチョコレートを充填することを可能にした(一枚のモールドには、製造しようとするチョコレートの種類に応じて多数の面子と呼ばれる穴が作られており、面子の形と大きさが製品の形を決定する。)。これにより、多様なノズルプレートを取り付け脱着することでチョコレート充填位置の自由な設定が可能となった。甲第一二七号証の五、六は二種類のノズルプレートの製作図である。
第四の充填速度の調節については、充填のスピードを自由にコントロールできる装置を開発した。すなわち、チェーンコンベアー上のモールドの移動と原告機械一七のチョコレートの充填とのタイミングを合わせるために、充填の動力装置とベルトコンベアーの動力装置を同一としている。モールドを乗せたチェーンコンベアーは間欠運動を行い、モールド移動中はピストンがチョコレート吸引を行い、モールドがデポジッターの真下に停止した時点でピストンによりチョコレートが充填されるようサイクルを合わせている。
第五に、チョコレートをピストンが充填した際に、液だれすることを防止するため、充填後のピストンにリサンクション機能を持たせる運動を行わせている。すなわち、チョコレートの充填直後にノズルプレート吐出穴に残留するチョコレートが落下して液だれを起こさないように、残留チョコレートをノズルプレート内に引き戻す動きをさせる特殊カムを備えている。チョコレートの吐出完了時点でピストンは一旦すばやく引き戻され、これにより残留チョコレートがノズルプレート内に引き戻される。その直後に、吐出、吸引切替バルブが吸引側に作動され、ホッパー内のチョコレートはピストンがゆっくり引き戻されることにより、ピストン内に吸引される(なお、チョコレートの吸引及び吐出の際のピストンの移動方向、吐出、吸引切替バルブの位置関係については甲第一二七号証の一参照)。すなわち、吐出後のピストンは二段階の引戻り運動によりリサンクション機能が生じる。この二段階の引戻し運動を可能にするために、原告は特殊カムを開発したものであり、特殊カムの設計図が甲第一二七号証の二である。
第六に、チョコレートを原告機械一七に注入するホッパー内に撹拌羽を設置し、撹拌作業によりチョコレートがホッパー内壁に付着して固化することを防止している。原告機械一七に注入されるチョコレートはオートテンパーによりテンパリングされたチョコレートであり、結晶化されているため結晶同士が接合しやすい状態にあるので、ホッパー内部に撹拌羽を設置することにしたものである(甲第一二七号証の三)。
第七に、チェーンコンベアー上のモールドにチョコレートが充填されるに当たり、チェーンコンベアー上にモールドがこない場合の空充填を防止するため、モールドが充填部位の下方に存在するかどうかを常時検出、感知する装置を設定し、モールドを感知できない場合には充填をストップする機能を持たせた(甲第一二七号証の四)。
第八に、ホッパー上部にバイブレータースクリーンを取り付け、これによりテンパリング後のチョコレート中、かたまりの状態にあるものを除去し、ノズルプレートの目づまりを防止した(甲第一二七号証の七)。
以上のほか、モールドにチョコレートを充填する際に、充填されるチョコレートの切れを良くするために押上げ装置を取り付けたこともノウハウの一つである。
イ 設計図に化体されたノウハウの侵害を裏付ける事実
甲第八号証の一三は原告機械一七の写真であり、甲第六七号証の二は原告機械一八に組み込まれた原告機械一七の写真である。他方、甲第七号証の二八、二九、甲第六七号証の三は被告機械一七の写真である。また、甲第六七号証の四は原告機械一七の見積図である。
右原告機械一七の写真、見積図と被告機械一七の写真とを対比すると、両機械が極めてよく似ており、被告会社が原告機械一七の設計図を模倣したことが強く推定される。
被告会社は、昭和五六年三月に、エイコウ製菓に対し、被告機械一七を含むデポジッタープラント(被告機械一八)の見積りを提出し、同年九月にこれを納入している。昭和五六年三月は、被告中宿が被告会社に入社してわずか九か月後であり、その他の多くの機種の製造、販売を営むなかで、被告会社が高度の技術を必要とするデポジッタープラントの開発を独自に行えるはずがない。
(18) DC二七五デポジッター・プラント(標準型)(以下「原告機械一八」という。)とTMP二七五デポジッター・プラント(標準型)(以下「被告機械一八」という。)
ア 原告機械一八の概要及びノウハウ
原告機械一八は、チョコレートの二次工程において板チョコレートを製造する目的でモールドにチョコレートを充填し、これを冷却するプラントである。すなわち、デポジッターによってモールド(流込型)に充填されたチョコレートは、モールドと一体となってデポジッタープラントの冷却装置により冷却固化され、その後、モールドから取り出され(型抜き)、最終製品としてアルミ箔等の包装資材で包装するために包装機械へ搬送されるのである。
モールドからのチョコレートの型抜きは、手動により行われる場合と、デイモルダーと呼ばれる自動型抜き機により行われる場合とがあり、顧客のニーズによって二種類のプラントが選別される。
全自動による無人化を推し進めるという観点からすれば、ディモルダーが含まれるデポジッタープラントが新型のデポジッタープラントとして位置づけられる。しかしながら、ディモルダーを含まないデポジッタープラントでも、かなりの程度機械化による生産の合理化を達成することができ、ディモルダーを含まないデポジッタープラント(説明の便宜上「標準型」と称する。)を希望する顧客も少なくない。
ディモルダー付きのデポジッタープラントにおいては、チョコレートを冷却するクーリング装置につき、その設置スペースをより小さくすることを可能にした新型の竪型クーラーが含まれている。この点でも、標準型プラントと新型プラントとは異なる。
標準型プラントは、既に述べた<1>デポジッター本体のほか、次の機械から構成されている。
<2> モールド自動供給装置(別名コージネーター)
<3> 横振動装置
<4> チェーンコンベアー及びタッピングマシーン
<5> 平型クーリングトンネル及びクーリングコンベアー
<6> リターンコンベアー及びモールド加熱装置
<2>のモールド自動供給装置は、デポジッター本体に間断なく空のモールドを供給し、これにデポジッター本体によりチョコレートを充填させる機械である。<1>のデポジッター本体によりモールドに充填されたチョコレートは、<3>の横振動装置によって水平方向に揺さぶられる。チョコレートの種類によっては、モールドに加えるべき振動の強度と量が大きい場合があり、その際、タッピングマシーンによる振動だけでは不十分なことがある。そこで、これを補充するために開発されたのが、横振動装置である。更に、チョコレートは、<4>のチェーンコンベアーに乗せられ、間歇移動しながら垂直方向にタッピング(揺さぶり)される。これらの振動装置でモールドに振動を加える目的は、充填されたチョコレートをモールドの面子の隅々まで行き渡らせ、固形化されたチョコレートの形状を美しくし、また、チョコレート内の空気を脱泡し、品質を向上させることにある。
振動装置を通過したチョコレート入りモールドは、次に<5>のクーリングコンベアーに乗せられてクーリングトンネル内へ運ばれ、ここで徐々に冷却される。溶解された液状のチョコレートを<5>の冷却装置で冷却固化するのである。
原告機械一八では、冷却固化されたチョコレート入りモールドの型抜きは手動により行われるが、型抜きの終わった空のモールドは、<6>のリターンコンベアーに乗せられて、<2>のモールド自動供給装置に返却される。<6>は空のモールドを加熱する機能も果たす。クーリング装置を経て冷却されたモールドの温度をデポジッターでのチョコレート充填用に再度加熱するのである。
ノウハウ
第一に、チェーンコンベアー上の正確な位置にモールドを置いてデポジッターに供給するため、位置止め用アタッチがチェーン上に一定間隔で存在する。しかしながら、モールドは型抜きが手作業で行われるため、リターンコンベアー上を一定間隔では戻ってこず、そのため、一定ピッチの位置止め用アタッチに接触せずにモールドをチェーン上に供給することは、タイミング的に極めて難しい。この問題を解決するために、原告は<2>のモールド自動供給装置に二か所のエアーシリンダーによるストッパー装置を付け、間歇運動するチェーンとタイミングを同調して供給することに成功した。
第二に、<3>の横振動装置は、設置スペースを可能な限り最小にしながら、十分な振動を加えることが可能なように、世界に先駆けて原告が独自に開発した機械であり、その着想及び機械の構造の全てが原告のノウハウである。原告機械一八のもっとも重要なノウハウの一つは、モールドを乗せて移動するコンベアーの進行方向に対し、水平前後方向に振動を与える動きを可能とする駆動装置の開発にあった。この点、原告機械一八は偏心カム(円盤の回転軸部を正円の中心点からずらし、偏心点を中心に楕円運動を行わせるカム)を採用した。すなわち、偏心カムの回転運動に伴い、カムに接続する軸(シャフト)が水平前後方向に繰り返し運動する。軸(シャフト)の二か所にアームが取り付けられ、アームを通じチョコレートが充填されたモールドは水平前後方向に振動を加えられる。右ノウハウについては、甲第一二八号証の一の図面に示されている。
第三に、<4>のタッピングマシーンでは、垂直方向の上下運動を与える駆動装置の開発が最大のノウハウの一つである。この点、偏心軸の回転により、これと接続するクランク・アームがピストン部分を上下させることとした。上下運動するピストンにはテーブルが固定装着されており、テーブル上のモールドは上下に振動する仕組みとなっている。右ノウハウについては、甲第一二八号証の二の図面に示されている。
第四に、チェーンコンベアーの回転数、デポジッター本体によるチョコレート充填の速度に応じて調整させ、両機の連動をスムーズにすること、チェーンコンベアー上のモールドを振動させる強度を的確に調節できるようにすることが主要な技術的課題であり、原告は、粘度の異なるチョコレートに応じてモールドの強度を自在に調整できるよう、<4>の機械を、プラントメーカーとしての長年の経験を基に開発した。
第五に、<5>のクーリング装置は、チョコレートの種類に応じて、冷却時間、冷却温度、冷却のための送風の強度と温度等を自由に変更できるように工夫されている。チョコレートの種類によつて、冷却固化により安定結晶が得られる条件が異なるからである。そのために必要な温度、湿度を維持させる本機の設計には、特殊な計算を施す必要がある。原告機械一八の平型クーリングトンネルにおいては、まず、冷却器を通過した冷気を送風するに当たり、モールドの上面からも下面からも冷風がモールドに吹き付けられるよう冷気の循環通路を設定している。モールドに対し一方向から冷風を吹き付けることに比して、冷却効率が高まることを目的とするものである。次に、クーリングトンネル内を数個の部屋に区分仕切りし、各部屋毎に冷却器、送風装置を設置した。各部屋毎に冷却のための冷風温度は異なるよう温度調整が可能となっている。これは、最適な冷却温度カーブに沿ってチョコレートが徐々に冷却できるように工夫したものである。右ノウハウは、甲第一二八号証の三の図面からも明らかである。
第六に、<6>のリターン・コンベアー及びモールド加熱装置は、クーリング装置を経て冷却され、型抜きの終了した空モールドを適温に加熱し、保温することが要請される。チョコレートは種類に応じて冷却固化に要する温度条件が異なるから、当機でモールドを加熱する際の温度も自由に調整できなければならない。原告は、モールドの加熱温度及び加熱方法につき独自の研究を行い、そのうえで、温度コントロール装置及び温風循環装置を完成させ、当機に組み入れている。モールドの温度管理自体を加熱装置により行うという着想自体が原告機械一八のノウハウであり、加熱に当たり温風を吹き付け徐々に暖める方法を採用したこと、かつ、吹きつけられた温風がモールドの上面から吹き付けられることがいずれもノウハウである。右ノウハウを説明する図面が加熱部分図(甲第一二八号証の四)である。
イ ノウハウ侵害
<1> 甲第六八号証の二(デポジッター本体、チェーンコンベアー、横振動装置、プラント操作盤の写真)
<2> 甲第六八号証の三(横振動装置の写真)
<3> 甲第六八号証の四(リターンコンベアー及びモールド加熱装置の写真)
<4> 甲第六八号証の七(チェーンコンベアー及びタッピングマシーンの見積図)
<5> 甲第六八号証の八(横振動装置の見積図)
<6> 甲第六八号証の九(モールド自動供給装置の見積図)
<7> 甲第六八号証の一〇(リターンコンベアー及びモールド加熱装置の見積図)
被告機械一八の写真は次のとおりである。
<1> 甲第六八号証の五(デポジッター本体、チェーンコンベアー、横振動装置、プラント操作盤の写真)
<2> 甲第六八号証の六(リターンコンベアー及びモールド加熱装置の写真)
(19) DC二七五デポジッター・プラント(新型)(以下「原告機械一九」という。)とTMP二七五デポジッター・プラント(新型)(以下「被告機械一九」という。)
ア 原告機械一九の概要及びノウハウ
原告機械一九は、標準型デポジッター・プラントにディモルダーを導入し、更に、クーリング装置として改良型の竪型クーラーを用いているのが主要な特徴である。
竪型クーラーとは、モールドに充填されたチョコレートを冷却固化する新型の冷却装置である。標準型プラントに設置されている冷却装置は、平型のクーリングトンネルであり、トンネルの長さが三〇メートルにも及ぶ巨大な機械であった。設置場所に制限のある顧客のもとでは、クーリングトンネルの導入が困難であることから、より小規模の冷却装置で、かつ冷却できるチョコレートの量をできるだけ大量にする機械として開発されたのが、竪型クーラーである。本機は、長さが六メートルという、それまでの業界の常識を打破する極めてコンパクトな機械でありながら、六〇〇枚ものモールドを収納して冷却することができるという画期的な機械である。原告は当機の開発に実に一一年の歳月を費やした。
ディモルダー(自動型抜き機)は、竪型クーラーで冷却固化されたチョコレートを、モールドから取り出す作業を無人化で行う機械である。従来、モールドからチョコレートを取り出す作業は手作業で行われていたのを完全自動化し、人員の削減、高能率、生産性の向上に寄与した画期的機械と評されている。
ディモルダーの行う作業は次のとおりである。
<1> 竪型クーラーから連続的に搬出されるモールドをタイミングコンベアーにより間歇運動するコンベアーに乗せる。
<2> 次に、スタッカー装置で取り板をモールド上部に自動供給し、取り板をモールドに被せる。
<3> 第一反転装置により、モールドは取り板ごと反転し、モールドの底が上を向き、反転前に上に被さっていた取り板が反転により一番底にくる。
<4> ツイスト(捻転)装置により、モールドは取り板と一緒にツイストされ、モールドからチョコレートが剥離しやすい状態になる。
<5> <3>によって反転したモールドを、必要数強打し、衝撃を与えてチョコレートをモールドから型抜きする(ハンマーによる強打の数及びその衝撃力は自由に調節できる。)。モールドから剥離されたチョコレートは、取り板の上に落下する。
<6> 取り板に落下したチョコレートは、整列装置により取り板上に整列され、搬送コンベアーにより包装機のもとに送られる。一方、ハンマーの強打でチョコレートが型抜けした空のモールドは、更に、第二反転装置で再反転され、正常な姿に戻り、リターンコンベアーに乗せられ、加熱されながらモールド自動供給装置に転送される。
ノウハウ
<1> 竪型クーラーは、機械の設置スペースを激減させるもので、それを可能にした構造そのものが原告の創意と工夫によるものである。すなわち、毎分二〇枚ないし三〇枚のスピードでチョコレートを充填され送り込まれてくるモールドを一まとめとしてクーラー内部のエレベーターの上に乗せ、そのエレベーターを徐々に上下運動させ、冷却に必要な時間、右一まとめにしたモールドをゆっくりクーラー内部で巡転させるという構造は、世界でも類例をみない独自の構造である。
このように、冷却機械内のモールドの移動につき、立体運動をさせる機構を設計したこと自体が第一のノウハウである。すなわち、原告機械一九においては、一段に八個ないし一二個のモールドを乗せたレールを標準で二五段積み重ねており、原告機械一九に搬送されたモールドは、まず、最下段のレールに乗せられ、これが順次上方に持ち上げられ、最上部においてモールドは前方のレールに押し出され、乗り移ったレールが順次下方に押し下げられ、最下部においてモールドはコンベアーに乗せられ、原告機械一九の搬出口から搬送される仕組みとなっている。このシステムは甲第一二九号証の一の図面により明らかである。
次に、モールドを乗せたレールを順次上昇、下降させるレール駆動装置がノウハウであり、甲第一二九号証の二に表示されている。
更に、クーラー内部を循環させる冷風をいかにコントロールするかが技術的課題であった。原告は、冷風の循環装置の開発に当たり、当初独自の計算と設計を試みたが、竪型の装置内での冷風の循環は極めて計算が困難であり、風の計算について専門的にコンサルタント業務を行っている会社に多額の費用を支払って計算させたという開発経緯を持つ。原告は竪型クーラーの開発に昭和三八年に着手し、現在機を完成させたのは昭和四九年であるというのはこのような高度のノウハウを開発しなければならなかったからである。原告機械一九の内部は、冷却器により冷却された冷気を循環させることにより上下運動するチョコレートモールドを冷却するものである。冷風の循環方法自体が適切な冷却工程に合致するものでなければならず、送風ファンの取付位置や送風通路の設定の仕方にノウハウが表れている。送風装置は甲第一二九号証の三に表示されている。
また、竪型クーラー内部の冷風機(ファン)は、その起動時に多量の起動電力が流れ、モーターに負荷を与えるためモーター用の安全装置を設置しているが、安全装置が作動してクーラーのモーターが停止した万一の場合に備えて、この停止を外部から直ちに探知できるように特殊の安全装置としてサーマル盤を開発していることも特筆すべきノウハウの一つである。
<2> ディモルダーは、極めて複雑な型抜き作業を行う機械であり、モールドにスタッカーなる取り板を被せる装置、モールドを反転させる装置(第一反転)、ハンマーでモールドを叩いてモールドからチョコレートを落下させ、空になったモールドを反転させる装置(第二反転)のいずれもが、それ自体高度で複雑なギヤーの開発を必要とする。
すなわち、第一に、何十枚も積み重ねられた取り板を最下方から一枚ずつ取り出して落下させる装置部分(スタッカー)が原告機械一九の第一のノウハウである。この部分は甲第一二九号証の四に表示されている。
第二に、第一反転を行う装置の構造、機構自体も原告が独自に開発、考案したノウハウである。
第三に、第一反転したモールドをハンマーで叩く装置は、ハンマーの構造自体が重要なノウハウであり、甲第一二九号証の五に表示されている。
第四に、抜き取り後の空モールドを再度反転させる第二反転装置は、右第一反転装置と異なる動きを必要とすることから、この部分自体も独立の重要なノウハウである。すなわち、型抜きによりモールドから下に落下したチョコレートと接触しないように空モールドの第二反転運動を行う必要があるために、型抜き後のモールドは特殊カムによって一旦上方に持ち上げられたうえで第二反転させることになる。この動きを可能とする特殊カム及び駆動装置を原告は独自に開発したものである。右持上げ運動を行うための特殊カムは甲第一二九号証の六に表示されており、モールド反転用駆動装置は甲第一二九号証の七に表示されている。右に述べた第一反転、スタッカー、ハンマー、第二反転の各装置の位置関係については、甲第六九号証の三の図面に特定されている。
第五に、各装置は、的確に連動する必要があるから、これらのギヤーの計算は、高度に専門的な技術力を要する。原告は、ギヤー部分の計算につき、当時原告の技術顧問を依頼していた東京工業大学の機械科の教授から指導を受け、これを完成させることができた。原告は、昭和三八年に当機の開発に着手し、昭和五三年までかかってようやく現在機を完成させたのである。
第六に、ディモルダーにより空になったモールドをリターンコンベアーで返却するについて、その返却のタイミングを調節することも重要なノウハウである。
イ ノウハウ侵害
両機械のうち、竪型クーラーとディモルダーを除くその他の機械についての主張は、前記(18)の主張を援用する。
甲第六九号証の一一は原告機械一九についての見積図であり、乙第一一号証は被告会社の被告機械一九についての見積図である。両図面を比較すると、赤印で囲まれた部分の寸法が〇・五ミリメートルの単位で全く同一であることが判る。
昭和五六年二月は被告中宿が被告会社に就職してからわずか八か月の時期である。被告会社が、この時期に、その他の多数の機種とともに最新型の被告機械一九を独自に開発できたはずがないことは明らかである。それにもかかわらず、被告会社が昭和五六年二月頃に乙第一一号証の詳細寸法入り見積図を提出できたのは、原告機械一九の設計図を模写し、これを縮図して見積図として所持していたからにほかならない。
(20) DS一五〇チョコレート・小型デポジッター本体(以下「原告機械二〇」という。)とTMD一五〇チョコレート・小型デポジッター(以下「被告機械二〇」という。)
ア 原告機械二〇の概要及びノウハウ
原告機械二〇は、小型のチョコレートデポジッター本体であり、チョコレートを充填する機械としての機能は、原告機械一七と同一であるが、充填するチョコレートの量が原告機械一七に比してかなり小規模になっている。
原告は、昭和三三年に当機の開発に着手し、シリンダー部分の改良を経て、昭和三七年に現在機を完成させた。したがって、原告機械二〇は、昭和四五年頃に現在機を完成させた原告機械一七よりも一〇年近く前に完成されているために、原告機械一七に比べると、技術的には遅れている部分がいくつか見受けられる。
しかしながら、昭和三〇年代前半にあっては、チョコレートの充填には手動で行うのが一般的であり、手動による充填では所要時間が長く、かつ充填量が不正確であるために生産性は極めて悪く、本機の登場はチョコレートの充填に著しい生産性の向上をもたらした。
また、現在でも、顧客によっては小規模の充填量のデポジッターを希望する場合があり、当機の商品価値は開発当時と変わりがない。
ノウハウ
当機は、機械によるチョコレートの充填を可能にしたものであり、充填方法としてはピストン方式を採用している。この方式は、原告機械一七の充填方式と基本的に同一であって、ピストン方式を可能にするために種々の技術的工夫を凝らしている。
第一に、充填量を定量にし、かつ自由にその量を調節できるようにした調節装置の開発は重要である。すなわち、ピストンによる吸引、吐出を切替えバルブによって行うよう設計されており、ピストンがチョコレートを吐き出すに際しては、数個の吐出口を設置することにより、一度に多くの充填を可能とする機構にしている。かつ、各吐出口から押し出されるチョコレート量が均一になるように、各吐出口にはチョコレート量調節コックが取り付けられている。これについては、甲第一三〇号証の一の図面に表示されている。
第二に、充填用チョコレートが投入されるホッパー内にチョコレートの撹拌羽を取り付けており、これにより充填されるチョコレートがぼたついたり、結晶同士が付着することを防止している(甲第一三〇号証の二)。
第三に、ピストンの運動量によりチョコレートの充填量が決定されるところ、ピストンのストロークの大きさを自由に調節できる部品(ピストンストローク調節金具)を取り付けている(甲第一三〇号証の三)。
第四に、ピストン部を温水ジャケット方式で保温し、チョコレートの保温状態を最適にする工夫がされている。
イ ノウハウ侵害
甲第七〇号証の一、同号証の二(カタログ中の写真部分)は原告機械二〇の写真であり、甲第七号証の二六、二七は被告機械二〇の写真である(甲第七〇号証の三は右両写真を対比したものである。)。また、甲第七〇号証の四は原告機械二〇の見積図である。
原告が原告機械二〇の開発に着手した昭和三三年当時、参考にする機械もなく、原告は試行錯誤を繰り返して構想を固め、現在機のスタイルになってからは、内外に見られない外形の機械として自負していたものである。しかるに、右原告機械二〇の写真、見積図と被告機械二〇の写真とを対比すると、その外形、全体構造、ピストン方式の構造、ホッパーやノズル部分の組立てが極めてよく似ていることが明らかである。
(21) OE型エンローバー六〇〇、八〇〇、一〇〇〇、一二〇〇(以下「原告機械二一A」という。)とTSE型エンローバー六〇〇、八〇〇、一〇〇〇、一二〇〇(以下「被告機械二一A」という。)
ア 原告機械二一Aの概要及びノウハウ
一次工程で製造されたビターチョコレートにバターその他の原料を混合し、これを精練したうえで最終製品を製造するのが二次工程である。デポジッタープラントが板チョコレートを製造する二次工程の機械であったのに対し、エンローバープラントはカバーリングチョコレート(被覆チョコレート)を製造する二次工程の機械である。板チョコレートの場合には、モールドという流込型にチョコレートを充填し、これを冷却固化するのであるが、被覆チョコレートでは、ビスケット等の芯菓子に対しチョコレートを被せ、それを冷却固化するという工程をたどる。エンローバー本体は、ビスケット等の芯菓子に対しチョコレートを被覆させる機械であり、被覆されたチョコレートを冷却固化して包装機械まで搬送する一連のラインがエンローバープラントである。
被告会社は、エンローバー本体につきTSE型エンローバーというモデル名を付しているが、これに対応する原告のエンローバーは、OE型、OEP型の二種類のエンローバーからなっているため、原告機械二一においては、これをA、Bの二つに分けて説明する。
OE型エンローバーは、自動調温装置(オートテンパー)を本体内部に内蔵し、更にオーバーテンパーを防止するために釜内に仕切装置を設置している機械である。OEP型は、両機と比較して小規模のエンローバーであり、高級チョコレートによる被覆を想定していないため(代用チョコレート用)、オーバーテンパーを防止する装置を含んでいない。特に、オーバーテンパー防止用の仕切装置が設置されていない点でOE型と機構を異にする。
エンローバーのモデル名に付されている数字は、エンローバーのワイヤーネット(被覆されるビスケットを乗せるネット)の有効幅を示すものであり、数字の大きいエンローバーの方がより大量の芯菓子を一度にカバーリングすることができる。
ノウハウ
<1> 当機は、第一に、横型式の自動テンパリングマシーンを組み込み、被覆に使用されるチョコレートをより最適な条件で保温し、より品質の高い被覆チョコレートの製造を設置スペースを最小限にしながら可能にしている。これは、被覆に使用されるチョコレートが代用油脂分を含まない純チョコレートである場合に必要不可欠な装置であり、テンパリング装置を内蔵させている点が原告機械二一Aのノウハウである。甲第一三一号証の一の図面に内蔵されたテンパリング装置が表示されている。
<2> 第二に、チョコレートタンク内に仕切装置を設けるオーバーフロー方式を開発することによって、かねてからの懸案事項であつたオーバーテンパーの問題を解決することに成功した。
すなわち、被覆に使用されるチョコレートは繰り返し使用される。ワイヤーネット上のビスケットに上からチョコレートを注ぎ、ビスケットにかからなかった余剰チョコレートは、ワイヤーネットを通過して下方のタンクに集積され、これに新たにテンパリングマシーンで調温されたチョコレートが追加され、撹拌されながら循環ポンプにより汲み上げられ、再度被覆に使用される。しかしながら、チョコレートに含まれる油脂成分(カカオバター等)は、繰り返し被覆に使用されると粘度が上昇するという特性をもつており、チョコレートの結晶化が進み、いわゆるぼてつく状態になってしまう。これをオーバーテンパーといい、この状態のチョコレートを被覆に用いると、製品の品質が落ちてしまう。原告が独自に開発したオーバーフロー方式とは、チョコレートタンク内に特殊な仕切装置を付け、オーバーテンパーを防止するものである。一方で、新しい原料チョコレートを間断なく補給しながら、ビスケットにかからずに再度被覆に利用されるチョコレートと混合させ、仕切装置を超えた余剰チョコレートはストレージタンクに戻して、チョコレート温度を上げて結晶を溶かし、再びストレージタンクからエンローバーに供給し、テンパーリング工程を経て新たに被覆チョコレートの原料として利用される。タンク内の特殊仕切板は甲第一三一号証の二の図面に表示されている。
このオーバーテンパー防止用のオーバーフロー方式は、その着想が斬新であり、原告が世界に先駆けて研究開発した貴重なノウハウである。このことは、昭和四八年の外国の代表的製菓機械専門誌「コンフェクショナリー・プロダクション」一九七八年三月号に当機が記事として掲載されたことからも明らかである。
<3> 第三に、タンク内のチョコレートを汲み上げるポンプとして循環用ベーンポンプを設計し採用している。ベーンポンプとは十字に組み合わされた羽根によりチョコレートを巻き上げ、押し上げるものであり、ポンプ作動時にチョコレートの結晶核をできるだけ損わない目的で設計されたものである。チョコレートを押し上げるポンプとしては、SGチョコレートポンプや移動式チョコレートポンプにおいてギヤーポンプ(歯車ポンプ)が採用されているが、これによれば、歯車が咬合して歯車の隙間内のチョコレートが押し出される際に、チョコレート結晶核が壊されるおそれがある。チョコレートを芯菓子に被覆する最終工程たるエンローバー機械において、テンパリング済みのチョコレートの結晶を壊すことは是非とも回避する必要があり、この観点から結晶を壊しにくいベーンポンプを原告機械二一Aでは設計、採用したものである。更に、ベーンポンプの取付位置をタンクの側部に設定したこともノウハウである。これにより、タンク内のチョコレートをチョコレート注入口からポンプ部までの間を撹拌しつつ水平方向前方に押し出すためのタンク内撹拌用リボンスクリューの回転軸とベーンポンプの駆動軸とを同一軸にすることができ、駆動装置を簡略化することが可能となったのである。ベーンポンプは甲第一三一号証の三(循環用ベーンポンプ部分図)に表示されている。
<4> 第四に、芯菓子底部の被覆につきボトミングロール方式を採用している。ワイヤーベルト上順次運ばれてくる芯菓子は、底部と上部の両面からチョコレート被覆を行うが、先に底部被覆が行われる。芯菓子の底部の被覆方式として、原告はボトミングロール方式を考案、採用している。すなわち、ボトミングロールの回転により巻き上げられたチョコレートがスクレーパーにより掻き取られ、掻き取られたチョコレートの上をワイヤーネットに乗って移動してきた芯菓子が通過することにより、芯菓子底部にチョコレートが被覆されるというものである。ボトミングロールの回転により巻き上げられるチョコレートの量を調整する目的で調整板を設置し、ロールと調整板との間隔を調整することにより、芯菓子底部に被覆されるチョコレートの厚さをコントロールしている。ボトミングロール、チョコレート厚さ調整板は甲第一三一号証の四(ボトミング装置図)に表示されている。
<5> 第五に、芯菓子の上面被覆に使用するフローパン部の工夫がある。底部を被覆された芯菓子は、次にフローパンを介して上部から液状チョコレートを掛けられることにより上面が被覆される。フローパン内のチョコレート放出口の直前には撹拌翼が設置されており、フローパン側壁に付着したチョコレートが固化することを防止している。また、フローパン内のチョコレート放出口は二股に分かれており、二か所から液状チョコレートが芯菓子に向けてカーテン状に降り注がれる形態をとっている。これはチョコレートの掛け損じを防止する目的で採用された工夫である(甲第一三一号証の五)。
<6> 第六に、被覆済み芯菓子に対する送風装置、エアチャンバー部の工夫がある。被覆チョコレートの量を定量化し、外観を整える目的で、被覆済みの芯菓子に余分に掛けられたチョコレートをそぎ落とす装置が装着されている。そぎ落としにあたっては、被覆済み芯菓子に対し人工的に風を注ぎかける方式が採用されており、空気を吸引しターボファンにより風を吹き付けている。吹き付けられる風は、その温度と風量を適切に管理、調整する必要があり、送風機内の空気取入れ部であるエアチャンバー部は取入れ空気量を調整できるようになっている。また、エアチャンバーは原告機械二一A内の空気だけでなく、同機械外部の外気をも取り入れる仕組みとなっており、これは機械内部の空気は高温化していることから、機外のより低温の冷気を取り入れることで吹き付ける風の温度を下げることを目的としている。機外からの取入れ外気の量を調節できることにより、送風温度を適切に管理することが可能になるのである。これら送風装置、エアチャンバー部のノウハウについては、甲第一三一号証の六(エアチャンバー部分図)に表示されている。
<7> 第七に、機械内部の各所に温熱ヒーターを設置していることである。被覆用チョコレートは、自然冷却に伴い固化する可能性があり、チョコレート中に固まりができると被覆の障害になってしまうため、機械内部はタンク入口部、タンク出口部、スクレーパー部、ボトムパン部等の随所において、温熱ヒーターが設置され、チョコレートの自然冷却を防止している。甲第一三一号証の四(ボトミング装置図)、甲第一三一号証の七(出口側先端ロール組立図)に各ヒーターが表示されている。
<8> 第八に、ディテリングロールが取り付けられている。被覆を終了し、送風装置により余分なチョコレートをそぎ落とされた芯菓子は、機械のワイヤーベルト上から、次の機械であるクーリングトンネル内のクーリングコンベアーに乗せ替えられる。機械内のワイヤーコンベアの最終位置にはディテリングロールなるロールが設置されている。これは、コンベアの乗換えに際し、被覆された芯菓子の被覆チョコレートの一部が後方に引っ張られることにより、芯菓子にあたかも尻尾状のチョコレートが付着することを回避するための、チョコレート尻尾切りのためのロールである。尻尾切りロールは出口側ワイヤーベルトコンベアーの先端部に設置され、ワイヤーベルトの回転方向と真反対の方向に回転するものであり、これにより芯菓子のチョコレート尻尾はそぎ落とされることになるのである。ディテリングロールは、甲第一三一号証の七(出口側先端ロール部組立図)に表示されている。
イ 設計図に化体されたノウハウの侵害を裏付ける事実
<1> 甲第七一号証の三(OE型一〇〇〇エンローバー本体の写真)
<2> 甲第七一号証の四(OE型一二〇〇エンローバー本体の写真)
<3> 甲第七一号証の五(OE型八〇〇エンローバー本体の写真)
<4> 甲第七一号証の六(OE型八〇〇エンローバー本体の見積図)
<5> 甲第七一号証の七(OE型一〇〇〇エンローバー本体の見積図)
被告機械二一Aの写真は次のとおりである。
<1> 甲第七一号証の八(TSE型八〇〇エンローバーの写真)
<2> 甲第七一号証の九(TSE型一〇〇〇エンローバーの写真)
(22) OEP型エンローバー三〇〇(以下「原告機械二一B」という。)とTSE型エンローバー三〇〇(以下「被告機械二一B」という。)
ア 原告機械二一Bの概要及びノウハウ
前記のとおり、OEP型エンローバーは小規模のエンローバーであり、オートテンパーは内蔵していない。
ノウハウ
第一に、チョコレートの被覆を行うに当たり、芯菓子に適切にチョコレートが被さるように、送風してチョコレートを薄く引き伸ばす送風装置を付けている。送風装置は芯菓子の形状、品質に応じて送風口(ノズル)の高さ及びノズル先端部の開閉口の大きさを自由に調節できるよう工夫されている。この送風装置における工夫はOE型エンローバーにも共通である。また、エアチャンバー部の工夫は前記(21)ア<6>と同様である。
第二に、被覆に用いるチョコレートをタンクから汲み上げるにつき、従来、円盤ドラム方式を採用していたところ、チョコレートに気泡が多量に混入してしまう問題があった。当機では、ポンプによる汲上げ方式を採用してこの点を改良している。この点は、前記(21)ア<3>で述べたのと同様である。ポンプ取出し部分は、いつでも外部からタンク内のチョコレートを取り出せるように取外し可能な構造になっている。
その他のノウハウについては、前記(21)ア<4>、<5>、<7>、<8>と同様である。
イ ノウハウ侵害
原告機械二一Bの写真は甲第八号証の一八、一九(甲第七三号証の一、二も同様)であり、被告機械二一Bの写真は甲第七号証の二四、
二五(甲第七三号証の三も同様)である。
両者を対比すると、両機械が外形、構造ともよく似ていることが明らかである。
甲第七三号証の四はOE六〇〇エンローバーの総組立図である。OE六〇〇エンローバーに含まれる主要な機構は原告機械二一Bと同一であり、特に送風装置及びタンクからのチョコレート汲上げポンプは基本的に同一である。
他方、乙第一〇号証(甲第七三号証の五はその写し)は被告機械二一Bの総組立図である。
右両組立図を比較すると次の重要な事実が明らかである。
第一に、原告総組立図の赤印<1>の部分は、送風ノズルの高さをハンドル形式で自由に調節できる装置であり、原告独自の他に例をみない装置である。被告総組立図の赤印<1>においては、原告の右高さ調節装置がそのまま記載されている。
第二に、原告総組立図の赤印<2>の部分は、送風ノズル先端の開閉口を示す。これも被告総組立図赤印<2>でそのまま採用されている。
第三に、原告総組立図の赤印<3>はタンクからのチョコレート汲上げポンプ部チョコレート取出口であり、自由に取外し可能としているものである。この部分は被告総組立図赤印<3>において模写されている。これらの事実は、被告会社が原告機械二一Bのノウハウを盗用し、原告機械二一Bの設計図をトレースした設計図に基づいて被告機械二一Bを製造した事実を端的に示すものである。
(23) OEエンローバー・プラント(以下「原告機械二二」という。)とTSEエンローバー・プラント(以下「被告機械二二」という。)
ア 原告機械二二の概要及びノウハウ
原告機械二二は、エンローバー本体により被覆されたチョコレートを冷却固化し、包装機械に搬送するプラントである。原告が製造しているエンローバー本体は、いずれも冷却装置等の機械と連動してプラントを構成するものであり、本プラントによって被覆チョコレートの製造は無人化することができ、生産性を飛躍的に高めることを可能にする。
プラントの流れは、エンローバー本体により被覆されたチョコレートがクーリングトンネルに運ばれる。クーリングトンネルでは、チョコレートの種類に応じて適切な温度と冷却速度で被覆チョコレートを徐々に冷却する。冷却固化した被覆チョコレートは、包装機械に運ばれる。
ノウハウ
安定結晶にされたチョコレートは、エンローバー本体で芯菓子に被膜され、送風ファン、振動装置、ディテリングロール(尻尾切りロール)等により被膜チョコレートの厚さを調整される。更に、チョコレートの種類や顧客の希望する生産性に応じて冷却条件が設定され、冷却装置によって冷却固化される。できるだけ短時間で、チョコレートを良質に維持しつつ効率よく冷却し得るエンローバー・プラント用冷却装置を開発するため、原告は試行錯誤を繰り返し、遂に実用新案の登録を行うまでに至った。実用新案登録済みのクーリング装置を完成させるまでに、原告は一〇年以上の研究開発期間を費やしたのである。
原告のクーリング装置のノウハウのうち、主要なものは次のとおりである。
第一に、トンネル内のクーリングコンベアー(製品を乗せてトンネル内を水平方向に動くコンベアー)の上下に独立した二層の冷風通路を設けた。従来のクーリング装置では、冷風がコンベアーの上側から吹き付けられるのみであり、チョコレート製品めがけて上側から吹き付けられた冷風は、チョコレート製品だけでなく、コンベアーベルトによっても冷風カロリーを吸収される。そのため、コンベアーベルトによる冷風カロリーの吸収分をカバーするために過剰冷却を施さざるを得ないという問題があった。
原告は、冷風をコンベアーの上側から吹き付けるだけでなく、下側からも吹き付けるシステムを開発し、過剰冷却を回避することに成功した。加えて、コンベアーベルトの上部、下部をそれぞれ二層に分けて冷風を循環させるという冷風通路を考案し、これによって、より効率のよい冷却を可能にした。
第二に、クーリングトンネル内を循環する冷風の温度が、トンネルの入口部及び出口部においてやや高温となり、トンネル中央部分において低温となるように、流風通路に工夫を凝らし、中央部からトンネル両端の入口、出口部分に向かって冷風が流れる構造を開発した。
トンネル入口部分の冷風の温度がトンネル外部の外気と比べてあまりに低温に過ぎると、チョコレート菓子は冷却され、芯菓子を被膜するチョコレートの外側部分のみが急冷により固化する。しかし、それではチョコレートの内側部分には潜熱が残り、後日チョコレートの成分である砂糖分が分泌して白い粉をふき(これをシュガー・ブルーム現象という。)、チョコレート製品の美観と品質を低下させる原因となる。また、トンネル出口部分の冷風の温度が外気と比べてあまりに低温である場合には、トンネルを出て温度差の大きい外気に触れたチョコレート菓子には水滴が付着してしまい、チョコレート表面の光沢が落ち、品質が低下する。
原告は、冷風の流風通路の構造に改良を加えることにより、これらの難問を解決したのである。
第三に、トンネル内のコンベアーベルトの蛇行を防止するために、駆動部及びトンネル入口下部にベルト・トラッカー(蛇行修正装置)を設置し、ベルトの蛇行を完全に防止している。
原告はクーリングトンネルにつき実用新案の申請をし、登録されている(甲第一三二号証の一)。
なお、各機械を連結し、機械速度を同調させてスムーズなタイミングで連動するよう調整すること自体も重要なノウハウである。
イ ノウハウ侵害
原告機械二二の写真は甲第七四号証の二であり、甲第七一号証の一のカタログにも同様の写真が掲載されている。また、甲第七四号証の三は原告機械二二の見積図である。
原告は、昭和五五年一一月、森永製菓株式会社の依頼で二組のエンローバープラント(A型プラント、B型プラント)の見積りを行った。A型プラントとB型プラントとはエンローバー本体が異なるのみで、その他のプラント機械は全く同一である。森永製菓に対するプラント見積りは被告会社と競合し、被告会社が極端に低額の見積り価格を森永製菓に提示したため、原告はB型プラントのみを受注し、A型プラントは被告会社が受注した。
両プラントの設置場所は同一の工場内であったため、原告の従業員は被告会社の従業員と、同時期に同じ場所でプラント設置作業を行っていた。したがって、原告従業員は、被告会社がA型プラントを設置する工程を現認しており、これによれば被告会社が納入したエンローバー・プラントは原告機械二二と同一であることを確認している。
(24) リック・ファイヤー七五〇(以下「原告機械二三」という。)とLQ七五〇リック・ファイヤー(以下「被告機械二三」という。)
ア 原告機械二三の概要及びノウハウ
ビターチョコレートを溶解し、これに粉糖、粉乳、カカオバター及び各種香料を加えて混合したものが、チョコレートの最終製品の原料となるものであり、これらの原料から最終製品を製造する工程が二次工程と呼ばれる。二次工程において、前記の混合された原料は、その粒子(メッシュ)を微細化するために、レファイナーロールという機械にかけられる。レファイナーロールにより微細化されたサラサラした状態のチョコレート原料をフレークという。原告機械二三は、レファイナーロールに接続し、レファイナーロールから連続的に排出されるチョコレート・フレークを迅速に溶解、液化し、これらをバター、レシチン等のチョコレート原料とミキシングし、ポンプにより次の機械へ圧送する装置である。なお、右本来の目的以外に、チョコレートブロックを溶解すること自体を目的として当機が使用される場合もある。
ノウハウ
チョコレートフレークの溶解を品質を損わずにいかに迅速に効率よく行うかが当機の最大の課題である。すなわち、タンク内のチョコレートは、釜のジャケット内を流れる高温の湯により熱せられた釜の内側に接触することにより溶解する。したがって、タンク内のチョコレートは、湯の回っている二重外壁によく接触するように絶えず交流撹拌されなければならない。
原告は、適正で急速な溶解を可能とするため、タンク内に特殊な構造の撹拌翼を取り付けたが、この撹拌翼は極めて破損しやすく、計算、試作に基づき試行錯誤を繰り返し、ようやく最適な撹拌翼を完成させた。
したがって、当機のタンク内部の撹拌翼そのものが重要なノウハウである。撹拌羽の形状、構造を説明したのが甲第一三三号証である。
イ ノウハウ侵害
甲第八号証の一一が原告機械二三の写真であり、甲第七号証の一五が被告機械二三の写真である(両写真を対比的に示したのが甲第七五号証の一である。)。また、原告機械二三の見積図が甲第七五号証の三である。両写真を対比すると、その外形はよく似ている。
被告機械二三を被告が独自に開発するとすれば、少なくとも三か月ないし六か月を要するはずであるが、被告会社は昭和五八年三月までには被告機械二三を製造している。被告会社が昭和五八年末までに、本件対象機種の殆どを原告機械の設計図を盗用して製造している事実と右両機械の類似性を併せ考えれば、被告会社が被告機械二三についても原告機械二三の設計図を盗用して製造したとの事実が強く推定される。
(25) 原告製粉フルイ機(以下「原告機械二四」という。)と被告製粉フルイ機(以下「被告機械二四」という。)
ア 原告機械二四の概要及びノウハウ
原告機械二四は、ミキサー等の高所に小麦粉等の粉体を投入する機械であり、本件対象機械の中では、唯一チョコレート製造用機械ではない。昭和四〇年に開発された当機は、高所に粉体を投入するのに、投入する人がわざわざ高所に上らなくてもよいため、パン製造業者等のメーカーにおいて大変好評を博した。
ノウハウ
当機は、粉体の投入口たるホッパーの位置を低くし、他方で、粉体がフルイにかけられて投入される位置をできるだけ高い位置にしている。そのために、ホッパーの底部に回転翼(プロペラ)をつけ、投入された粉体を垂直スクリューで高所まで搬送し、スクリュー上部のフルイ装置で粉体をフルイにかけ、同粉体を目的機に投入するというシステムを採っており、この着想及びこれを可能にする機構(フルイ作業を行うスクリーン部を高所に設置する機構)そのものがノウハウである(甲第一三四号証)。
イ ノウハウ侵害
甲第七六号証の一は原告機械二四のカタログであり、同機械の写真が掲載されている。甲第七号証の二〇(甲第七六号証の二も同様)は被告機械二四の写真である。両写真によれば、両機械の外形はよく似ている。
3 被告らの不法行為2(著作権侵害)
設計図は、思想を創作的に表現したものであって、学術の範囲に属するものであるから、著作物として著作権法の保護の対象になり、これを複写する行為は原告の著作権を侵害するものである。
(一) 著作物の特定
原告が本件において主張するのは、原告機械の設計図の著作権であり、その著作物は次のとおりである。
(1) 原告機械一に関する著作物
甲第一号証の一ないし五〇の設計図の全てが原告機械一に関する著作物である。
(2) 原告機械二に関する著作物
甲第四一号証の一ないし一四の設計図の全てが原告機械二に関する著作物である。
(3) 原告機械三に関する著作物
甲第四一号証の一ないし一四及び甲第九一号証の一、二が原告機械三に関する著作物である。
原告は原告機械三を製造、販売したことがない。しかし、原告機械三は原告機械二、四とチョコレート処理能力を異にするだけで、機構、構造は全く同一であって、チョコレート処理能力に応じて右二つの機械のシリンダー(冷却筒)部、スクリュー部の寸法を一部変更するに過ぎない。したがって、原告機械二、四についての右各設計図を原告機械三に関する著作物と言うことができる。
(4) 原告機械四に関する著作物
甲第九一号証の一、二はそれぞれ原告機械四の重要な部分であるシリンダー(冷却筒)部、スクリュー部の設計図であり、右二つの部分を含む原告機械四の製造に必要な設計図の一式が原告機械四に関する著作物である。
(5) 原告機械五に関する著作物
甲第二号証の一ないし一八が原告機械五に関する著作物である。
(6) 原告機械六に関する著作物
甲第九二号証の一は原告機械六の重要部分である駆動軸部及びポンプ部組立図であり、甲第九二号証の二はタンク組立図である。右二つの部分設計図を含む原告機械六の製造に必要な設計図の一式が原告機械六に関する著作物である。
(7) 原告機械七に関する著作物
甲第三号証の一ないし八五が原告機械七に関する著作物である。
(8) 原告機械八に関する著作物
甲第九三号証は原告機械八の重要部分であるギアー及びケーシング部設計図である。これを含む原告機械八の製造に必要な設計図の一式が原告機械八に関する著作物である。
(9) 原告機械九に関する著作物
甲第四号証の一ないし一九が原告機械九に関する著作物である。
(10) 原告機械一〇に関する著作物
甲第五号証の一ないし一七が原告機械一〇に関する著作物である。
(11) 原告機械一一に関する著作物
甲第九四号証は原告機械一一の重要部分であるスクリーン部の設計図である。これを含む原告機械一一の製造に必要な設計図の一式が原告機械一に関する著作物である。
(12) 原告機械一二に関する著作物
ア 甲第六号証の一ないし二二が原告機械一二のうちのST型ストレージタンク五〇〇に関する著作物である。
イ 甲第九五号証の一、二はそれぞれ原告機械一二のうちのST型ストレージタンク一〇〇〇についての釜部設計図、撹拌翼部設計図である。これらを含む同機械の製造に必要な設計図一式が同機械に関する著作物である。
ウ 甲第九五号証の三、四はそれぞれ原告機械一二のうちのST型ストレージタンク二〇〇〇についての釜部設計図、撹拌翼部設計図である。これらを含む同機械の製造に必要な設計図一式が同機械に関する著作物である。
エ 甲第九五号証の五は原告機械一二のうちのST型ストレージタンク三〇〇〇についての撹拌翼部設計図である。これを含む同機械の製造に必要な設計図一式が同機械に関する著作物である。
オ 原告機械一二のうちST型ストレージタンク一六〇〇については原告はこれまで製造、販売したことはない。しかし、同機械はST型ストレージタンク一〇〇〇、二〇〇〇とチョコレート貯蔵容量を異にするだけであり、右ST型ストレージタンク一〇〇〇、二〇〇〇の設計図を基にST型ストレージタンク一六〇〇を製造することは容易である。したがって、甲第九五号証の一ないし四を含むST型ストレージタンク一〇〇〇、二〇〇〇の設計図をST型ストレージタンク一六〇〇に関する著作物として主張する。
(13) 原告機械一三に関する著作物
甲第六三号証の五は原告機械一三の重要部分であるピンギヤー部のかみあわせ部設計図である。これを含む原告機械一三の製造に必要な設計図一式が原告機械一三に関する著作物である。
(14) 原告機械一四に関する著作物
甲第二六号証の一の二は原告機械一四のフィルター部分の設計図であり、甲第九六号証は原告機械一四の総組立設計図である。これらを含む原告機械一四の製造に必要な設計図一式が原告機械一四に関する著作物である。
(15) 原告機械一五に関する著作物
甲第六五号証の四は原告機械一五の基本設計図である。また、甲第九七号証の一、二はそれぞれ原告機械一五のヘッド部設計図、ヘッド上下シャフト部設計図である。これらを含む原告機械一五の製造に必要な設計図一式が原告機械一五に関する著作物である。
(16) 原告機械一六に関する著作物
本プラントの構成機械は次のとおりである。
<1> CMD型キスチョコデポジッター(原告機械一五と同一)
<2> クーリングトンネル(原告機械二二中のクーリングトンネルと同一)
<3> クーリングコンベアー(原告機械二二中のクーリングコンベアーと同一)
<4> NAT三〇〇オートテンパー(原告機械一と同一)
甲第九八号証の一はクーリングトンネルを含む本プラント設計図であり、甲第九八号証の二はクーリングコンベアー駆動部組立図である。このうち、甲第九八号証の一の設計図製作日は一九八三年三月となっているが、同図はCAD(コンピューター自動設計装置)により右時期に再製されたものであり、再製前の図面は遅くとも昭和五一年頃までには製作されていた。しかし、同図面はCADによる再製時に廃棄された。右<1>、<4>に関する著作物は原告機械一五、原告機械一と同一である。
よって、甲第六五号証の四、甲第九七号証の一、二、甲第九八号証の一、二及び甲第一号証の一ないし五〇を含む原告機械一六の製造に必要な設計図一式が原告機械一六に関する著作物である。
(17) 原告機械一七に関する著作物
甲第九九号証の一は原告機械一七の総組立設計図であり、甲第九九号証の二は原告機械一七の重要部分であるホッパー部設計図である。これらを含む原告機械一七製造に必要な設計図一式が原告機械一七に関する著作物である。
(18) 原告機械一八に関する著作物
原告機械一八は次の機械から構成される。
<1> DC二七五デポジッター(原告機械一七と同一)
<2> モールド自動供給装置(別名コージネーター)
<3> 横振動装置
<4> チェーンコンベアー及びタッピングマシーン
<5> 平型クーリングトンネル及びクーリングコンベアー
<6> リターンコンベアー及びモールド加熱装置
甲第一〇〇号証の一はコージネーターの総組立図であり、甲第一〇〇号証の二はコージネーターの主要部分である安全装置部設計図である。
甲第一〇〇号証の三は横振動装置の総組立図である。
甲第一〇〇号証の四はチェーンコンベアー及びタッピングマシーン全体図であり、甲第一〇〇号証の五は同機械の主要部であるコンベアーギヤー部である。
甲第一〇〇号証の六は平型クーリングコンベアー駆動部設計図であり、甲第一〇〇号証の七はコンベアーチェーン及びスプロケット設計図であって、いずれも平型クーリングトンネル及びクーリングコンベアーの主要部分の設計図である。
甲第一〇〇号証の八はリターンコンベアーの総組立図であり、甲第一〇〇号証の九はモールド加熱部設計図である。
甲第一〇〇号証の一〇は原告機械一八全体についてのプラント設計図である。
よって、甲第九九号証の一、二(いずれも原告機械一七本体の設計図)及び甲第一〇〇号証の一ないし一〇を含む原告機械一七の製造に必要な設計図一式が原告機械一八に関する著作物である。
(19) 原告機械一九に関する著作物
甲第一〇一号証の一は竪型クーリングトンネル総組立図であり、甲第一〇一号証の二はクーリングコンベアーの主要部分である間歇運動用カム従動車軸部設計図である。
また、甲第六九号証の三は原告機械一九用ディモルダー総組立図であり、甲第一〇一号証の三はディモルダーの主要部分である第一間歇駆動装置部設計図である。
甲第一〇一号証の四は原告機械一九全体についてのプラント設計図である。同図の製作日は一九八四年六月となっているが、同図は同時期に前記CADによって再製されたものであり、再製前の図面は遅くとも昭和五〇年頃までに製作された。しかし、同図面はCADによる再製の際に廃棄された。
よって、甲第一〇一号証の一ないし四及び甲第六九号証の三を含む原告機械一九の製造に必要な設計図一式が原告機械一九に関する著作物である。
(20) 原告機械二〇に関する著作物
甲第一〇二号証の一、二はそれぞれ原告機械二〇の総組立図、同機械の主要部分であるピストン部設計図である。
甲第一〇二号証の一、二を含む原告機械二〇の製造に必要な設計図一式が原告機械二〇に関する著作物である。
(21) 原告機械二一に関する著作物
原告が開発し、製造、販売したエンローバーOE型、OEP型の二機種には、それぞれエンローバーのワイヤーネット(被覆されるビスケット等の芯菓子を乗せるネット)の有効幅の異なる機種があり、この有効幅に応じて三〇〇、六〇〇、八〇〇、一〇〇〇、一二〇〇の数字が原告機械名に付されている。しかし、同一機種である以上、有効幅を異にしても機械の機構、構造は全く同一であり、ワイヤーネットの幅に応じて各部寸法をスケールアップしているに過ぎない。
甲第一〇三号証の一はOE型六〇〇エンローバーの総組立図であり、甲第一〇三号証の二は同機の主要部分である出口側先端ロール部組立図である。
甲第一〇三号証の三はOE型八〇〇エンローバーの主要部分である出口側先端ロール部組立図である。
甲第一〇三号証の四はOE型一〇〇〇エンローバーの主要部分である循環ポンプ軸逆転用歯車軸部設計図である。
甲第一〇三号証の五はOE型一二〇〇エンローバーの主要部分である入口側及び出口側尖端ロール部設計図である。
よって、甲第一〇三号証の一ないし五を含む原告機械二一Aの製造に必要な設計図一式が原告機械二一Aに関する著作物である。
甲第一〇三号証の六は原告機械二一Bの総組立図であり、甲第一〇三号証の七は同機の主要部分であるボットミングロール部組立図である。
よって、甲第一〇三号証の六、七を含む原告機械二一Bの製造に必要な設計図一式が原告機械二一Bに関する著作物である。
(22) 原告機械二二に関する著作物
原告機械二二はエンローバー本体により被覆されたチョコレートを冷却固化し、包装機械に搬送するプラントであり、製品供給コンベアー、エンローバー本体及びクーリングトンネル、クーリングコンベアーから構成される。
クーリングトンネル、クーリングコンベアーは原告機械一六にも使用されており、前記甲第九八号証の二は原告機械二二の最重要機械であるクーリングコンベアー駆動部組立図である。甲第一〇三号証の一ないし七はエンローバー本体の設計図である。甲第一〇四号証は原告機械二二全体についてのプラント設計図である。
よつて、甲第九八号証の二、甲第一〇三号証の一ないし七及び甲第一〇四号証を含む原告機械二二の製造に必要な設計図一式が原告機械二二に関する著作物である。
(23) 原告機械二三に関する著作物
甲第一〇五号証は原告機械二三の総組立図である。
甲第一〇五号証を含む原告機械二三の製造に必要な設計図一式が原告機械二三に関する著作物である。
(24) 原告機械二四に関する著作物
甲第一〇六号証の一は原告機械二四の主要部分であるスクリーン部設計図であり、甲第一〇六号証の二は同スクリュー部設計図である。
これらを含む原告機械二四の製造に必要な設計図一式が原告機械二四に関する著作物である。
(二) 著作権の帰属
右原告機械の各設計図の著作権は原告に帰属するものであり、これを作成した原告の従業員個人に帰属するものではない。
原告機械の設計図は、原告会社の発意に基づいて作成され、原告の名において公表されるべきものであって、原告が開発した機械についてのノウハウ、著作権を含む知的財産権は全て原告が有する貴重な至宝として原告に蓄積されていると言えるのである。
(三) 被告らの著作権侵害行為
被告中宿は、原告を退職する昭和五五年五月の直前に前記(一)の原告機械の設計図を原告に無断で複製した。被告会社は、右事実を熟知のうえ、原告退職直後に被告中宿を雇用し、それまで全くチョコレート機械の製造はおろか開発さえ行ったことがないのに、被告中宿が複製した原告機械の設計図を更に複製し、又は変形、翻案し、開発コストを全く省略して原告機械と酷似する被告機械を製造、販売した。
原告機械と被告機械双方の設計図対比は、原告機械一、二、五、七、九、一〇、一二については、既に前記2(被告らの不法行為1(ノウハウ侵害))(三)(1)、(2)、(5)、(7)、(9)、(10)、(12)で主張したとおりである。残り一七機種については設計図対比作業が行れていないが、これは前記2(二)(1)イ、2(二)(2)イに述べたとおり、設計図の対比を行わなくとも複製の事実が推定される。
被告会社による被告機械の製造、販売は、右設計図の不法な複写行為があって初めて可能になったのであるから、右製造、販売行為及びこれによって発生した原告の損害と右複写行為との間には相当因果関係が存在する。
被告らの右行為は、原告が原告機械の設計図について有する複製権等を侵害する違法な行為であり、共同不法行為であるから、被告らは原告に発生した損害の賠償義務を負う。
(四) ノウハウ侵害と著作権侵害の各請求原因の関係
右二つの請求原因の関係は、各不法行為から生じる損害の重なり合う限度で選択的関係である。
4 損害
(一) 被告会社の被告機械販売による利益額に基づく損害の主張
原告が製造するチョコレート製造用機械は、機械製造のノウハウ取得の困難さ、その製造コスト等から、被告会社が製造、販売を始めるまでは、原告が我が国でほぼ一〇〇パーセントのシェアーを有していたし、現在においてもこの種の機械を製造、販売しているのは原告、被告会社の二社しかいない。したがって、被告会社が盗取設計図を使用して原告機械のコピーである被告機械を一台製造、販売するごとに原告の対応する機械が一台売れなくなるという関係にある。よって、被告会社が右被告機械を製造、販売することによって失われた原告の利益こそが原告の損害である。
被告が右のようにして製造、販売した被告機械は別紙販売機械一覧表のとおりであり、その売上額の合計は五億六三四〇万七〇〇〇円である。
原告の営業利益率は売上高の一五パーセントを下らないから、原告が右被告機械の販売によって被った損害額は八〇四五万一〇五〇円を下らない。
また、著作権侵害による損害については、著作権法一一四条により、被告の受けた利益が原告の損害とみなされる。
(二) 被告会社の売上高に基づく損害の主張
ア 被告会社の昭和五三年から昭和六三年までの全売上高の推移は次のとおりである。
昭和五三年九月決算 四億五七〇〇万円
昭和五四年九月決算 五億五八〇〇万円
昭和五五年九月決算 六億円
昭和五六年九月決算 七億二六〇〇万円
昭和五七年九月決算 一二億一四二〇万円
昭和五八年九月決算 一七億五〇〇〇万円
昭和五九年三月決算 五億六〇〇〇万円(決算期変更)
昭和六〇年三月決算 一二億円
昭和六一年三月決算 一三億五一〇〇万円
昭和六二年三月決算 一三億二〇〇〇万円
昭和六三年三月決算 一一億一五〇〇万円
この金額を見ると、被告会社は、昭和五五年五月に被告中宿が入社して以来、売上高の飛躍的な増大を見せており、特に昭和五七年、昭和五八年は、その前年度に比しての増額率が一六七・二パーセント、一四四・一パーセントと想像を絶する率を示している。これはまさに、被告中宿の入社により被告会社がチョコレート製造用機械の製造、販売を開始したからにほかならない。
そこで、この被告会社の売上げを基礎として、このうちのどの範囲が従来から被告会社が営んでいる米菓製造用機械の製造、販売により得たものであり、どの範囲が被告中宿の入社により開始したチョコレート製造用機械の製造、販売により得たものであるかを合理的に推測し、このチョコレート製造用機械の製造、販売による売上高のうちの一五パーセントを原告の逸失利益と主張するものである。以下、その算定方法を述べる。
イ 昭和五六年度から昭和六三年度までの我が国における製菓機械の年間生産高の前年度比の推移は、
昭和五六年 一〇八・九パーセント
昭和五七年 一一一・七パーセント
昭和五八年 一二五・八パーセント
昭和五九年 一一九・一パーセント
昭和六〇年 一〇九・四パーセント
昭和六一年 一〇八・四パーセント
昭和六二年 一一二・二パーセント
昭和六三年 一一七・一パーセント
となっている。この中でも米菓・餅関係機械の製造業界は、昭和四〇年代後半の好況期を過ぎ、昭和五三年ないし昭和六〇年には業界の設備投資も一巡し、同業機械メーカーの乱立、過当競争で売上げも低迷の時代であると言われており、よって米菓、餅関係機械の売上高の増加率は上記のパーセンテージには達していないと考えられる。そこで、被告会社の米菓・餅関係機械の売上高の増加率も、どんなに高く見積もっても、右全機種の合計の増加率には達していないであろうと推定できる。
そこで、被告会社の昭和五五年の決算における売上高たる六億円(被告中宿が被告会社に入社したのが昭和五五年五月であるから、同年九月までの額であるこの金額には、まだチョコレート製造用機械の販売による売上高は殆ど入っていないと考えられる。)を基礎として、それに順次次年度の製菓機械全種の売上高の増加率を乗じて、被告会社における各年度の米菓・餅関係機械のみの売上高の最大値を算出する。そして、この金額と被告会社の各決算期における売上高との差額をとれば、それが被告会社におけるチョコレート製造用機械の売上高の最小値となろう(但し、右方法によれば、昭和六二、六三年度については、米菓・餅関係機械の売上高の最大推測値は、その年度の決算における実際の売上高より大きくなってしまっており、チョコレート製造用機械の売上高は計算上マイナスとなるが、そのようなことは現実にはあり得ず、かといって当年度のチョコレート製造用機械の売上高を知るべき他の情報を原告は有していないので、やむなく、その年度におけるチョコレート製造用機械の売上高は零として計算する。)。
以上の方法により、昭和五六年度から昭和六三年度までの被告会社のチョコレート製造用機械の最小売上高を算出したものが別紙売上高算出表であり、その合計は一六億四九二〇万円となる。
ウ 平成元年から平成五年までの売上高
<1> 平成元年から平成四年までの売上高
株式会社帝国データバンクの調査報告書によれば、平成元年から平成四年までの被告会社の総売上高は次のとおりである。
(年度) (売上高)
平成元年 一一億円
平成二年 八億円
平成三年 一〇億円
平成四年 一二億円
右四年間の売上高の合計は四一億円である。
同書によれば、総売上高中チョコレート製造用機械の売上げが占める割合は五〇パーセント内外となっている。そこで、この割合を控え目に見て四〇パーセントとして計算しても、平成元年から平成四年までのチョコレート製造用機械による売上高は一六億四〇〇〇万円となる。
<2> 平成五年の売上高
被告会社の平成五年の売上高を帝国データバンクの「コスモス2」により調べると、一五億円である。これに前記チョコレート製造用機械の占める割合たる四〇パーセントを乗じると六億円となる。
エ そこで、右イ、ウの売上高を合計すると、三八億八九二〇万円となり、昭和五六年度から平成五年度までの被告会社の売上高が三〇億円を下らないことは明らかである。そして、被告会社の売上高の一五パーセントを被告会社の利益と考えると、その利益は四億五〇〇〇万円となるが、本訴においては、一部請求として、二億八四五一万一〇五〇円を請求する。
オ 原告には被告が提出した別紙機種別売上集計表を信じるべき積極的根拠はなく、正式な文書提出命令が発せられ、被告会社の財務諸表等の証拠に基づいて、販売機種、台数、販売先、価格を明らかにすべきである。
5 不当利得返還請求
右4で算出した被告会社のチョコレート製造用機械の製造、販売による利益は、別の見方をすれば、被告会社の不当利得とも見られる。けだし、被告会社は、被告中宿が盗取した原告のチョコレート製造用機械の設計図を、その事情を知りつつ使用して、これらのチョコレート製造用機械の製造、販売をしていたものであるから、それにより被告会社が得た利益は法律上の原因を欠くものと言えるし、これらの機械の原告のシェアーが一〇〇パーセントであったことを考えれば、この金額は同時に原告の損失でもある。したがつて、原告は、右4の金額請求の根拠として不当利得返還請求権をも主張する。
6 よって、原告は、被告会社に対しては、不法行為による損害賠償請求権又は不当利得返還請求権に基づき、被告中宿に対しては、不法行為による損害賠償請求権に基づき、それぞれ金二億八四五一万一〇五〇円及び内金二二九四万六五五〇円については不法行為の後である昭和五八年一二月三〇日から、内金二八〇三万二〇〇〇円については不法行為の後である昭和六〇年七月九日から、内金一億三三五三万二五〇〇円については不法行為の後である平成元年一二月七日から、内金一億円については不法行為の後である平成五年一〇月二三日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 甲事件の請求原因に対する被告らの認否
1 請求原因1(一)の事実中、原告が肩書地においてチョコレート製造用機械を製造、販売する会社であることは認め、そめ余の事実は知らない。
請求原因1(二)の事実は認める。
(被告会社)
請求原因1(三)のうち、被告中宿が被告会社に勤務していること及び被告中宿が原告に勤務していたことは認めるが、被告中宿が原告に雇用された日及び退職の日は知らない。被告中宿が被告会社に入社したのは、昭和五五年五月二一日である。
(被告中宿)
請求原因1(三)のうち、被告中宿が、昭和五五年五月二〇日に退職したとの事実は否認し、その余は認める。但し、当時は職制がなく設計課長と呼称されていたに過ぎない。被告中宿は、昭和五四年一〇月二五日に原告を定年退職し、その後は、昭和五五年五月二〇日まで、嘱託として原告に勤務していたものである。被告中宿が被告会社に入社したのは、昭和五五年五月二一日である。
2(一) 請求原因2(一)(1)の事実は知らない。
請求原因2(一)(2)のうち、原告の就業規則(甲第一六号証)の五一条七号、九号及び一一号に、企業秘密を洩らしたり、持ち出そうとする行為をした場合に、懲戒解雇に処することがある旨規定されていることは認め、その余は否認する。原告機械は、その殆どが外国製の機械を使用していた顧客から同種の機械の注文を受け、その注文に応じるべく外国製機械類を模倣して設計、製造したものであって、原告が独自に開発、考案したものは全くないに等しいのであるから、重要な財産として保護されるべき新規性はないのである。
原告は、機械類を外注し、製造していたので、外注先に設計図を交付しているし、社内の者であれば設計室に自由に出入りできたのであるから、その秘密性については原告が主張するほど厳格なものではなかった。
また、ノウハウの本質は秘密性にあるところ、原告機械の設計図に化体、表象されている技術的成果が秘密性を有しノウハウであるためには、その技術的成果が公知の技術ではなく、かつ、その技術目的、作用・効果、内容を当業者(機械に関与している技術者、専門家あるいは学者等)が合理的に説明できないほどに秘密性を有するものでなければならない。
しかるに、原告の設計図に化体、表象されている技術的成果(原告がノウハウと主張している事項)は、各図面の殆どが外国メーカーの基本的機構、技術内容をそっくり模倣、採用した模写に過ぎず、その基本的技術の殆どが当時の我が国において公知の技術に属し、秘密状態を脱していたものであるし、特に右技術的成果は、原告がそれに基づいて製造した原告機械を販売することにより一般に公開され、秘密状態を脱していたのである。しかも、右技術的成果は、いずれも当業者がその技術目的、作用・効果、内容を合理的に説明できる程度のものである。
したがって、原告機械の設計図に化体、表象されている右技術的成果は、いずれも秘密性がなく、原告のノウハウとは認められない。仮に原告の主張する点がノウハウといえるとしても、右ノウハウは原告のみならず、設計技術者個人も保有し、設計技術者が技術者として評価される所以もここにあるのである。例えば、甲第一一号証のようなサービスマニュアルも被告中宿が作成しているし、同人がノウハウを身につけているからこそできるのである(なお、右マニュアルには月刊誌や専門誌からの引用及び乙第一二号証「理論と実際」一七四頁の転載もみられるので、その全てが原告のノウハウといえるわけではない。)。
請求原因2(一)(3)は否認する。
原告が主張するように、ノウハウが秘密性を有する商業的価値を有する情報であるとしても、原告が主張する技術的工夫がノウハウであるためには、右工夫が秘密性を有する商業的価値を有する情報であることが客観的に証明されていることが必要であるところ、原告は技術的工夫がされていると思われる箇所を挙げるのみで、右箇所が他の同種機械では通常どのようになっているのか、それと比べてどの点が技術的、機能的に優れ、新しく工夫されているのか等についての主張、立証はない。
原告は、設計図対比を終了した七機種を除く一七機種については、もはや設計図対比の必要がないものと考えていると主張するが、右一七機種について原告機械のノウハウ及び対応する被告機械との類似性を主張してみても、少なくとも原告、被告各機械の設計図が対比され、その対比がされない限り、原告の主張は前提手続を欠いた無意味な主張である。
(二) 請求原因2(二)(1)は否認する。
請求原因2(二)(2)アは否認する。同イのうち、甲第七号証の写真集が粉フルイ機を除いて被告会社で製造したチョコレート製造用機械の写真集であること、被告会社が被告機械一九<7>のディモルダーを昭和五七年に中村化成に、TSE六〇〇エンローバープラントを昭和五七年一一月に山崎製パンに納入したこと、被告機械のうち被告機械四、被告機械一六、被告機械二四を除く二一機種が遅くとも昭和五八年一〇月頃までに被告会社で製造、販売されていたことは認め、その余は否認する。この点についての被告らの主張は、後記三8のとおりである。
被告機械の納入先については、原告と多数競合していることは認められる。しかし、これは被告会社が意図的に原告の顧客に販売したためではなく、チョコレート製造用機械の製造業者は、チョコレート菓子製造業者という極めて限られた範囲の者から受注し、製造、販売しているから、被告会社のような後発業者が市場に参入すれば、当然に原告のような先発業者の顧客と競合せざるを得ず、その限度で被告会社の納入先が原告の顧客と多数競合することになったに過ぎないのである。なお、被告会社が顧客の信用を得られたのは、被告会社の製品の品質、納期限の厳守、サービスの迅速性等で原告より優れていることが顧客に歓迎されたからであって、製品が原告と同一のものだからではない。
請求原因2(三)(1)は否認する。被告機械一は、被告中宿が原告を退職後、被告会社にてユーザーの要望で原告機械の修理を依頼され、現地で若干のスケッチをし、また手元にあった資料や原告のカタログ、取扱説明書等をもとに独自に製作図面を作成し、製作したものである。確かによく似てはいるが、同一の物ではない。甲第八五号証の一と甲第八五号証の二とを比較すると、甲第八五号証の二の冷却水管の弁は<1>番ないし<9>番の弁が電磁弁であるが、甲第八五号証の一では、<1>番ないし<4>番の弁が手動弁となっているのであるから、両図面は同一のものではない。原告機械一について、冷却管の電磁弁が開閉され冷却水の量を調整する装置が具備されているという原告の主張は、原告機械一の設計図である甲第一号証の一とは異なる甲第八五号証の二に基づくものであるから、事実に反し失当である。また、原告が被告機械一の電磁弁が全自動である旨主張しているのであれば、それは乙第一四号証の三七からも明らかなとおり、事実に反する。なお、原告は、甲第八六号証の一の図面を森永製菓から入手した旨主張しているが、この事実は、被告会社において機械を製造、納入する際に、顧客の要望があれば設計図を顧客に渡すことがあることを示しており、原告機械七の図面の一部がフルタ製菓に存在したことが事実であることを推認させるものである。
同ないし
同
(2) 請求原因2(三)(2)アのうち、原告機械二、被告機械二がそれぞれ、原告機械一、被告機械一と殆ど同一構造を有する機械であって、その処理能力に相違がある程度であることは認めるが、原告機械二と被告機械二の構造の一致については否認する。
請求原因2(三)(2)イないし
同
同は否認する。
(3) 請求原因2(三)(3)アは認める。請求原因2(三)(3)イについての認否は、右(1)の請求原因2(三)(1)イについての認否と同様である。
(4) 請求原因2(三)(4)アのうち、NAT型オートテンパーは処理容量に応じてスケールアップないしスケールダウンしているものであり、原告機械四の構造、機能が原告機械一、二と基本的に同一であることは認め、その余は否認する。
請求原因2(三)(4)イについての認否は、右(1)の請求原因2(三)(1)イについての認否と同様である。
(5) 請求原因2(三)(5)アは否認する。同は否認する。原告機械五は、被告中宿が原告に在職中に、原告がユーザーからSOLLICH K.G. SPEZIAL MASCHINENBAU社(ドイツ)のポンプの修理依頼を受けたとき、被告中宿が分解スケッチし、シール部等一部を改造して製作図面を作成し、製作したものである。
原告がノウハウの第三点として主張している安全装置については、チョコレート機械に限らず、他の一般の機械(被告会社製造の米菓製造機械等)にも使用されているものであるから、重要なノウハウでないことは明らかである。
請求原因2(三)(5)イは否認する。
被告機械五は、被告中宿が原告を退職後、被告会社にて、客先の機械を見たり、当時の資料、原告のカタログ等を参考にして改良を加え、独自に製作図面を作成し、製作したもので、外見は類似しているが同一のものではない。なお、被告はダブルヘリカルギヤーを採用している。設計図の対比についての被告らの主張の詳細は後記三3のとおりである。
請求原因2(三)(6)イは否認する。甲第九号証の六と甲第一〇号証の六の各見積図を比較すると、双方の見積図の記載方法及び仕様の内容等に相違が見られるが、その形状及び寸法等は殆ど同一である。しかし、この同一性は、被告会社の従業員である井原が、被告中宿の指導の下で、甲第九号証の六と同一の外形図が描かれたカタログ等を参照して作成することも容易にできたものと思われる。
(7) 請求原因2(三)(7)アは否認する。原告機械七は、被告中宿が原告に在職中にSOLLICH K.G. SPEZIAL MASCHINENBAU社(ドイツ)の機械修理をユーザーから依頼され、被告中宿が同機械を分解スケッチし、修理完了後に図面化して製作したものである。
同イ
同イ
同イ
同イ
(8) 請求原因2(三)(8)ア、イは否認する。
(9) 請求原因2(三)(9)ア、イは否認する。原告機械九は、被告中宿が原告に在職中に、ユーザーから提供を受けたOTTO HANSEL JUNIOR SPEZIAL MASCHINENFABI社(ドイツ)のMODEL『HFD』の分解スケッチ図及び取扱説明書をもとにして、被告中宿が設計、製作したものである。他方、被告機械九は、被告中宿が原告を退職後、被告会社にて、当時の資料と原告のカタログ等を参考にして、独自に製作図面を作成し、製作したもので、外見は類似しているが同一のものではない。
甲第八七号証の二は、甲第四号証の二を複写したものではない。すなわち、甲第八七号証の二は、昭和六三年六月一日に寸法の変更が行われているから、甲第四号証の二と同一ではない。
また、甲第八七号証の三は、甲第四号証の三を複写したものではない。すなわち、甲第四号証の三は作成者が被告中宿となっているのに、甲第八七号証の三では右中宿の文字が抹消され、昭和六三年四月五日に柳沢が作成したことになっているし、甲第四号証の三における第一冷却部入口のフランジの構造が一体加工型(甲第四号証の一八参照)であるのに、甲第八七号証の三におけるフランジ部分の構造は、被告機械九(乙第二一号証の一三参照)と同じく別加工型になっている。
更に、甲第八七号証の四は、甲第四号証の四を複写したものではない。すなわち、甲第八七号証の四は、昭和六三年六月一日に寸法の変更、平成元年二月二一日にギヤー追加工がされているから、甲第四号証の四と同一ではない。また、被告会社の技術力及び生産能力等からみると、原告機械九の設計図を持ち出さなくても、被告機械九を受注後三か月で製作、納入することは十分に可能である。設計図の対比についての被告らの主張の詳細は後記三5のとおりである。
(10) 請求原因2(三)(10)ア、イは否認する。一般に高粘度液体中の異物を除去するための高速分離機が既に公知の技術に属するものであることは、乙第三四号証の一のカタログによって明らかなとおりであって、原告機械一〇は公知の技術を用いて製造されたものに過ぎない。
原告機械一〇は、被告中宿が原告に在職中に、HERMAN BAUERMEISTER G.M.B.H.社(ドイツ)の輸入機械を客先でスケッチし、その取扱説明書を参考にしながら、製作図面を作成し、製作したものである。原告はノウハウの第三点として、クリーナーの蓋を外すだけで電源の切れる安全装置を取り付けたことを挙げているが、原告が原告機械一〇の設計図として提出されている甲第五号証の一ないし一七には安全装置(リミットスイッチ)が描かれておらず、安全装置付きの原告機械一〇の製造もされていなかったことが明白であるから(甲第六一号証の三参照)、この点を原告のノウハウに挙げることは失当である。甲第八一号証と甲第五号証の一とを比較すると、甲第八一号証には甲第五号証の一には見られない安全装置(クリーナーの蓋を外すだけで電源の切れる蓋用安全スイッチ)が描かれているばかりか、寸法の一部が変更されており、明らかに甲第八一号証は甲第五号証の一と機構、寸法を全く同一にはしていないし、証拠価値も同一ではない。この点は、甲第六一号証の三の原告機械一〇の写真に安全装置が写っていないことからも明らかである。被告機械一〇は、被告中宿が原告を退職後、被告会社にて、ユーザーから原告機械の内部にある円錐状のスクリーンの製作依頼があったので、そのときに右機械を若干スケッチしたカタログ等を参考にしながら、独自に製作図面を作成し、改良を加えて製作したもので、外形は類似しているが同一のものではない。原告機械一〇と被告機械一〇との設計図の対比についての被告の主張の詳細は後記三6のとおりである。
(11) 請求原因2(三)(11)アのうち原告機械一一が原告機械一〇と構造、機能、ノウハウと主張している事項、駆動系統を同一にすることは認め、その余は否認する。高速回転に耐えるための二重スクリーン構造は、従来から高速分離機において常用されている一形態に過ぎず、乙第三四号証の二の特許公報の記載から明らかなとおり、我が国における公知の技術に属するものであって、原告のノウハウではない。
同イは否認する。被告らの主張は、右(10)で述べたのと同様である。
(12) 請求原因2(三)(12)アのうち、どの容量の原告機械一二も、構造、機能、駆動系統、ノウハウと主張している事項が同一であることは認め、その余は否認する。原告機械一二は、被告中宿が原告に在職中に、外国から輸入された物、国産の他社の物、あるいは外国の文献、カタログ等を参考にして、被告中宿が製作図面を作成し、製作したものである。
原告が第一のノウハウとして主張するスクレーパーについては、これを取り付けることは外国製の同種の機械でも一般に見られることであるから、原告独自のノウハウではない。
第二のノウハウとして、原告はモーター軸と撹拌翼主軸との連結部にチェーンカップリング方式を採り入れたと主張するが、甲第八九号証の四の図面の部番<3>番で、「チェーン・カップリング、市販、椿本CR六〇二二-J」、同<5>番で、「チェーン・カップリングケース、亜鉛ダイカスト、椿本CR六〇二二-J用型式I」と各記載されていることから明らかなとおり、チェーン・カップリングは、椿本チェーン製の市販品であり、原告独自のノウハウでないことは明らかである。
第四のノウハウとして、原告は、タンクの底部の形態をフラット(平面)にせず、穏やかな湾曲形態(ヘラ絞り型)としていることも他社に例を見ない原告独自の工夫であると述べているが、甲第九〇号証の四(乙第二三号証の六)の部番<12>、<13>番から明らかなとおり、被告機械一二に使用されているタンクは、北海製の市販品であり、その底部が穏やかな湾曲形態(ヘラ絞り型)であることが一目瞭然であるから、右形態が原告独自の工夫でないことは明白である。
被告機械一二は、前記のとおり被告中宿が原告会社を退職後、被告会社にて、原告のカタログ、営業用図面(パンフレットのようなもの)、ユーザーに納入してある機械等をみて独自に製作図面を作成し、製作したもので、原告機械一二と外見は類似していても同一のものではない。被告機械一二にはスクレーパーは付いていないし、被告機械一二の底面は市販されている油圧絞りの「さら形鏡板」を使用している。ストレージタンクが昭和五三年頃から我が国において市販され、へら絞り型、チェーンカップリング等が公知の技術に属していたことは乙第三五号証の一の図面及び同号証の二の文献により明らかである。
同イは否認する。
(13) 請求原因2(三)(13)アは否認する。撹拌装置についてのノウハウとして主張する事項は、乙第三六号証の一(乙第一二号証の三七一頁)の文献から明らかなとおり、当時の我が国における公知の技術であって、原告のノウハウではない。駆動軸のピンギヤー方式も動力伝達機構として当時の我が国における周知慣用技術であって、原告のノウハウでないことは乙第三六号証の二の文献から明らかである。
同イは否認する。
(14) 請求原因2(三)(14)アは否認する。チョコレートの模様を掛ける機械として、パイプに開けられた小さな穴から液状のチョコレートを落下させ、ベルトに乗って移動するチョコレートの上に模様掛けする機構は、乙第三七号証の一ないし三の特許公報記載のとおり、古くから周知の技術であり、原告が挙げている事項はいずれもノウハウではない。すなわち、右乙号証には回転軸の調節金具や目詰まり防止のためにストレーナーによって不純物を排除することが明記されているし、パイプが変幻自在に動くタイプは乙第三七号証の四のカタログ、パイプストローク調節機械については乙第三七号証の五の文献からいずれも公知の技術に属していることが明らかである。
同イは否認する。
(15) 請求原因2(三)(15)アのうち、原告機械一五が原料チョコレートをチップチョコ用に少量充填(デポジット)する機械であること、原告機械一五において、ピストンの垂直方向の動きはプレートカム部が水平方向に前後運動することにより動力が伝達され、ピストンの上下運動が正確にしてかつ滑らかな動きをすることが一回当たりの充填量を正確にし、かつ、充填が綺麗に行われるために不可欠であることは認め、その余は否認する。充填が少量であるデポジッターの基本的な技術は、乙第三八号証(乙第一二号証の三八三頁)の文献から明らかなとおり、我が国において当時公知の技術に属していたのであって、原告のノウハウではない。
同イは否認する。
(16) 請求原因2(三)(16)ア、イは否認する。
チョコレートをモールドに充填するデポジッターは、古くから外国メーカーのカール・アンド・モンタナリー社が実用化し販売している二七五型デポジッター(乙第三九号証の一の外形写真、乙第四〇号証の一の図面参照)と共通していて、我が国においても既に公知の技術に属するものである。
原告の主張するノウハウのうち、第三のピストンを左右一八本以上配置したことは乙第三九号証の二の写真で明示されている機構と共通しており、技術的に格別特異なものではない。また、ノズルプレート方式は乙第三九号証の五の特許公報、乙第四〇号証の三の図面に明記されているとおり、公知の技術に属するものである。第四のチョコレート充填の動力装置とベルトコンベアーの動力装置を同一にすることは乙第三九号証の七、乙第四〇号証の九、一一の各図面に明記されているとおり、公知の技術に属するものである。第六のホッパー内に撹拌羽を設置することは、乙第三九号証の三(一九五四年作成のMLP型デポジッターの図面)、乙第四〇号証の四(一九七〇年作成のMLP型デポジッターの図面)に明記されているとおり、公知の技術に属する。第七のモールド検出装置を設置することは、乙第三九号証の四の写真、乙第四〇号証の三の図面のとおり、公知の技術に属する。第八のホッパー上部にバイブレータースクリーンを取り付けることは乙第三九号証の六のカタログに明記されているとおり、公知の技術に属する。
同イのうち、被告会社が昭和五六年末頃、エイコウ製菓に被告機械一八を販売、納入したことは認め、その余は否認する。
(18) 請求原因2(三)(18)アのうち、原告機械一八がチョコレートの二次工程において、板チョコレートを製造する目的でモールドにチョコレートを充填し、これを冷却するプラントであることは認める。
同は否認する。
一連の流れ作業を自動的に行なう装置は、乙第四〇号証の一の図面から明らかなとおり、従来から公知の技術として認められていたのである。右乙第四〇号証の一を見ると、原告がプラントを構成する機械として主張する横振動装置、上下動を与えるタッピングマシーン、クーリングトンネル及びモールド加熱装置を製造ラインに配置することが明記されているし、各機械に関する原告の技術も公知の技術に属する。特に、クーリングトンネルの構成が公知の技術に属することは、乙第四〇号証の一三の米国特許公報から明らかである。
同イのうち、被告会社が昭和五六年末頃、エイコウ製菓に被告機械一八を販売、納入したことは認め、その余は否認する。
(19) 請求原因2(三)(19)アは否認する。原告が平型クーリングトンネルに替えて独自に開発したと主張している竪型クーラーは、乙第四〇号証の一、二、五、六、一二の各図面及び乙第四一号証の図面から明らかなとおり、周知の機械であり、原告がノウハウとして挙げている各技術も公知の技術に属するものであって、原告のノウハウではない。また、スタッカー、第一反転、モールドハンマー、第二反転等の各技術は、乙第四〇号証の一、七、九、一二の各図面等から明らかなとおり、いずれも公知の技術に属するものであって、原告のノウハウではない。
同イのうち、被告会社が昭和五七年末頃に、チョコレート製造設備用ディモルダーを中村化成に販売、納入したことは認め、その余は否認する。
(20) 請求原因2(三)(20)アは否認する。充填量が比較的小規模なこの種のデポジッターは、乙第四二号証(乙第一二号証の三八四頁)の文献のように、公知の技術に属するものである。すなわち、ピストンによる吸引、吐出を切替えバルブによって行なうことは公知の技術であるし、数個の吐出口を設置することにより、一度に多くの充填を可能にする機構、ホッパー内に撹拌羽を取り付けたり、ピストンのストロークの大きさを自由に調整できる機構はいずれも設計上当然に考慮されるべき事項であって、原告のノウハウではない。
同イは否認する。
(21) 請求原因2(三)(21)アは否認する。同は否認する。
原告は<1>でテンパリング装置の内蔵を挙げているが、被告会社ではこのようなタイプのエンローバーは製造、販売していない。<2>ないし<4>、<7>のタンク内をオーバーフロー方式にしたこと、循環用ベーンポンプを採用していること、ボトミングロールの回転で巻き上げてチョコレートを被覆すること及び温熱用ヒーターを設置すること等の事項は、乙第四三号証の一ないし三の文献及び同号証の四、五のカタログから明らかなとおり、いずれも公知の技術に属するものであって、原告のノウハウではない。<6>の風を吹きかける方式で温度調節をする技術、手段は乙第四三号証の四のカタログ及び同号証の六の文献で明示されているとおり、いずれも従来から慣用されている周知の技術であって、原告のノウハウではない。
同イは否認する。
(22) 請求原因2(三)(22)ア、イは否認する。
(23) 請求原因2(三)(23)アのうち、原告機械二二がエンローバー本体により被覆されたチョコレート、芯菓子をクーリングトンネルを通過させて冷却固化して搬送するプラントであることは認め、その余は否認する。
同は否認する。
原告は、このプラントの各構成機械は、それぞれ高度なノウハウの集積であると言っているが、これら各装置の構成は、乙第四四号証の一、二、四、五(同号証の二は乙第一二号証の三八六頁ないし三八九頁)の各文献及び同号証の三のカタログから明らかなとおり、公知の技術に属するものであって、原告のノウハウではない。
同イは否認する。
(24) 請求原因2(三)(24)アのうち、原告機械二三が、チョコレートフレークを溶解し、これらをバター、レシチン等のチョコレート原料とミキシングする機械であることは認め、その余は否認する。
同は否認する。
原告は撹拌翼の構造、形状をノウハウと主張するが、乙第四五号証の一ないし三(同号証の一は乙第一二号証の三四一頁)の文献及び同号証の四のカタログから明らかなとおり、我が国において公知の技術に属するものであって、原告のノウハウではない。
同イは否認する。
(25) 請求原因2(三)(25)のア、イはいずれも否認する。被告会社は被告機械二四を製造、販売したことはない。
3(一) 請求原因3(一)(1)ないし(15)は否認する。
請求原因3(一)(16)のうち、甲第九八号証の一の設計図は、CADにより昭和五八年三月に再製されたものであり、再製前の図面は遅くとも昭和五一年頃までに製作されていたが、CADによる再製時に廃棄されたとの点は知らない。その余は否認する。
請求原因3(一)(17)、(18)は否認する。
請求原因3(一)(19)のうち、甲第一〇一号証の四は、昭和五九年六月にCADにより再製されたもので、再製前の図面は遅くとも昭和五〇年頃までに製作され、CADによる再製の際に廃棄されたものであるとの点は知らない。その余は否認する。
請求原因3(一)(20)ないし(24)は否認する。
(二) 請求原因3(三)は争う。
4 請求原因4(一)は否認する。
請求原因4(二)アのうち、昭和五三年度から昭和六三年度までの被告会社の全売上高の推移については認め、その余は否認する。
同(二)イのうち、昭和五三年度から昭和六三年度までの我が国の製菓機械の年間生産高の前年度比の推移は知らない。その余は否認する。
同(二)ウは知らない。同(二)エは否認する。
被告会社の昭和五五年一一月一日から平成五年一二月末日までの決算期別の総売上額、チョコレート機械及びそれに関連する売上額及びその内訳は、別紙「機種別売上集計表」記載のとおりである。また、被告会社における昭和五五年一一月から平成五年三月までのチョコレート製造用機械部門の営業利益率の推移は別紙被告会社営業利益率推移表のとおりである。
5 請求原因5は否認する。
6 請求原因6は争う。
三 甲事件についての被告らの主張及び抗弁
1 原告機械一と被告機械一との対比
(一) 設計図の対比
(1) 乙第一八号証の一と甲第一号証の一
右両図面の形状を外形的に比べると、被告機械一には空気抜け穴があるのに原告機械一にはこれがないこと、被告機械一には本体吊上げ装置があるのに原告機械一にはこれがないこと等の相違が見られる。
右両図面における外形的な相違点を機能の面から比較すると、被告機械一には空気抜け穴があり、本体内の熱が逃げやすくなっていること、本体吊上げ装置があって、機械の搬入、移動が容易になっていること等、原告機械一より一層の工夫がされている。
いずれにしても、右両図面を比較するとかなりの相違が見られ、乙第一八号証の一が甲第一号証の一を模倣したものでないことが明白である。
(2) 乙第一四号証の三と甲第一号証の五、一二、一五、四六及び五〇
右(1)の相違から、乙第一四号証の三の左上端図(チェーンタイトナー図)と甲第一号証の四六の図面、乙第一四号証の三の左上中図(ピン図)と甲第一号証の五〇の図面とを比較すると、その構造及び外形が全く異なっていることが明らかである。
(3) 乙第一四号証の四ないし九と甲第一号証の四六、四八、五ないし八
右乙号証の各図は、乙第一四号証の三の駆動装置部の部品図であるから、右甲号証の各図と比較すると前記(2)で述べたとおりの相違が見られる。そのほか、乙第一四号証の四の図面と甲第一号証の四六の図面とを比べてみると、被告機械一にはテンションボルト(乙第一四号証の三の三六番)があって、チェーンの張り具合を調整することができるが、原告機械一にはそれがないので、チェーンが緩んだりしたときはチェーンを取り替えるか又は減速機の位置を移動させるしか方法がない等構造的にみても被告機械一の方に新たな工夫がみられる。
(4) 乙第一四号証の一〇、一一と甲第一号証の一三、一七
両機械の図面を比較すると、被告機械一では右乙号証の一枚であるが、原告機械一では右甲号証の二枚に分けられているうえ、スクリューの羽根が、被告機械一ではパイプに溶接する構造になっているが、原告機械一では鋳物でパイプと一体構造となっている。その他、スクリューのリードピッチ(被告機械一は一二〇ミリメートル、原告機械一は一一二ミリメートル)、ベアリングの固定方法(被告機械一はベアリングナットで止める、原告機械一はストップリングで止める)及び駆動軸の構造(被告機械一はフランジ部分に溶接加工、原告機械一はフランジ部分に一体加工)等において多くの相違点がみられ、両機械は全く別の物といえる。
(5) 乙第一四号証の一二と甲第一号証の一四
両機械の形状を比較すると、もっとも特徴的な相違点は、被告機械一には温水ドレン(温水を抜く管)があるが原告機械一にはないことである。また、被告機械一についての甲第一六号証の六の図面にはOリングをかませるための溝が記載されているが、そのように改正された年月日の記載がない。そこで検討するに、右改正が被告中宿によりなされたことはその文字の特徴から明らかであるし、昭和五六年一〇月から同年一二月にかけて訴外白石が被告中宿によって修正された乙第一五号証を基にして作成した被告機械一の製作図の部品図である乙第一四号証の一二「テンパリングシレンダー図」にはOリングが記載されていることから判断して、右改正は被告中宿により昭和五六年一二月頃までにされていたと考えるのが相当である。
したがって、それ以後の被告機械一にはOリングをかませるための溝があるが、原告機械一にはそれがないという相違点が明らかとなる。更に温水出入口のソケットの取付方法(被告機械一は中央部、原告機械一は上部)、ジャケットのピッチ(被告機械一は七八ミリメートル、原告機械一は七〇ミリメートル)、ジャケット外側の面積(被告機械一は八・三五ミリメートル、原告機械一は七・三五ミリメートル)等においても多くの相違点が見られるのである。
このように、被告機械一は原告機械一とは異なった独自の観点から工夫、改良がされており、少なくとも原告機械一の設計図を模倣して製作されたものではないことが明らかである。
(6) 乙第一四号証の一三、一四と甲第一号証の一六
右乙号証の各図と右甲号証の図面とを比較すると、右(5)と全く同様の相違が見られる。
右「シリンダー図」を見ると、原告機械一では右甲号証のとおり、長さ六六九ミリメートルのものが一図に作成されているのに、被告機械一では右乙号証の各図のとおり、長さ三三七ミリメートルのものが二図に分けて作成されている。これは、原告機械一では感熱部ホールドリングがシリンダーと一体構造となっているのに対し、被告機械一ではシリンダーから独立した設計(被告独自の設計-後記乙第一四号証の二四参照)となっていて、製作工程で右二つのシリンダーの間に組み込まれる構造になっているからである。したがって、この点だけから考えても、右乙号証の各図が右甲号証の図面を模倣して作成されたものでないことが明白である。
(7) 乙第一四号証の一五と甲第一号証の一八
右両図面の外形的な形状は似ているが、ブラケットのしめつけ穴の数(被告機械一は八個、原告機械一は六個)、グランドパッキンを締めつけるための切欠きの形状、シールハウジングの取付穴の数(被告機械一は六個、原告機械一は四個)及び各部の寸法等が異なる。なお、使用しているベアリング等の大きさが両機械とも同じであるのは、市販の既製品を使用しているからである。
(8) 乙第一四号証の一六と甲第一号証の一九
右両図面を比較すると、平面図と断面図が左右逆に記載されていることが目につくが、その他フランジ抜き用タップの数(被告機械一は四個、原告機械一は二個)、ベアリングフランジの穴の数(被告機械一は六個、原告機械一は四個)等が異なる。加えて、両図の大きな相違点は、ベアリング潤滑用切欠き(チョコレートの流れる通路)が、被告機械一では直径三〇ミリメートルのもの一種類だけであるのに、原告機械一では直径三〇ミリメートルのものと直径五〇ミリメートルのものの二種類を製作するようになっていることである。そのため、原告機械一は被告機械一に比べて加工が面倒になっている。
(9) 乙第一四号証の一七と甲第一号証の二三
右両図面を比較すると、平面図と断面図が左右逆に記載されていることが目につくが、その他右乙号証の図面を見るとベアリング潤滑油切欠きが平面図に描かれているが、右甲号証の図面にはそれがないこと(右(8)項で述べたとおり両機械のベアリング潤滑油切欠きの構造上の相違からと思われる。)及び断面図の寸法が異なること等の相違が見られる。
(10) 乙第一四号証の一八と甲第一号証の二一
右両図面を比較すると、オイルシールの大きさ(被告機械一は外径九〇ミリメートル、原告機械一は外径一〇〇ミリメートル)、シールハウジング締付穴の数(被告機械一は六個、原告機械一は四個)及び各寸法等が相違する。
なお、右乙号証の一八以下乙第一四号証の二一までは、いずれも駆動側部品図であるから、駆動装置につき被告機械一と原告機械一とが相違する限り、当然に右乙号証の各図は、それに対応する甲第一号証の二〇ないし二二の各図と相違することになる。
(11) 乙第一四号証の一九と甲第一号証の二〇
右両図面を比較すると、図面の書き方が異なるほか、各寸法が全く異なっている。
(12) 乙第一四号証の二〇と甲第一号証の二二
右両図面を比較すると、スリーブ締付穴の数(被告機械一は四個、原告機械一は二個)、各寸法等が異なるほか、被告機械一では左角が面取りされているが原告機械一にはそれがない等の相違点があり、両図面が一見して異なることが判る。
(13) 乙第一四号証の二四
甲第一号証には乙第一四号証の二四に対応する図面がない。それは乙第一四号証の二四の部分が被告機械一に独自のものだからである。したがって、乙第一四号証の二四が原告機械一の設計図を模倣して作成されることはあり得ない。
(14) 乙第一四号証の二五と甲第一号証の二七
右両図面を比較すると、右乙号証は部分組立図になっているが、右甲号証は輸送管及び取出口図の中に含まれていて、その書き方、形状等が全く異なっている。特に、シャッターボデー板(又はシャッター用フランジ)の形状が、被告機械一ではシャッターを開けたときにシャッター板が右ボデー板から外れないように大きな構造になっているのに対し、原告機械一ではシャッター板が右ボデー板から外れてしまう構造になっている点に大きな相違がある。
(15) 乙第一四号証の二六、二七と甲第一号証の二八、二九
右乙号証と甲号証の各図面を比較すると、その大きさ配置が全く異なり、一見して右乙号証が右甲号証を模倣したものでないことが明白である。特に、シャッター用フランジの形状、温水ソケットの位置等が異なるほか、被告機械一には温水ドレンが付いているが原告機械一にはそれがなく、両機械がその構造及び機能において全く相違していることが明らかである。
(16) 乙第一四号証の二九と甲第一号証の三六
両図面の相違については、右(14)のシャッターボデー板(シャッター用フランジ)についての記述と同様である。
(17) 乙第一四号証の三〇と甲第一号証の三五
右両図面を比較すると、その書き方、寸法等が全く異なっていて、右乙号証の図面が右甲号証の図面を模倣したものでないことが一目瞭然である。
(18) 乙第一四号証の三一と甲第一号証の三一
右両図面を比較すると、シャッター板そのものが元来単純な構造を有しているので、その外形は似ているが寸法は全く異なっているうえ、右乙号証の図面上にはシャッターの当たる面に「摺り合せ」の指示がされており、チョコレートが漏れないように加工上で配慮するように注意を促している。右甲号証の図面のようにその記載がないと、「摺り合せ」になるように加工しないことがある。
(19) 乙第一四号証の三二と甲第一号証の三二
右両図面を比較すると、図面の書き方、寸法等が異なるうえ、その材質においては、被告機械一では錆びにくい鉋金(図面の材質欄にBC4の記載がある)を使用しているのに対し、原告機械一では錆びやすい鉄(図面の材質欄にS25Cと記載がある)を使用している等、被告機械一には原告機械一にはない工夫が施されている。
(20) 乙第一四号証の三三ないし三五と甲第一号証の三三、三四
右両図面をみると、乙第一四号証の三三に対応する図面が甲第一号証にはなく、乙第一四号証の三四には甲第一号証の三四が、乙第一号証の三五には甲第一号証の三三が、それぞれ対応する。右対応する乙号証の各図面と甲号証の各図面とを比較すると、いずれもその書き方、寸法等が異なり、右乙号証が右甲号証を模倣したものでないことが明白である。
(21) 乙第一四号証の三八と甲第一号証の四二
右両図面を比較すると、被告機械一のほうが原告機械一よりも構造が簡素化されていることが目につくほか、被告機械一にはテンションボルトがあってチェーンの張り具合を調整することができるが、原告機械一ではそれがないので、チェーンが緩んだときには減速機の位置を移動して調整する必要があるため、減速機の取付け方法が、被告機械一では固定式、原告機械位置では移動式になっているという大きな相違が見られる。
(22) 乙第一四号証の四二ないし四四と甲第一号証の一二の一部
右乙号証は、駆動装置の部品であるスプロケットに関する図面であるところ、甲第一号証にはこれに対応する部品図がないので、右甲号証の図面の一部(同図2番)に書かれているものと比較すると、被告機械一ではチェーンが一列なのに対し、原告機械一ではそれが二列のため、チエーンをかけるスプロケットの構造もそれに対応して全く異なったものになっていることから、右両図面はその構造、寸法等が全く異なったものになっている。
(二) 被告機械一の設計図の証拠価値
(1) 乙第一五号証のような図面を作成することは不自然ではない。被告機械二と被告機械一とは、殆ど同一の機構を有する機械であって、その処理能力に相違がある程度であるから、他方の機械の設計図をそのまま、あるいは寸法、型等に若干の修正を施して流用することは可能であり、現に、被告中宿は乙第一五号証を製図し、これを基に被告機械一を製作したものである。被告機械一を製作するについては、乙第一五号証があれば十分であり、わざわざ一か月前後の日数をかけて被告機械一の設計図を作成する必要は全くなかったのである。乙第一四号証が被告機械一の製造直後に作成されたのは、たまたま被告機械一の製造後である昭和五六年九月二九日に訴外白石が設計者として被告会社に就職したところから、被告中宿が右白石に勉強のために乙第一五号証に従って乙第一四号証を製図するように指示し、これに基づいて白石が乙第一四号証を製図することになったために過ぎない。乙第一四号証の図面の作成に長期間を要したり、図面に誤りがあったりするのは白石が設計図の作成に習熟していなかったためである。また、原告の主張では、被告らが本件第五回準備手続期日と第六回準備手続期日の間(昭和六三年一一月二八日以降同年一二月二三日までの間)に、乙第一五号証を作成したことになるが、乙第一五号証の作成者(朱色で加筆修正した者)である被告中宿は、昭和六〇年一二月一〇日頃に病気で倒れ、それ以後は被告会社にも出勤していないのであるから、被告中宿が原告が主張する右期間に乙第一五号証を作成することは不可能である。
(2) 乙第一四号証の一が従前の図面の一部を抹消、変更したものであり、従前の図面では操作盤が原告機械一と同様組込型であったことは認める。右図面の改正は、乙第一四号証の一には記載されていないが、乙第一号証の三九の部品図が昭和五九年一月一三日に改正されているのと同じ時に改正されたものである。
(3) 被告機械一は温冷水切換が手動で行われ、これが自動的に行われる被告機械二とは異なっていること、この切換バルブの存在は、被告機械一の見積図(甲第四二号証の二)上に「温冷水切換バルブ四ケ」と表示されていることは認める。しかし、右切換バルブが被告機械二には存在せず、被告機械一には存在するからといって、被告機械一を製作するについて、この切換バルブに関連する部分の独立した設計図がなければその製作ができないものではなく、被告中宿が乙第一五号証に基づいてその製作過程で口頭で指示すれば十分に製作が可能である(乙第一四号証の三七は、昭和五六年一二月一〇日頃、訴外白石が乙第一五号証に基づいて作図したものであるが、右切換バルブについては、その作図過程において被告中宿から口頭による指示を受けているのである。)。
なお、機械の製作過程で設計者が設計図に記載のないことについて口頭で加工者に指示することがあることは、原告も原告機械二の空気抜け穴について同様に主張していることである。被告中宿は、被告機械一の製作について、乙第一五号証を加工者に渡すとともに、現場においてしばしば口頭による指示を与えていたことは、乙第一五号証の一一ないし一三の図面中に「現場にて指示」との記載六か所、乙第一五号証の一四の図面中央に「配管は本図通りでは入りませんので現物にて説明します」との記載からもうかがわれる。乙第一四号証の一(外形姿図)は、被告会社に就職したばかりの訴外白石が乙第一五号証に従って作成したものであるが、乙第一五号証の各図を見れば明らかなように、同号証の図面中には外形姿図がない。そのため訴外白石は、被告機械二の外形姿図(乙第一六号証の一)を参照して作図したと思われ、右バルブ二個を乙第一四号証の一の外形姿図に書き忘れたものであって、被告らにおいて、後日故意に抹消したものではない。右外形姿図の誤りが証拠として提出するまで見過ごされてきたのは、一般に機械の製作は各部品図に従ってされるのが通常であって、外形姿図がなぐともその製作ができることから、製作過程で外形姿図について細かい点まで検討されることがなかつたためである。
(4) 乙第一四号証の一(外形姿図)と乙第一四号証の二七(チョコレート供給管の部品図)とを比較すると、両図面に表示されている管の直径が異なることは認め、その余は否認する。
右両図面のうち、被告機械一の供給管の直径としては、乙第一四号証の二七の部品図の寸法が正しく、乙第一四号証の一の外形姿図の寸法は誤りである。右外形姿図について、そのような誤りが生じたのは、前記のとおり当時被告会社に就職したばかりであった訴外白石が、乙第一五号証に従って乙第 四号証を作成するに当たり、乙第一五号証に外形姿図がなかったことから、被告機械二の外形姿図(乙第一六号証の一)を参照して作図したところ、乙第一六号証の一の寸法を乙第一四号証の一にそのまま転載したためと思われる。外形姿図、総組立図のように実際に記載を製作する際にあまり使用されることがない図面の場合には、その誤りの発見が遅れ、そのまま長期間を経過することがあることは、原告機械一の総組立図(甲第一号証の四)においては、昭和四八年二月五日に作成されてかち四年八か月後の昭和五三年一一月二日になって二か所の寸法が誤記訂正(同号証の四の下段の記載参照)されていることからも明らかである。
2 原告機械二と被告機械二との対比
(一) 設計図の対比
原告が比較の対象としている乙第一六号証の図面の中には、改正後の設計図が含まれていることが判明したので、次の乙号証の図面については、原告と異なり改正前の図面と対比することとする。
<1> 乙第一六号証の一六に対応する改正前の図面は乙第一五号証の三の修正前の図面
<2> 乙第一六号証の一七に対応する改正前の図面は乙第一五号証の四の修正前の図面
<3> 乙第一六号証の二四に対応する改正前の図面は乙第回五号証の一二の修正前の図面
<4> 乙第一六号証の二五に対応する改正前の図面は乙第一五号証の一三の修正前の図面
<5> 乙第一六号証の二六に対応する改正前の図面は乙第一五号証の六の修正前の図面
(1) 乙第一七号証と甲第四一号証の一
両図における外形的な相違点を機能的にみると、被告機械二ではチョコレート冷却部が三段階(原告機械二では二段階)に分かれており、原告機械二よりチョコレートの温度調整がより細かくできるようになつていること、及び被告機械二では原告機械二と異なり空気抜け穴があり、本体内の熱を発散しやすくしている等の違いがある。
なお、原告は、甲第八号証の一、二の写真を原告機械二のものであるとして提出しているが、写真で見る限り原告機械二より大きい機械と思われるし、空気抜け穴があり、右甲号証の姿図から製作された原告機械二とは異なるものと思われる。右空気抜け穴については、原告が被告機械を真似たものと思われる。
(2) 乙第一六号証の二ないし七
甲第四一号証には、右乙号証に対応する図面がないので比較検討ができない。なお、右乙号証のうち乙第一六号証の二ないし四は、被告機械二を製作するためには必要な図面と思われるので、これに対応する原告機械二の図面が何故に原告から提出されないのか理解に苦しむ。
(3) 乙第一六号証の八と甲第四一号証の九
右両図面の相違については、前記三1(一)(7)と同様である。
(4) 乙第一六号証の九ないし一二
甲第四一号証中には右乙号証に対応する図面がないので比較検討ができない。
(5) 乙第一六号証の一三と甲第四一号証の二
右両図面の相違については、前記三1(一)(8)と同様である。
(6) 乙第一六号証の一四
甲第四一号証には右乙号証に対応する図面がないので比較検討ができない。
(7) 乙第一六号証の一五
甲第四一号証には右乙号証に対応する図面がない。それは被告機械二においては感熱部ホールドリングがシリンダーから独立した設計になっているため、シリンダー図(乙第一六号証の一六)とは別に右部品図が必要となるが、原告機械二では感熱部ホールドリングがシリンダーに組み込まれているために右部品図に対応する独立した図面が必要でなく、甲第四一号証の三、四、七の図面に組み込まれているからである。したがって、右乙号証は被告機械二に独自なものであり、原告機械二の設計図を模倣して作成されることはあり得ないのである。
(8) 乙第一五号証の三の修正前の図面と甲第四一号証の三、四、六、七
右両図面の相違については、前記三1(一)(5)と同様である。
(9) 乙第一五号証の四の修正前の図面と甲第四一号証の五、八
右両図面の相違については、前記三1(一)(4)と同様である。
(10) 乙第一六号証の一九と甲第四一号証の一一
そのほか、両図面を対比すると、チョコレートの出入口部分が、被告機械二では丸パイプであるが、原告機械二では異型パイプ(レジューサーといっている)なので加工が大変であるうえ、被告機械二には温水を排出するためのテール側フレーム(原告機械二ではエンドフレームといっている)に「温水ドレン」がついているが、原告機械二にはない等の大きな相違点がある。
(11) 乙第一六号証の二三と甲第四一号証の一二
右乙号証と右甲号証の各図面を比較すると、図面の書き方、寸法等、一見して全く異なることが明らかであり、被告機械二は原告機械二より製品が簡素化され、加工しやすくなっていることが窺われる。
(12) 乙第一五号証の六の修正前の図面(乙第一六号証の二六)と甲第四一号証の一三
右乙号証と右甲号証の各図面を比較すると、その大きさ、配置が全く異なり、一見して右乙号証が右甲号証を模倣したものでないことが明白である。
特にシャッター用フランジの形状、温水ソケットの位置等が異なるほか、被告機械二には温水ドレンが付いているが原告機械二にはそれがなく、両機械がその構造及び機能において全く相違していることが明らかである。
(二) 被告機械二の設計図の証拠価値
(1) 乙第一六号証の一は、その下段部分に記載があるとおり、昭和五九年一月一三日に改正されており、当初に被告会社で製作された被告機械二は原告機械二と同様操作盤組込型であったことは認める。被告らが、昭和五九年一月一三日に改正された乙第一六号証の一を提出したのは、原告が原告機械二の設計図として何回も改正された甲第四一号証を提出しているのと同趣旨である。
(2) 乙第一六号証に記載された作成日は、その図面が完成した日を記載したに過ぎないのであるから、現実にその図面の作成に要した日を右作成日のみから判断することはできず、被告らが乙第一六号証を三八日間で書き上げたと断定することは誤りである。また、被告らは最大限三か月と主張しているのであって、これを少なくとも三か月は必要であると解釈するのは、被告らの主張の歪曲である。乙第一六号証の図面は全部で二七枚に過ぎず、被告中宿は、原告においてチョコレート機械の開発、設計に二〇年余も携わってきたエキスパートであって、原告で製造しているチョコレート製造用機械の殆どに関与してきたのであるから、被告中宿については、同人の頭脳を駆使すれば、原告の主張する三八日間位でも容易に乙第一六号証の全てを作図することは可能であったと思われる。
(3) 原告が機械設計の原則的な手順について述べている点については被告らも認める。しかし、被告機械二については、右原則的な手順は当てはまらない。すなわち、被告機械二と同機種である原告機械二は、既に原告において製作されており、かつ、被告中宿が原告に在職中に同機の開発、設計に長年携わってきたので、同機に関する見積図も被告中宿が作成していたと思われること、被告中宿は、被告機械二に関するカタログ、サービスマニュアル、下書図(手控え帳)等、同機の製作図面を作成するための前提となる多くの資料を自ら作成し、かつ、私物として有していたと考えられることに照らすと、被告中宿が被告機械二の設計図(乙第一六号証)を作成する前に、右各資料を参照して見積図(甲第一〇号証の一)を作成することは極めて容易にできたのである。
被告会社は、米菓製造機械の製造メーカーとして六〇年余りのキャリアのある会社であって、菓子製造機械に関しては、多くの技術、ノウハウを培ってきた技術集団であるから、チョコレート製造用機械の設計、開発の第一人者である被告中宿の指示があれば、被告機械二を製造するのに三か月もあれば十分である。更に、被告会社においては、全ての設計図が完成してから機械の製造にとりかかるのではなく、部品図ができ上がり次第、できるものから順次資材の手配、加工等をしていくことにしているので、この点でも全ての設計図が完成してから製作に着手すると主張する原告とは異なっている。
(4) 被告会社が、昭和五五年一二月一五日に、被告機械二をフルタ製菓に納入したこと、その見積図が同年九月に作成されていることは認めるが、その余の主張は失当である。被告機械二の見積図が作成された同年九月までに、各部品を含めた全設計図が完成していなければならないわけではないし、被告らの能力から判断して三か月もあれば、被告機械二程度の各部品を含めた全設計図を作成することは十分にできるのである。
3 原告機械五と被告機械五との対比
(一) 両機械の名称から明らかなとおり、原告機械五と被告機械五とでは、その能力に差がある。したがって、右能力差に由来する範囲内で、各部品図における寸法及び形状の相違が随所に見られる。例えば、乙第一九号証の一四のヘリカルギヤーと甲第二号証の七のはすば歯車とを比較すると、歯の幅が異なっていることが知れる。
(二) 次に、両機械の全体の構造等につき、その相違を検討するため、被告機械五については乙第一九号証の一五の組立図、原告機械五については甲第二号証の一の組立図の両図を比較すると、モーターに接続するための駆動軸が、原告機械五では片側だけなのに、被告機械五では両側にあることが知れる。
例えば、シールハウジング(原告機械五では単にハウジング)の形状について見ると、原告機械五では、駆動軸が片側だけであることから、モーターが接続するモーター側と接続しない反モーター側との形状が異なり、そのために部品図が二枚(甲第二号証の三及び四参照)必要となるのに、被告機械五では駆動軸が両側にあるので、モーター側及び反モーター側とも同じ形状、寸法となり、部品図は一枚で済む(乙第一九号証の二参照)。このことは、原告機械五にはモーター側にオイルシールがあるが、被告機械五には両側ともにそれがないという構造上の違いとなっている。また、被告機械五の方が、原告機械五より加工が簡単で製造コストが安くなるという利点もある。更に、両機械の組立図を比較すると、両機械のバルフロンパッキング(原告機械五ではバルフロン成形パッキング)の数及び組合わせ方が全く異なるうえ、その他、寸法、書き方にも多くの点で相違が見られる。
(三) 以上の事実から明らかなとおり、被告機械五の設計図は被告会社において独自に作成されたものであり、原告機械五の設計図を参照したり、模倣したりして作成されたものではない。
なお、原告機械五の設計図の作成年月日を見ると、甲第二号証の二、甲第二号証の一一ないし一三を除いてその殆どが昭和五五年一二月二日及び同月三日となっているが、仮にそれが正しいとすれば、被告会社作成の被告機械五に関する設計図の作成年月日よりも後となっている。このままでは、被告会社が原告機械五の設計図を模写したとする原告の主張は理解できない。
4 原告機械七と被告機械七との設計図の一致について
原告機械七と被告機械七との設計図を対比すると、両設計図の各部品図に付されている部番の多くが一致していること及び各部品図の一部に酷似した図面が存在していること等から、被告会社に少なくとも原告機械七の組立図及び部品図の一部が存在しており、被告機械七の設計図の作成者である浜田が、原告機械七の右設計図を参照して、被告機械七の設計図を作成したのではないかとの疑念を生じる。そこで、被告会社において調査したところ、次の事情が判明した。被告会社は、被告機械七の設計図が作成される以前の昭和五六年一月頃に、フルタ製菓から原告機械七のオーバーホールの見積依頼を受け、同年二月一三日に最終見積書を提出し、その直後に受注するとともに、原告機械七の引渡しを受けてオーバーホールし、同年六月四日にフルタ製菓に納入している。そして、右オーバーホールには、冷却筒(内外とも)の新規製作、冷却筒スクレーパー用篭、肉盛り修正加工又は新規製作等の改良のほか多くの部品の新規取替えが見込まれていたため、その必要から被告らがフルタ製菓から原告機械七の設計図の一部を借り受けたものである。
右のとおり、原告機械七の設計図は、被告中宿が複写し、盗取したものではなく、フルタ製菓から一時借り受けていたものなのである。ところで、このことは、被告機械七の設計図を作成したのが、右オーバーホールを受注し、その納入をした期間内である昭和五六年二月二〇日から同年五月にかけてであること、及び右設計図以外の原告機械の設計図が被告らに存在していたことがなく、しかも被告機検七以外の設計図については原告機械との間で設計図の部番の一致も見られず、図面そのものも一致していないことから、あくまでも被告機械七限りの特殊事情である。
この点の証拠である乙第二五号証(甲第四六号証と同一)について、原告が主張するように、被告会社が右書面を予め作成しておき、それに署名するようにフルタ製菓の社長に懇願し、同社長が事の真偽を確かめず、右書面に安易に署名押印したという事実はなく、フルタ製菓の十分な了解を得て作成してもらったものである。
5 原告機械九と被告機械九との対比
(一) 右両機械の各設計図を比較検討すると、左記のような構造上の相違が見られる。
(1) 乙第二一号証の一のシリンダー組立図とこれに対応する甲第四号証の一三の部品図とを対比すると、機能的に重要なスクリューのピッチが、原告機械九では一〇〇ミリメートル、被告機械九では一二〇ミリメートルと異なるうえ、シリンダーの内径も異なる。
(2) 乙第二一号証の二ないし五のシャフト関係部品図とこれに対応する甲第四号証の一四の部品図とを対比すると、スクリューと中空軸の接続の仕方が異なり、原告機械九ではキーを使用しているが、被告機械九ではフランジを使用し、より丈夫になっている。
(3) 乙第二一号証の一三ないし一八の部品図とこれに対応する甲第四号証の一五、一七、一八の部品図とを対比すると、スクリューについては一見して図面の書き方が異なるうえ、構造的にも右(2)のとおり、スクリューと中空軸の接続の仕方が異なることから、形状が異なる。また、その加工の仕方も、原告機械九では一体型であるが、被告機械九では加工がしやすいように、一方の口を取外しが可能なようにボルトで止める等の工夫がされている。また、送り出し羽根についても、原告機械九でなキーで結合しているが、被告機械九ではビスで結合し、送り出し羽根の口を斜めにカットして組み立てしやすくする等の工夫がされている。
(4) 乙第二一号証の二七の駆動モートル取付部とこれに対応する甲第四号証の九モートル取付部及びギヤーケースカバーとを対比すると、図面の書き方が異なるうえ、両機械に使用されているモーターの容量が、原告機械九では二二KW、被告機械九では三〇KWと異なることから、寸法等が全く異なる。
(5) 乙第二一号証の三〇の部品図とこれに対応する甲第四号証の一二の部品図とを対比すると、図面の書き方、寸法が異なるほか、パイプ受けの形状が、原告機械九ではドレン受けとパイプ受けとが一体型であるが、被告機械九では両者が取り外し可能になっているとの構造上の相違が見られる。
(6) 乙第二一号証の三三のプーリー軸端軸受図とこれに対応する甲第四号証の五、六のプーリー軸メタル台とを対比すると、一見して書き方、寸法が全く異なる。また、乙第二一号証の三五のベースとこれに対応する甲第四号証の一一のコモンベースとを対比しても、一見して書き方が異なるだけでなく、構造、寸法等も全く異なっている。
(7) 乙第二一号証の三八のブラケットとこれに対応する甲第四号証の一五の部品図とを対比すると、その書き方や寸法が異なるほかに、被告機械九には原告機械九にはないOリング取付用の溝がある等の構造上の特色が見られる。
(二) 両機械の設計図の間には、右(一)のような構造上の相違のほかにも、形状、寸法の相違が見られるが、証拠として提出されている原告機械九の設計図の中には、被告機械九の設計図の部品図に対応する部品図がないため、その相違点を正確に比較できない。そのうえ、その理由は明らかでないが、原告機械九の設計図には甲第四号証の九、甲第四号証の一九を除いて部番の記載が一切なく、そのうえ右甲第四号証の九記載の部番と対応する甲第四号証の一九記載の各部番が表示する部品が全く異なっているのである。
(三) 以上の事実から明らかなとおり、被告機械九の設計図は被告会社において独自に作成されたものであり、原告機械九の設計図を参照したり、模倣したりして作成されたものではない。
6 原告機械一〇と被告機械一〇との対比
(一) 右両機械の全体の構造等につき、その相違を検討するため、被告機械一〇については乙第二二号証の二六のLC-一リクィド・クリーナー図、原告機械一〇については甲第五号証の一の卓上型ペーストクリーナー組立図の両図を比較すると、次のような相違が見られる。
(1) まず一見して、両機械に使用されているモーターの構造及び形状が全く異なることが知れる。その主要な相違点としては、被告機械一〇ではプレーキ付きのモーターが使用され、リミットスイッチ(蓋用安全スイッチ)も装着されているため、その安全性が極めて高いのに反し、原告機械一〇では普通のモーターが使用されているうえ、組立図を見る限りリミットスイッチも装着されていないため、その安全性が劣る。また、被告機械一〇ではコントロールボックスがモーターとドラム本体の中央部に大きく独立され、操作もしやすくなっているが、原告機械一〇ではそのようになっていない(乙第二二号証の二二ないし二四と甲第五号証の一七参照)。
(2) その他、本体ドラムのR形状及び寸法が異なる等、被告機械一〇では鋳物形状のシンプル化を目指し、加工がしやすくコストを削減するための工夫がされている。
(二) また、両機械の各設計図を比較すると、次のような相違が見られる。
(1) 乙第二二号証の二のクリーナー部品図とこれに対応する甲第五号証の五のカバー図とを比較すると、一見して両図面の書き方、形状、寸法が異なることが明らかであるし、特にR形状が異なり、被告機械一〇は原告機械一〇より加工がしやすくなっている。
また、乙第二二号証の三は右クリーナー部品図の一部である製品の出口部分の部品図であるが、これに対応する甲第五号証の七の製品取出口図とを対比すると、両図の寸法がかなり異なるため、それに伴って形状も異なっている。
(2) 乙第二二号証の四のコモンベース図とこれに対応する甲第五号証の四の本体ベース図とを対比すると、両機械には前記(一)のような相違があるため、両図面の書き方、寸法及び形状が明らかに異なる。
(3) 乙第二二号証の五ないし九のクリーナー部品図の中の各部品図と、これに対応する甲第五号証の一一の底板及び甲第五号証の八のモーター取付用板とを対比すると、寸法、取付穴の数等に相違が見られる。特に被告機械一〇にはベルト点検用の覗き窓(乙第二二号証の九参照)があるのに、原告機械一〇にはこれがないことが知れる。
(4) 乙第二二号証の一一のスクリーン図とこれに対応する甲第五号証の三のスクリーン図とを対比すると、両図面の寸法が異なるほかに、網目の間隔が原告機械一〇では一ミリメートルであるのに対し、被告機械一〇では二ミリメートルになっていて全く異なるし、スクリーンリングBと上部リング、乙第二二号証の一二のスクリーンリングAと下部リングの各図とを対比すると、両リングの形、寸法が全く異なることが知れる。
(5) 乙第二二号証の一六の主軸プーリー押え金、同号証の一七のモータープーリー押え金と、これに対応する甲第五号証の一二の18C番の図とを対比すると、両図面の寸法が異なるほかに、被告機械一〇では二種類のプーリー押え金を使用し、いずれも形状が段付きであるのに対し、原告機械一〇では一種類のプーリー押え金を二個使用し、いずれも段付きではない。
(6) 乙第二二号証の二五のリングヒーター図とこれに対応する甲第五号証の一六の保温用ヒーター図とを対比すると、構造が全く異なり、被告機械一〇では端子式で丈夫なのに、原告機械一〇ではリード線式で断線しやすくなっている。また、ヒーター表面の材質も異なり、被告機械一〇ではステンレスを使用しているが、原告機械一〇ではアルミニウムを使用している。
(三) 以上の事実から明らかなとおり、被告機械一〇の設計図は被告会社において独自に作成されたものであって、原告機械一〇の設計図を参照したり、模倣したりして作成されたものではない。
7 原告機械一二と被告機械一二との対比
(一) 両機械の設計図について対比するについては、原告機械一二のうちST五〇〇ストレージタンクに関する甲第六号証の一ないし二二の設計図と被告機械一二のうちTT五〇〇ストレージタンクに関する乙第二三号証の一ないし一六とを対比することにするが、被告機械一二については、一部TT三〇〇〇ストレージタンクの設計図が含まれている。その理由は、被告会社が最初に製作したストレージタンクが、昭和五六年五月頃にカバヤ食品に納入したTT三〇〇〇ストレージタンクであったことから、昭和五七年一〇月頃に山崎製パンに納入したTT五〇〇ストレージタンクの製作に当たっては、その設計図の作成につき使用できる範囲でTT三〇〇〇(又は二〇〇〇)の設計図を共用しているためである。したがって、乙第二二号証の一ないし七(設計図としては三枚)はTT三〇〇〇(又は二〇〇〇)の設計図であり、乙第二三号証の八ないし一六(設計図としては四枚)のみがTT五〇〇用の設計図となっている。
(二) 次に、右両機械の全体の構造等につき、その相違を検討するため、被告機械一二については乙第二三号証の六の底部組立図及び乙第二三号証の七の頭部組立図、原告機械一二については甲第六号証の二の底部軸受部図及び甲第六号証の一の駆動部組立図の両図を比較すると、一見して右両図の書き方が全く異なることが明らかである。また、構造上の相違についてみると、TT五〇〇にはOリング(部番6番)があるほか、チョコレートの中に油が進入するのを防ぐために、油受皿(部番23番)が被告会社独自の考案として装着されているが、原告機械一二にはこれらがいずれもない。
(三) また、右両機械の各設計図を比較すると、次のような相違がある。
(1) 乙第二三号証の一ないし四の部品図とこれに対応する甲第六号証の八の下部ベアリングハウジング図とを対比すると、その書き方、寸法、形状が異なる。そのほかに、乙第二三号証の三のブラケット図を甲第六号証の八のブラケット部分の図と比べてみると、被告機械一二にはフランジ部分に補強リブがあるし、Oリングもあるが、原告機械一二にはこれらがいずれもない。
(2) 乙第二三号証の五の六角穴付きボルトと甲第六号証の二二のスタッドボルトとを対比すると、一見して寸法、形状が異なることが明らかである。
(3) 乙第二三号証の八のタンク本体図と甲第六号証の七のタンク図とを比較すると、タンク用の鏡板は、一般に市販品を使用するため、同じ大きさの鏡板を使用するとタンクの直径も同じになるし、タンクそのものの形状も大体において似てくるが、被告機械一二にはドレン、エアー抜きの穴があるのに、原告機械一二にはそれがないという相違のほか、足や温水の出入口の大きさや温度計の接続口の形状等が両機械で異なる等の相違が見られる。なお、乙第二三号証の八の設計図には甲第六号証の七にはないタンク底部詳細図が描かれている。
(4) 乙第二三号証の九の撹拌翼部図と甲第六号証の九の主軸図とを対比すると、一見して書き方が全く異なることが明らかであるし、その寸法も異なり、特に撹拌軸(主軸)の太さが異なる。
(5) 乙第二三号証の一一及び同号証の一三のピン図と甲第六号証の一〇のピン図とを対比すると、その寸法及びピン穴の直径が異なるほか、被告機械一二では長さの異なる二種類のピンを使用しているが、原告機械一二では同じ種類のものを使用している。
また、乙第二三号証の一二のカラーと甲第六号証の一二のカラーとを対比すると、その形状、寸法が全く異なる。
(6) 乙第二三号証の一四の頭部モーターベース&蓋取付図と甲第六号証の六のモーターベース&蓋図とを対比すると、書き方、寸法が異なるほか、蝶番の長さが異なり、被告機械一二では長蝶番を使用し、原告機械一二では短い蝶番を使用している。また、両機械では、ボルトの数、チョコレート入口の大きさ等に相違が見られるが、所詮は蓋なので機能的な相違はない。
(7) 乙第二三号証の一五の油受け皿は被告機械一二に独自のものであって、原告機械一二にはないので、これに対応する原告機械一二の部品図はない。
(四) 以上の事実から明らかなとおり、被告機械一二の設計図は被告会社において独自に作成したものであり、原告機械一二の設計図を参照したり、模倣したりして作成されたものではない。
8(一) 被告機械は、原告において長年月チョコレート製造用機械類の設計関係の要職にあって、その製品の全てを設計してきた被告中宿が中心となり、その技術と才能を生かして製造したのであるから、被告会社の独自の考案と研究及び従前からの知識と経験が加わったとしても、原告の製品と類似してくるのはむしろ当然であり、そのことから、被告会社の独自性が否定されるわけではない。
(二) 見積図は、あくまでも機械の販売に先立ち、その機械の概要を顧客に知らしめるために、見積書に添付する等の方法で顧客に提示される外形図に過ぎず、見積図だけで機械の全容が明らかになるわけではなく、実際に製作される機械は、製作される前に作成される詳細な設計図(製作図面)に基づいて製作されるのである。このように、見積図は、顧客からの要望があれば見積書に添付する等の方法で顧客に交付されるものであるから、カタログ、サービスマニュアル等と同じく、特に企業秘密として保護されるべきものではなく、被告中宿を初め誰でもが簡単に入手することが可能である。そして、各機械のカタログにはそれぞれの機械と同程度に詳細なミリメートル単位の外形寸法が記入された外形図が描かれているから、被告中宿や被告会社の設計者が、機械の設計図を作成する前に、原告作成のカタログ、サービスマニュアル、被告中宿の手控え等の資料を参照して、被告機械の見積図を作成することは極めて容易である。このような見積図の性質からみて、これを設計図と同等に見ることはできない。
(三) 証人浜田の証言は次の理由により措信し難い。
(1) 証人浜田の証言は、基本的な筋として、同人作成の申述書(甲第二二号証)に従ってされている。しかし、右申述書は、その作成された経過及び証人浜田が作成した乙第二六号証の一ないし三の手紙から判断すると、証人浜田の真意が記載されているとは認められない。
ア 証人浜田の証言によると、右申述書は浜田が自らの手で作成したものではなく、原告代理人であった河原弁護士が作成したものであり、浜田は、同申述書に署名、押印しただけである。しかも、浜田は申述書の宛先が東京地方検察庁となっていることを認めながら、同申述書が裁判に使われると認識していたと証言し、同申述書の内容をよく検討することなく署名、押印したものと思われる。
イ 右申述書の宛先が東京地方検察庁となっていることから判断すれば、同申述書は、原告が被告中宿を原告機械の設計図を窃取した容疑で告訴した件で同庁に提出する目的で作成していると思われるのに、同申述書の作成に当たり、原告代理人はその使用目的を浜田によく説明していないだけでなく、右告訴事件が昭和六一年四月二一日付で不起訴処分となっていることすらも伝えていない。
ウ 更に、重要なことは、浜田が手紙、(乙第二六号証の一ないし三)で告白しているように、同人が証人になることと申述書への署名押印を依頼されたとき、浜田が独立する場合には設計の仕事をやってもらうように便宜を図る約束をするし、絶対に悪いようにしないからと、原告から利益誘導を受けている。
(2) 証人浜田の態度は二転、三転している。
ア 浜田が、被告中宿の前記告訴事件で玉川警察署で取調べを受けたとき、浜田は、被告中宿が原告機械の設計図等を盗取していないと述べている。
イ その後、浜田は、原告からの利益誘導を受けると一転してその立場を変え、前記申述書に署名押印し、本件で証言している。
ウ ところが、浜田は本件の証言が終了した後約一年半を経過した昭和六三年一〇月一五日頃、突然に、被告会社代表者に対し、前記手紙を渡し、遅ればせながら裁判所に対し、偽証罪を覚悟のうえで偽証罪告白の申立てを行い、自分の気持ちにけりをつけたいと考えている旨述べ、再びその言い分を翻している。
(3) 以上の浜田の態度を反映して、本件における浜田証言は、曖昧で矛盾した供述が随所に見られる。
(四) 設計、考案から製造、販売までの期間が短期間であるとの点については、被告中宿の原告における経験及びその間に培われた技術と能力及び被告会社が従前から蓄えてきた経験、知識等の企業力等から考えて、三年という期間は短期間ではない。特にチョコレート製造用機械類の製造、販売は、顧客からの注文により開始されるのであるから、その納期については、殆どが顧客の要請で早期に決まることが多く、製造業者としてはその要請に応えざるを得ないことも多く、機械の受注から納入まで三か月ないし四か月ということも多いのである。
9 抗弁1(原告の承諾)
(一) 被告会社が被告中宿を雇用するに至った経緯
被告会社代表者であった谷沢秀夫は、業界の上部団体である東京都糧食機工業協同組合の専務理事をしていた当時、原告が同組合に入会したこともあって、原告の代表者であった長喜久松と知り合った。
原告の赤塚総務部長(後に取締役に就任)は、昭和五五年三月の右協同組合の会合で、原告の社長の意向として、被告代表者に対し、次のとおり強く要請した。その内容は、原告に勤務している被告中宿は定年退職になるが、良い会社に再就職させたい、ついては被告会社で採用して貰えないか、被告中宿が原告に二〇年以上勤めていて、機械設計図は全て製作しており、技術的に優れた人材である。被告中宿はチョコレート機械については専門家であって、チョコレート関係の機械を製造するには適任者であり、被告会社で今後チョコレート機械の製造を始める場合には大変役に立つ。現在、原告は受注が多く、予定の注文を受けた後は注文を断らざるを得ない状態となっている。被告中宿が採用された場合には、残った受注を受けて頂いてもよい。一つ被告中宿の面倒を見てくれないか。これは社長からの頼みなのでよろしくお願いしたい、というものであった。この結果、被告会社は被告中宿を雇用したのである。
(二) 被告中宿は、原告機械の設計図の作成を一手に受け持っていたものであるから、被告中宿の頭脳には原告で作成していた設計図が記憶されており、被告中宿が被告会社に勤務してチョコレート製造用機械の開発に従事すれば、原告で作成していた設計図と類似する設計図を作成する可能性は十分考えられるし、また、同一と思われる設計図を作成することもあり得ることと言わねばならない。しかも、右(一)のとおり、原告の被告会社に対する被告中宿の雇入れの要請は、被告会社が被告中宿を採用した場合には、原告が断った注文を受けてもよいというものであって、右のような行為のあることを是認していたものと言うべきである。
よって、被告会社の右要請は、被告会社が原告の設計図と類似するものを作成しても、また、同様と思われるものを作成したとしても差支えないとの承諾を含むものと解すべきである。
10 抗弁2(消滅時効)
(一) 原告が主張する不法行為は、被告中宿が昭和五五年に原告を退職し、被告会社に就職したが、原告会社を退職するに際し、原告が所有するチョコレート製造用機械の設計図を盗取し、これを被告会社に持ち込み、被告会社はこの設計図を使用して、原告機械と全く同一又は本質部分において同一の機械(コピー機)を製造、販売したというものである。そして、その損害賠償を求め、損害額の算定方法として、第一に、原告は被告会社が一台コピー機を製造、販売することに機械一台分の損失を被るので、被告会社の機械一台毎の販売利益の一五パーセントが原告の損失であると主張している。第二に、被告会社の総売上高中のチョコレート製造用機械の売上高を原告独自に計算し、その売上高中の一五パーセントが被告会社の利益であると同時に原告の損害であるとして損害額を算出している。前者では、販売した機械一台ごとに損害が発生するものとし、後者では、各決算期毎に損害が発生するものとしている。
(二) ところで、不法行為が継続して行なわれ、そのために損害も継続して発生する場合には、損害の発生する限り日々新しい不法行為に基づく損害として、各損害を知った時から別個に消滅時効が進行するとされている(大連判昭和一五年一二月一四日)。これを原告の主張に当てはめると、販売した機械の一台毎に損害が発生するものとした場合、販売から三年を経過することにより、消滅時効が完成する。また、各決算期毎に損害が発生するとした場合、決算の日から三年を経過することにより、消滅時効が完成する。被告らは、原告のこれまで主張のうち、機械販売の日又は決算の日から三年を経過してされた損害賠償請求権については消滅時効を援用する。
(三) 右(二)を詳述すると、別紙機械一覧表記載の機械のうち、原告が平成元年一二月七日付訴え変更申立書で追加した機械で、昭和五六年から昭和六一年までに販売されたものについては、原告に損害が発生しても、その損害賠償請求権は、原告が右訴え変更を申し立てた平成元年一二月七日の時点で既に消滅時効にかかっているからこれを援用する。また、右訴え変更申立書で追加された昭和五六年度決算期から昭和六一年三月決算期までに発生した各決算期毎の損害賠償請求権も右と同様消滅時効にかかっているのでこれを援用する。原告が平成五年一〇月二一日付請求の趣旨拡張申立書(第二)で追加された損害のうち、平成五年一〇月二一日から三年前の平成二年度までの決算期については、平成元年一二月七日付訴え変更申立書の請求により消滅時効の進行を中断している昭和六二年度決算期から平成元年度決算期までの部分を除いて、平成二年一〇月二〇日までの分は消滅時効にかかっている。したがって、被告らは、昭和五六年度決算期から昭和六一年度決算期までの各期と、平成二年度決算期分については消滅時効にかかっているので、時効を援用する。
四 甲事件の抗弁に対する認否
1 抗弁1は否認する。被告らの抗弁は、何らの立証に基づかず、原告の当時の代表者長喜久松が既に死亡していることに乗じて創作した物語に過ぎない。
原告は、昭和七年頃から、チョコレート関連の器具類の製造、販売に従事し、戦後は高級チョコレート製造用機械及びプラント類の製造に進み、本件のような高級機種については、日本唯一のメーカーとして独占的地位を築いた。これは三〇年以上の長きにわたり、社員一丸となって高級チョコレート専門の製造用機械の開発、改良に心血を注いだ賜物である。このように、原告が三〇年以上を費やして蓄積した無数のノウハウは設計図に化体されており、それゆえ、設計図は原告の長年の企業努力、経験そのものを化体するものなのである。
創業者として自己の生涯をチョコレート製造用機械の開発に捧げた長喜久松が、何らの対価を得ることなく、原告にとっての至宝ともいうべきノウハウを、原告と同じ菓子機械製造業界にある被告会社に譲り渡すことはあり得ない。
更に、長喜久松は、既に昭和五〇年頃から、高齢病弱のため原告に出社しておらず、被告中宿が定年を迎えた昭和五四年一一月以降、被告中宿の再就職を斡旋することは到底不可能なことであった。昭和五〇年以降は、長宏久が専務の肩書きで原告の経営にあたっていたのである。
なお、東京都糧食機工業協同組合では、長く長喜久松が理事長を勤め、同組合の発展に尽力し、その功績により叙勲を受けた。同人が同組合の上部団体である財団法人日本食品工業界の会長に就任したため、同組合の理事長を勇退した後になって、被告会社代表者谷沢秀夫は同組合の専務理事になったようである。同人の専務理事就任時に初めて原告が右組合に入会したというものではない。
2 抗弁2は否認する。民法七二四条の消滅時効は、「被害者……カ損害及ヒ加害者ヲ知リタル時」より進行するから、本件においても、消滅時効の起算点は原告が被告会社による各機械の販売を知ったときに求められるべきである。
(一) 平成元年一二月七日の訴え変更申立書に基づく請求分について
原告にとっては、被告会社の販売状況を把握するのが大変困難であったため、被告会社が被告機械を販売した時期と、原告がそれを知った時期との間にはかなりの乖離がある。別紙販売機械一覧表記載中の平成元年一二月七日付訴え変更申立書による機械の販売の事実を原告が知り得たのは、次のとおり、昭和六二年以降であり、これらの請求に対する消滅時効は平成元年一二月七日には成立していない。
(1) 別紙販売機械一覧表のうちの、被告機械六、一二、一七についてのモロゾフ(株)、被告機械一三についての(株)梅林機械、被告機械一四についてのイトウ製菓(株)の各販売の事実については、昭和六三年に行なった弁護士法二三条の二に基づく照会に対する各社からの回答により、原告の知るところとなったものである(甲第一三八号証の一ないし三)。
(2) 同一覧表のうちの、被告機械四、一六についての日新化工(株)、被告機械一八についての中村化成、被告機械一九についての東京フード(株)の各販売の事実については、原告が右各会社から、原告が以前に納入した機械の修理を依頼された折に、原告代表者又は原告従業員が右各会社の工場に立ち入ったところ、たまたま被告会社製の右各機械が納入してあるのを現認し、これによって被告会社による販売の事実を知ったものである。その時期は、被告機械一八については昭和六二年、被告機械四、一六、一九については昭和六三年である。
被告会社による販売時期に関しては、右一覧表記載の各時期に、右販売先各会社から原告に対し見積書提出の要望があったが結局は販売に至らなかったので、右見積書提出の要望があった時期に被告会社が納入したのではないかと推測したものである。
(3) 同一覧表のうち、被告機械七についてのハンター製菓(株)及び(株)恵那名糖については、各会社より任意に、被告会社から購入した旨の情報の提供を受けたものであり、その時期はいずれも昭和六三年である。
(4) 同一覧表のうち、被告機械二二についての森永製菓(株)については、原告が昭和五九年に森永製菓(株)に対してエンローバープラントを納入したのと同時期に被告会社から納入されたものであり、原告は右販売の事実を昭和五九年から知っていた。しかし、原告が製造しているエンローバープラントは一色のチョコレートのみを使用するものであるのに対し、被告会社が納入した右エンローバープラントは二色のチョコレートを被覆するタイプのものであったため、原告としては被告会社の二色エンローバープラントが原告のエンローバープラントと実質的に同一の機械と言えるのかどうか判らなかった。そのため、昭和六〇年七月の原告による請求の趣旨の拡張の折には請求に加えることができなかった。ところが、その後昭和六三年に、被告会社の二色エンローバープラントはチョコレートを被覆する部分を二回路に変えたのみで、機械構造、プラント構造としては実質的に原告のエンローバープラントと同一の機械であるとの情報を得たため、平成元年一二月七日の訴えの変更において請求したものである。
(5) 被告会社の売上高に基づく損害の請求については、損害計算の根拠となった調査会社の調査結果により原告が被告会社の各年度毎の売上高を知ったのは昭和六三年であるから、平成元年一二月七日の訴え変更の時点においては時効は完成していない。
(二) 平成五年一〇月二一日請求の趣旨拡張の申立(第二)に基づく請求分について
右損害額算定の基礎となった被告会社の売上高のうち平成元年以降のものに関する情報は、原告が平成四年に依頼した調査会社の調査結果に基づくものである。このように、原告は平成四年に初めて被告会社の平成元年以降の売上高を知ったものであり、右申立ての時点では消滅時効は完成していない。
五 乙事件の請求原因
1 原告は、甲事件の手続が進行した昭和五九年一〇月頃、同事件の手続において原告、被告ら双方の主張が対立し、原告のチョコレート製造用機械の設計図が法的保護に値する財産的価値を有するとはいえず、しかも、原告から被告中宿が右設計図を、いつ、どこで複写した等の具体的な盗取行為の主張もない状態であったにもかかわらず、被告両名を警視庁玉川警察署に、右設計図の窃盗容疑で告訴した。
そのため、昭和五九年一二月に、被告会社の常務取締役阪本義朗、課長佐々木正美が、昭和六〇年一月に、被告会社の社員浜田広ほか二名及び代表取締役谷沢秀夫が、同年二月に、被告中宿が、それぞれ玉川警察署に各一回ずつ呼び出され、その取調べを受け、その後、被告中宿だけが東京地方検察庁から同年二月二〇日過ぎに二度呼び出され、その取調べを受けた。
しかし、右告訴事件は、昭和六〇年四月二一日をもって不起訴処分となった。右告訴は、甲事件の訴訟手続においてさえ、被告中宿の窃取行為が認められる見込みもない状況で行われており、単に被告らに精神的な苦痛及び圧迫を加えることを目的としたいやがらせ以外の何ものでもなく、原告の権利の濫用である。
2 原告は、甲事件の訴え提起後の昭和五九年二月二七日、被告会社の得意先(原告の得意先と殆ど同じ)に対して、「被告両名に対し、原告の工業所有権上の財産たる設計図、マニュアル等を不法に盗用したことを理由に」甲事件の訴えを提起した旨、及び「右盗用図面で製作された機械を御社が購入した場合には、状況によっては使用停止、損害賠償請求等の御迷惑をおかけする様な事も考えられますので……」との内容の書面(以下「第一回書面」という。)を送付した。
更に、原告は、昭和六〇年七月下旬頃、既に右告訴事件が同年四月に不起訴処分により終了しているにもかかわらず、前記得意先に対して、「被告中宿は原告退職時、企業秘密である弊社の大量の設計図をコピーして不法に持ち出し、転職先の被告会社にて同設計図を使用し多種の同一機械を製造販売したのであります」と断定し、かつ、「右不法行為を行った被告両名を、昨年更に刑事事件として告訴し、警視庁の取調べも終り、現在東京地方検察庁で取り調べ中でございますので、検察庁担当検事より貴社、担当の皆様に御問合わせする場合も考えられます」との内容の書面(以下「第二回書面」という。)を送付した。
しかし、原告は、第一回書面において、何ら工業所有権上の権利を有しないのにあたかも有しているかのごとく、「工業所有権上の財産たる設計図、マニュアル等」と虚偽の記載をし、また、前記訴訟の提起がされただけでは、いかなる状況になっても、購入先に対して購入した機械の使用停止、損害賠償請求がなされることは考えられないのに、それがあるかのように紛らわしい記載をし、第二回書面において、既に同書面を送付する三か月前に前記告訴事件が不起訴処分になり、検察庁の取調べが終了しているにもかかわらず、「現在、東京地方検察庁で取り調べ中でございます」ので「検察庁担当検事より貴社、担当の皆様に御問合せする場合も考えられます」と虚偽の事実を記載し、また、同書面の前半で、あたかも被告中宿が原告の設計図を大量にコピーし持ち出したことが、甲事件又は前記告訴事件の過程で既に認められたかのごとく断定的な表現している。
3 原告の右1の行為により、被告らは、被疑者として警察署又は検察庁の取調べを受けることが初めての経験であったので、多大の精神的苦痛を受けた。
また、右2の行為は、その内容が事実に反するか又は誤解を生じさせる表現になっており、かつ、右各書面が被告会社の不特定多数の得意先に配付されたので、被告らは、右各書面の送付によりその信用及び名誉を著しく毀損され、多大の精神的苦痛を受けた。
右原告の各不法行為により被告両名が被った精神的な損害を金銭に換算すると、被告会社は金二〇〇万円、被告中宿は金三〇〇万円に相当する。
4 よって、被告らは不法行為による損害賠償請求権に基づいて、原告に対し、被告会社について金二〇〇万円、被告中宿について金三〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年一一月八日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを求める。
六 乙事件の請求原因に対する原告の認否
1 請求原因1の第一段落は、原告が被告中宿を警視庁玉川警察署に、設計図の窃盗容疑で告訴したことは認め、その余は否認する。原告は、被告会社に対する告訴はしていない。第二段落は知らない。第三段落は否認する。
2 請求原因2は否認する。原告は、同項に記載してあるような書面二通を被告会社の得意先ではなく、原告の得意先に送付したのである。
3 請求原因3は否認する。
4 請求原因4は争う。
七 乙事件についての原告の主張
1 原告が被告中宿を告訴したのは、被告中宿が、原告の長年にわたるノウハウの蓄積であるチョコレート製造用機械の設計図を不法に複写して外部へ持ち出すという極めて悪質な行為をし、これによって原告に多大な損害を与えているにもかかわらず、一向に改俊の情が認められなかったからである。玉川警察署も、告訴事件について、被告中宿の容疑が濃厚であると認めたからこそ告訴を取り上げて捜査に踏み切ったのである。したがって、原告が被告中宿を告訴したのは、刑事事件の被害者としての正当な権利の行使であり、いささかも不法行為に該当するものではない。
2 原告がその得意先に配布した書面は、二通とも到底不法行為を構成するものではない。
(一) 被告らは、原告が第一回書面において虚偽の記載をしたと主張するが、これは事実に反する。すなわち、原告の設計図、マニュアル等は著作権法上保護される著作物であり、更に設計図は原告が有するノウハウの結晶であって、このようなノウハウが工業所有権を構成する点は学説、実務上も争いがない。また、この書面を送付した昭和五九年二月当時は、既に提起していた甲事件に加えて、製造停止及び使用停止等の差止請求又はその仮処分を提起する予定だったのである。原告としては、もし機械の使用停止等が認められた場合に、事前に何の連絡もしておかないと、原告の得意先に迷惑がかかってしまう虞れがあるため、予め書面を送付したのである。したがって、第一回書面の内容及びこれを送付した動機について何ら不当なところはない。
(二) 第二回書面についても虚偽の記載などしていない。原告は、前記告訴事件は現在まで継続していると考えている。原告は、新しい証拠が発見されたことに基づき、更に捜査を進めるよう当局に上申しており、第二回書面を送付したときも、検察庁から、原告の得意先に問合せがされる可能性が十分あったのである。
ところで、原告が被告中宿を玉川警察署に告訴したどころ、捜査に当たって、同署から原告の得意先に問合せがされたため、問合せを受けた得意先数社から原告に対し、「いきなり警察から問合せがあって非常に驚いた。刑事告訴をしたのなら問合せがあるかもしれない旨を予め連絡しておいてくれればよかった。」という強い要望を受けたのである。そこで、原告としては、再び検察庁からの問合せがあるかもしれないことを考慮し、得意先の要望を容れて、事前にそのような事情を知らせるべく、第二回書面を送付したのである。
以上のように、第二回書面も、その内容、書面を出した動機について、何ら不当なところはないのである。
第三 証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
第一 甲事件について
一 請求原因1のうち、原告が肩書地においてチョコレート製造用機械を製造、販売する会社であること、被告会社が肩書地において米菓機械、製餅機械の製造、販売に従事し、昭和五五年夏頃からチョコレート製造用機械の製造、販売をしていること、被告中宿が原告に勤務していたこと、被告中宿が昭和五五年五月二一日頃から被告会社に勤務したことは当事者間に争いがない。
二 成立に争いのない乙第二七号証、乙第二九号証の一ないし五、原告代表者尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第一一三号証、甲第一一四号証の一ないし六、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一八号証の一ないし三、甲第二二号証、乙第四六号証、弁論の全趣旨により原本の存在とその真正な成立が認められる甲第五七号証の一ないし一〇、証人曽山貢、同浜田広、同倉田弘義の各証言、原告、被告会社各代表者尋問の結果に当事者間に争いのない事実、弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
1 当事者
(一) 原告は、原告代表者の父である長喜久松が昭和七年に個人商店であるオサ商店としてチョコレート製造用機械の製造、販売を開始したことに端を発する。長喜久松は、終戦後、太平興産株式会社との商号で原告を設立して、製菓機械の製造、販売を行ない、その後、同社は昭和二九年に至って商号を現在のオサ機械株式会社と改めるとともに、チョコレート製造用機械の専門メーカーとしてその製造、販売を開始した。
(二) 被告中宿は、昭和三二年頃、パートタイマーとして原告での勤務を開始し、昭和三四年に設計部員として原告に採用された。被告中宿は、その後、原告においてもっぱら設計の業務を担当し、後に設計課長となり、昭和五四年一〇月末で定年退職となったが、退職後も同年一一月から嘱託として原告会社に勤務した。この間、被告中宿は、原告機械の殆どについてその設計業務に関与した。被告中宿の嘱託期間は三年間であったが、被告中宿は、その期間中の昭和五五年五月二〇日に原告を退職し、同月二一日頃から被告会社での勤務を開始した。
(三) 被告会社は、大正一四年に発足した谷沢商会に端を発し、昭和五五年夏頃までは、米菓、餅類等の機械の製造、販売を業としていたが、昭和五五年五月二一日頃被告中宿の入社以来、チョコレート製造用機械の製造、販売に着手した。
2 被告らによる原告機械設計図の無断複製、使用を疑わせる事実
(一) 原告におけるチョコレート製造用機械の設計図作成期間及び機械の開発期間
原告においては、チョコレート製造用機械の設計業務を設計部で行なっているが、設計部員の数は、昭和三〇年代は六人ないし八人、昭和四〇年代は多いときで一〇人、昭和五〇年代は工場長を含め六人ないし八人であった。
(1) 原告機械七の開発経緯
原告では、昭和二九年頃には、バッチ式のオートテンパーの製造、販売を行なっていたが、昭和三三年頃から自動テンパリングマシーンの開発に着手し、試作機を製作した。そして、昭和三四年一月には株式会社不二家の依頼を受けて、原告機械七の前身となる機械の設計、開発を開始し、同年五月に設計図が完成し、同年一〇月に試作機を製作し、昭和三五年二月に第一号機を完成させて株式会社不二家鶴見工場に納入した。原告は、昭和三六年に原告機械七の冷却部に改良を加え、昭和四四年にはリヒート部に改良を加え、昭和五〇年には撹拌部を増設し、更に昭和五〇年から昭和五三年にかけて小さな改良を加えたうえで、完成機として最終カタログに掲載し現在に至っている。
(2) 原告機械二の開発経緯
原告は、昭和四七年九月に原告機械二の設計、開発に着手し、昭和四八年一月に設計図を完成させた。そして、同年四月に第一号機を完成させて松尾製菓株式会社に納入した。その後、昭和四九年一月に第一回目の改良設計に着手し同年一〇月に改良型を完成させた。更に、昭和五二年一一月に第二回目の改良設計に着手し、昭和五三年八月に改良型を完成し、現在に至っている。
(3) デポジッタープラントの開発経緯
原告は、昭和三五年にデポジッターの開発に着手し、更に昭和三八年からは竪型クーラーとディモルダーの開発に着手した。これらの単体機械を完成し、これらを連結させることにより全過程を一貫して無人化で行なえるプラント全体が完成したのは昭和五一年のことであった。
(4) チョコレート製造用機械の開発、設計期間
原告においては、一つの機械を設計するのに二名ないし三名がチームを組んでこれを行なっているが、右の各機械の開発にも明らかなとおり、単体の一つの機械を設計するのに約四か月を要し、更に一つの機械の一号機を完成するまでには少なくとも半年以上を要し、プラント全体を完成するには一〇年以上を要する場合もある。
(二)(1) 被告会社では、被告中宿の入社により、チョコレート製造用機械の設計部門を設け、被告中宿を設計部長とし、その後昭和五五年一一月に浜田広を、昭和五六年四月に井原を、昭和五六年九月に白石を、昭和五七年四月に倉田弘義をそれぞれ設計部員として採用し、右倉田の採用時点で設計部員は五名となった。その後、昭和五九年一一月頃には、設計部員は七、八名となっていた。しかし、右採用された部員は、被告中宿を除いては全て採用時点でチョコレート製造用機械の設計の経験はなく、被告中宿の指導を受けながら同機械の設計の仕事を覚えていく状況であった。
(2) ところが、被告会社では、昭和五五年一一月から昭和五八年九月までの三年弱の間に、少なくとも被告機械一を四台、被告機械二を八台、被告機械四を三台、被告機械五を一九台、被告機械七を七台、被告磯械八を五台、被告機械九を二台、被告機械一〇を一五台、被告機械一一を二台、被告機械一二を一八台、被告機械一三を一台、被告機械一四を一〇台、被告機械一五を一台、被告機械一八を二台、被告機械一九を一台、被告機械二〇を一台、被告機械二一を三台、被告機械二三を一台の合計一八機種を製造、販売した。また、昭和五八年一〇月頃までの間には被告会社が被告機械のうち、被告機械四、一六、二四を除く二一機種を製造、販売したことは当事者間に争いがないから、被告機械三、六、一七、二二も右時期までに被告会社が販売していた。
この内、被告機械一、三、五、七、九、一〇、一一、一二、一四、一八については、昭和五六年九月までの間に製造販売が開始された。
(3) 右各機械は、設計図に基づいて作成されたものと考えられるが、被告機械の設計図が提出されている被告機械一、二、五、七、九、一〇、一二について、その設計図の作成時期及び作成者を見ると、別紙設計図作成経過一覧表記載のとおりである。
ア 右一覧表は原則として、一図ごとに作成しているが、数図であっても一連の図面であると評価できるものについては、一括して取り扱っている。
後記のとおり、被告機械一はまず、乙第一五号証の図面に基づいて一旦製造されて、昭和五六年九月までに一台販売され、その後乙第一四号証が作成されたものと認めるのが相当である。したがって、乙第一四号証については、右一覧表の作成に当たって、先行する乙第一五号証が存在するものについては、これを付記することとする。もつとも、後記のとおり乙第一五号証は乙第一六号証の図面を利用してこれに修正を加えて作成されたものであり、乙第一五号証に記載された作成日付はその基となった乙第一六号証の作成日付と認められるので、乙第一五号証の作成日付自体は明らかでない。なお、乙第一四号証の作成者欄における「H.Si」の記載は白石のことと認められる。
乙第一六号証の一については、被告らはその修正前の図面として乙一七号証を提出し、また、乙第一六号証の一六、一七、二四ないし二六については順次乙第一五号証の三、四、一二、一三、六の修正図であって、修正前の図面は後者であると主張している。そこで、乙第一七号証、乙第一五号証の右各枝番と乙第一六号証の右各枝番とを対比すると、乙第一六号証の一では乙第一七号証と異なって操作盤が組込型となっていること、乙第一六号証の一六ではシリンダー側部断面図の右下に「Oリング溝加工数に留意の事(組立要領図参照)」との書込みが加えられていること、乙第一六号証の一七ではシリンダー上部のリードの数値指示部分の左側に図が書込まれていること、乙第一六号証の二四についてはA部詳細図が削除されていること、乙第一六号証の二五については左側上カバー、右側上カバーの図が削除されていること、乙第一六号証の二六については配電盤の部分の図が削除されていることから、いずれも修正の経緯は被告らの右主張のとおりと認めるのが相当である。しかしながら、改正前と改正後の図面は基本的には同一であり、製図者、作成日付についての記載も同一であるので、以下乙第一六号証の一の図面を含めて、便宜乙第一六号証について一覧表として作成することとする。また、乙第一六号証の設計者における「YN」の記載は被告中宿のことと認められる。
イ 右一覧表の内容について検討すると、被告機械一については、前記のとおり、乙第一五号証の作成日が不明であるので、当初の設計図全体の作成期間について評価することができない。被告機械二については、製図者の記載はないが、いずれも被告中宿の設計であり、昭和五五年九月二七日から昭和五五年一一月三日までの一か月余の期間で作成されたことが認められる。被告機械五については、設計図の枚数も少ないもののわずか三日の間に作成されている。被告機械七については、うち二枚を除いて浜田が昭和五六年二月二〇日から同年三月一六日の一か月足らずの間に作成している。被告機械九については、製図者は乙第四一号証の四一の井原を除いて不明であるが、設計者は殆どが被告中宿であり、作成日不明の四枚及び右井原作成の図面を除いて昭和五六年二月五日から同年三月二日の一か月足らずで作成されている。被告機械一〇は、いずれも製図者は不明で、被告中宿の設計であり、設計図の枚数も少ないものの、昭和五五年七月一四日から同月二三日までの一〇日で作成されている。被告機械一二は容量二〇〇〇キログラムのものの図面が昭和五六年二月一一日から同年三月一二日までの約一か月で、容量五〇〇キログラムのものの図面が井原により昭和五七年三月三一日から五月一二日までの一か月余で作成されているが、容量が異なる図面が組み合わされているので全体としての作成期間を評価するのは相当でない。
以上によれば、設計図が提出されている被告機械の設計図の作成期間は、前記原告機械の設計図の作成期間と比較して、相当短期間であると言うことができる。確かに、被告中宿はチョコレート製造用機械の設計に熟練してはいたものの、被告会社の他の設計部員は経験が浅いこと、前記図面を全て被告中宿が作成したものではないこと、被告会社と原告とでは設計部員の人数に大差はないこと、被告会社は原告と異なりチョコレート製造用機械の設計、製造の経験はなかったことを考慮すると、被告機械の設計図の作成期間は不自然に短いと言うことができる。
(三) 被告中宿が退職する前の出勤状況及び青焼きコピー用紙の消費量は次のとおりである。
(1) 出勤状況
被告中宿が原告の嘱託となってから後の原告退社に近接した時期の土曜日の勤務時間を他の設計部員と比較すると、昭和五四年一一月一〇日の土曜日は、他の設計部員が午後〇時九分までに退出しているのに、被告中宿は午後二時四分まで残業している。昭和五五年一月一二日の土曜日は、他の設計部員が午後〇時一二分までに退出しているのに、被告中宿は午後一時五分まで残業している。同月一九日の土曜日は、他の設計部員が午後五時七分までに退出しているのに、被告中宿は午後七時七分まで残業している。同月二六日の土曜日は、他の設計部員が午後一二時三〇分までに退出しているのに、午後四時五分まで残業している。
以上のように、被告中宿は原告の嘱託となった後、退社に近接した時期の土曜日に、他の設計部員が全員帰宅した後、一人で残業をしていた。
(2) 青焼きコピー用紙の消費量
原告においては、青焼きコピー用紙を株式会社三洋社から購入しているところ、その購入代金額は、昭和五四年八月から同年一二月までの合計が九万六四四〇円であるのに対し、昭和五五年一月から同年五月までの合計が一八万七五九二円であって、被告中宿が原告を退職する直前の五か月の購入量はその直前の五か月の購入量と比較して約二倍に増加していること、特に昭和五五年一月の購入額が五万八六四〇円であって、他の月と比較して際立って多かった。
(四) 被告会社においては、浜田広が採用された昭和五五年一一月から本件訴えが提起される昭和五八年頃まで、被告中宿が書類用キャビネットの中に原告名の入った設計図を多数保管していた(甲第二二号証及び証人浜田広)。
証人倉田弘義はこの点を否定しているが、同証人が被告会社に採用されたのは昭和五七年四月のことであり、浜田広が被告会社に採用されたのは昭和五五年一一月であって、その間に相当の期間の差があり、前記のとおりの被告機械の販売実績及び前記設計図作成経過一覧表の被告機械の設計図の作成日から見て、昭和五七年四月までには被告機械の設計図も既に多数作成されていたと認められるので、両者の証言は必ずしも矛盾するものではない。また、乙第二六号証の一ないし三の存在自体によれば、右書証は、浜田広名義の被告会社坂本社長宛の手紙とその封筒の表裏(封筒の裏に発信日として昭和六三年一〇月一五日を示すと見られる「63.10.15」との記載がある。)であるところ、手紙の中には、証人として出頭するについては、原告から将来浜田が独立するに際し便宜を図る旨の申し出があったこと、本件における証言には偽証の部分があり、裁判所にその申立てを行なうため偽証の部分を整理している旨の記載があることが認められる。しかしながら、右封筒には、受取人の住所や差出人の住所の記載もなく、切手も貼られていないのに、もし、浜田が差出したものならば、どういう経路で被告会社に届いたかを認めるに足りる充分な証拠もないのみか、被告らは乙第二六号証の一ないし三を提出しながら、浜田証人の再尋問の申請も行わないのであって、右書証が真正に成立したことを認めるに足りる証拠はない。更に、手紙に記載された内容についても、原告から浜田への便宜が現実に図られたとの証拠はなく、また、その後当裁判所に対し、偽証の部分を特定した文書が提出されているわけでもない。浜田証人の証言自体、宣誓のうえ、昭和六一年九月八日、同年一一月七日、同年一二月一五日、昭和六二年二月一三日の四回、前後五か月にわたり、十分な反対尋問も経てなされたものであり、細部について若干の記憶の混乱はあるものの、全体としては十分信用性の認められるものであるから、乙第二六号証の一ないし三の存在を理由に浜田証言の信憑性が否定されるものではない。
3 以上の各事実によれば、被告中宿が原告機械の設計図を無断複写してこれを持ち出し、被告会社がその事情を知りながら、右設計図を使用して被告機械を製造したのではないかとの高度の疑いを生じる。
しかしながら、右外形的事実のみによっては、被告らが被告機械のいずれについて原告設計図を使用したかまで特定することはできないのであって、結局のところ、各機械の設計図の対比等をしたうえで初めて、右事実の有無を認定することができるものである。
三 以下においては、以上に認定した事実を前提として、被告らによる原告機械の設計図の盗用、模写によるノウハウ侵害の有無を各機械ごとに認定していくこととするが、それに先立ち、まず、チョコレート製造工程の概要とそこで必要とされる機械について検討することとする。
1 チョコレート製造工程とチョコレート製造用機械について
成立に争いのない甲第一五号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一四号証によれば、次の事実が認められる。
(一) チョコレートの製造工程は大きく、一次加工工程と二次加工工程に分けられる。
一次加工工程は、カカオ豆からビターチョコレートを製造するまでの工程である。原産地から工場に搬入されたカカオ豆は、選別され、焙炒された後、粗砕により皮が除去され、更に胚芽が取り除かれる。その後、原産地の異なる豆が混合され、これをすり潰し細粉化してカカオペーストとする。これを型に入れ、冷却して固化し、型抜きしたものがビターチョコレートである。
(二) 二次加工工程は、ビターチョコレートに手を加えて、板チョコレートや被覆チョコレートを造る工程である。
二次加工工程は、カカオ豆から製品まで一貫作業設備を有する工場では、一旦ビターチョコレートとして固化させることがないので、次に述べる冒頭の溶解工程を経ることなく、混合工程から開始される。
(1) 板チョコレートの製造工程
ア 溶解工程
ビターチョコレートを溶解機でペースト状に溶解する。ここで使用される溶解機は、リックファイヤー又はメルティング・ケトルである。本件で関連するのは原告機械二三、原告機械一三である(被告機械も同様であるが省略する。)。
イ 混合工程
カカオペーストに微粉化した粉糖又は粉乳等を加え、混合機で混合し練り合わせる。本件で関連するのは原告機械二三である。
ウ 仕上ロール工程
混合機で練り合わされたチョコレートを、仕上ロールを使用して粒子を微細化する。
エ 精練(コンチング)工程
仕上ロールから出てきたチョコレート・マスを加熱融解し、コンチング・マシーンでよく練り合わせて全体の組織を均質化し、完全な乳化をはかり口当たりのよいものにする。また、チョコレート中の水分を揮発し、空気に曝露して組成、成分の乳化をはかり、香気、風味の熟成を完成させる。
オ 調温工程
コンチングを終えたチョコレートは、直接又は貯蔵タンク(ストレージタンク)を経て調温工程に移る。この工程は、チョコレートの原液中のカカオバターの安定な結晶母を適量析出して、その分散を十分にし、かつ結晶母を融解消失させることなく成型しやすい粘性を与え、離型しやすく、安定な品質のよい風味のチョコレートを得ることを目的とする。通常スイートチョコレートは摂氏三一度前後、ミルクチョコレートは摂氏二九度ないし三〇度に調温される。
この工程について、自動制御式調温機(オートテンパー)を使用すれば、連続作業ができて能率的である。
本件で関連するのは、原告機械一ないし四、七、八である。
カ 充填工程
調温されたチョコレートを充填機(デポジッター)のホッパーに投入し、ノズルの下に流込型(チョコレート・モールド)を合わせ、正しく計量された一定量のチョコレートを流し込む。型は間欠運動により正確にノズルの下に送られるが、型の静止中に流し込む方法と、移動中に流し込む方法の二種類がある。
本件で関連するのは、原告機械一五ないし二〇である。
キ 振動工程
モールディングした型に振動を与え、チョコレート中の気泡を抜くとともに冷却室に入る前の温度的熟成を行なう工程である。振動機としてシェーキングマシーン又はタッピングマシーンが使用される。
本件で関連するのは、原告機械一八、一九である。
ク 冷却工程
振動された型は冷却工程へ移り、テンパーリングによってできたカカオバターの結晶核を冷却によって成長させ、固化する。冷却機としては、冷却庫(クーリングボックス)又は自動冷却装置(クーリングトンネル)が使用される。
本件で関連するのは原告機械一六、一八、一九である。
ケ 型抜工程
クーリングトンネル等から出てきたチョコレートを型から取り出す工程であり、そのための機械には手動式のものと自動型抜機(ディモルダー)とがある。
本件で関連するのは原告機械一八、一九である。
(2) 被覆チョコレートの製造工程
被覆チョコレートの種類には次のようなものがある。
<1> 玉チョコレート
ホンダントクリームにチョコレートをカバーしたもの。
<2> フィンガーチョコレート
棒ビスケットにチョコレートをカバーしたもの。
<3> バーチョコレート
ヌガー、ソフトキャラメル、ウエハー等にチョコレートをカバーした大型のもの
<4> ファンシーチョコレート
高級ソフトクリーム、キャラメル、シナモン、ヌガー、マシュマロ等を各種の形態に加工し、チョコレートを厚掛けしたもの。あるいは、表面にデコレーション又は甘煮のフルーツの切片等を付着させた高級なもの。
被覆チョコレートは、板物チョコレートと比較してより多くのカカオバター又はイミテーションバター(精製ヤシ油等)を添加し、脂肪分を多量にして粘性を一三〇ないし二六〇ポイズ程度とする。
ア 調温工程
板物チョコレートと同じくテンパーリングマシーンが使用される。
イ 被覆工程
小規模の場合手作業で行なわれることもあるが、通常は被覆機(エンローバー)を使用する。
本件で関連するのは、原告機械二一、二二である。
2 原告機械一について
(一) 機械の概要
成立に争いのない甲第一二号証の一及び弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一一号証によれば、次の事実が認められる。
原告機械一は調温工程に使用されるオートテンパーリングマシーンであり、チョコレートは、冷水が冷却面全般にかつ均一に流れるように螺旋状のガイドプレートを有するジャケットシリンダー内壁と特殊な螺旋リブを有する回転ドラムの間を通して送られる構造となっている。
(二) ノウハウ
(1) 横型三段冷却方式及び冷却筒の構造
成立に争いのない甲第一号証の二、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第八五号証の一、二(いずれも作成日不明)によれば、右書証のうち前者は原告機械一の冷水・温水配管系統図であり、後者の内同号証の一は甲第一号証の二の図面に説明のための書込みを加えた図面、同号証の二は原告機械一の配管系統ダイヤグラフであることが認められる。これらの図面によれば、原告機械一は、機械外のポンプから送られてきたチョコレートを上下二段に横置きに配された第一冷却筒、第二冷却筒の順序で冷却していく構造となっている。第一冷却筒は、冷却筒始端部分は外筒がなく、上部は、運ばれてきたチョコレートが冷却筒の内部に送られるための管が接続されているが、その余の部分の周囲には、温水が流れる空間が設けられている。第一冷却筒の大部分は二重筒状の外筒とスクリューとから構成され、スクリューの表面には螺旋状の突条が設けられ、突条の間はスクリュー溝となっている。また、外筒の二重筒内を冷却水が流れるようになっている。スクリューの末端部及び冷却筒末端部分は機械外の温水タンクから運ばれてきた温水によって暖められる。第一冷却筒と第二冷却筒とは近接して接続されているが、その接続部分も温水によって暖められている。
第二冷却筒は、その始端部分が第一冷却筒と連続して外筒に配された温水で暖められるようになっており、その後の大部分は、第一冷却筒と同様、外筒とスクリューとから構成され、スクリューの表面には螺旋状の突条が設けられ、突条の間はスクリュー溝となっている。スクリュー溝内を送られるチョコレートは、前半部分で、外筒を流れる冷却水によって冷却され、後半部分(リヒートゾーン)では、再び温水によって暖められる。冷却筒の末端部分は、スクリューの径が突条、スクリュー溝のある部分よりも小さくなっていて、チョコレートが溜まりやすくなっており、突条、スクリュー溝はない。この部分からチョコレートは冷却筒外へ排出される。
以上のとおり、原告機械一は、冷却筒が横置きに配置され、その中をチョコレートが水平方向へ移動しながら、冷却、暖めを繰り返される構造となっている。
冷却筒は、大きく見れば、第一冷却筒の冷却部分、第一冷却部末端及び第二冷却部始端の暖め部分、第二冷却部前半の冷却部分、第二冷却筒後半のリヒート部分に分けられる。次の工程につながるリヒート部分を除けば、冷却、暖め、冷却の三段階で冷却されるとみることができる。
また、リヒート部分を除いて、各冷却筒ごとに見れば、それぞれ冷却と暖めのセクションがあり、全体で四つのセクションがあると見ることができる。
以上によれば、原告機械一は横型三段階冷却方式で冷却筒の構造は四つのセクションに分れており、独立に温度調節できる構造であることが認められる。
二つのシリンダーの連結部の撹拌翼の存在についてはこれを認めるに足りる証拠がない。
(2) スクリューと外筒とのクリアランスの寸法
この点について、原告機械一のクリアランスを示す証拠はない。もっとも、後記のとおり、甲第一二〇号証の三によれば、原告機械四のクリアランスについては〇・二五ミリメートルと認められるが、原告機械一のクリアランスについてもこれを同様であると認めるに足りる証拠はない。
(3) チョコレートの流れる溝の深さ
成立に争いのない甲第一号証の一三、書込み部分を除いては成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により曽山貢作成と認められる甲第五五号証の九の二によれば、右書証のうち前者は原告機械一の第一冷却筒スクリューの図面であり、昭和五三年三月九日に作成されたものであること、後者は右甲第一号証の一三の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。成立に争いのない甲第一号証の一七、書込み部分を除いては成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により曽山貢作成と認められる甲第五五号証の一〇の二によれば、右書証のうち前者は原告機械一の第二冷却筒スクリューの図面であり、昭和五三年三月一〇日に作成されたこと、後者は右甲第一号証の一七の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。右各図面によれば、原告機械一は第一冷却筒、第二冷却筒ともスクリューの溝の深さは九・七五ミリメートルとされている。
(4) 以上の原告機械一の(1)、(3)の設計図の記載にはノウハウが表現されているものとして、その侵害から保護されるべきものといえるかについて検討する。
ノウハウとは、産業上利用することのできる技術的思想の創作又はこれを実施するのに必要な具体的な技術的知識、資料、経験等の情報であって、これを創作、開発、作製又は体得した者が秘密として管理しているもので、公然と知られていないものをいうと解される。
そこで、これを原告機械一についてみると、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一三五号証及び弁論の全趣旨によれば、原告の設計図に表現された横型三段階冷却方式及び冷却筒を四つのセクションに分けて独立に温度調節するという構造は、機械のサイズを小型化し冷却効率を高めるという点において、スクリューの溝の深さは、移動するチョコレートの量を最適にして冷却効率をよくするという点において、チョコレート製造にあたってのテンパリングという産業上利用することのできる技術的思想についてこれを実施するのに必要な合理的な方法についての具体的な技術的知識であると認められる。また、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一六号証及び弁論の全趣旨によれば、原告の就業規則(昭和四五年頃作成)一二条柱書には「従業員は正常且つ安全に職責を遂行する為に下記の事項を厳守しなければならない。」とされ、その5号には「会社の事業上の機密及び会社の不利益になる様な事項について一切洩らしてはならない。」と定められ、また、原告機械の設計図は、原告において管理され、修理のために一部の部分設計図等がユーザーに渡されることはあっても、機械全体の設計図が原告以外の第三者に渡されることはなかった。したがって、原告機械一の設計図を含む原告機械の設計図は原告において秘密に管理されていたものと認められる(以下の原告各機械についての秘密としての管理の認定は同様である。)。
被告らは、横型三段階冷却方式は既に知られていたとして弁論の全趣旨によって真正に成立したもの(乙第三二号証の三については原本の存在とも)と認められる乙第三二号証の一、三、七を挙げる。しかしながら、右はいずれも横型ではあるものの、上下二段にはなっておらず、原告機械一とは異なる。弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる乙第三二号証の二には横型で上下二段のものが示されているが、弁論の全趣旨によれば、これは昭和六二年頃にドイツの展示会で入手されたものであって、このような性質の文書の存在によって、原告機械一の横型三段階冷却方式が公知の技術であってノウハウとなり得ないものとはいえない。
よって、右各構造は原告機械一のノウハウと認めることができる。
(三) 設計図の無断複製、模写によるノウハウ侵害の有無
(1) 横型三段冷却方式及び冷却筒の構造に関する設計図の対比
原告機械一の右部分の構造に関する設計図は、前記(二)(1)のとおりである(以下、この(1)項での検討に限り「原告図面」いう。以下においても、各項において対比すべき原告機械の図面を、その項限りの表現として原告図面と略称する。)。
書込み部分を除いては成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により曽山貢作成と認められる甲第八六号証の一及び弁論の全趣旨によれば、右書証は被告機械四の電気系統配線図であり、昭和五六年一〇月二七日に作成されたものであるが、被告機械四と被告機械一とは処理能力が異なるのみであり、右図は被告機械一の図と見ても良いことが認められる。また、成立に争いのない乙第一四号証の二、書込み部分を除いては成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により曽山貢作成と認められる甲第八六号証の二によれば、右書証のうち前者は被告機械一の総組立断面図であり、昭和五六年一二月三日に作成されたものであること、後者は右乙第一四号証の二の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。これらの図面(以下、この(1)項での検討に限り「被告図面」いう。以下においても、各項において対比すべき被告機械の図面を、その項限りの表現として被告図面と略称する。)によれば、被告機械一の構造は次のとおりである(なお、乙第一四号証について、原告はその証拠価値(いわゆる形式的証拠力の趣旨と解される。)に疑問を呈しているが、後に(10)で検討するとおり、乙第一四号証の各枝番がその作成日付欄記載の日に被告らによって作成されたという意味での証拠力は認められるものである。)。
被告機械一は、機械外のポンプから送られてきたチョコレートを上下二段に横置きに配された第一冷却筒、第二冷却筒の順序で冷却していく構造となっている。第一冷却筒は、冷却筒始端部分は外筒がなく、上部は、運ばれてきたチョコレートが冷却筒の内部に送られるための管が接続されているが、その余の部分の周囲には、温水が流れる空間が設けられている。第一冷却筒の大部分は二重筒状の外筒とスクリューとから構成され、スクリューの表面には螺旋状の突条が設けられ、突条の間はスクリュー溝となっている。外筒の二重筒内を冷却水が流れるようになつている。スクリューの末端部及び冷却筒末端部分は機械外の温水タンクから運ばれてきた温水によって暖められる。第一冷却筒と第二冷却筒とは近接して接続されているが、その接続部分も温水によって暖められている。
第二冷却筒は、その始端部分が第一冷却筒と連続して外筒に配された温水で暖められるようになっており、その後の大部分は、第一冷却筒と同様、外筒とスクリューとから構成され、スクリューの表面には螺旋状の突条が設けられ、突条の間はスクリュー溝となっている。スクリュー溝内を送られるチョコレートは、前半部分で、外筒を流れる冷却水によって冷却され、後半部分(リヒートゾーン)では、再び温水によって暖められる。冷却筒の末端部分は、スクリューの径が突条、スクリュー溝のある部分よりも小さくなっていて、チョコレートが溜まりやすくなっており、突条やスクリュー溝はない。この部分からチョコレートは冷却筒外へ排出される。
以上のとおり、被告機械一は、原告機械一と同様、冷却筒が横置きに配置され、その中をチョコレートが水平方向へ移動しながら、冷却、暖めを繰り返される構造となっている。
被告らは、甲第八五号証の一と同号証の二の図面は同一の図面ではないと主張し、原告も同一の図面でないことを認めているが、両図面を対比しても、そこに大きな変化はなく、右認定に影響を及ぼすものではない。
(2) スクリューと冷却筒とのクリアランスに関する設計図の対比
これについては、対比すべき原告機械一と被告機械一の図面がいずれも証拠として存在しないので対比することができない。
(3) スクリューの溝の深さに関する設計図
前記(二)(3)のとおり、原告機械一の設計図におけるスクリューの溝の深さは、第一冷却筒、第二冷却筒とも、九・七五ミリメートルである。
一方、成立に争いのない乙第一四号証の一〇、一一、書込み部分を除いては成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により曽山貢作成と認められる甲第五五号証の九の一、同号証の一〇の一によれば、右書証のうち前者は被告機械一のスクリュー部図であり、昭和五六年一〇月二二日に作成されたこと、後者二図は右乙第一四号証の一〇、一一について説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。右図面によれば、被告機械一の冷却筒スクリューの溝の深さは九・七五ミリメートルであることが認められる。
よって、両機械のスクリューの溝の深さは同一である。
被告らは、被告図面は一枚の図面に二つのスクリューが描かれているのに対し、原告図面は二枚の図面に分れている旨主張し、右書証及び前記甲第一号証の一三、一七によれば、被告らの主張のとおりであると認められるが、二個のスクリューを一枚の図面に記載するか、二枚の図面に分けるかは単なる作図の便宜に過ぎず、そのことが両図面の評価に影響を与えるものではない。また、被告らはスクリューの羽根の本体への接続方法、駆動軸の構造の相違を主張するが、そのことも右ノウハウ部分の同一に影響を与えるものではない。この点は、被告らの主張するベアリングの固定方法についての相違についても同様である。
(4) 機械の外観及び計器類の別個取付けに関する設計図の対比
成立に争いのない甲第一号証の一、書込み部分を除いては成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により曽山貢作成と認められる甲第五五号証の一の二によれば、右書証のうち前者は原告機械一の総組立姿図であり、昭和四八年三月に作成されたものであること、後者は右甲第一号証の一の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。成立に争いのない乙第一八号証の一、書込み部分を除いては成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により曽山貢作成と認められる甲第五五号証の一の一によれば、右書証のうち前者は被告機械一の外形姿図であり、昭和五六年一二月一〇日に作成されたものであること、後者は右乙第一八号証の一の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。以下、原告図面と被告図面とを対比する。
ア 図面の配置
原告図面は、正面図、側面図、平面図からなっているが、被告図面は正面図と側面図のみであるという相違がある。以下では両図面に共通する正面図と側面図とについて対比する。
イ 正面図について
a 形状
原告図面における原告機械一の形状は、底部に基台部があり、その上に二本の冷却筒を覆う本体部があり、その上が制御盤部となり、最上部に独立した温度計盤が取り付けられている。また、機械前方右側に、チョコレートが排出されるパイプが垂直方向に取り付けられ、また機械右側面には水平方向に二本のパイプが接続され、その二本のパイプが垂直方向のパイプによって接続されている。
被告機械一の形状も、同様、底部に基台部があり、その上に二本の冷却筒を覆う本体部があり、その上が制御盤部となり、最上部に独立した温度計盤が取り付けられている。また、機械前方右側に、チョコレートが排出されるパイプが垂直方向に取り付けられているが、機械右側面に水平方向に接続されているパイプは四本であり、そのうち二本ずつが垂直方向のパイプによって接続されている。本体部の下部前面には空気取入穴が設けられており、基台部には片側二か所計四か所、吊金具とみられる部分が設けられている。
両者の形状は、機械右側面から水平方向に出ているパイプの数、空気取入穴の有無、吊金具の有無を除いてはかなりよく似ている。そして、このうち吊金具の有無は、機械の基本的構造、性能には影響がないものと考えられる。
b 寸法
原告機械一においては、基台部の高さが一六二ミリメートル、前面の本体部の高さが六八〇ミリメートル、制御盤部の高さが二七二・三ミリメートル、温度計盤の高さが二一五ミリメートル、機械全体の高さが一三二九・三ミリメートルである。また、機械前面の正面幅は配管や突起部を除くと一四〇五ミリメートルである。
被告機械一は、基台部の高さが一六二ミリメートル、前面の本体部の高さが六九〇ミリメートル、制御盤部の高さが二七二ミリメートル、温度計盤の高さが二一五ミリメートル、機械全体の高さが一三三九ミリメートルである。機械前面の正面幅は配管や突起部を除くと一四四〇ミリメートルである。
両者の機械の高さを見ると、本体部の高さが一〇ミリメートル異なるほかは殆ど同一といってよい。また、正面幅もかなり類似している。
イ 側面図について
a 形状
原告機械一は、温度計盤の部分を除くと、ほぼ全体が正方形に近い縦長の形状をしており、左上の操作盤の部分のみが左下方向にやや傾斜している。機械前面に接してチョコレート排出用のパイプが、機械上部にチョコレート送入用のパイプがそれぞれ垂直方向に向かっている。機械右側には一本のパイプが垂直方向に取り付けられている。
被告機械一も、温度計盤の部分を除くと、ほぼ全体が正方形に近い縦長の形状をしており、左上の操作盤の部分のみが左下方向にやや傾斜している。機械前面に接してチョコレート排出用のパイプが、機械上部にチョコレート送入用のパイプがそれぞれ垂直方向に向かっている。機械右側には二本のパイプが垂直方向に取り付けられている。左側には空気取入穴が設けられている。
両者の形状は、機械右側のパイプの数や左側の空気取入穴の有無等の相違があるが、全体の形状は似ている。
b 寸法
原告機械一の機械本体の横幅は表面の薄板の部分を除いて八七〇ミリメートル、被告機械本体の横幅は同じく表面の薄板の部分を除いて八八〇ミリメートルであり、ほぼ同様の幅である。また、チョコレート送入用のパイプとチョコレート排出用のパイプの中心軸間の距離は原告機械一が三九九・二五ミリメートル、被告機械一が四〇〇ミリメートルであって、酷似している。
ウ 以上を総合すると、原告図面と被告図面とでは、平面図の有無の相違のほかごく一部の相違を除いて、機械の形状、寸法ともよく似ているということができる。
(5) 安全装置等に関する設計図の対比
乙第一四号証の四35は被告機械一のタイトナーブラケットの図面、これに対応するのが甲第一号証の四六<1>の原告機械一の支持台の図面、乙第一四号証の四39、同号証の五39及び同号証の六29は被告機械一のスプロケットの図面、これに対応するのが甲第一号証の四六<3>の原告機械一のスプロケットの図面、乙第一四号証の七28は被告機械一のフランジの図面、これに対応するのが甲第一号証の七の原告機械一のカップリングの図面、乙第一四号証の八は被告機械一のワッシャーの図面、これに対応するのが甲第一号証の六の原告機械一のキャップの図面、乙第一四号証の九は被告機械一のシャーピンに関する図面、これに対応するのが甲第一号証の八の原告機械一のシャーピンに関する図面である(以上の図面についてはいずれも成立に争いがなく、甲第一号証の六ないし八の作成年月日はいずれも昭和四八年三月二三日、甲第一号証の四六の作成年月日は昭和五三年一一月二五日、乙第一四号証の四、五、七ないし九の作成年月日はいずれも昭和五六年一〇月一九日と認められる。)。
これらの図面を対比すると全体の形状においてある程度類似している部分もあるが、寸法等は異なっており、被告図面が原告図面を模写したとまでは認め難い。
原告が主張するとおり、シャーピンの軸のもっとも細い部分は原告図面、被告図面とも七ミリメートルとなっているが、その他の各部の寸法は異なっており、被告らが原告図面を模写したとまでは認められない。
(6) 感熱計に関する設計図の対比
成立に争いのない甲第一号証の一四、書込み部分の成立は争いがなく弁論の全趣旨により書込み部分は國和修作成と認められる甲第五五号証の二一の二によれば、右書証のうち前者の右側図面は原告機械一の第一冷却筒の外筒内側への感熱計の挿入部分の図面、後者は第一冷却筒シリンダー全体の図面であり、昭和五三年三月六日に作成されたものであること、後者は右甲第一四号証の右側図面に説明のための書込みを加えた図面と認められる。前記乙第一四号証の二四、書込み部分の成立は争いがなく弁論の全趣旨により書込み部分は曽山貢作成と認められる甲第五五号証の二一の一によれば、右書証の前者は被告機械一の感熱部ホールドリングの図面であり、昭和五六年一〇月二一日に作成されたものであること、後者は右乙第一四号証の二四の図面に説明のための書込みを加えた図面と認められる。前記乙第一四号証の二は被告機械一の総組立図断面図であり、感熱部ホールドリングの取付状態が示されている。
原告図面によれば、感熱計は外筒の二重筒の外壁がなく内壁のみとなっている部分の内壁一か所を貫通し、その一部が外筒内部を通って、その先端が外筒の内壁に貫入する構造になっている。貫通部分は径が二段階になっており、先端の貫入部分は断面が二等辺三角形となっている。
被告図面では、原告図面と異なり、感熱計は第一冷却筒の外筒の端部及び第二冷却筒の中央部に設けられた外筒とは別部材である感熱部ホールドリングの部分で、あたかも外筒の壁を貫通し、その一部が外筒内部を通って、その先端が外筒の壁に貫入する位置関係になるよう支持される構造になっている。貫通部分の径が三段階になっている点、先端の貫入部分の長さが原告機械一より長い点においても異なっている。
(7) 駆動系統に関する設計図の対比
ア 前記甲第八五号証の一、二と前記甲第八六号証の一、二とを対比しても、原告が主張するような駆動系統の流れを把握することができないので、両者の駆動系統全体の流れについての類似の程度について判断することはできない。
イ 成立に争いのない甲第一号証の五、書込み部分を除いては成立に争いがなく弁論の全趣旨により書込み部分については曽山貢作成と認められる甲第五五号証の二の三によれば、右書証のうち前者は原告機械一の原動部組立図(縦断面図)であり、昭和五三年一一月一日に作成されたものであること、後者は右甲第一号証の五の図面に説明のための書込みを加えた図面と認められる。また、成立に争いのない甲第一号証の一五、書込み部分を除いては成立に争いがなく弁論の全趣旨により書込み部分については曽山貢作成と認められる甲第五五号証の二の二によれば、右書証はその平面図及びこれに説明のための書込みを加えた図である(甲第五五号証の二の二に甲第一号証の一二の原本により作成とあるのは誤りと認める。)。
一方、成立に争いのない乙第一四号証の三、書込み部分を除いては成立に争いがなく弁論の全趣旨により書込み部分については曽山貢作成と認められる甲第五五号証の二の一によれば、右書証のうち前者は被告機械一の駆動装置部図面(縦断面図、平面図)であり、昭和五六年一〇月一九日に作成されたこと、後者は右乙第一四号証の三の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。
原告図面と被告図面とを対比すると、チェーンの歯の数が原告機械一では二つ、被告機械一では一つという違いがあるほか、原告機械一では赤色で示されたブッシュがスプロケットの中に埋没しているのに対し、被告機械一では右ブッシュに相当するドライベアリングがスプロケットの中に埋没せず、ワッシャーに接しているなどの相違が見られる。また各部の寸法も異なっている。
以上によれば、原告図面と被告図面はかなり異なっているものと認められる。
(8) 原告機械一に独特と主張する部分の設計図の対比
ア シリンダー図
前記甲第一号証一四、書込み部分を除いては成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により曽山貢作成と認められる甲第五五号証の一一の二によれば、右書証のうち前者は原告機械一の第一冷却筒シリンダー(外筒)の図面であり、昭和五三年三月六日に作成されたものであること、後者は右甲第一号証の一四の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。また、成立に争いのない乙第一四号証の一二、書込み部分を除いては成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により曽山貢作成と認められる甲第五五号証の一一の一によれば、右書証のうち前者は被告機械一の第一冷却筒シリンダー(外筒)の図面であり、昭和五六年一〇月二一日に作成されたものであること、後者は右乙第一四号証の一二の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。
原告図面と被告図面とを比較すると、原告図面は縦断面図と横断面図とから構成され、被告図面は縦断面図と外筒端部の開口部が表われた側面図(一部断面図)とから構成されている。縦断面図は、いずれも外壁と内壁を有する二重構造(二重筒)となっている点、二重筒の間が螺旋状の隔壁によって仕切られている点、左右両端にボルト取付けのための突出部が存在する点において同一である。横断面図は円形となっている点は共通であるが、断面の切り方の相違による取付け部品の相違が見られる。寸法はシリンダー左右端の突出部分の外径がいずれも二九〇ミリメートル、右突出部分に設けられたボルト用穴の中心軸間の径が二七〇ミリメートルで同一である。シリンダーの全長は原告図面では六九九ミリメートル、被告図面では六七二ミリメートルであり、近似している。
被告らは、原告図面には温水ドレンが存在しないと主張するが、その部分を特定した主張がないので、検討できない。原告図面においては、シリンダー左右端の突出部分に昭和六〇年三月七日、Oリング溝の記載が追加されているが、被告図面には当初からシリンダー右端の突出部分にのみOリング溝があり、この点において両図面は異なっている。また、温水出入口の取付け部分が原告図面ではシリンダー中心軸より上にあるのに、被告図面ではシリンダー中心軸と温水出入口の穴の中心が一致する位置にある点において相違している。ジャケットのピッチは原告図面では七〇ミリメートル、被告図面では八一ミリメートルであり、異なっている。
以上のように、原告図面と被告図面には細部の相違点があり、酷似しているとは言えないが、全体の形状、寸法は類似している。
イ ブラケット図
成立に争いのない甲第一号証の一八、書込み部分を除いては成立に争いがなく弁論の全趣旨により書込み部分については曽山貢作成と認められる甲第五五号証の一三の二によれば、右書証のうち前者は原告機械一のブラケットの部品図であり、昭和四七年一一月二七日に作成されたこと、後者は右甲第一号証の一八の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。成立に争いのない乙第一四号証の一五、書込み部分を除いては成立に争いがなく弁論の全趣旨により書込み部分については曽山貢作成と認められる甲第五五号証の一三の一によれば、右書証のうち前者は被告機械一の駆動側ブラケットの部品図であり、昭和五五年九月二七日に作成されたこと、後者は右乙第一四号証の一五の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。
原告図面と被告図面とを対比すると、いずれも、図面左側に平面図、右側に断面図が配されている。平面図はいずれも円形で中央部が円形の穴部となっている。また、両図面とも上下にリブが存在する。但し、リブの幅は原告図面では二〇ミリメートル、被告図面では二五ミリメートルであり、やや異なっている。締付けボルト用穴の数は両図面で異なっている。
断面図は、両図面とも左側の円筒状部分と右側の円筒状部分とに分かれ、それが接続部分で接続する構造となっている。まず、左側円筒状部分を比較すると、中空部分は両図面とも左側から順次三段階に内径が狭まっていく構造となっており、その内径は原告図面が順次一一〇ミリメートル、一〇〇ミリメートル、九〇ミリメートルであり、被告図面が順次一一〇ミリメートル、一〇〇ミリメートル、八六ミリメートルであって、一か所を除き一致している。上部のボルト用穴の内径も両図面とも左側から順次狭まっていく構造となっており、その内径は原告図面が順次二〇ミリメートル、一二・五ミリメートル、M一二であり、被告図面は順次二〇ミリメートル、一二・二ミリメートル、M一二であって、これまた一か所を除いて一致している。下部のボルト用穴として左側に水平方向の穴、右側に垂直方向のグリスニップルの穴がある点で一致しており、水平方向の穴は内径一〇ミリメートル、垂直方向の穴は下径が一/八B、上径が四ミリメートルである点も同一である。右側円筒状部分の全体の形状は類似している。また、全体の外径(いずれも二九〇ミリメートル)、上下ボルト用穴の中心軸間の距離(二七〇ミリメートル)、中空部分の広い方の内径(一〇〇ミリメートル)、狭い方の内径(原告図面で八一ミリメートル、被告図面で八〇・八ミリメートル)等主要な寸法は一致又は酷似している。
全体として、原告図面と被告図面とは寸法、形状ともよく似ているということができる。
ウ ベアリングハウジング図
成立に争いのない甲第一号証の一九、書込み部分を除いては成立に争いがなく弁論の全趣旨により書込み部分については曽山貢作成と認められる甲第五五号証の一四の二によれば、右書証のうち前者はは原告機械一のベアリングハウジングの図面であり、昭和四七年一一月二九日に作成されたものであること、後者は右甲第一号証の一九の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。成立に争いのない乙第一四号証の一六、書込み部分を除いては成立に争いがなく弁論の全趣旨により書込み部分については曽山貢作成と認められる甲第五五号証の一四の一によれば、右書証のうち前者は被告機械一のテール側ベアリングハウジングの図面であり、昭和五五年九月二八日に作成されたこと、後者は右乙第一四号証の一六の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。
原告図面と被告図面とを対比すると、その形状は、正面図は全体が円形で中央部分に円形の中空部分があること、中空部分に接して切欠きが一か所設けられていること、中空部分周辺及び外縁近くに円形状にボルト穴(但し、その個数は原告図面と被告図面とで異なる。)が配置されていることにおいて類似している。もっとも、切欠きは、原告図面では第一冷却筒用と第二冷却筒用で異なり、第一冷却筒用のものは、切欠きが二か所設けられることになっている。断面図は両図面で切欠穴やボルト穴について一部相違のある部分があるが、全体として類似している。寸法については、正面図における切欠き部分の寸法三〇ミリメートルが同一であるほか、断面図においては、全体の外径(二九〇ミリメートル)、上下のボルト孔中心円径(二七〇ミリメートル)、二段階となった中空部分の広い方の径(一四〇ミリメートル)、狭い方の径(一〇〇ミリメートル)等多くの寸法が一致している。全体として両図面はかなりよく似ているといえる。
エ グランドパッキング押え図
成立に争いのない甲第一号証の二〇、書込み部分については成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により曽山貢作成と認められる甲第五五号証の一七の二及び弁論の全趣旨によれば、右書証のうち前者は原告機械一のグランドパッキング押え部分の図面であり、その作成日は昭和四七年一一月二八日であること、後者は右甲第一号証の二〇の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。成立に争いのない乙第一四号証の一九、書込み部分については成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により曽山貢作成と認められる甲第五五号証の一七の一及び弁論の全趣旨によれば、右書証のうち前者は被告機械一のグランドパッキング押え部分の図面であり、昭和五五年九月二七日に作成されたこと、後者は右乙第一四号証の一九の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。
両図面を対比すると、その形状は正面図において中央にドーナツ形状の円形があり、その縁に二か所、円形を挟んで互いに反対方向に、頂部が弧をなした突起状の鍔部分があり、右鍔部分の先端に近い部分には円形のボルト用穴が見られる。原告図面では鍔部分の短径がドーナツ状の円形の外径と一致しているのに対し、被告図面では鍔部分の短径がドーナツ状の円形の外径より四ミリメートル大きいという差異があるが、全体の形状は類似している。断面図は円筒状部分の左端が鍔部分となっており、鍔部分の上下端にはボルト用穴が存在する形状において一致している。その寸法を比較すると、鍔部分の厚みがいずれも一五ミリメートルであって全く同一であるほか、断面図上の長径が原告図面では一六〇ミリメートル、被告図面では一六二ミリメートルである点、上下のボルト用穴の中心軸間の距離が原告図面では一三五ミリメートル、被告図面では一三六ミリメートルである点などの類似が見られる。
オ パッキング部品図
成立に争いのない甲第一号証の一二、書込み部分については成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により曽山貢作成と認められる甲第五五号証の二九の二によれば、右書証のうち前者は原告機械一のパッキングの部品図部分を含む第一冷却筒組立図であり、昭和五三年二月二八日に作成されたこと、後者は右甲第一号証の一二のパッキング部分に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。成立に争いのない乙第一四号証の三三、書込み部分については成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により曽山貢作成と認められる甲第五五号証の二九の一によれば、右書証のうち前者は被告機械一のグランドパッキングの部品図であることが認められ、その作成年月日の記載はないが、被告会社がチョコレート製造用機械の製造、販売を開始したのが昭和五五年夏頃であることは当事者間に争いがないこと及び被告機械一の他の設計図の作成年月日がいずれも昭和五五年夏頃以降であることから、昭和五五年夏頃以降であることが認められる。
両図面を対比すると、断面正方形のパッキングが四個並列され、その両端及び中間にスペーサー三個が配置されているというその形状が酷似している。また、その寸法も、パッキング一個の横長が一〇ミリメートルと同一であり、スペーサーリングの横長も原告機械一では三・二ミリメートル、被告機械一では三ミリメートルである。
両者の形状、寸法は全体として酷似していると評価することができる。
(9) 本来似ないはずの部分であると主張する設計図の対比
ア ベアリングの蓋図
成立に争いのない甲第一号証の二三、書込み部分については成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により曽山貢作成と認められる甲第五五号証の一五の二によれば、右書証のうち前者は原告機械一のベアリングのカバー(蓋)の図面であり、昭和四七年一一月二八日に作成されたこと、後者は右甲第一号証の二三の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。成立に争いのない乙第一四号証の一七、書込み部分については成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により曽山貢作成と認められる甲第五五号証の一五の一によれば、右書証のうち前者は被告機械一のベアリングハウジングの蓋の図面であり、昭和五五年九月二八日に作成されたこと、後者は右乙第一四号証の一七の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。
原告図面と被告図面とを比較すると、平面図は作図の方向が反対方向であるため比較ができないが、全体が円盤状になっている点は類似している。断面図の形状は断面の部分に切欠き部分があるか否かという相違に基づく差異があるが、両端部分を除く中央部分が厚みの約半分くらいまで凹部となり、両端部分にボルト用穴が存するという全体の形状は類似している。また、寸法においては、全体の径が一四〇ミリメートルである点、ボルト穴中心軸間の距離が一二〇ミリメートルである点、凹部の径が一〇〇ミリメートルである点、断面図上部ボルト穴の大径部径が一四ミリメートル、大径部の深さが八ミリメートルである点等で一致しており、全体としてよく似ているということができる。
イ シールハウジング図
成立に争いのない甲第一号証の二一、書込み部分については成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により國和修作成と認められる甲第五五号証の一六の二によれば、右書証のうち前者は原告機械一のシールハウジングの図面であり、昭和四七年一一月二八日に作成され、昭和五三年一一月七日に一部形状、寸法が変更されたこと、後者は右甲第一号証の二一の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。成立に争いのない乙第一四号証の一八、書込み部分については成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により曽山貢作成と認められる甲第五五号証の一六の一によれば、右書証のうち前者は被告機械一のシールハウジングの図面であり、昭和五五年九月二七日に作成されたこと、後者は右乙第一四号証の一八の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。
右両図面を比較すると、正面図におけるボルト用穴の数は異なっているが、円形の全体形状は類似している。断面図は上下、左右が両図面で逆になっているので、その点を考慮しながら対比すると、特に前記変更前の原告機械一と被告機械一とは、その形状は上下両端にボルト用穴があり、中央の中空部分の径が三段階に順次変化していく点において類似し、寸法は、全体の外径は原告機械一が一六〇ミリメートル、被告機械一が一六二ミリメートル、上下のボルト穴中心軸間の距離が原告機械一が一三五ミリメートル、被告機械一が一三六ミリメートルと類似しており、オイルシールの径は原告図面で八二ミリメートル、被告図面で九〇ミリメートルという相違はあるものの、中空部分のうち最も径の広い部分を形成する突起部分の外径が一一〇ミリメートルである点、中空の一番広い部分の内径が一〇〇ミリメートルである点、中央の中空部分が三段階に変化する部分の内、内径の最も小さい部分の幅(厚さ)が四ミリメートル、内径が中間部分の幅(厚さ)が一二ミリメートルである点において一致し、寸法においても類似、一致が見られる。
したがって、両図面、特に訂正前の原告図面と被告図面とは全体としてかなりよく似ているいうことができる。
ウ スリーブ図
成立に争いのない甲第一号証の二二、書込み部分については成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により曽山貢作成と認められる甲第五五号証の一八の二によれば、右書証のうち前者は原告機械一のスリーブの図面であり、昭和四七年一一月二八日に作成されたこと、後者は右甲第一号証の二二の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。成立に争いのない乙第一四号証の二〇、書込み部分については成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により曽山貢作成と認められる甲第五五号証の一八の一によれば、右書証のうち前者は被告機械一のスリーブの図面であり、昭和五五年九月二七日に作成されたこと、後者は右乙第一四号証の二〇の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。
両図面を対比すると、円筒状という単純な形状ではあるが、スクリュー軸とスリーブを固定するためのビス穴の数は異なるものの全体の形状は類似している。寸法は全長が原告機械一において一七八ミリメートル、被告機械一において一八〇ミリメートルと類似しているほか、筒状部分に設けられた穴の中心と円筒の端との距離が両機械とも四五ミリメートルである点において一致している。
エ 安全弁兼用ディスチャージャー図
成立に争いのない甲第一号証の二七、書込み部分については成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により曽山貢作成と認められる甲第五五号証の二二の二によれば、右書証のうち前者は原告機械一の安全弁兼用ディスチャージャー部分を含む輸送管及び取出口部図であり、昭和五三年一一月一六日に作成されたこと、後者は右甲第一号証の二七の図面の安全弁兼用ディスチャージャー部分に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。成立に争いのない乙第一四号証の二五、書込み部分については成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により曽山貢作成と認められる甲第五五号証の二二の一によれば、右書証のうち前者は被告機械二の安全弁兼用ディスチャージャーの図面であり、昭和五五年一〇月一八日に作成されたこと、後者は右乙第一四号証の二五の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。
被告機械二の構造が被告機械一の構造と殆ど同一であることは当事者間に争いがないこと、右図面に示された安全弁兼用ディスチャージャーの部分は原告機械一、二の基本的構造に関わる部分と認められること、右安全弁兼用ディスチャージャーの部分が被告機械一と被告機械二とで異なるとの証拠も提出されていないことに照らし、以下では、原告機械一の安全弁兼用ディスチャージャーの図面も原告機械二と同様の構造、形状であることを前提として検討する。但し、寸法については、原告機械一と原告機械二とでは処理能力の相違から異なる可能性があるので比較しないことにする。
両図面を対比すると、アーム、ピン、シャッター板、シャッターボデー板、スプリング押え、スプリング、ボールクリップで構成される構造が酷似している。各部の構造をみると、アームは左右に細長い形状であり、その左側部分を貫通するボルトで上部部品と固定されている点、その右側部分の凹部にスプリング及びスプリング押え及びボルトが格納されている点、右端にハンドルが接続されている点で両図面が一致している。ハンドル先端にはボールクリップが設けられている点で同一である。前記アームの凹部に格納されたボルトの上にシャッター板が更にその上にシャッターボデー板が接続されている構造も同一である。被告らは、被告図面ではシャッターを開けたときにシャッター板がシャッターボデー板から外れない構造になっているのに対し、原告図面ではそれが外れる構造になっていると主張し、両図面を比較するとそのような相違があるようにもうかがわれるが、それは全体の構造を左右するものではなく、両者の構造自体は酷似していると言える。
オ チョコレート輸送管図
成立に争いのない甲第一号証の二八、二九、書込み部分については成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により曽山貢作成と認められる甲第五五号証の二三の二、同号証の二四の二によれば、右各図面はいずれも原告機械一の輸送管の図面であり、このうち甲第一号証の二八、甲第五五号証の二三の二(右甲第一号証の二八に書込みのための説明を加えたもの)の図面が昭和四八年三月二六日に作成され(以下、この図面中の輸送管を「原告A輸送管」という。)、甲第一号証の二九、甲第五五号証の二四の二(右甲第一号証の二九に説明のための書込みを加えたもの)の図面が昭和四八年三月一七日に作成され(以下、この図面中の輸送管を「原告B輸送管」という。)たものと認められる。
成立に争いのない乙第一四号証の二六、二七、書込み部分については成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により曽山貢作成と認められる甲第五五号証の二三の一、甲第五五号証の二四の一によれば、右各図面は被告機械一の輸送管の図面であり(甲五五号証の二三の一、二の図面はそれぞれ乙第一四号証の二六、二七の図面に説明のための書込みを加えた図面である。)、昭和五六年一〇月一六日に作成されたことが認められる(以下、原告A輸送管に対応する乙第一四号証の二六の図面の輸送管を「被告A輸送管」といい、原告B輸送管に対応する乙第一四号証の二七の輸送管を「被告B輸送管」という。)。
原告A輸送管の図面と被告A輸送管の図面とを対比すると、縦管、横管とも先端部分を除いて二重管構造になっている点、断面図左端横管左端の形状において酷似し、原告A輸送管の感温部用ソケットとこれに相応する部分の被告A輸送管のプラグの形状、シャッター用フランジの形状が異なっている。寸法においては、断面図において縦管左端部分の長径が一五五ミリメートルである点、同部分上下のボルト穴中心円径が一三〇ミリメートルである点で同一であり、全体としてよく似ているということができる。
原告B輸送管の図面と被告B輸送管の図面とを対比すると、全体の構造が二重管構造となっていて、上端、下端のみが一重管となっている点等全体の形状は、横管の接続部分、シャッター用フランジの形状を除いてよく似ている。寸法は、二重管部分の外管の外径が八九・一ミリメートルである点、内管の外径が六〇・五ミリメートルである点、上端の接続部分の径が一三〇ミリメートルである点、下端の接続部分の径が一五五ミリメートルである点等で全く同一であり、形状、寸法を総合して考えると両者はかなりよく似ているといえる。
カ チョコレート取出口図
成立に争いのない甲第一号証の三六、甲第一号証の三五、甲第一号証の三一、甲第一号証の三二及び弁論の全趣旨によれば、右各書証は原告機械一のチョコレート取出口部分のシャッターに関する図面であり、順次フランジ、アーム、シャッター板、スプリング押えに関する図面である。その作成年月日は順次昭和四八年五月二五日、昭和四七年一二月二八日、昭和四八年一月五日、昭和四八年一月五日である。書込み部分以外は成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により國和修作成と認められる甲第五五号証の二五の二、書込み部分以外は成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により曽山貢作成と認められる甲第五五号証の二六の二、甲第五五号証の二七の二、甲第五五号証の二八の二は順次右甲号証に説明のための書込みを加えた図面である。
成立に争いのない乙第一四号証の二九ないし三二及び弁論の全趣旨によれば、右各書証は被告機械一のチョコレート取出口部分のシャッターに関する図面であり、順次フランジ、アーム、シャッター板、スプリング押えに関する図面である。その作成年月日はいずれも昭和五五年一〇月二〇日である。書込み部分以外は成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により曽山貢作成と認められる甲第五五号証の二五の一、甲第五五号証の二六の一、甲第五五号証の二七の一、甲第五五号証の二八の一は順次右乙号証に説明のための書込みを加えた図面である。
まず、フランジ(シャッターボデー板)図面について対比する。平面図の形状はやや異なっているが、平面の外形の一部を形成する一つの円弧の半径が管の中心から七七・五ミリメートルである点、周囲の四つのねじ穴の中心は管の中心を中心とする一つの円上にあるが、その円の直径(対向するねじ穴の中心間の距離)が一三〇ミリメートルである点、全体の厚さが二〇ミリメートルである点は共通している。被告図面には断面図に「摺り合せ」との記載があるが、原告図面にはそのような記載はない。
次に、アームの図面は、平面図においてやや形状が異なり、かつ被告図面には表面について「バフ磨き」という指示があるが原告図面にはない点で異なる。断面図は両図面で描き方が裏表逆となっているが、全体の形状は概ねよく似ており、特にM二〇ミリメートルの穴及びM一二ミリメートルの穴についてはその位置及び大きさが一致している。
シャッター板は、単純な形状であるが、平面図、側面図ともよく似ている。寸法も基盤となる円形板部分の外径が原告図面で一〇五ミリメートル(訂正後一二〇ミリメートル)、被告図面で一一〇ミリメートル、その厚さが原告機械一で一三ミリメートル、被告機械で一四ミリメートル、円筒状の突起の第一段目の高さが原告図面で一一ミリメートル、被告図面で一〇ミリメートル、その径が原告図面で二七・八ミリメートル、被告図面で二六ミリメートル、円筒状の突起の第二段目の高さが原告図面で二五ミリメートル、被告図面で二二ミリメートル、その径が原告図面で一二ミリメートル、被告図面で一一ミリメートルであり、寸法は同一ではないものの、かなり類似している。但し、被告図面では基盤となる円形板部分の底面に「摺り合せ」という指示があるが、原告図面にはない。
スプリング押えは、単純な形状ながら形状は平面図、断面図とも類似している。寸法は、外径が原告図面で二七・八ミリメートル、被告図面で二六ミリメートルであり、中空部分の径が原告図面で一二・三ミリメートル、被告図面で一一・五ミリメートル、断面図の高さが原告図面で二〇ミリメートル、被告図面で一六ミリメートル、断面図底部の厚みが原告図面、被告図面とも六ミリメートルと寸法はかなり類似している。
以上によれば、フランジについては寸法、形状ともある程度異なっているものの、その他の部品については、寸法、形状ともかなりよく似ているということができる。
キ シャッター用ハンドル図
成立に争いのない甲第一号証の三四、書込み部分については成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により國和修作成と認められる甲第五五号証の三〇の二及び弁論の全趣旨によれば、右書証のうち前者は原告機械一のシャッター用ハンドルの図面であり、昭和四七年一二月二八日に作成されたこと、後者は右甲第一号証の三四の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。
成立に争いがない乙第一四号証の三四、書込み部分については成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により曽山貢作成と認められる甲第五五号証の三〇の一及び弁論の全趣旨によれば、右書証のうち前者は被告機械一のシャッター用ハンドルの図面であり、作成日付の記載はないが、被告会社がチョコレート製造用機械の製造、販売を開始したのが昭和五五年夏頃であることは当事者間に争いがないこと及び被告機械一の他の設計図の作成年月日がいずれも昭和五五年夏頃以降であることから、昭和五五年夏頃以降であることが認められる。後者は右乙第一四号証の三四の図面に説明のための書込みを加えた図面である。
両図面を比較すると、側面図において左右に円筒状の部分が本体につながっており、左側の円筒状が接続されている部分に近い部分が一回り大きく形成され、その断面は円形の両端を切り落としたような形となっているという全体の外形が、テーパー面の取り方を含めて酷似している。寸法も断面図右側のにぎり球が付けられる部分の端部寄りの大径がいずれも一二ミリメートル、内側寄りの小径が一〇ミリメートルと同一であり、他端側の軸部の外径も二〇ミリメートルと同一である。このほか、全体の長さも原告図面が一七三ミリメートル、被告図面が一七七ミリメートルであって、かなりよく似ている。形状、寸法の双方を総合して、両者は酷似しているということができる。
ク コモンベース図
成立に争いのない甲第一号証の四二、書込み部分については成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により曽山貢作成と認められる甲第五五号証の三三の二によれば、右書証のうち前者は原告機械一のベース部の図面であり、昭和五三年一一月二日に作成されたこと、後者は右甲第一号証の四二の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。
成立に争いのない乙第一四号証の三八、書込み部分については成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により曽山貢作成と認められる甲第五五号証の三三の一によれば、右書証のうち前者は被告機械一のコモンベースの図面であり、昭和五六年一〇月三一日に作成されたこと、後者は右乙第一四号証の三八に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。
両図面はいずれも平面図を中心とし、これに加えて横断面図及び縦断面図とからなっている。
まず、平面図について見ると、全長が原告図面では一三九五ミリメートル、被告図面では一四三〇ミリメートル、全幅が原告図面では八六〇ミリメートル、被告図面では八七〇ミリメートルであり類似している。また、三箇所の取付け板の位置がほぼ一致している。しかし、細部の形状は異なっている。横断面図は高さが一五〇ミリメートルと同一であり、形状もかなり類似している。縦断面図の形状は、被告図面においては両端に吊り金具の突起部分があり、原告図面にはないがこれは断面を取る位置に基づく差異と考えられる。それを除いた形状はかなりよく似ている。
被告らは、減速機の取付け方法が原告図面では移動式、被告図面では固定式になっていると主張し、その点は必ずしも図面上判然とはしないものの、左上の取付け板の四個の穴の形状が真円か長円かの相違となって表れているものとも推測される。
確かに、被告らの主張するような右相違点は存在する可能性があるが、全体としての形状、寸法において両図面は類似しているということができる。
(10) 乙第一四号証について、原告はその証拠価値に疑問を呈しているので、ここでその点について検討する。
ア まず、乙第一四号証について、被告らは、そのうち乙第一五号証と重複する部分については、まず、被告中宿が作成した乙第一五号証の図面(被告機械二についての乙第一六号証を利用してそれに寸法の変更等を記載したもの)が先行し、その後、白石が被告中宿に命じられて乙第一五号証に対応する乙第一六号証の図面として作成し直したものであると主張する。原告は、この点について、被告らがわざわざ一旦乙第一五号証の図面を作成したうえで、更に乙第一四号証の図面を作成したとするのは不自然であると主張する。しかしながら、後に認定するとおり、被告機械一と被告機械二とが基本的構造を有する機械であるところから、被告らが被告機械一の製造を急ぐために被告機械二の図面を修正して利用したとしても、図面の共通性からみて不自然ではなく十分あり得ることであり、乙第一五号証の記載内容もそのような観点から見て不審な点はない。また、被告中宿が、白石に対し、乙第一五号証の図面に従って乙第一四号証の図面を作成するよう指示をしたとする被告らの主張についても、乙第一四号証のうち乙第一五号証に対応する白石作成のものの作成日が昭和五六年一〇月一九日から同年一二月一二日までとなっており、昭和五六年九月の白石の入社直後となっていること、採用直後でチョコレート製造用機械の設計の経験がない従業員の訓練のために設計図を模写させ、修正図面の見にくい点を改善することも決して不自然なことではない。
確かに原告が主張するように、乙第一五号証の設計図は被告機械一の設計図の一部にしか過ぎないが、乙第一五号証の作成段階では、他の部分については被告機械二の設計図をそのまま使用した可能性があり、そのことをもって乙第一四号証の証拠力が否定されるものでもない。
イ 原告は乙第一四号証の一には操作盤と計器盤のところに従前の図面を抹消した痕跡が認められ、その従前の痕跡は本来の被告機械一のものであって、操作盤が組込型であった原告機械一と同一のものであると主張する。そして、この点について、被告らは、乙第一四号証の一が従前の図面の一部を抹消、変更したものであり、従前の図面では操作盤が原告機械一と同様組込型であったことを認めながら、それは乙第一四号証の三九の部品図が改正された昭和五九年一月一三日と同じ時に改正されたものであると主張する。そこで、この点について検討するに、乙第一四号証の三九の部品図には、その下部に「59-1-13改正」との記載があるのに、乙第一四号証の一にはその記載がないこと、乙第一四号証の三九はカバーフレームの図面であるが、同図面と乙第一四号証の一の図面を対比してみても、乙第一四号証の三九の図面が改正されたからといって、乙第一四号証の一の操作盤の部分がそれに連動して改正されるべき関係にあるものとは認められず、被告の右主張は信用し難い。
したがって、乙第一四号証の一の図面は当裁判所に提出されるに際し改竄された疑いがあるものと言うべきである。しかしながら、そのことは乙第一四号証の他の図面の証拠力にまで直ちに影響を及ぼすものとは言えないし、乙第一四号証の一の操作盤以外の部分についてもこれが改竄されたと言えるものでもない。
ウ 原告は、被告機械一の見積図(甲第四二号証の二)には「温冷水切換バルブ四ケ」と記載されているのに、乙第一四号証の一にはこれが表示されていないこと、また、乙第一四号証の二七の部品図に記載されているチョコレート供給管の寸法(三インチと二インチ)と乙第一四号証の一のそれの寸法(四インチと二・五インチ)が異なることから、乙第一四号証の一は真実製造に用いられた設計図ではないと主張する。
この点について、被告らは乙第一四号証の一の作成者である白石が被告機械二の外形姿図である乙第一六号証の一の図面を見て作成したため生じた誤りであると反論する。
そこで検討するに、少なくとも乙第一五号証には外形姿図がないので、白石が乙第一四号証の一を作成する際に、乙第一六号証の一の図面を参照した可能性は否定できない。そうすると、白石がこれをそのまま書き写した結果、温冷水切換バルブの記載が抜け落ち、また、チョコレート供給管の寸法を乙第一六号証の一と同様に記載してしまった可能性もまた否定できない。確かに、その結果、乙第一四号証の二七や三七の図面と矛盾を生じているが、部品の製作にあたっては、通常部品図に基づいて行なわれると考えられるから、乙第一四号証の一のような外形姿図についてはその誤りが見過ごされたまま経過することもあり得るものというべきであり、これらの点から、乙第一四号証の全体が証拠力のない図面と言うことはできない。
エ 以上の検討の結果、乙第一四号証の一の操作盤の部分の記載については改竄された疑いがあるものの、その他については、それが被告らによって独自に作成されたことを意味するかはともかく、被告によって図面作成日欄記載の日に作成されたという限度での証拠力を否定することはできないものと考える。
(11) 見積図の対比
弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる甲第四二号証の一によれば、同書証は原告機械一の見積図であることが認められるが、その作成日は明らかでない。成立に争いのない甲第四二号証の二によれば、同書証は被告機械一の見積図であり、昭和五六年二月に作成されたことが認められる。
両図面を重ねあわせて対比してみると、その外形は酷似している。すなわち、全体的な形状のほか細部においても、操作盤のボタンやメーターの配置、計器盤のボタンの配置が全く同一である。
(12) 以上を総合すると、感熱計挿入部、シャッターの図面等一部の図面に相違も見られるが、両機械の設計図は酷似しているか、酷似とまではいかなくとも、全体的に、特に重要な部分において類似しており、これら及び前記二の事実によれば、被告中宿は原告在職中に原告機械一の設計図を原告に無断で複写してこれを被告会社に持参し、被告会社は右事情を知りながら原告機械一の設計図について、図面によってはこれを殆ど模写し、図面によってはかなりの程度これを参考にして変更を加えて被告機械一の設計図を作成したものと認められる。その過程において、原告機械一のノウハウである横型三段階冷却方式及び冷却筒の構造、スクリューの溝の深さが被告らによって原告に無断で取得、使用されたものと認められる。
被告らは、原告機械のノウハウについては、被告中宿の頭脳に刻みこまれていた旨主張するが、原告機械は本件で明らかなとおり多種多様にわたっており、被告中宿が原告において原告機械の多くの設計に携わっていたからといって、ノウハウと認められる事項についての正確な情報を記憶することは不可能であり、結局のところ、原告機械一の設計図を実際に見ることなしには、ノウハウの記載された図面を初めとして前記のような酷似または類似した図面を作成することはできなかったものというべきである。
3 原告機械二について
(一) 機械の概要
原告機械二が原告機械一と殆ど同様の構造を有する機械であることは当事者間に争いがないから、機械の概要は原告機械一と同様である。
(二) ノウハウ
右のとおり、原告機械二が原告機械一と殆ど同様の構造を有する機械であることは当事者間に争いがなく、そのノウハウも右構造において表現されているものであるから、原告機械一のノウハウと同様である。
(三) 設計図盗用によるノウハウ侵害の有無
(1) 横型三段階冷却方式及び冷却筒の構造に関する設計図
この点については、原告機械二、被告機械二とも設計図は提出されていない。
(2) スクリューと冷却筒とのクリアランスに関する設計図
この点についても、原告機械二、被告機械二とも設計図は提出されていない。
(3) スクリューの溝の深さに関する設計図
この点についても、原告機械二、被告機械二とも設計図は提出されていない。
(4) 機械の外観及び計器類の別個取付けに関する設計図の対比
成立に争いのない甲第四一号証の一、書込み部分(甲第四一号証の原本より作成した旨の指示部分)を除いては成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により曽山貢作成と認められる甲第五四号証の一のこによれば、右のうち前者は原告機械二の総組立姿図であり、昭和四八年二月二日に作成されたこと、後者はその写し図面であることが認められる。成立に争いのない乙第一七号証、書込み部分(乙第一七号証との書込み部分)を除いては成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により曽山貢作成と認められる甲第五四号証の一の一によれば、右書証のうち前者は被告機械一の外形姿図であり、昭和五五年一〇月三〇日に作成されたこと、後者はその写しであることが認められる。以下、両図面を対比する。
ア 図面の配置
原告図面は、正面図、側面図、平面図からなっているが、被告図面は正面図と側面図のみであるという相違がある。以下では両図面に共通する正面図と側面図とについて対比する。
イ 正面図について
<1> 形状
原告機械二の形状は、底部に基台部があり、その上に二本の冷却筒を覆う本体部があり、その上が制御盤部となり、最上部に独立した温度計盤が取り付けられている。温度計の数は四つで、うち三個は円形、一個は長方形である。また、機械前方右側に、チョコレートが排出されるパイプが垂直方向に取り付けられ、また機械右側面には水平方向に五本のパイプが突出している。
被告機械二の形状も、同様、底部に基台部があり、その上に二本の冷却筒を覆う本体部があり、その上が制御盤部となり、最上部に独立した温度計盤が取り付けられている。温度計の数は五個で全て円形である。また、機械前方右側に、チョコレートが排出されるパイプが垂直方向に取り付けられており、機械右側面に水の出入口が五個表されているが、水平方向に突出しているパイプは描かれていない。本体部の下部前面には空気取入穴が設けられている。
両者の形状は、温度計の個数及び一部の形状、空気取入穴の有無を除いてはかなりよく似ている。
被告らは、被告機械二ではチョコレート冷却部が三段階であり、これが二段階である原告機械二よりチョコレートの温度調整がより細かくできるようになっていると主張するが、右図面からそこまでの判断をすることはできない。
<2> 寸法
原告機械二においては、基台部の高さが一六二ミリメートル、本体部の高さが六八〇ミリメートル、制御盤部の高さが二七二・三ミリメートル、温度計盤の高さが二一五ミリメートル、機械全体の高さが一三二九・三ミリメートルであり、この寸法は原告機械一と全く同一である。また、機械の正面幅は配管や突起部、表面板を除くと訂正前一九〇〇ミリメートル(訂正後一九三〇ミリメートル)であり、正面幅は約五〇〇ミリメートル原告機械二より大きくなっている。
被告機械二は、基台部の高さが一六二ミリメートル、本体部の高さが六九〇ミリメートル、制御盤部の高さが二七二ミリメートル、温度計盤の高さが二一五ミリメートル、機械全体の高さが一三三九ミリメートルであり、この寸法は被告機械一と全く同一である。機械の正面幅は配管や突起部、表面板を除くと一九四〇ミリメートルであって、約五〇〇ミリメートル被告機械二より大きくなっている。
両者の機械の高さを見ると、本体部の高さが一〇ミリメートル異なるほかは殆ど同一といってよい。また、正面幅もかなり類似している。
ウ 側面図について
<1> 形状
原告機械二は、温度計盤の部分を除くと、ほぼ全体が正方形に近い縦長の形状をしており、左上の操作盤の部分のみが左下方向にやや傾斜している。機械前面に接してチョコレート排出用のパイプが、機械上部にチョコレート送入用のパイプがそれぞれ垂直方向に向かっている。
被告機械二も、温度計盤の部分を除くと、ほぼ全体が正方形に近い縦長の形状をしており、左上の操作盤の部分のみが左下方向にやや傾斜している。機械前面に接してチョコレート排出用のパイプが、機械上部にチョコレート送入用のパイプがそれぞれ垂直方向に向かっている。機械左側には空気取入穴が設けられている。
両者の形状は、空気取入穴の有無等の相違があるが、全体の形状は似ている。
<2> 寸法
原告機械二の機械本体の横幅は表面板の部分を除いて八七〇ミリメートル(原告機械一と同一)、被告機械二の本体の横幅は同じく表面板の部分を除いて八八〇ミリメートル(被告機械二と同一)であり、ほぼ同様の幅である。また、チョコレート送入用のパイプとチョコレート排出用のパイプの中心軸間の距離は原告機械一が三九九・二五ミリメートル、被告機械二が四〇〇ミリメートルであって、酷似している。
エ 以上を総合すると、原告図面と被告図面とでは、一部の相違を除いて、機械の形状、寸法ともよく似ているということができる。
(5) 感熱計に関する設計図の対比
成立に争いのない甲第四一号証の三、書込み部分を除いては成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により曽山貢作成と認められる甲第五四号証の一一の二によれば、右書証のうち前者の右側の断面図は原告機械二の冷却筒のシリンダーAの外筒内側への感熱計の挿入部分の図面であり、昭和五二年一二月二〇日に作成されたこと、後者は右甲第四一号証の三の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。成立に争いのない乙第一六号証の一五、書込み部分を除いては成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により曽山貢作成と認められる甲第五四号証の一一の一によれば、右書証のうち前者は被告機械二の感熱部ホールドリングを含む感熱部取付部図面であり、昭和五五年一〇月三日に作成されたこと、後者はそのうちの正面断面図の写しであることが認められる(乙第一六号証についても原告はその証拠価値(形式的証拠力の趣旨と解される。)に疑問を呈しているが、この点は後記(8)のとおり、設計図の作成年月日欄記載の日に被告によって作成されたことは認められるものということができる。)。成立に争いのない乙第一六号証の二によれば、同号証は、被告機械二の総組立断面図面であり感熱部ホールドリングの取付状態が示されている。
両図面(正面断面図)を対比すると、原告図面において感熱計は外筒の二重筒の外壁がなく内壁のみとなっている部分の内壁一か所を貫通し、その一部が外筒内部を通って、その先端が外筒の内壁に貫入する構造になっている。貫通部分は径が二段階になっており、先端の貫入部分は断面が二等辺三角形となっている。
被告図面では原告図面と異なり、感熱計は第一冷却筒及び第二冷却筒の各中央部並びに第一冷却筒に設けられた外筒とは別部材である感熱部ホールドリングの部分で、あたかも外筒の壁を貫通し、その一部が外筒内部を通って、その先端が外筒の壁に貫入する位置関係になるよう支持される構造になっている。貫通部分の径が三段階になっている点、先端の貫入部分の長さが原告機械二より長い点においても異なっている。寸法も感熱計の大きさの相違に由来するものと推測されるが、異なっている。
(6) 原告機械二に独特の部分と主張する設計図の対比
ア ブラケット図
成立に争いのない甲第四一号証の九、書込み部分を除いては成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により曽山貢作成と認められる甲第五四号証の五の二によれば、右書証のうち前者は原告機械二のブラケットの設計図であり、昭和五三年五月一二日に作成されたこと、後者は右甲第四一号証の九の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。成立に争いのない乙第一六号証の八、書込み部分を除いては成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により曽山貢作成と認められる甲第五四号証の五の一によれば、右書証のうち前者は被告機械二の駆動側ブラケットの設計図であり、昭和五五年九月二七日に作成されたこと、後者はその写しであることが認められる。
両図面を対比すると、いずれも、図面左側に平面図、右側に断面図が配されている。平面図はいずれも円形で中央部が円形の穴部となっている。また、両図面とも上下にリブが存在する。但し、リブの幅は原告図面では二〇ミリメートル、被告図面では二五ミリメートルであり、やや異なっている。ボルト用穴の数は両図面で異なっている。
断面図は、両図面とも左側の円筒状部分と右側の円筒状部分とに分かれ、それが接続部分で接続する構造となっている。まず、左側円筒状部分を比較すると、中空部分は両図面とも左側から順次三段階に内径が狭まっていく構造となっており、その内径は原告図面が順次一一〇ミリメートル、一〇〇ミリメートル、九〇ミリメートルであり、被告図面が順次一一〇ミリメートル、一〇〇ミリメートル、八六ミリメートルであって、一か所を除き一致している。上部のボルト用穴の内径も両図面とも左側から順次狭まっていく構造となっており、その内径は原告図面が順次二〇ミリメートル、一二・五ミリメートル、一二ミリメートルであり、被告図面は順次二〇ミリメートル、一二・二ミリメートル、一二ミリメートルあって、これまた一か所を除いて一致している。下部のボルト用穴として左側に水平方向の穴、右側にグリスニップルの垂直方向の穴がある点で一致しており、水平方向の穴は内径一〇ミリメートル、垂直方向の穴は下径が一/八B、上径が四ミリメートルである点も同一である。右側円筒状部分の全体の形状は類似している。また、全体の外径(いずれも二九〇ミリメートル)、上下ボルト用穴の中心円径(二七〇ミリメートル)、中空部分の広い方の内径(一〇〇ミリメートル)、狭い方の内径(原告図面で八一ミリメートル、被告図面で八〇・八ミリメートル)等主要な寸法は一致又は酷似している。
全体として、原告図面と被告図面とは寸法、形状ともよく似ているということができる。
イ ベアリングハウジング図
成立に争いのない甲第四一号証の二、書込み部分を除いては成立に争いがなく弁論の全趣旨によれば書込み部分については曽山貢作成と認められる甲第五四号証の九の二によれば、右書証のうち前者は原告機械二のベアリングハウジングの設計図であり、昭和四七年一一月二九日に作成されたこと、後者は右甲第四一号証の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。成立に争いのない乙第一六号証の一三、書込み部分を除いては成立に争いがなく弁論の全趣旨によれば書込み部分については曽山貢作成と認められる甲第五四号証の九の一によれば、右書証のうち前者は被告機械二のテール側ベアリングハウジングの設計図であり、昭和五五年九月二八日に作成されたこと、後者は右乙第一六号証の一三に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。
原告図面と被告図面とを対比すると、その形状は、正面図は全体が円形で中央部分に円形の中空部分があること、中空部分に接して切欠きが一か所設けられていること、中空部分周辺及び外縁近くに円形状にボルト穴が配置されていることにおいて類似し、断面図は全体として類似している。寸法については、正面図における切欠き部分の寸法三〇ミリメートルが同一であるほか、断面図においては、全体の外径(二九〇ミリメートル)、上下のボルト中心円径(二七〇ミリメートル)、二段階となった中空部分の広い方の径(一四〇ミリメートル)、狭い方の径(一〇〇ミリメートル)等多くの寸法が一致している。全体として両図面は酷似しているといえる。
ウ グランドパッキング押え図
成立に争いのない乙第一六号証の一〇、書込み部分を除いては成立に争いがなく弁論の全趣旨によれば書込み部分については曽山貢作成と認められる甲第五四号証の七の一及び弁論の全趣旨によれば、右各書証は被告機械二のグランドパッキング押えの設計図及びその写しであることが認められる。他方、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第五四号証の六の三によれば、原告機械二にはグランドパッキング押えが使用されていることは認められるが、その設計図として提出されている前記甲第一号証の二〇、書込み部分を除いては成立に争いがなく弁論の全趣旨によれば書込み部分については曽山貢作成と認められる甲第五四号証の七の二の図面はいずれも原告機械一の設計図であり、これを右甲第五四号証の六の三と対比しても、原告機械二のグランドパッキング押えの設計図が原告機械一のグランドパッキング押えの設計図と同一であるとは認められない。
よって、グランドパッキング押えの部分について、両機械の設計図を対比することはできない。
エ パッキング部品図
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第五四号証の四の二及び弁論の全趣旨によれば同書証は原告機械二の第一冷却筒組立図のパッキング部分を中心とした部分写に柳沢某が書込みをした図面であることが認められる。成立に争いのない乙第一六号証の五、書込み部分を除いては成立に争いがなく弁論の全趣旨により書込み部分については曽山貢作成と認められる甲第五四号証の四の一によれば、右書証は被告機械二のバルフロン含浸成形グランドパッキンの部品図であり、昭和五五年一〇月一〇日に作成されたことが認められる。
両図面を対比すると、断面正方形のパッキングが四個並列され、その両端及び中間にスペーサー三個が配置されているというその形状が酷似している。また、その寸法も、パッキング一個の横長が一〇ミリメートル、パッキングの外径が一〇〇ミリメートル、内径が八〇ミリメートルと同一であり、スペーサーリングの横長も原告機械二では三・二ミリメートル、被告機械二では三ミリメートルである。
両者の形状、寸法は全体として酷似していると評価することができる。
(7) 本来類似しないはずの設計図の一致
ア ベアリング部分の蓋図
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第五四号証の一〇の三によれば、右書証は原告機械二の第一冷却筒組立図の部分図であり、昭和五二年一二月一四日に作成されたことが認められる。同図面の黄色で塗られた部分は原告機械二のベアリング部分の蓋の断面図である。成立に争いのない乙第一六号証の一四、書込み部分を除いては成立に争いがなく弁論の全趣旨によれば書込み部分については曽山貢作成と認められる甲第五四号証の一〇の一によれば、右書証は被告機械二のベアリング部分の蓋の図面であり、昭和五五年九月二八日に作成されたことが認められる。甲第五四号証の一〇の二は原告機械一のベアリング部分の蓋の図面であるが、その形状を右甲第五四号証の一〇の三の同部分の断面図と比較すると同一とは認められないので比較の対象としない。
原告図面と被告図面のそれぞれの断面図を比較すると、形状においては角部の面取りの有無等若干の差異はあるが、全体の形状は縦に細長いコの字形であって、類似している。寸法は、蓋の厚みは異なっているが、外径(一四〇ミリメートル)、中空状部分の径(一〇〇ミリメートル)、ボルト頭部の径(一四ミリメートル)は一致しており、全体として類似しているということができる。
イ シールハウジング図
成立に争いのない乙第一六号証の九、書込み部分を除いては成立に争いがなく弁論の全趣旨によれば書込み部分については曽山貢作成と認められる甲第五四号証の六の一によれば、右書証のうち前者は被告機械二のシールハウジングの設計図であり、昭和五五年九月二七日に作成されたこと、後者は右乙第一六号証の九の図面に説明のための書込みを加えた図面と認められる。他方、甲第五四号証の六の三には原告機械二の第一冷却筒組立図であり、そこに同機械のシールハウジング断面図が描かれている。原告は、前記甲第一号証の二一、甲第五四号証の六の二の原告機械一のシールハウジングの断面図は原告機械二の設計図と同一であるとの趣旨で右証拠を原告機械二の設計図とし提出しているが、右甲第五四号証の六の三の第一冷却筒組立図に描かれた断面と比較して両者を同一と認めることはできない。そこで、甲第五四号証の六の三の図面と被告図面とを対比する。
その形状を見ると、原告図面では、内径が小径部と大径部の二段となっているのに、被告図面では、内径が小径部、中径部、大径部の三段となっていること、原告図面では、下部にのみボルト孔が表われているのに、被告図面では、上部と下部にボルト孔が表われているという相違がある。また、寸法については、原告図面の内径の小径部が九〇ミリメートル、大径部が一〇〇ミリメートルであるのに対し、被告図面の内径の小径部が七六ミリメートル、中径部が九〇ミリメートル、大径部が一〇〇ミリメートル、原告図面の全体の外径が一六〇ミリメートル、ボルト孔の中心間の径が一三五ミリメートルであるのに対し、被告図面の全体の外径が一六二ミリメートル、ボルト孔の中心間の径が一三六ミリメートルである。両図面は寸法が一致又は酷似している部分はあるが、形状は相違しており、全体として類似しているとは認められない。
ウ スリーブ図
弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる甲第五四号証の八の二によれば、右書証は原告機械二のスリーブの図面であり、昭和四八年七月二五日に作成されたこと、昭和五七年五月一九日に内径に逃げ施工する点が追記されたことが認められる。成立に争いのない乙第一六号証の一一、書込み部分を除いて成立に争いがなく、書込み部分は曽山貢作成と認められる甲第五四号証の八の一によれば、右書証のうち前者は被告機械二のスリーブの図面であり、昭和五五年九月二七日に作成されたこと、後者は右乙第一六号証の一一の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。
原告図面と被告図面とを対比すると、円筒状の単純な形状ではあるが、上下に穴が設けられていること、左端の外縁、右端の内縁が面取りされていることを含め形状は類似している。寸法は全長が原告図面において一七八ミリメートル、被告図面において一八〇ミリメートルと近似しているほか、筒状部分に設けられた穴の中心と円筒の左端との距離が両図面とも四五ミリメートル、外径が共に八〇ミリメートルである点において一致している。
エ 安全弁兼用ディスチャージャー図
原告は、この部分については、原告機械二について原告機械一の設計図である甲第一号証の二七を転用していると主張しているが、右転用を認めるに足りる証拠はないから、この部分については原告図面と被告図面とを対比することはできない。
オ チョコレート輸送管図
成立に争いのない甲第四一号証の一三、書込み部分については成立に争いがなく弁論の全趣旨によれば書込み部分については曽山貢作成と認められる甲第五四号証の二〇の二によれば、右書証のうち前者は原告機械二のチョコレート輸送管の図面であり、昭和五三年五月一九日に作成されたこと、後者は右甲第四一号証の一三の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。成立に争いのない乙第一六号証の二六、二七、書込み部分を除いて成立に争いがなく、弁論の全趣旨によれば書込み部分は曽山貢作成と認められる甲第五四号証の二〇の一によれば、右書証のうち前二者は被告機械二のチョコレート輸送管の図面であり、昭和五五年一〇月一八日に作成されたものであり、後者は前二者に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる(前記のとおり、乙第一六号証の二六については乙第一五号証の六の修正前の図面が改正前の図面と認められるのでその点も考慮して対比する。)。
両図面を対比すると、原告図面は一本の輸送管の図面であり、断面図のほか左右の側面図、平面図とからなっている。被告図面は二本の輸送管の図面であり、乙第一六号証の二六が吐出側パイプの図面、乙第一六号証の二七が供給側パイプの図面であり、それぞれの断面図とエルボ、ニップル、感熱部の図面及び溶接についての指示をした図面とからなっている。原告図面は、前記甲第四一号証の一の原告機械二の総組立図の吐出側パイプの外形と一致するところから、以下では、原告図面と被告の吐出側パイプの図面乙第一号証の二六とを対比する。
両者は、形状において、縦管、横管とも先端部分を除いて二重管構造になっている点、図面左端横管左端の部分が上端のボルト穴の有無、更に乙第一五号証の六の図面との対比においては配電盤の有無を除いて類似している。但し、被告輸送管の底部に見られるプラグが原告輸送管にはない点及びフランジの形状が異なっている。寸法においては、横管右端部分の長径が一一五ミリメートルである点、ボルト穴中心円径が一三〇ミリメートルである点、上端の長径が一五五ミリメートルである点、縦管二重管部分の外管の外径が四Bである点、内管の外径が二・五Bである点で一致し、形状、寸法を総合すると両者はかなりよく似ているということができる。
カ チョコレート取出口図
成立に争いのない乙第一六号証の三〇ないし三三及び弁論の全趣旨によれば、右各書証は被告機械二のチョコレート取出口部分のシャッターに関する図面であり、順次シャッターボデー板(フランジ)、アーム、シャッター板、スプリング押えに関する図面であり、その作成日はいずれも昭和五五年一〇月二〇日と認められる(乙第一六号証の三三については作成日付が「一〇年二〇月 日」とされているが昭和五五年一〇月二〇日の誤記と認められる。)。書込み部分を除いて成立に争いがなく弁論の全趣旨によれば書込み部分については曽山貢作成(甲第五四号証の二四の一については國和修と共同作成)と認められる甲第五四号証の二二ないし二五の各一及び弁論の全趣旨によれば、右各書証は順次前記乙第一六号証の三〇ないし、三三の写しに説明のための書込みを加えたものと認められる。
前記甲第一号証の三六、同号証の三五、同号証の三一、同号証の三二によれば、右各書証は原告機械一のチョコレート取出口部分のシャッターに関する図面であり、順次フランジ、アーム、シャッター板、スプリング押えに関する図面であり、書込み部分を除いて成立に争いがなく、弁論の全趣旨によれば書込み部分は、二四の二については國和修作成、その余については曽山貢作成と認められる甲第五四号証の二二ないし二五の各二によれば、右各書証は、順次右甲第一号証の三六、三五、三一、三二の写しに説明のための書込みを加えたものと認められる。原告はこれらの図面を原告機械二に転用している旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はないので、これを被告図面と対比するのは相当でない。
キ シャッター用ハンドル図
成立に争いのない乙第一六号証の四、書込み部分を除いては成立に争いがなく、弁論の全趣旨によれば書込み部分は曽山貢作成と認められる甲第五四号証の三の一によれば、前者は被告機械二のシャッター用ハンドルの図面で、昭和五五年一〇月二〇日に作成されたものであること、後者は前者に説明のための書込みを加えたものであることが認められる。前記のとおり甲第一号証の三四、甲第五五号証の三〇の二は原告機械一のシャッター用ハンドルの図面である。
原告は、右原告機械一の設計図を原告機械二に転用している旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はないので、右原告図面と被告図面とを対比するのは相当でない。
ク コモンベース図
成立に争いのない甲第四一号証の一二、書込み部分については成立に争いがなく弁論の全趣旨によれば書込み部分については曽山貢作成と認められる甲第五四号証の一九の二によれば、右書証のうち前者は原告機械二のベース部分(コモンベース)の図面であり、昭和五二年一二月二四日に作成されたこと、後者は右甲第四一号証の一二に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。
成立に争いのない乙第一六号証の二三、書込み部分については成立に争いがなく弁論の全趣旨によれば書込み部分については曽山貢作成と認められる甲第五四号証の一九の一によれば、右書証のうち前者は被告機械一のコモンベースの図面であり、昭和五五年四月一四日に作成されたこと、後者は右乙第一六号証の二三の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。
両図面はいずれも平面図を中心とし、これに加えて横断面図及び縦断面図とからなっている。
まず、平面図について見ると、全長が原告図面では一九二〇ミリメートル、被告図面では一九三〇ミリメートル、全幅が原告図面では八六〇ミリメートル、被告図面では八七〇ミリメートルであり類似している。また、三か所の取付け板の位置がほぼ一致している。しかし、細部の形状は異なっている。横断面図は高さが一五〇ミリメートルと同一であり、形状もボルト穴の位置等がかなり類似している。縦断面図の形状は、被告図面においては両端に吊り金具の突起部分があり、原告図面にはないがこれは断面を取る位置に基づく差異と考えられる。両図面の全体の形状、寸法はかなりよく似ている。
ケ ピンの図面
これについても原告は原告機械一の図面を転用していると主張しているが、これを認めるに足りる証拠はないから、被告機械二の図面(乙第一六号証の三、甲第五四号証の二の一)と前記甲第一号証の三三、甲第五四号証の二の二とを対比するのは相当でない。
(8) 原告は、乙第一六号証についてもその証拠価値を疑問とするので、その主張について検討する。
ア 乙第一六号証の一が、昭和五九年一月一三日に改正されており、当初において被告会社で製作された被告機械二は原告機械二と同様の操作盤組込型であったことは当事者間に争いがない。したがって、その限度では乙第一六号証の当初図面と異なることは明らかであるが、そのことは、乙第一六号証の一が乙第一七号証の修正図であって、右図面記載の日に作成されたものであることを直ちに否定するものではなく、両図面の他の部分の記載、筆跡等を比較すると、乙第一七号証は昭和五五年一〇月三〇日に作成され、乙第一六号証の一は、それを昭和五九年一月一三日に修正した図面であると認めるのが相当である。
イ 前記のとおり、乙第一六号証は、昭和五五年九月二七日から同年一一月三日までの一か月余りの間に作成されたものであり、原告が単体機械について要する設計図の作成期間と比較してかなり短期間であることが認められる。しかしながら、乙第一六号証の体裁からみて、そのことが右設計図記載の作成日に右設計図が被告会社従業員によって作成されたこと自体を疑わせるものではなく、むしろ、原告機械二の設計図の無断複製、模写の事実の有無という点から検討すべきことがらである。
ウ 被告機械二の見積図(甲第一〇号証の一)が昭和五五年九月に作成されたことは当事者間に争いがなく、また、前記のとおり、乙第一六号証は昭和五五年九月二七日から同年一一月三〇日までの間に作成され、九月中に作成されたものは一部に過ぎないから、被告機械二の見積図の作成は多くの設計図の作成に先行していると言うことができる。
確かに、原告の主張するように、見積図には機械の外形について各部の詳細な寸法が記載されているから、設計図の作成なしにこのような見積図を作成することが可能であるかについては疑問がある。しかしながら、この点も被告らによる原告機械二の設計図の無断複製、模写があったか否かの観点、すなわち、見積図作成の資料となり得る原告機械二の設計図を被告らが保有していたか否かという視点から検討するのが正当であり、その体裁から見て乙第一六号証自体はその作成日欄に記載された日に作成されたものと見るのが相当である。
エ 一般には、機械の部品図が完成してからその発注がされるものと考えられるから、被告機械二の設計図の作成日から見ると、フルタ製菓への納入期日である昭和五五年一二月一五日がかなり近接した期日であることは否定できない。しかし、乙第一六号証の設計図が納入日の一か月以上前に全部作成されていることも事実であるから、右事実から直ちに乙第一六号証の設計図の証拠価値を否定することはできない。
(9) 以上を総合すると、感熱計やシャッターの図面等一部の図面に相違も見られるし、対比ができない図面もあるが、対比可能な図面の多くは酷似しているか、酷似とまではいかなくとも、全体的に又は重要な部分において類似しており、これら及び前記二の事実によれば、被告中宿は原告在職中に原告機械二の設計図を原告に無断で複写し、これを被告会社に持参し、被告会社は右事情を知りながら原告機械二の設計図について、図面によってはこれを殆ど模写し、図面によってはかなりの程度これを参考にして変更を加えて被告機械二の設計図を作成したものと認められる。その過程において、原告機械二のノウハウである横型三段階冷却方式及び冷却筒の構造、スクリューの溝の深さが被告らによって原告に無断で取得、使用されたものと認められる。
4 原告機械三について
(一) 機械の概要及びノウハウ
NAT型オートテンパーは、処理容量に応じてスケールアップないしスケールダウンしているものであり、原告機械三の構造、機能及びノウハウは、基本的に原告機械一、二、四と同様であることは当事者間に争いがない。
(二) ノウハウ侵害
被告機械三はSAT型と称され、被告機械一、二とは容量の相違に基づく製品番号が異なるのみである。このこと及び弁論の全趣旨によれば、被告機械三は被告機械一、二とその構造、機能、ノウハウを共通にするものと認められる。このこと及び右2、3における設計図の対比の結果を総合すると、被告中宿は原告在職中に原告機械三の設計図を原告に無断で複写し、これを被告会社に持参し、被告会社は右事情を知りながら原告機械三の設計図について、図面によってはこれを殆ど模写し、図面によってはかなりの程度これを参考にして変更を加えて被告機械三の設計図を作成したものか、あるいは原告機械一、二の設計図に基づいて作成した被告機械一、二の設計図を利用して、原告機械三を製造、販売したと認められる。その過程において、原告機械三のノウハウである横型三段階冷却方式及び冷却筒の構造、スクリューの溝の深さが被告らによって原告に無断で取得、使用されたものと認められる。
5 原告機械四について
(一) 機械の概要
NAT型オートテンパーは、処理容量に応じてスケールアップないしスケールダウンしているものであり、原告機械四の構造、機能及びノウハウは、基本的に原告機械一、二と同様であることは当事者間に争いがない。
(二)ノウハウ
原告機械四のノウハウが原告機械一、二のノウハウと基本的に同一であることは右のとおり当事者間に争いがないが、そのノウハウの具体的内容は次のとおりである。
(1) 横型三段階冷却方式及び冷却筒の構造
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第五八号証の一、二及び弁論の全趣旨によれば、同号証の二は原告機械四の冷却筒部断面図であり、これを前記甲第一号証の二の原告機械一の電気配線及び冷水・温水配管系統図と対比すると、両者は基本的構造において同一であり、原告機械四は横型三段階冷却方式で冷却筒の構造は四つのセクションに分かれ、独立に温度調節できる構造であることが認められる。
(2) 冷却筒内径とスクリュー軸先端との隙間
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一二〇号証の三によれば、同書証は原告機械四の第一冷却筒組立図であり、昭和五二年一二月一四日に作成されたことが認められる。同図面によれば、原告機械四の第一冷却筒における冷却筒内径とスクリュー軸先端との隙間は〇・二五ミリメートルとされていることが認められる。
(3) スクリュー軸の条数、リード、ピッチ、溝の深さ
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第九一号証の二、甲第一二〇号証の一によれば、同書証は原告機械四の第一冷却筒スクリューの図面であり、昭和五三年三月一八日に作成されたことが認められる。同図面によれば、スクリュー軸の条数は三、リードは一七六ミリメートル、ピッチは五八・七ミリメートル、スクリューの溝の深さは九・七五ミリメートルと認められる。
(4) チョコレートの通過抜け道
前記甲第一二〇号証の三によれば、同図面のベアリングハウジング内部にはチョコレートの通過抜け道が設けられていることが認められる。
(5) 冷却筒の外筒の二重筒間の螺旋状の隔壁
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一二〇号証の二によれば、同書証は原告機械四のシリンダーAの図面であり、昭和五二年一二月二一日に作成されたことが認められる。同図面によれば、原告機械四の冷却筒の外筒の二重筒の外壁と内壁との間には螺旋状の隔壁が設けられていることが認められる。
(三) ノウハウ侵害
被告機械四はSAT型と称され、被告機械一、二とは容量の相違に基づく製品番号が異なるのみである。この点及び弁論の全趣旨によれば、被告機械四は被告機械一、二とその構造、機能、ノウハウを共通にするものと認められる。この点及び右2、3における設計図の対比の結果を総合すると、被告中宿は原告在職中に原告機械四の設計図を原告に無断で複写し、これを被告会社に持参し、被告会社は右事情を知りながら原告機械四の設計図について、図面によってはこれを殆ど模写し、図面によってはかなりの程度これを参考にして変更を加えて被告機械四の設計図を作成したものか、あるいは原告機械一、二の設計図に基づいて作成した被告機械一、二の設計図を利用して、原告機械四を製造、販売したと認められる。その過程において、原告機械四のノウハウである横型三段階冷却方式及び冷却筒の構造、スクリューの溝の深さ等が被告らによって原告に無断で取得、使用されたものと認められる。
6 原告機械五について
(一) 機械の概要
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第九号証の二によれば、原告機械五はチョコレート流動体の輸送用ポンプである。
(二) ノウハウ
(1) ギヤーポンプの歯のモジュール、歯の数、歯の角度、歯車の中心距離
成立に争いのない甲第二号証の七、九、書込み部分を除いては成立に争いがなく弁論の全趣旨により書込み部分については曽山貢作成と認められる甲第五一号証の二、三によれば、右書証のうち前者はいずれも原告機械五のはすば歯車の図面であり、昭和五五年一二月二日に作成されたことが、後者は右甲第二号証の七、九の図面に書込みを加えた図面であることが認められる。ところで、右甲第二号証の七、九の図面には、いずれも「41・5・12訂正 池田」との記載があるところからみて、当初の図面は昭和四一年五月一二日より前に作成され、それに訂正を加えた図面が存在し、それに基づいて再度右作成日に作成されたものであり、旧図面の訂正がそのまま残されているところから見て、基本部分は再製前の図面と同一性を保持しているものと認められる。
右図面によれば、原告機械五のはすば歯車のモジュールは六、歯数は九、ねじれ角は二〇度、相手歯車との中心距離は六二・五ミリメートル、転位係数〇・五三五である。
(2) パッキング
成立に争いのない甲第二号証の一によれば、原告機械五には回転軸の両端付近周囲に合成ゴム製のオイルシールが取り付けられていることが認められる。
(3) シャーピン
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第八号証の三によれば、原告機械五のモーターとポンプ部の中間のフランジ部分にシャーピンと呼ばれるピンが挿入されていることが認められる。成立に争いのない甲第二号証の一二によれば、同書証はシャーピンの図面であり、昭和三九年六月一六日に作成されたことが認められる。
右図面によれば、中間がくびれた細長い丸棒状部分と頭部から形成され、頭部の径が一〇ミリメートル、丸棒部分の径が八ミリメートル、全体の長さが三九ミリメートルである。
(4) 右各点をノウハウと認めることができるか否かについて判断するに、ギヤーの歯車についての細目はチョコレートポンプの性能を決める重要な事項であって、産業上利用できる技術的思想の創作を実施するための具体的、技術的知識であり、これを開発した原告が秘密にしているものと認められるからノウハウである。しかしながら、パッキング及びシャーピンについては、それがどのような技術的思想の創作あるいはこれを実施するための技術的経験を含んでいるのか証拠上明らかでなく、これをノウハウと認めることはできない。
(三) 設計図の無断複製、模写によるノウハウ侵害の有無
(1) 歯車に関する設計図
前記甲第二号証の七、九等によれば、原告機械五の歯車に関する数値は前記(二)(1)のとおりである。成立に争いのない乙第一九号証の一四、書込み部分を除いては成立に争いがなく弁論の全趣旨により書込み部分については曽山貢作成と認められる甲第五一号証の一によれば、右書証のうち前者は被告機械五のはすば歯車の図面であり、昭和五五年七月八日に作成されたことが、後者は右乙第一九号証の一四の図面に書込みを加えた図面であることが認められる。
被告図面によれば、被告機械五の歯車のモジュールは六、歯数は九、ねじれ角は二〇度、相手歯車との中心軸間の距離は六二・五ミリメートル、転位係数〇・五三五であって、原告図面と同一であることが認められる。
(2) パッキングに関する設計図
成立に争いのない乙第一九号証の一五によれば、被告機械五のオイルシールの設けられている部分には、特にパッキングは用いられておらず、この点で原告機械五と被告機械五は異なることが認められる。
(3) シャーピンに関する設計図
乙第一九号証の各枝番その他本件全証拠中には、被告機械五のシャーピンに関する設計図が見当たらないので、原告図面と比較することはできない。
(4) 機械全体の構造に関する設計図
前記甲第二号証の一、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一三六号証の一、書込み部分を除いて成立に争いがなく弁論の全趣旨によれば書込み部分については曽山貢作成と認められる甲第八三号証によれば、右書証のうち甲第二号証の一、甲第一三六号証の一はいずれも原告機械五の総組立図であり、甲第二号証の一は昭和五五年一二月二日に、甲第一三六号証の一は昭和三九年六月一五日にそれぞれ作成されたものであること、甲第八三号証は右甲第二号証の一の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。甲第二号証の一による修正前の図面が甲第一三六号証の一と認められるので、以下の対比は甲第一三六号証の一との間で行う。
前記乙第一九号証の一五、書込み部分を除いて成立に争いがなく弁論の全趣旨によれば書込み部分については曽山貢作成と認められる甲第八四号証によれば、右書証のうち前者は被告機械五の組立図であり、昭和五五年七月九日に作成されたことが、後者は右乙第一九号証の一五の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。
両図面を対比すると、両機械はいずれもギヤーポンプであり、上下二段に組み合わされたはすば歯車が噛み合いながら回転することによって、チョコレートがはすば歯車の軸の方向と直交する方向へ圧送される構造となっている。また、はすば歯車は両機械とも上段が主動軸であり、下段が従動軸である。但し、モーターに接続する駆動軸が原告機械五では主動軸の片側に設けられているに過ぎないのに対し、被告機械五では主動軸の両側に設けられているという点、前記のとおり原告機械五にはオイルシールが用いられているのに被告機械五には用いられていない点及びバルフロン成形パッキンは原告機械五では歯車の両端に四個ずつ取り付けられているが、被告機械五では三個ずつ取り付けられているという
相違がある。
以上を総合して考えると、原告機械五の図面と被告機械五の図面とではかなりの相違点もあるが、ギヤーポンプの最重要点である、はすば歯車のモジュール、歯の数、ねじれ角、歯車の中心軸間の距離、転位係数という点で全く同一であり、このことと前記二の事実を総合すると、被告中宿は原告在職中に原告に無断で原告機械五の設計図を複写し、これを被告会社に持参し、被告会社は右事情を知りながら、原告機械五の設計図を参照して被告機械五の設計図を作成し、これに基づいて被告機械五を製造、販売し、原告機械五のノウハウを使用し、これを侵害したものと認められる。
7 原告機械六について
(一) 機械の概要
原告機械六は、チョコレートを輸送するポンプであり、ストレージタンクに貯蔵されているチョコレートを一旦移入し、原告機械六自体を目的機械の側部まで移動させ、原告機械六のタンクからチョコレートを汲み上げて目的機械に対し、チョコレートを供給するものであることは当事者間に争いがない。
(二) ノウハウ
(1) 歯車の構造等
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第九二号証の一、甲第一二一号証の一によれば、前者は原告機械六の駆動軸部及びポンプ図組立図であり、昭和四一年二月二〇日に作成されたこと、後者は前者の図面に説明のための書込みがされた図面であることが認められる。同図面の部品番号16番はダブルヘリカルギヤーであるが、同図面の注記により、それは、原告機械五と同一のものが一組使用されていることが認められる。
前記のとおり、原告機械五のはすば歯車のモジュールは六、歯数は九、ねじれ角は二〇度、相手歯車との中心距離は六二・五ミリメートル、転位係数〇・五三五であって、原告機械六のダブルヘリカルギヤーもこれと同一である。
(2) 逃げ溝
弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる甲第一二一号証の二によれば、同書証は原告機械六の側板及び歯車受軸の図面であり、いずれも昭和四〇年一二月二一日に作成されたことが認められる。
右図面によれば、原告機械六の側板及び歯車受軸には歯車部分にチョコレートが滞留することを防止するための逃げ溝が設けられていることが認められる。
(3) ダブルヘリカルギヤーの歯車のモジュール、歯数等について、被告らは、チョコレートの吐出量によって必然的に決定される常識的事項であると主張し、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第三二号証の四には、歯に関する数値を決定する要素についての理論が記載されているが、あくまでも一般論であって、原告機械六のような個別の機械における数値がそこから直ちに出てくるものではなく、他に被告らの右主張を認めるに足りる証拠はない。右歯車に関する数値及び逃げ溝は、産業上利用できる技術的思想の創作を実施するための具底的な技術的知識で、原告が秘密としており、公然と知られていないものであり、原告のノウハウと認められる。
(三) 設計図の無断複写、模倣によるノウハウ侵害の有無
(1) 見積図の対比
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第九号証の六、甲第六〇号証の二によれば、右書証は原告機械六の見積図であり、その作成年月日は不明であることが認められる。
成立に争いのない甲第一〇号証の六、甲第六〇号証の三(書込み部分を除く。)によれば、右書証は被告機械六の見積図であり、昭和五七年五月に作成されたことが認められる。
右両図面を対比する。まず形状においては、側面図において、本体部分は車輪によって支えられ、本体に接続されたタンク状部分には補助輪が設けられ、タンク状部分から上へ向けてパイプがほぼL字状に伸び、上部で逆7の字状に折曲し、パイプの先端は下向きとなっている。また、パイプの上下の中間下部には配電盤が取り付けられている。以上の形状において両図面は酷似している。また、平面図においても、ほぼ正方形に近い形の本体部に起上がりこぼし形状の盤が接続されパイプの中間には三角形状の握り手の部分が存在するという形状において酷似している。寸法は、本体部の車輪中心から左端までの距離(四三〇ミリメートル)、同じく右端までの距離(一三〇ミリメートル)、地上からのパイプの高さ(一七〇〇ミリメートル又は三二〇〇ミリメートル)等多くの寸法が一致し又は酷似している。
また、同図中に仕様が記載されている点も同一であり、仕様の項目内容及びその順序が全く同一である。そして、仕様中のポンプ型式について被告図面においては、「ダブルヘリカルギヤーポンプ」と記載されている。全体として両図面は酷似している。
(2) 写真の対比
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第八号証の八、九によれば、右書証は原告機械六の斜視写真及び正面写真であることが認められる。成立に争いのない甲第七号証の八、九によれば、右書証は被告機械六の斜視写真及び正面写真であることが認められる。
両機械の右写真を対比すると、配電盤の形状、配管、ホッパーの位置等において相違はあるものの、全体としてよく似ている。
(3) 原告機械六及び被告機械六については、設計図が証拠として提出されていないが、右のような見積図の酷似、製造された製品の類似、見積図中に被告機械六の仕様としてダブルヘリカルギヤーポンプと記載されていること及び前記二の事実からみて、被告中宿が原告在職中に原告に無断で原告機械六の設計図を複写し、これを被告会社へ持参し、被告会社は右事情を知りながら、右原告機械六の設計図を模写、参照して被告機械六の設計図を作成し、これに基づいて被告機械六を製造、販売し、これによって原告機械六の設計図に化体された原告のノウハウを侵害したものと認められる。
8 原告機械七について
(一) 機械の概要
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第九号証の五によれば、コンチングを終えストレージタンクに貯蔵されたチョコレートは成型必要量だけ取り出してチョコレートポンプを通じて原告機械七に送り込まれる。原告機械七はチョコレートの生地の温度を適宜に調整する機械である。
(二) ノウハウ
(1) 機械全体の構造及び鉋金製攪拌用籠
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第四三号証の一、甲第七九号証の一、二によれば、右書証のうち前者は原告機械七の組立図であり、昭和四二年一二月一三日に作成されたこと、後者は右甲第四三号証の一の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。
右図面及び弁論の全趣旨によれば、ホッパー内に供給され、温水で暖められているチョコレートが、縦型の冷却筒内を降下しながら冷却されていく際に、チョコレートの通り道の中に設けられている鉋金製攪拌用籠によって攪拌される。冷却を終わったチョコレートは横管を通り、次に攪拌翼の設けられた縦管へ入り、攪拌翼で攪拌された後、次の工程へ送られていく構造となっている。横管以降においては、チョコレートは再び温水により暖められる構造となっている。
(2) シャッターバルブ
成立に争いのない甲第三号証の五九(これに対応するのが甲第四三号証の一〇、甲第四五号証の九、一〇であり、前者は甲第三号証の図面に説明のための書込みを加えたものであり、後者は甲第三号証の図面を乙号証と対比しやすくするため半透明の用紙に複写したものであって、前者は弁論の全趣旨によりその成立が認められ、後者は成立に争いがない。内容的には書込み部分を除いていずれも甲第三号証と同一であり、書証の成立も各枝番号とも同一であるので、以下、書証の成立についての認定は省略し、対応する甲第三号証と一括して表示することとする。)、甲第三号証の五八・甲第四三号証の一二・甲第四五号証の一一、甲第三号証の六一・甲第四三号証の一三・甲第四五号証の一二、甲第三号証の六三・甲第四三号証の一四・甲第四五号証の一三、甲第三号証の六〇・甲第四三号証の一五・甲第四五号証の一四によれば、右書証は原告機械七のシャッター部品図であり、昭和三六年一二月二六日に作成されたことが認められる。右部品図は、順次シャッターアーム平面図、シャッターアーム断面図、シャッターボデー図、ピン図、スプリング座金図、シャッター図である。
しかし、右各図面からは、シャッターの機能について把握することはできない。
(3) 駆動系統
成立に争いのない甲第三号証の一四・甲第四三号証の三七・甲第四五号証の二七及び弁論の全趣旨によれば、右書証は原告機械七のはすば歯車(材質SC三七)の図面であり、昭和四四年四月二六日に作成されたことが認められる。
同図面によれば、歯車は中央に中空の軸穴が存在し、歯車の平面部分に円環状の偏平な凹みがあるという形状であり、寸法は歯車の外径が一九五・二五四二ミリメートル、基準ピッチ円直径が一八七・二五四二ミリメートル、歯車の厚みが三八ミリメートルである。図面中に記載されているモジュールは四、歯数は四五、圧力角は二〇度、ねじれ角及び方向は一六度左である。
(4) 右各点がノウハウであるか否かについて判断するに、シャッターバルブについては、これをノウハウと認めるに足る資料が存しない。
右の鉋金製攪拌用籠は、冷却筒の内筒と外筒との間で冷却されるチョコレートの流れの中に配置されてチョコレートを攪拌するという複雑な構造であって、これによって冷却効率を高めるものと認められ、また、歯車の数値も原告の技術的工夫の成果と認められる。したがって、両者は産業上利用できる技術的思想の創作を実施するための具体的、技術的知識で、原告がその設計図を秘密にしており、公知でないから、設計図に化体された右各点は原告機械七のノウハウと認めることができる。
(三) 設計図の無断複写、模倣によるノウハウ侵害
(1) 機械全体の構造及び鉋金製攪拌用籠
原告機械七の設計図に表われた機械全体の構造及び鉋金製攪拌用籠については前記(二)(1)のとおりである。
成立に争いのない乙第二〇号証の一、書込み部分を除いて成立に争いがなく弁論の全趣旨により書込み部分については曽山貢作成と認められる甲第八〇号証の一、二によれば、右書証のうち前者は被告機械七の組立図であり、その作成年月日の記載はないが、被告会社がチョコレート機械の製造、販売を開始した昭和五五年夏頃以降に作成されたものと認められる。後二者は右乙第二〇号証の一の図面に説明のための書込みを加えた図面である。
原告図面と被告図面とを対比すると、両者の構造は同一であり、ホッパー内に供給され、温水で暖められているチョコレートが、縦型の冷却筒内を降下しながら冷却されていく際に、チョコレートの通り道の中に設けられている鉋金製攪拌用籠によって攪拌される。冷却を終わったチョコレートは横管を通り、次に攪拌翼の設けられた縦管へ入り、攪拌翼で攪拌された後、次の工程へ送られていく構造となっている。横管以降においては、チョコレートは再び温水により暖められる構造となっている。
(2) シャッターの設計図
原告機械七のシャッターに関する設計図は前記(二)(2)のとおりである。
成立に争いのない乙第二〇号証の五ないし九(これに順次対応し赤丸を付したものが甲第四四号証の九ないし一四である。赤丸部分を除いては成立に争いがない。以下、甲第四四号証については、いずれも赤丸部分を除くと乙第二〇号証の対応書証と同一であり成立に争いがないので、以下、対応する乙第二〇号証と一括して表示することとする。)によれば、右書証は被告機械七のシャッター部品図であり、昭和五六年二月二四日に作成されたことが認められる。右部品図は、順次シャッターアーム平面図、シャッターアーム断面図、シャッターボデー図、ピン図、スプリング座金図、シャッター図である。
まず、シャッターアーム平面図、同断面図を対比する。両者の形状は、いずれも細長い丸棒の先端に二個の円筒状の部分が接続される形状であり、二個の円筒状部分は間隔を置いて接続されている。先端の円筒状部分は中空部分の径が同一であり、中間の円筒状部分は中空部分が大径部分と小径部分とからなっている。寸法は、丸棒先端の握りの端から先端の円筒状部分の中心軸までの距離(二二五ミリメートル)、握り部分を除いた丸棒の端から中間の円筒状部分の中心軸までの距離(一三五ミリメートル)、両円筒状部分の中心軸間の距離(六五ミリメートル)、先端の円筒状部分の高さ(六四・九ミリメートル)、中間の円筒状部分の高さ(五二ミリメートル)等ことごとく一致している。以上のとおり、両図面は同一と言ってよいくらいに一致している。
次にシャッターボデー図を比較する。シャッターボデーの形状は偏平な基盤の片側半分上に内側に円筒状の中空部のある六角形の突起部分が突出した形状となっており、両者の形状は基盤上の大小の二か所の穴の位置を含めて同一である。また、基盤の三か所の円弧の半径も二か所が二〇R、一か所が七八Rと同一である。寸法は六角部分の中心軸から基盤上の大きい穴の中心軸までの距離(六五ミリメートル)、全体の厚み(四〇ミリメートル)、基盤部分の厚み(一三ミリメートル)等全て同一である。これまた、両図面は同一といってよいくらい一致している。
ピン図は、両図面とも径が六段階に変化する形状であり、被告図面においては六段階目の接続部分がやや径が小さくされているほかは同一である。円板の両端を切り落としたような頭部の平面形状も同一である。寸法は、右六段階の径が順次三三ミリメートル、二二ミリメートル、二一ミリメートル、二二ミリメートル、一七ミリメートル、一六ミリメートルと変化する点で同一である(但し、原告図面では右一七ミリメートルの部分が一六ミリメートルと訂正されている。)。頭部の長径(三三ミリメートル)、短径(三〇ミリメートル)も同一である。寸法、形状ともほぼ同一である。
スプリング座金図も、平面図における二重円形状、断面図におけるコの字形状(但し、中空の底の部分は更に三角形の突起状中空となっている。)が同一である。寸法も平面図の外径(二四・八ミリメートル)、中空部の径(一〇ミリメートル)、断面図の高さ(一八ミリメートル)等全く同一である。両者は同一内容の図面と言える。
シャッター図も平面図の三つの円形状、側面図の三段階の突起形状において同一であり、寸法は平面図の長径(七五ミリメートル)、二段目の突起の径(二四・八ミリメートル)、三段目の突起の径(九・八ミリメートル)等において同一であり、これまた同一内容の図面である。
(3) 駆動系統の図面
ア 駆動部部品図
<1> カバー図
成立に争いのない甲第三号証の一九・甲第四三号証の五・甲第四五号証の二及び弁論の全趣旨によれば、右書証は原告機械七のカバー図であり、昭和四四年四月一〇日に作成されたことが認められる。成立に争いのない乙第二〇号証の三右上図・甲第四四号証の二及び弁論の全趣旨によれば右書証は被告機械七のカバー図であり、昭和五六年二月二〇日に作成されたことが認められる。
両図面を対比すると、平面図における点線を含む四重円形状、断面図における二段階の中空形状において同一である。但し、原告図面では角の部分がテーパ面とされ、被告図面ではなだらかな円弧状とされている点は異なる。寸法は、下段の外径(七七ミリメートル)、内径(七一ミリメートル)、上段の外径(五二ミリメートル)、内径(四〇ミリメートル)、下段の高さ(一四ミリメートル)、上段の高さ(一〇ミリメートル)が同一である。両図面は全体として酷似している。
<2> ベアリング押え金図
成立に争いのない甲第三号証の一七・甲第四三号証の三、甲第四五号証の三及び弁論の全趣旨によれば、右書証は原告機械七のベアリング押え金であり、昭和三六年一二月九日に作成されたことが認められる。前記乙第二〇号証の三左上図・甲第四四号証の三及び弁論の全趣旨によれば右書証は被告機械七のシールケース図であり、昭和五六年二月二〇日に作成されたことが認められる(但し、同図面には抹消を示す×印が付されている。)。両図面の名称は異なるが、図面の体裁からみて同一部分の部品図と認められる。
両図面を対比すると、形状はシャーレ状の浅い有底円筒形の底部外縁に六個の穴のある鍔が付されたもので、平面図では三重円の、外周近くに穴があるように表われた点、断面図では縦に細長いコの字形の縦棒が上下へ延びてやや太くなっているように表われた点で同一である。寸法は、鍔の外径(八五ミリメートル)、鍔の穴中心軸間の径(七三ミリメートル)、円筒部の外径(六二ミリメートル)、内径(五四ミリメートル)、全体の厚み(一四ミリメートル)において同一である。原告図面の平面図は左半分が大部分省略されていること及び穴部分の径、穴部分の厚み等の寸法に若干の差異はあるが、両図面は実質的には全体としてよく似ている。
<3> ベアリング押え金図
成立に争いのない甲第三号証の一六・甲第四三号証の四・甲第四五号証の四及び弁論の全趣旨によれば、右書証は原告機械七のベアリング押え金であり、昭和三六年一二月九日に作成されたことが認められる。前記乙第二〇号証の三左下図・甲第四四号証の四及び弁論の全趣旨によれば右書証は被告機械七のベアリング押え金であり、昭和五六年二月二〇日に作成されたことが認められる(但し、同図面には抹消を示す×印が付されている。)。
両図面を対比すると、形状は、内側の穴の径が大小二段になった円環状の板の大径の穴の外縁が突出し、外周に六個の穴があるもので、平面図では四重円の外周近くに穴があるように表われた点、断面図では縦に細長い長方形の中間部が一方へ突出してやや幅広となり、その部分に穴の外縁の突出部と二段階の内側の穴が、上下の端部近くに穴が表われている点が同一である。寸法は、外径(一〇〇ミリメートル)、外周近くの穴の中心軸間の径(八〇ミリメートル)、内側の穴の大径(五五ミリメートル)、小径(四一ミリメートル)、突出部を含めた厚さ(一一・二ミリメートル)、両端部の厚さ(九ミリメートル)、大径部の厚さ(九ミリメートル)、小径部の厚さ(二・二ミリメートル)等において同一であり、全体として両図面は酷似している。
<4> カラー図
成立に争いのない甲第三号証の二二・甲第四三号証の六・甲第四五号証の五及び弁論の全趣旨によれば、右書証は原告機械七のカラー図面であり、昭和三八年九月五日に作成されたことが認められる。前記乙第二〇号証の三右下図・甲第四四号証の五及び弁論の全趣旨によれば右書証は被告機械七のカラー図面であり、昭和五六年二月二〇日に作成されたことが認められる(但し、同図面には抹消を示す×印が付されている。)。
両図面を対比すると、形状は単純な中空の円筒形状で一致しており、寸法は円筒の高さ(二三・二ミリメートル)、円筒の外径(四〇ミリメートル)、内径(三〇ミリメートル)が全く同一である。両者は同一内容の図面である。
<5> シールケース図
成立に争いのない甲第三号証の一八・甲第四三号証の七・甲第四五号証の六及び弁論の全趣旨によれば、右書証は原告機械七のシールケース図面であり、昭和四四年四月二四日に作成されたことが認められる。成立に争いのない乙第二〇号証の四左上図・甲第四四号証の六及び弁論の全趣旨によれば右書証は被告機械七のシールケース図面であり、昭和五六年二月二〇日に作成されたことが認められる。
両図面を対比すると、形状は、中空円筒状の一端がラッパ状に大径となり、その端部外周に六個の穴のある鍔があり、円筒部及びラッパ状部の内径は何段階にも変化しているもので、平面図では外周近くに六個の穴が配置された多重円形状に表われた点、断面図では円筒部及びラッパ状部の内径の変化の状況が表われている点及びその状況自体において同一である。寸法は鍔の外径(一〇五ミリメートル)、円筒部の外径(七〇ミリメートル)、鍔の穴間の径(九二ミリメートル)、全体の高さ(三二・五ミリメートル。但し、原告図面では三四・五ミリメートルに訂正されている。)、複雑に変化する内径及びその部分の高さ等殆どの寸法が一致している。全体として両図面は酷似している。
<6> ベアリング押え金図
成立に争いのない甲第三号証の二〇・甲第四三号証の八・甲第四五号証の七の各左側図面及び弁論の全趣旨によれば、右書証は原告機械七のベアリング押え金図面であり、昭和四四年一〇月二〇日に作成されたことが認められる。前記乙第二〇号証の四左下図・甲第四四号証の七及び弁論の全趣旨によれば右書証は被告機械七のシールケース図面であり、昭和五六年二月二〇日に作成されたことが認められる(但し、同図面には抹消を示す×印が付されている。)。両図面の名称は異なるが、その体裁からみて同一部品の図面と認められる。
両図面を対比すると、形状は、内側の穴の径が大小二段になった円環状の板の外周に六個の穴があるもので、平面図において三重円形で周辺に穴が配置されているように表われた点、断面図において、縦に細長い長方形状で、中間部に大小二段の内側の穴が、上下端に穴が表われている点において同一である。寸法は、外径(一二〇ミリメートル)、内側の穴の大径(八〇ミリメートル)、小径(七〇ミリメートル)、円板の厚さ(八ミリメートル)、大径部の厚さ、小径部の厚さ(各四ミリメートル)等ほとんどの寸法において同一であり、両図面は酷似している。
<7> パッキングハウジング図
成立に争いのない甲第三号証の二一・甲第四三号証の九・甲第四五号証の八及び弁論の全趣旨によれば、右書証は原告機械七のパッキングハウジングの図面であり、昭和四四年四月一〇日に作成されたことが認められる(その後一部変更された部分があるが、いずれも被告図面作成年月日より後の変更であり、対比の対象外とする。なお、昭和六〇年九月二〇日廃図との記載があり、平面図の部分に×印が付されている。)。前記乙第二〇号証の四右図・甲第四四号証の八及び弁論の全趣旨によれば右書証は被告機械七のパッキングハウジングの図面であり、昭和五六年二月二〇日に作成されたことが認められる(但し、同図面には抹消を示す×印が付されている。)。
両図面を対比すると、形状は、円板の一方の面に同心円状の肉厚部を、他方の面により径の小さい円錐台状の肉厚部を設け、双方の肉厚部の重なる位置に貫通する穴を設け、円板の外周部に穴を設けたもので平面図において多重円形状で外周近くに穴がある点は類似しているが、断面図は被告図面では中央の穴の内径が小、大、小、大、小と変化する構造となっているのに対し、原告図面では大小二段に変化する構造となっており、異なっている。寸法は全体の厚み(二二ミリメートル)、径の大きい肉厚部の厚み(九ミリメートル)、径の小さい肉厚部の厚み(七ミリメートル)円錐台状の肉厚部の上底、下底の径(五〇ミリメートル、五五ミリメートル)は同一であるが、かなりの部分で異なっている。全体として、両図面は類似しているとは言えない。
イ はすば歯車図
<1> 原告のはすば歯車の図面の内容は、前記(二)(3)のとおりである。
成立に争いのない乙第二〇号証の三三右側図面・甲第四四号証の二七及び弁論の全趣旨によれば、右書証は被告機械七のはすば歯車(材質SC三七)の図面であり、昭和五六年三月三日に作成されたことが認められる(但し、図面には削除の×印が付され、右下には「駆動部改造による不要図」との記載がみるが、この記載もまた二重線によつて抹消されている。)。
両図面を対比すると、中央に中空の軸穴が存在し、歯車の平面部分に円環状の偏平な凹みがあるという形状において同一である。寸法も歯車の外径(一九五・二五四二ミリメートル)、基準ピッチ円直径(一八七・二五四二ミリメートル)、歯車の厚み(三八ミリメートル)等全体的に同一である。図面中に記載されているモジュール(四)、歯数(四五)、圧力角(二〇度)、ねじれ角及び方向(一六度左)も同一である。右のとおり、両者は同一内容の図面ということができる。
<2> 成立に争いのない甲第三号証の一五・甲第四五号証の二八及び弁論の全趣旨によれば、右書証は原告機械七のはすば歯車(ピニオン)(材質S四五C)の図面であり、昭和三八年九月五日に作成されたことが認められる。
前記乙第二〇号証の三三右側図面・甲第四四号証の二八及び弁論の全趣旨によれば、右書証は被告機械七のはすば歯車(ピニオン)(材質S四五C)の図面であり、昭和五六年三月三、日に作成されたことが認められる(但し、図面には削除の×印が付され、右下には「駆動部改造による不要図」との記載があるが、この記載もまた二重線によつて抹消されている。)。
断面図(被告図面では一部側面図)における両図面の形状を比較すると、歯車部分と軸部分から形成される形状において同一である。寸法は歯車の外径が原告図面で七八・七四ミリメートル、被告図面で七八・七四〇五ミリメートル、基準ピッチ円直径が原告図面で七〇・七四ミリメートル、被告図面で七〇・七四〇五ミリメートルで殆ど同一である。その他、歯車の厚み(三八ミリメートル)、軸方向の長さ(一六六ミリメートル)等は同一である。全体として両図面は酷似している。
<3> 成立に争いのない甲第三号証の三八・甲第四三号証の三六、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第七九号証の三及び弁論の全趣旨によれば、右書証は原告機械七のはすば歯車(ピニオン)の図面であり、昭和三六年一二月四日に作成されたことが認められる。
成立に争いのない乙第二〇号証の三四、書込み部分を除いては成立に争いがなく弁論の全趣旨により書込み部分については曽山貢作成と認められる甲第八〇号証の三によれば、右書証は被告機械七のはすば歯車(ピニオン)の図面であり、昭和五六年三月三日に作成されたことが認められる。
両図面を対比すると、いずれも平面図は円形で、中央部に円形の穴が開いている。穴の内径はいずれも三五ミリメートル、穴周縁に存在する切欠きの幅は一〇ミリメートルで同一である。断面図はいずれも長方形の中央部が中空となっており、外径九八・七八三三ミリメートル、厚さ五四ミリメートルは同一である。
全体として両図面は酷似している。
<4> 右のとおり、<1>、<2>で対比した乙二〇号証の図面には×印が付されている。右のうち乙第二〇号証の三三、三四の図面の右下には駆動部改造による不要図との記載があり、これもまた二本の線で消されている。また、その左下には「62-10月変更」との記載もある。右記載によれば、被告機械七は中途で駆動系統の設計変更がされたことが窺われ、改造前における図面と考えられる右×印のついた図面を対比することに意味がある。
(4) その他の図面
ア ダンパー部組立図
成立に争いのない甲第三号証の四二・甲第四三号証の二・甲第四五号証の一及び弁論の全趣旨によれば、右書証は原告機械七のダンパー部組立図であり、昭和三八年頃に作成されたことが認められる。成立に争いのない乙第二〇号証の二・甲第四四号証の一及び弁論の全趣旨によれば、右書証は被告機械七のダンパー部組立図であり、その作成年月日は明らかではないが、被告会社がチョコレート製造用機械の製造、販売を開始した昭和五五年夏頃以降に作成されたものと認められる。
<1> 左側の図面の対比
形状は、横軸、縦軸の組合わせの構造、ボルトの位置が一致している。中央部にパッキングが配されているか、オイルシールが配されているかの相違はあるが、全体の形状はよく似ている。寸法は二〇か所を超える数の対比可能な寸法の記載のうち、一か所(ボルト挿入部分近くの径、原告図面では径五〇ミリメートル、被告図面では径六〇ミリメートル)を除いて一致している。右不一致部分も被告図面の他の寸法と対比すると、被告図面が五〇ミリメートルを六〇ミリメートルと誤記した可能性が高い。仕上記号(▽)の内容も一致している。
<2> 右側の図面の対比
形状は、上方へ伸びる軸が長い(原告図面)か短い(被告図面)かを除き、全体として類似している。対比可能な寸法の記載は三〇か所を超える寸法のうち二か所(左上部分の原告図面二五ミリメートル、被告図面三一ミリメートルの寸法、円形部分の左斜上の原告図面一三ミリメートル、被告図面一八ミリメートル)の寸法が異なつているが、後者については、成立に争いのない乙第二〇号証の一〇の部品図では、右被告図面の寸法と異なり、原告図面の寸法と同一となっており、被告図面の寸法は誤記と考えられる。仕上記号(▽)の内容も一致している。
以上を総合すると、両図面は酷似している。
イ タンク底板図
成立に争いのない甲第三号証の三四・甲第四三号証の二二・甲第四五号証の一六及び弁論の全趣旨によれば、右書証は原告機械七のタンク底板の図面であり、昭和三六年九月一四日に作成されたことが認められる。成立に争いのない乙第二〇号証の二〇・甲第四四号証の一六及び弁論の全趣旨によれば、右書証は被告機械七のタンク底板の図面であり、昭和五六年二月二六日に作成されたことが認められる。
両図面の形状は滴型の先細部を円弧で切除した全体の形状、その中のボルト用穴を除いて大中小三つの円形の穴(但し、一番大きい穴は円形の右側に切欠き部がある。)の配置、ボルト用穴の位置が同じであり、両者の形状は同一といってよいほど酷似している。
図面の体裁として、右上に小さな円形の穴の、左下にボルト用穴の断面図が描かれている点も同一である。
寸法は対比可能な寸法が全て一致しているし、曲線カーブ(R)の記載、対比可能な仕上記号(▽)も一致している。
全体として、両図面は酷似している。
ウ ギヤーポンプケーシング図
成立に争いのない甲第三号証の四三・甲第四三号証の三一・甲第四五号証の二三及び弁論の全趣旨によれば、右書証は原告機械七のギヤーポンプケーシングの図面であり、昭和三六年九月一八日に作成されたことが認められる。成立に争いのない乙第二〇号証の二九・甲第四四号証の二三及び弁論の全趣旨によれば、右書証は被告機械七のギヤーポンプケーシングの図面であり、昭和五六年二月二八日に作成されたことが認められる。
平面図の形状は、鎌の刃のような形状で峰にあたる部分は大部分直線状で先端部分のみやや傾斜している。刃にあたる部分は大きく二つの円弧形状を短い直線で結んで形作られている。刃の部分の円弧は先端側が半径一四〇ミリメートル、もう一方が半径四九・六ミリメートルの円弧のカーブによって形作られているが、これらが両図面で同一である。また、その他の寸法も全体の長径(二八七・七三ミリメートル)を初めとして一致し、刃に当たる部分の仕上記号(▽)も一致している。
側面図はほぼ長方形の形状であり、右上に三〇度の角度の切込みがある点、二か所のボルト用穴の位置が一致している。原告図面(昭和五九年一月二〇日寸法変更)の寸法変更前のボルト用穴頭部の径(二六ミリメートル)、ねじ部径(一七ミリメートル)と被告図面の径は一致している。
断面図も形状、寸法とも一致している。
全体として、両図面は酷似している。
エ ギヤーポンプケーシング板図
成立に争いのない甲第三号証の三五・甲第四三号証の三二・甲第四五号証の二四及び弁論の全趣旨によれば、右書証は原告機械七のギヤーポンプケーシング板の図面であり、遅くとも昭和三六年九月一七日頃までに作成されたことが認められる。成立に争いのない乙第二〇号証の三〇・甲第四四号証の二四及び弁論の全趣旨によれば、右書証は被告機械七のギヤーポンプケーシング板の図面であり、昭和五六年三月二日に作成されたことが認められる。
両図面はいずれも平面図であり、ギヤーポンプケーシング板の平面図上の位置及びその左側二か所、右上に一か所、右側に一か所ボルト用穴等の断面図が配置されている点で同一である(但し、原告図面においては、左下の断面図の訂正図が加えられている点が異なる。)。
平面図の形状は二重円形状の右側部分が突出している点、突出部分の左上及び右下(但し、右下は点線で記載)には円形の孔が記載されている点、外側円周の右下部分は円の径が短くなっている点で同一である。寸法は外側円の半径が一五四ミリメートル、内側円の直径が一九五ミリメートル、外周円の右下部分の半径は一四〇ミリメートル、突出部分の左上孔の径が四〇・五ミリメートル、右下孔の径が四七ミリメートル等左右の断面図の寸法を含め寸法はことごとく一致している。
以上によれば、両図面は酷似している。
オ 冷却筒図
<1> 内側冷却筒
成立に争いのない甲第三号証の九・甲第四三号証の三三・甲第四五号証の二五及び弁論の全趣旨によれば、右書証は原告機械七の内側冷却筒部図面であり、遅くとも昭和三六年八月二八日までに作成されたことが認められる。成立に争いのない乙第二〇号証の三一・甲第四四号証の二五によれば、右書証は被告機械七の内側冷却筒図面であり、昭和五六年三月二日に作成されたことが認められる。
両図面の形状は、正面図において多重の同心円形で右上に円弧状の凹みがあり外周近くに六個の穴のある形状、断面図において二層構造であり、左側に円筒状の突出部、右側に円盤状の鍔があり、二層構造の外壁と内壁の間に螺旋状の隔壁が設けられている形状において同一である。
寸法は、正面図における全体の円形の中心と外周近くの六個の穴の中心とを結んだ線の各線間の角度が一番下から順次時計回りに六〇度、六〇度、六二度三八分、五〇度五二分、六五度三〇分、六〇度となっている点で全く同一である。断面図において本体円筒部の外壁の外径(一六四ミリメートル)、内径(一五五・二ミリメートル)、内壁の外径(一三九・八ミリメートル)、内径(一三〇・八ミリメートル)、左側円筒状突出部の外径(六〇ミリメートル)、内径(五〇ミリメートル)(但し、原告図面では突出部分の径が後に寸法が訂正されている。)、右側鍔部分の外径(三一〇ミリメートル)、筒全体の長さ(五六七ミリメートル)その他詳細の寸法まで一致している。
全体として両図面は酷似していると言える。
<2> 外側冷却筒
成立に争いのない甲第三号証の八・甲第四三号証の三四・甲第四五号証の二六及び弁論の全趣旨によれば、右書証は原告機械七の外側冷却筒部図面であり、昭和四八年三月五日に作成されたことが認められる。成立に争いのない乙第二〇号証の三二・甲第四四号証の二六によれば、右書証は被告機械七の外側冷却筒図面であり、昭和五六年三月二日に作成されたことが認められる。
両図面は、いずれも左側に正面図、右側に断面図が配置され、更に左下に上側フランジ図面(原告図面においては上半部の図のみ)が配置されている。
形状は、正面図が円形状であり、右下、左下にパイプが接続され、上部には右側へ向けてパイプが接続されている形状において同一である。断面図において二層構造であり、左右端はそれぞれ鍔部が突出し、右上部と左下部に正面図に描かれたパイプの接続状態が描かれている。上側フランジ図面は上半分の比較しかできないが、三重円の外側半円の左上部分が直線状に切り取られた形状、内側二重円部分に切欠き部分が設けられている形状において同一である。
寸法は、正面図において、全体の円形の中心と正面図円周外側近くに設けられている穴(原告図面に描かれている穴のうち点線で描かれた穴の位置が被告図面の穴に対応している。)六個の穴の中心とを結んだ線の各線間の角度が一番下から順次時計回りに六〇度、六二度三八分、五〇度五二分、六五度三〇分、六一度、六〇度である点で全く同一である。右下、左下に接続されたパイプの長さ(一三〇ミリメートル)、上部に接続されたパイプの外壁の外径(八九・一ミリメートル)、内径(八〇・七ミリメートル)、内壁の外径(六〇・五ミリメートル)、内径(五二・九ミリメートル)等主要部分の寸法が一致している。断面図において、外壁の外径(二四一・八ミリメートル)、内径(二三一・八ミリメートル)、内壁の外径(二一六・三ミリメートル)、内径(二〇七ミリメートル)その他詳細の寸法まで一致している。上側フランジ図面においては、切欠き部分の横幅(六〇ミリメートル)、切欠き部分の三か所の円弧状部分の半径(一〇ミリメートル二か所、五ミリメートル一か所)が一致している。
以上によれば、両図面は酷似している。
カ 攪拌羽根図
<1> 攪拌羽根(大)
成立に争いのない甲第三号証の三七・甲第四三号証の四三・甲第四五号証の三三及び弁論の全趣旨によれば、右書証は原告機械七の攪拌羽根(大)の図面であり、遅くとも昭和三六年九月一七日頃までに作成されたことが認められる。成立に争いのない乙第二〇号証の三九・甲第四四号証の三三によれば、右書証は被告機械七の攪拌羽根(大)の図面であり、昭和五六年三月四日に作成されたことが認められる。
両図面を対比すると、側面図と平面図とからなっている。側面図は全体がL字形状となっており、短辺の上下に一個ずつボルトが取り付けられ、長辺は内側基部と外側突条部とからなっていて、基部先端部にボルト用穴が開いているという形状において両図面は同一である。平面図においては、右から突条六本が右上から左下方向へ(但し、右端の一本は右側上部がなく下半分だけとなっている。)、最左端の突条が左上から右下方向へ設けられており、左端に二つの円形状のボルト用穴がある点で同一である。
寸法は、L字形短辺が二二三ミリメートル、長辺が三一七ミリメートルメートルである点で同一であり、突条の取付け角度(三〇度)、突条の幅(四・五ミリメートル)等も同一である。
以上によれば、両図面は酷似している。
<2> 攪拌羽根(小)
成立に争いのない甲第三号証の四九・甲第四三号証の四四・甲第四五号証の三四及び弁論の全趣旨によれば、右書証は原告機械七の攪拌羽根(小)の図面であり、遅くとも昭和三六年九月一七日までに作成されたことが認められる。成立に争いのない乙第二〇号証の四〇・甲第四四号証の三四によれば、右書証は被告機械七の攪拌羽根(小)の図面であり、昭和五六年三月四日に作成されたことが認められる。
両図面を対比すると、側面図と平面図とからなっている。側面図は全体がL字形状となっており、一辺は長方形で中央より右側に長辺方向の線が入れられている。他辺は内側基部と外側突条部とからなっていて、基部先端部にボルト用穴が開いているという形状において両図面は同一である。平面図においては、右から突条一本が右上から左下方向へ、その左に他の一本の突条が左上から右下方向へ設けられており、左端に二つの円形状のボルト用穴がある点で同一である。
寸法は、L字形の一辺が一四三ミリメートル、他辺が一五五ミリメートルである点で同一であり、突条の取付け角度(三〇度)、突条の幅(四・五ミリメートル)等も同一である。
以上によれば、両図面は酷似している。
(四) 以上を総合すれば、原告機械七の設計図と被告機械七の設計図とは全体として酷似している。
被告らは、両図面が酷似し、部品番号まで一致した理由として、被告会社は、昭和五六年一月頃に、フルタ製菓から原告機械七のオーバーホールの依頼を受け、その際に原告機械七の設計図の一部を借り受けたために生じたことであると主張する。そこで、この点について判断する。
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第二四号証の一、二、乙第二五号証によれば、フルタ製菓は昭和五六年二月頃被告会社に対し原告機械七のオーバーホールを依頼し、被告会社は同機械についてオーバーホールを行なって、同年六月四日フルタ製菓に引き渡したこと、フルタ製菓は同機械を廃棄処分するまでの間、同機械についての図面を保有していたことが認められる。
しかしながら、他方、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第四七号証、甲第四九号証の一ないし三によれば、フルタ製菓が保有していた原告機械七の図面とは、取扱説明書に添付された配管系統図(甲第四九号証の二)及び組立図の二枚に過ぎないことが認められる。右配管系統図からは全体の配管は判るものの部品の形状、寸法等の記載はなく、組立図は全体的な形状、寸法については記載されているものの、機械の各部の形状や寸法までは判明しない。
そうすると、右二枚の図面を仮に被告会社において、前記オーバーホールの際に借り受けたものとしても、これによって被告機械七の各部品の設計図についてその形状が類似したり、部品番号が一致したりすることはあり得ないものである。
以上の検討の結果及び前記二に認定の事実によれば、被告中宿は原告在職中に原告機械七の設計図を複写し、これを被告会社に持参し、被告会社においては右事情を知りながら、原告機械七の設計図を模写して被告機械七の設計図を作成し、これに基づいて被告機械七を製造、販売し、よって、原告機械七の設計図に化体された原告機械のノウハウを侵害したものと認められる。
9 原告機械八について
(一) 機械の概要
弁論の全趣旨によれば、原告機械八はチョコレートの調温を行なうオートテンパーであると認められる。
(二) ノウハウ
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第九三号証によれば、右書証は原告機械八のギヤ及びケーシング図であり、昭和五二年一月一七日に作成されたことが認められる。しかし、右図面によっては原告機械八のノウハウは明らかではなく、他に原告機械八のノウハウについて、これを認めるに足りる証拠はない。
(三) 設計図の盗用、模写によるノウハウ侵害の有無
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二七号証及び弁論の全趣旨によれば、同書証は原告機械八の外形写真と認められる。成立に争いのない甲第七号証の四によれば、同書証は被告機械八の外形写真と認められる。
両写真を対比すると、立方体に近い全体の形状はある程度似ているが、操作盤の位置は異なっている。いずれにせよ、右外形写真のみでは、機械の内部の状況は判明しないし、前記のとおり原告機械八のノウハウ自体認定することができないので、前記二の事実を考慮しても被告らによる原告機械八のノウハウ侵害を認めることはできない。
10 原告機械九について
(一) 機械の概要
弁論の全趣旨によれば、原告機械九は砂糖からホンダントクリームを製造する機械であることが認められる。
(二) ノウハウ
(1) 冷却筒の構造、撹拌羽根
ア 成立に争いのない乙第二一号証の四一、書込み部分を除いては成立に争いがなく書込み部分については弁論の全趣旨により曽山貢が作成したものと認められる甲第八八号証(以下で挙げる甲第八七号証、甲第四八号証の各枝番の成立はいずれも右甲第八八号証の成立と同様に認められるので、その成立についての挙示は省略する。また、甲第八七号証、甲第四八号証の各枝番はいずれもそれに対応する甲第四号証の枝番に説明のための書込みを加えた図面であるので、その認定も省略する。)によれば、右書証のうち前者は被告機械九の総組立断面図であり、昭和五六年五月一五日に作成されたこと、後者は右乙第二一号証の四一の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。
右乙号証に対応する原告機械九の総組立断面図は証拠として提出されていないが(原告の主張によれば、原告機械九については総組立断面図は作成されていないとのことである。)、次のとおり、甲号証のいくつかの図面を合わせると、原告機械九の全体の構造がほぼ判明し、右乙号証との対比が可能である。甲第八七号証の三、成立に争いのない甲第四号証の三によれば、右書証は原告機械九のシロップ投入口組立図であること(但し、甲第八七号証の三の作成年月日は昭和六三年四月五日であること)が認められる。この図面は、被告図面の左上部分に相応する。甲第八七号証の二、成立に争いのない甲第四号証の二によれば、右書証は原告機械九の上部ギヤー軸部組立図であることが認められる。この図面は、被告図面の右上部分に相応する。甲第八七号証の四、成立に争いのない甲第四号証の四によれば、右書証は原告機械九のプーリー軸部組立図であることが認められる。同図面は被告図面の右下部分に対応する。甲第八七号証の五、成立に争いのない甲第四号証の七によれば、右書証は原告機械九の製品出口部組立図であることが認められる。この図面は被告図面の左下部分に相応する。
右甲第四号証の各枝番はいずれも設計図に作成年月日の記載がないが、同じく原告機械九の設計図でありいずれも成立に争いのない甲第四号証の一は昭和五〇年九月二〇日、同号証の五、六は同年一〇月三〇日の作成と認められるから、右作成年月日の記載のない甲第四号証の各枝番(以下の各枝番についても同じ。)は昭和五〇年頃作成されたものと認めるのが相当である。
右各甲号証を複合してみると、原告機械九においては、シロップ投入口から投入されたシロップが横置きに上下二段に配列された冷却筒の外筒とスクリューとの間を流れながら、冷却筒の外筒の中を流れる冷却水によって冷却される構造となっている。また、スクリュー軸の内部にも冷却水が循環する。第二冷却筒の後部には撹拌羽根が取り付けられている。
イ 撹拌羽根
前記甲第四号証の七、甲第八七号証の五によれば、原告機械九の撹拌羽根の枚数は二四枚、底部リード角は約八〇度二〇分、尖端部リード角は約七一度四二分である。
(2) 駆動系統、スクリュー
ア 右甲第四号証の三、四、甲第八七号証の三、四によれば、原告機械九の駆動系統は、第二冷却筒のスクリュー軸(主軸)に取り付けられたプーリーが上部モーターからベルトにより伝動されて主軸を回転させ、右主軸及び第一冷却筒のスクリュー軸(従動軸)に取り付けられたはすば歯車が連動して従動軸が回転する構造となっている。
Vプーリーの横幅は一一二ミリメートルであり、両端を含めて一一の歯から構成されている。歯の頂部右端と隣の歯の左端までの距離は八・九ミリメートル、歯の谷の中心と隣の谷の中心との距離は一〇・五ミリメートル、歯の斜面と隣の歯の向かい合う斜面とのなす角度は四二度である。
第二冷却筒のはすば歯車の外径は二五九・九九七三八ミリメートル、ピッチ径は二四七・九九七三八ミリメートル、中心軸部外径は一一〇ミリメートル、内径は六七ミリメートル、歯のモジュールは六、歯数三八、右ねじれ角二三度一〇分である。
イ 甲第四八号証の一五の一、成立に争いのない甲第四号証の一八によれば、右甲第四号証の一八は原告機械九のスクリュー図面であり、前記のとおり昭和五〇年頃に作成されたことが認められる。右書証によれば、原告機械九のスクリューは、第一冷却筒スクリューの構造が三条左ねじれであり、リード八〇ミリメートル、スクリューの溝の深さが八・五ミリメートル、隣接する歯の間隔が一八ミリメートル、歯の幅が一条は八・七ミリメートル、他の二条が八・六ミリメートルであること、第二冷却筒スクリューの構造が二条左ねじれであり、リード五二ミリメートル、スクリュー溝の深さが八・五ミリメートル、隣接する歯の間隔が一九ミリメートル、歯の幅はいずれも七ミリメートルであることが認められる。
(3) 以上の点がノウハウといえるか否かについて判断する。
右冷却筒の構造、撹拌羽根、駆動系統、スクリューはいずれも産業上利用できる技術的思想の創作を実施するのに必要な具体的な技術的知識であって、これを開発した原告が秘密にしているものであり、公然と知られたものでないから、原告の有するノウハウと認められる。
(三) 設計図の無断複製、模写によるノウハウ侵害の有無
(1) 冷却筒の構造、撹拌羽根に関する設計図
ア 原告機械九の冷却筒の構造についての設計図の内容は前記(二)(1)のとおりである。
被告機械九の冷却筒の構造についての設計図は前記乙第二一号証の四一、甲第八八号証であり、これによれば、被告機械九の設計図の内容は、シロップ投入口から投入されたシロップが横置きに上下二段に配列された冷却筒の外筒とスクリューとの間を流れながら、冷却筒の外筒の中を流れる冷却する冷却水によって冷却される構造となっている点、スクリュー軸の内部にも冷却水が循環する点、第二冷却筒の後部には撹拌羽根が取り付けられている点で、いずれも原告図面と同様である。
イ 成立に争いのない乙第二一号証の一八によれば、被告機械九の撹拌羽根の枚数は三〇枚、原告機械九の底部リード角に相当すると認められる羽根元リード角は約八〇度五四分、原告機械九の尖端部リード角に相当すると認められる羽根先リード角は約七三度二三分である。
両図面を対比すると、撹拌羽根の詳細については原告機械九と被告機械九とではある程度異なっており、被告らにおいて独自に設計したものと認めるのが相当である。
(2) 駆動系統、スクリューに関する設計図
ア 駆動系統
<1> 原告機械九の駆動系統に関する図面の内容は前記(二)(2)アのとおりである。
これに対応する被告機械九の図面は、前記甲第八八号証(駆動系統全体の図面)、成立に争いのない乙第二一号証の一九(Vプーリーの図面)、乙第二一号証の二五(第二冷却筒はすば歯車の図面)である。右各書証によれば、被告機械九の駆動系統は、第二冷却筒のスクリュー軸(主軸)に取り付けられたプーリーが上部モーターからベルトにより伝動されて主軸を回転させ、右主軸及び第一冷却筒のスクリュー軸(従動軸)に取り付けられたはすば歯車が連動して従動軸が回転する構造となっている。
Vプーリーの横幅は一一二ミリメートルであり、両端を含めて一一の歯から構成されている。歯の頂部右端と隣の歯の左端までの距離は八・九ミリメートル、歯の谷の中心と隣の谷の中心との距離は一〇・五ミリメートル、歯の斜面と隣の歯の向かい合う斜面とのなす角度は四二度である。
甲第四八号証の三の四、成立に争いのない乙第二一号証の二六によれば、右乙第二一号証の二六は第二冷却筒のはすば歯車の図面であり、昭和五六年二月二四日に作成されたことが認められる。右図面によれば、被告機械九のはすば歯車の外径は二五九・九九七ミリメートル、ピッチ径は二四七・九九七ミリメートル、中心軸部外径は一一〇ミリメートル、内径は六七ミリメートル、歯のモジュールは六、歯数三八、右ねじれ角二三度一〇分であり、原告機械九の対応する数値と実質的に同一である。
イ スクリュー
甲第四八号証の一五の二、成立に争いのない乙第二一号証の一三によれば、右書証は被告機械九の第一冷却筒スクリュー図面であり、昭和五六年二月一七日に作成されたことが認められる。また、甲第四八号証の一五の三、成立に争いのない乙第二一号証の一六によれば、右書証は被告機械九の第二冷却筒スクリュー図面であり、昭和五六年二月二一日に作成されたことが認められる。右各書証によれば、被告機械九のスクリューは、第一冷却筒スクリューの構造が三条左ねじれであり、リード八〇ミリメートル、スクリューの溝の深さが八・五ミリメートル、隣接する歯の間隔が一八ミリメートル、歯の幅がいずれも八・六六ミリメートルであること、第二冷却筒スクリューの構造が二条左ねじれであり、リード五二ミリメートル、スクリュー溝の深さが八・五ミリメートル隣接する歯の間隔が一九ミリメートル、歯の幅がいずれも七ミリメートルであることが認められる。
以上によれば、原告図面と被告図面のスクリューの歯の構造は、第二冷却筒スクリューの歯の幅にわずかの相違があるが、その他の重要部分の数値は同一である。
(3) その他の設計図
ア 上部ギヤー軸部組立図
前記のとおり甲第四号証の二、甲第四八号証の一の一は原告機械九の上部ギヤー軸部組立図であり、その右側に第一冷却筒のはすば歯車が描かれており、昭和五〇年頃に作成されたものと認められ、前記乙第二一号証の二五、甲第四八号証の一の三によれば、右書証は被告機械九の第一冷却筒のはずば歯車の図面であり、昭和五六年二月二四日に作成されたことが認められる。
両図面のはすば歯車を対比すると、歯車の外径が原告図面で三八三・九九六〇七ミリメートル、被告図面で三八三・九九六ミリメートル、歯車のピッチ径が原告図面で三七一・九九六〇七ミリメートル、被告図面で三七一・九九六ミリメートルであって、両者は実質的に同一と評価することができる。歯の幅は両図面とも八〇ミリメートルで同一である。また、モジュール六、歯数五七、左ねじれ角二三度一〇分も両図面で同一である。また、歯車中心軸の外径一一〇ミリメートル、内径六七ミリメートルも同一であり、両図面に表われた形状は酷似している。
イ シロップ投入口組立図
甲第四八号証の二の一、前記甲第四号証の三は昭和五〇年頃に作成された原告機械九のシロップ投入口部組立図であり、成立に争いのない乙第二一号証の二二、甲第四八号証の二の三は被告機械九のシロップ投入口の部品図であり、昭和五六年二月二四日に作成されたことが認められる。
両図面のシロップ投入口部分を対比すると、両図面とも断面がホッパ形状で最上部は外側に円形に巻き込む形で中に芯が入っている。底部には周囲にシリンダーに取り付けるための平らな円盤形状の台が取り付けられている。以上の形状において両図面は同一である。寸法は、最上部内径(二〇〇ミリメートル)、最上部巻込部の芯の径(六ミリメートル)、最下部の内径(五二・九ミリメートル)、円盤状の台の外径(一一〇ミリメートル)、右台のボルト孔中心円径(九五ミリメートル)、台の高さ(八ミリメートル)が同一である。
以上によれば、両図面の対応部分はほぼ同一の図面と言うことができる。
ウ 製品出口部組立図
甲第四八号証の四の一、前記甲第四号証の七によれば、右書証は原告機械九の製品取出口部組立図であり、前記乙第二一号証の四一は被告機械九の総組立断面図であり、昭和五六年五月一五日に作成されたことが認められる。右乙第二一号証の四一の製品取出口部のみを取り出した図面が甲第四八号証の四の二である。
被告図面には寸法の記載がないので、構造、形状のみを比較する。
両図面とも冷却筒部分から突出した形となり、その右側部分は撹拌羽根部分から接続し、シャフト及び上部カバー状部分を除いては中空となっており、撹拌羽根部分から送られてきたチョコレートが下に落ちるようになっている。左側部分はシャフトをくるむように支える部分であり、シャフトの先端部周囲にベアリングが、その右側にグランドパッキング四個が取り付けられている。
右構造、形状において両図面はよく似ている。
エ 製品取出口部図
甲第四八号証の一三の一、成立に争いのない甲第四号証の一六によれば、右書証は原告機械九の製品取出口の部品図であり、作成年月日は不明であることが認められる。本体の断面図と正面図、ベアリングカバーの断面図、グランド押えの断面図と正面図に分かれている。甲第四八号証の一三の二、成立に争いのない乙第二一号証の六ないし八によれば、右書証は被告機械九の製品取出口部品図であり、一枚の図面に他の部品図とともに描かれ、昭和五六年二月一二日に作成されたことが認められる。乙第二一号証の七は本体の断面図と正面図、同号証の六はベアリングカバーの断面図、同号証の八はグランド押えの断面図と正面図である。
a 本体図
両図面はいずれも冷却筒部分から突出した形であり、その右側部分は撹拌羽根部分から接続し、シャフト及び上部カバー状部分を除いては中空となっており、撹拌羽根部分から送られてきたチョコレートが下に落ちるようになっている。左側部分はシャフトをくるむように支える部分であり、先端部はベアリング収納部分、その右側がグランドパッキング収納部分、その更に右側がグランド押え収納部分が取り付けられる。寸法は全体の長さが原告図面で二七六ミリメートル、被告図面で二六七ミリメートル、先端の外径が原告図面で一七八ミリメートル、被告図面で一七五ミリメートルと近似している。また、冷却筒部分に接続するフランジ形状部分の外径(二九〇ミリメートル)、その幅(二四ミリメートル)、ベアリング収納部分の径(一三〇ミリメートル)、幅(四九ミリメートル)、ベアリング収納部分とグランドパッキング収納部分の間隔(五ミリメートル)、グランドパッキング収納部分の幅(五四ミリメートル)は同一であり、グランドパッキング収納部分の径(原告図面で一〇〇・五ミリメートル、被告図面で一〇〇ミリメートル)、グランド押え収納部分の径(原告図面で一五〇ミリメートル、被告図面で一四五ミリメートル)、幅(原告図面で二四ミリメートル、被告図面で二〇ミリメートル)の数値も近似している。
正面図は、いずれも円形であり、周辺及び中央部分にそれぞれ円周上にボルト用穴がある点(但し、周辺部分の穴の数は原告図面では六個、被告図面では八個である。)、円形の上部半円内に三か所の長方形状のリブがある点(但し、リブの幅は原告図面では三〇ミリメートル、被告図面では四〇ミリメートルと差がある。)で同一である。
全体として両図面はよく似ているということができる。
b ベアリングカバー図
全体の形状は縦辺が細長い逆コの字形状で、上辺の上部及び下辺の下部にそれぞれ長方形の突出部があるといういう点、縦辺の中央部に円形の穴がある点、右突出部にボルト用穴がある点で両図面は同一である。寸法は、全体の外径(原告図面で一七八ミリメートル、被告図面で一七五ミリメートル)が近似し、内径一二〇ミリメートル、全体の厚み二二ミリメートル、中央円形穴の径一/八インチが同一である。全体として両図面はよく似ている。
c グランド押え図
断面図は浅い円筒形状で片側の外周が鍔状に突出した形状において両図面は同一である。寸法は、全体の外径(原告図面一五〇ミリメートル、被告図面一四五ミリメートル)、両端のボルト中心軸間の距離(原告図面で一二五ミリメートル、被告図面一二〇ミリメートル)、内径(原告図面で八一ミリメートル、被告図面で八〇・五ミリメートル)、全体の厚み(原告図面で二九ミリメートル、被告図面で三〇ミリメートル)において近似し、鍔状突出部分のない部分の外径(一〇〇ミリメートル)が同一である。
正面図は三重円形状であり、原告図面では上下に二個ずつ、被告図面では左右に二個ずつ(その位置の相違は図面の書き方の相違に過ぎない。)ボルト用穴がある。
全体として両図面はよく似ているということができる。
オ フレーム図
甲第四八号証の五の一、成立に争いのない甲第四号証の八によれば、右書証は原告機械九のフレーム図であり、昭和五〇年頃に作成されたことが認められる。甲第四八号証の五の二、成立に争いのない乙第二一号証の二八は被告機械九のフレーム図であり、昭和五六年三月二日に作成されたことが認められる。
原告図面では、中央に断面図、右側に背面図、左側に正面図の三図が配置されているが、被告図面では、中央に断面図、右側に背面図、断面図の左側に側面図、その左に正面図、正面図の上に平面図と五図が配置されており、被告図面の方が図面の数が多いという相違がある。
以下では、断面図を中心に比較する。両図面とも、全体の形状は縦に細長い長方形であり、左側から三分の一位のところに縦に支柱となる板が上下に通っている。左側の外側板と右支柱板とで上下二本の冷却筒のシャフトを中に通して支える構造となっており、左側外側板の冷却筒のシャフトの通る孔上下二か所には鍔付円環状の部材が付設されている。支柱板の右側のシャフトの通る孔上下二か所には浅い円筒状の部材が付設されている。
以上の両図面の形状はよく似ている。
寸法は、全体の高さ(九九八ミリメートル)が同一であり、上下辺の長さは原告図面が三二五ミリメートル、被告図面が三三五ミリメートルで類似している。左外側板の鍔付円環状部材(上下)の鍔の外径(二九〇ミリメートル)、内径(一〇五ミリメートル)は同一であり、鍔のない部分の外径は原告図面で二〇四ミリメートル、被告図面で二〇七ミリメートルであり、近似している。支柱板の円筒状部材(上下)の外径(一八二ミリメートル)、内径の大きい部分(一三〇ミリメートル)、内径の小さい部分(一一五ミリメートル)は同一である。
以上によれば、両断面図は酷似していると言える。
カ モートル取付部及びギヤーケースカバー図
a モートル取付部図
甲第四八号証の六の一、成立に争いのない甲第四号証の九の上部図は原告機械九のモートル取付部の図面であり、昭和五〇年頃に作成されたことが認められる。甲第四八号証の六の二、成立に争いのない乙第二一号証の二七は被告機械九の駆動モートル取付部図であり、昭和五六年二月二八日に作成されたことが認められる。
右両図面を対比する。モーター自体は両図面で使用されている市販のモーターの種類が異なる。両図面ともモーターはその脚の部分四か所がモーターベース板にボルトで取り付けられ、モーターベース板が更にスタットボールトでフレーム上部に取り付けられる構造となっでいる。特に、右スタットボールトはモーターベース板を上下ではさみつける六角ナットから上下ともかなりの長さ突出した形状となっているがその形状が両図面でよく似ている。モーター軸に取り付けられたプーリーの外径一三〇ミリメートルも同一である。
全体として、モーター自体を除いた部分で両図面はよく似ている。
b ギヤーケースカバー図
前記甲第四号証の九、甲第四八号証の六の一の下部図は原告機械九のギヤーケースカバー図である。甲第四八号証の六の三、成立に争いのない乙第二一号証の三四は被告機械九のカバー図であり、作成年月日は昭和五六年二月二四日である。
まず、平面図を対比する。両図面とも縦長の等脚台形状の外枠の中に、その台形の上部の下方に別の等脚台形を付加した六角形状を含み、外枠の中央部やや下方六角形状の下部に円形の大きな穴が開けられ、六角形の各辺に沿って、また円形の大きな穴の周囲に小さな穴が開けられている点は同一である。但し、円形の周囲の小さな穴の数はいずれも八個であるが、辺に沿った小さな穴の数は、原告図面では三一個、被告図面では二九個である。六角の下辺とそれに接続する二辺がなす外角はいずれも六〇度である点は両図面で同一である。外枠の高さ(九九八ミリメートル)は同一であるが、上辺の長さ(原告四八〇ミリメートル、被告五二〇ミリメートル)、下辺の長さ(原告七〇〇ミリメートル、被告七四〇ミリメートル)は相違があり、それにもかかわらず、内側の六角形の下辺の長さ(二〇〇ミリメートル)は同一である。全体として両図面はよく似ている。
断面図は、両図面とも平板の下部に平面図の大きな円形の穴の部分に相当する中空部分があり、その中空部分の縁に円周状の突条がある。寸法は、中空部分の内径(一二五ミリメートル)、突条部分の外径(一七二ミリメートル)、突条部分の内径(一四〇ミリメートル)が同一であり、全体として両図面はよく似ている。
両図面は平面図、断面図ともよく似ていると言うことができる。
キ ベルトカバー図
甲第四八号証の七の一、成立に争いのない甲第四号証の一〇によれば、右書証は原告機械九のベルトカバー図であり、昭和五〇年頃に作成されたことが認められる。甲第四八号証の七の二、成立に争いのない乙第二一号証の二九によれば、右書証は被告機械九のベルトカバー図であり、昭和五六年三月二日に作成されたことが認められる。
両図面はいずれも左から正面図、縦断面図、背面図が配置されている。
正面図についてみると、縦長等脚台形の基台部の上に二等辺三角形の頂部を大きく円弧状とした頂部が接続する形状は両図面で同一である。頂部の形状は原告図面では縦に細長い形状で、その下辺の長さが基台部上辺の長さよりも短くなっているが、被告図面では下部への拡がりが大きく、下辺の長さは基台部上辺の長さと同一である。基台部の形状は、両図面とも縦に長い台形状で同一であるが、原告図面では全体が四段の構造となっているのに対し、被告図面では全体が三段の構造となっている点で異なる。寸法は、全体の高さは原告図面では一三七九ミリメートル、被告図面が一三九八ミリメートル、基台部の高さは原告図面では九九七ミリメートル、被告図面では九九八ミリメートル、基台部下辺の長さが原告図面では六九八ミリメートル、被告図面では七三八ミリメートル、上辺の長さが原告図面では四七八ミリメートル、被告図面では五一八ミリメートルである。
縦断面図は、原告図面においては、基台部一段目から二段目までの長方形の部分、三段目の台形部分、四段目の長方形部分、その上の長方形の頂部という構成になっている。被告図面は、原告図面の二段目に相応する部分がなく、原告図面の三段目に相応するのが二段目であり、二段目が台形状となっている。横幅は、原告図面では下部が二三八ミリメートル、上部が一六七ミリメートル、被告図面では下部が二三九ミリメートル、上部が一八〇ミリメートルである。
背面図は、両図面とも全体の形状、寸法は正面図と同一である。原告図面では、下部に二段目の桟の平面図の記載があるが、被告図面においてはその部分の記載はない。
以上を総合すると、頂部の形状の差異等の相違があり、同一又は酷似している図面とは言えないものの、寸法には同一又は酷似している部分があり、形状も特に断面形状は類似しているところから、少なくとも原告図面を参照したものと認められる。
ク ドレン受け器等図
甲第四八号証の九の一、成立に争いのない甲第四号証の一二によれば、右書証は原告機械九の部品図であり、前記甲第四号証の一、三との対比及び次の被告図面との対応関係からみて、左側二図がドレン受け器の図面、中央及び右側が冷却筒を支える脚の側面図、正面図であること、昭和五〇年頃に作成されたことが認められる。前記乙第二一号証の四一、甲第四八号証の九の四、成立に争いのない乙第二一号証の三〇は被告機械九のドレン受け器の図面であり、作成年月日は不明であるが、被告会社がチョコレート製造用機械の製造、販売を開始したのが昭和五五年夏頃以降であるところから、右以降に作成されたものと認められる。甲第四八号証の九の二、三は乙第二一号証の一の一部の写しに曽山貢が書込みをしたものであり、それぞれ被告機械九の冷却筒を支える脚の側面図、正面図であることが認められる。
a ドレン受け器図
両図面を対比すると、原告図面は左側が機械の側面から見た縦断面図、右側が機械の正面から見た縦断面図となっており、被告図面は左側は原告図面と同じく左側が機械の側面から見た縦断面図であるが、右側は断面図ではなく、機械の正面から見た図となっている。しかし、後者の図面も寸法の対比は可能である。
まず、左側図面から対比すると、全体はホッパー形状であるが、上半分は拡径することなく垂直方向に伸びている。上部左側にパイプ受け部が突出し、上部右側には円形の穴が開いている。下部には右側図面に表われるソケット部分の円形が描かれている。以上の形状において両図面はほぼ同一である。但し、原告図面ではパイプ受けの部分が本体と一体に成形されているのに対し、被告図面ではパイプ受けの部分が取外し可能となっている。寸法は、高さが二六七ミリメートル、本体上部の幅が一六〇ミリメートル、下部の幅が一〇〇ミリメートル、パイプ受け部の突出の高さが二五ミリメートルで以上の点は同一である。パイプ受け突出部の外径、内径は原告図面では五〇ミリメートル、二七・三ミリメートルであり、被告図面では八六ミリメートル、三四ミリメートル、上部右側の穴の径が原告図面では七五ミリメートル、被告図面では八〇ミリメートルとなっている。
右側図面は、ほぼ正方形で右下にソケット部が突出した形状において同一である。本体幅が原告図面では二三〇ミリメートル、被告図面では二二〇ミリメートル、ソケットの内径は両図面とも二・五インチである。
以上によれば、細部の寸法等の差異はあるものの、両図面はよく似ているということができる。
b 冷却筒脚部図
側面図は、いずれも下部と上部の横型長方形の基台の間に縦に細長い支柱、板が渡される形状において同一であるが、原告図面では中央に太い支柱が、両側に薄い板があるのに対し、被告図面では一方の側に支柱が、他方の側に板があるものと表現されているという点で差異がある。しかし、寸法は高さ(四五〇ミリメートル)、下辺の長さ(一六〇ミリメートル)、上辺の長さ(一〇〇ミリメートル)という主要寸法において同一である。
正面図は、いずれも台形であるが、原告図面では二重の枠組みであるのに対し被告図面では一重であるという相違がある。しかし、寸法は、高さ(四五〇ミリメートル)、下辺の長さ(四〇〇ミリメートル)が同一であるほか、上辺の長さも原告図面では二三〇ミリメートル、被告図面では二二〇ミリメートルであって近似している。
以上によれば、形状の細部においては相違点もあるが、主要寸法に同一、近似点が多く、両図面は類似していると言うことができる。
ケ シリンダー図
甲第四八号証の一〇の一、成立に争いのない甲第四号証の一三は原告機械九のシリンダーの図面であり、昭和五〇年頃に作成されたことが認められる。甲第四八号証の一〇の二、成立に争いのない乙第五号証、乙第二一号証の一は被告機械九のシリンダー組立図であり、昭和五六年二月五日に作成されたものと認められる。
原告図面は、部品図であって、三本のシリンダーの側断面図及び正面断面図が上下三列に並べて描かれているのに対し、被告図面は組立図であって、上段一本、下段二本(下段二本は左右に接続されている。)のシリンダーが組み付けられた状態の側断面図、正面断面図、別の位置の正面断面図が描かれている。図面の内容からみて、原告図面の上段のシリンダーは第一冷却筒シリンダー(以下「Aシリンダー」という。)、中段のシリンダーは第二冷却筒シリンダーのうち、第一冷却筒シリンダーの下に設置されているもの(以下「Bシリンダー」という。)、下段のシリンダーは、第二冷却筒シリンダーのうち、Bシリンダーの先に接続されているもの(以下「Cシリンダー」という。)である(以下、被告図面のシリンダーも上記原告図面に対応してAないしCシリンダーと呼ぶ。)
以下、主要図面である側面図について対比する。
a Aシリンダー
両図面とも外管と内管との二重構造であり、左右両端にフランジが取り付けられ、左上にはシロップ投入口を接続するための円形の穴が、右下にはBシリンダーと接続するための円形の穴が開いており、左下に長方形の台状部分が設けられている点において同一である。但し、原告図面では中央左寄りに上下二か所ソケットが設けられているのに対し、被告図面では上部一か所のみである点は相違している。寸法は、全長(一〇〇〇ミリメートル)、左右両端フランジの外径(二九〇ミリメートル)、シリンダー外管外径(二四一・八ミリメートル)、内径(二二九・四ミリメートル)、シリンダー内管外径(二一六・三ミリメートル)、シリンダーの内径と外径との隙間(六・五五ミリメートル)、シロップ投入口接続穴の外縁の外径(一一〇ミリメートル)、そのボルト用穴中心円径(九五ミリメートル)、Bシリンダーとの接続口外縁の外径(一一四ミリメートル)、広い方の内径(一〇四ミリメートル)、狭い方の内径(七二ミリメートル)という主要寸法においてことごとく一致しており、主要寸法では内管の厚さの相違に基づくシリンダー内管内径の相違(原告図面では二〇四ミリメートル、被告図面では二〇七ミリメートル)、外管と内管の間の螺旋状突条のピッチ(原告図面一〇〇、被告図面一二〇)の相違がある程度である。
b Bシリンダー
両図面とも外管と内管との二重構造であり、左右両端にフランジが取り付けられ、右上にはAシリンダーと接続するための円形の穴が開いており、左上及び左下に長方形の台状部分が設けられている点において同一である。但し、原告図面では中央左下寄りにソケットが設けられているのに対し、被告図面ではこれがない点は相違している。寸法は、左右両端フランジの外径(二九〇ミリメートル)、シリンダー外管外径(二四一・八ミリメートル)、内径(二二九・四ミリメートル)、シリンダー内管外径(二一六・三ミリメートル)、シリンダーの内径と外径との隙間(六・五五ミリメートル)、Aシリンダーとの接続口外縁部の外径(一一四ミリメートル)、広い方の内径(一〇四ミリメートル)、狭い方の内径(八四ミリメートル)という主要寸法においてことごとく一致しており、主要寸法では、全長(原告図面では一〇〇三ミリメートル、被告図面では一〇〇五ミリメートル)、内管の厚さの相違に基づくシリンダー内管内径の相違(原告図面では二〇四ミリメートル、被告図面では二〇七ミリメートル)、外管と内管の間の螺旋状突条のピッチ(原告図面一〇〇、被告図面一二〇)のわずかな相違がある程度である。
c Cシリンダー
両図面とも外管と内管との二重構造であり、左右両端にフランジが取り付けられ、外管中央上部にはドレン受け器を接続するための長方形の台が設けられている点において同一である。但し、原告図面では右下にソケットが設けられているのに対し、被告図面ではこれがない点は相違している。寸法は、全長(七〇三ミリメートル)、左右両端フランジの外径(二九〇ミリメートル)、シリンダー外管外径(二四一・八ミリメートル)、内径(二二九・四ミリメートル)、シリンダー内管外径(二一六・三ミリメートル)、シリンダーの内径と外径との隙間(六・五五ミリメートル)、ドレン受け器接続台幅(一〇〇ミリメートル)という主要寸法において一致しており、主要寸法では内管の厚さの相違に基づくシリンダー内管内径の相違(原告図面では二〇四ミリメートル、被告図面では二〇七ミリメートル)、外管と内管の間の螺旋状突条のピッチ(原告図面一〇〇、被告図面一一二)の相違がある程度である。
以上によれば、シリンダー図は酷似している。
コ シャフト図
甲第四八号証の一一の一、成立に争いのない甲第四号証の一四によれば、右書証は原告機械九のシャフト図であり、その上部に原告機械九の第一冷却筒のシャフト、下部に第二冷却筒のシャフトが描かれ、作成年月日は不明であることが認められる。甲第四八号証の一一の二、成立に争いのない乙第二一号証の三、四によれば、右書証は被告機械九のシャフト図であり、昭和五六年二月六日に作成されたこと、乙第二一号証の三が第一冷却筒のシャフトであり、同号証の四が第二冷却筒のシャフトであることが認められる。
以下、両図面を対比する。
a 第一冷却筒シャフト
両図面とも左右に細長い棒状であり、右側約三分の一が側面図であり、左側約三分の二が断面図となっている。
原告図面は、テーパ面を除いて軸がその径の相違及び切込み部分によってが右側から九段階に変化する(以下<1>部分ないし<9>部分という。)。<2>部分、<4>部分(一部<3>部分にかかっている。)、<6>部分に細長い長円形の穴が開けられている(前記甲第四号証の二によれば、<6>部分の穴はスクリューと接続するためのキー穴である。)。被告図面は、テーパ面を除いて軸径が右側から一〇段階に変化する(以下これも<1>部分ないし<10>部分という。)。被告図面における軸径の変化の様子は<1>ないし<4>部分までと<7>、<8>部分は原告図面と同様であり、被告図面では<5>部分と<6>部分との長さの比率が異なり、原告図面の<9>部分が被告図面では更に<9>部分と<10>部分に分れている点が異なるのみである。<2>部分、<4>部分(一部<3>部分にかかっている。)には細長い楕円形の穴が開けられているが、原告図面と異なり、<6>部分には穴はなく、フランジが突出している(前記乙第二一号証の四一によればスクリューと接続するためのフランジである。)。
寸法は、全長が原告図面で一五五七ミリメートル、被告図面で一五八六ミリメートルである。原告図面では<1>部分から<9>部分の長さが順次一八、八三、二五・五、五八・八、一七九・一(切込み部分二・七)、二二二・四、八六九・五、五一、四七(単位ミリメートル)である。被告図面では<1>部分から<10>部分の長さが順次一八、八三、二五・五、五八・八、二八九・七、七七・五、九二九・五、五一、二八、二五(単位ミリメートル)である。軸径は、原告図面で<1>ないし<9>の部分が順次六五、六七、七一、七五、八五、八五、八〇、七五、七〇(単位ミリメートル)である。被告図面では<1>ないし<10>部分が順次六五、六七、七一、七五、八五、八三、八〇、七五、七〇、六〇(単位ミリメートル)である。
断面図が示されている原告図面の<7>部分の右端五〇ミリメートルの内径は四六ミリメートル、その余の<7>部分、<8>部分、<9>部分の右側二一ミリメートルの内径は四五ミリメートルである。被告図面の<7>部分の右端五〇ミリメートルの内径は四六ミリメートル、その余の<7>部分、<8>ないし<10>部分の内径は四五ミリメートルである。
両図面は細部の相違はあるが、全体としてよく似ていると言うことができる。
b 第二冷却筒シャフト
両図面とも左右に細長い棒状であり、全体が側面図である。
原告図面は、テーパ面を除いて軸が、その径の相違及び切込み部分によって右側から一〇段階に変化する(以下<1>部分ないし<10>部分という。)。<3>部分、<5>部分(一部<4>部分にかかっている。)、<7>部分、<8>部分左側に細長い長円形の穴が、<10>部分先端に半長円形の穴が開けられている(前記甲第四号証の四によれば、<7>部分の穴はスクリューと接続するためのキー穴である。)。被告図面は、テーパ面を除いて軸径が右側から一一段階に変化する(以下これも<1>部分ないし<11>部分という。)。被告図面における軸径の変化の様子は<1>ないし<5>部分までは原告図面と同様であり、被告図面の<10>の長い部分が原告図面では<8>、<9>部分に相応する。<3>部分、<5>部分(一部<4>部分にかかっている。)には細長い楕円形の穴が開けられているが、原告図面と異なり、<7>部分に相応する<9>部分には穴はなく、フランジが突出している(前記乙第二一号証の四一によればスクリューと接続するためのフランジである。)。
寸法は、全長が原告図面で二五三四ミリメートル、被告図面で二五三五ミリメートルである。原告図面では<1>部分から<10>部分の長さが順次六七、一九、二二九、二五・五、五八・八、一七九・一(切込み部分二・七)、一二七・四、一五四五・四、(切込み部分二・七)、二二六・四、五一(単位ミリメートル)である。被告図面では<1>部分から<11>部分の長さが順次六七、一九、二三一、二五・五、五八・八、二四五、四六五・七、五〇、二八、一二九四、五一(単位ミリメートル)である。軸径は、原告図面で<1>ないし<10>の部分が順次六〇、六五、六七、七一、七五、八五、八五、八〇、八〇、七五(単位ミリメートル)である。被告図面では<1>ないし<11>部分が順次六〇、六五、六七、七一、七五、八五、八四・八、八五、八三、八〇、七五(単位ミリメートル)である。
両図面は軸部分の径の取り方に若干の相違はあるが、全体としてよく似ていると言うことができる。
サ 諸部品図
甲第四八号証の一四の一、成立に争いのない甲第四号証の一七、前記甲第四号証の二、四によれば、右書証はいずれも原告機械九の部品図であり、うち右上は冷却筒モーター側のグランド押え図、左上は撹拌羽根図、左下は送出し羽根図、右下は冷却筒のシールハウジング図であり、昭和五〇年頃に作成されたことが認められる。
前記乙第二一号証の一八(甲第四八号証の一四の四)、乙第二一号証の四一、成立に争いのない乙第二一号証の二三(甲第四八号証の一四の二)、乙第二一号証の一五(甲第一四号証の一四の五)、乙第二一号証の二四(甲第四八号証の一四の三)によれば、乙第二一号証の四一を除く右書証は被告機械九の部品図であり、順次撹拌羽根図(昭和五六年二月二一日作成)、冷却筒モーター側のグランド押え(昭和五六年二月二四日作成)、送出し羽根図(昭和五六年二月一七日作成)、シールハウジング図(昭和五六年二月二四日作成)であることが認められる。以下、各対応図面を対比する。
a グランド押え図
両図面とも断面図と平面図とからなる。断面図は両図面とも円筒状部分の右端が鍔部分となっており、中空部の周囲が突出している形状である。鍔部分の上下端近くにそれぞれボルト用穴が開いている。寸法は、円筒状部分の外径一〇五ミリメートルが一致しており、同部分の内径(原告図面で八六ミリメートル、被告図面で八五・五ミリメートル)、全体の幅(原告図面で三九ミリメートル、被告図面で三八ミリメートル)の数値が酷似している。平面図は、両図面とも二重円形がありその上下に頂部が弧をなした突起状の鍔部分があり、鍔部分の先端寄りのほぼ中央に円形のボルト用穴が開いている。寸法は、鍔の頂部の円弧の半径が原告図面で一九ミリメートル、被告図面で一五ミリメートルと異なるものの、二重円形の外側に沿った鍔の円弧の半径が原告図面で五五ミリメートル、被告図面で五四・五ミリメートルで酷似しており、鍔の中央の穴の中心間の距離一五〇ミリメートルが一致している。
全体として両図面はよく似ている。
b 撹拌羽根図
断面図は両図面とも、長方形の中心軸に平行四辺形の撹拌羽根が上部は右斜め上方向へ向けて、下部は左下方向へ向けて取り付けられている。中心軸の中央部分には図面手前へ向かう撹拌羽根が二重鎖線及び斜線で描かれている。寸法は、中心軸の外径(原告図面では一〇四ミリメートル、被告図面では一一〇ミリメートル)はやや異なるものの、内径八〇ミリメートルは同一である。羽根の高さ(原告図面で四九ミリメートル、被告図面で四七・五ミリメートル)、羽根の幅(原告図面で三四ミリメートル、被告図面で三〇ミリメートル、歯先リード角(原告図面では七一度四二分三六秒三四、被告図面では七三度二三分五一秒)、歯元リード角(原告図面では八〇度二〇分三三秒〇一、被告図面では八〇度五四分三七秒)、羽根枚数(原告図面二四枚、被告図面三〇枚)はそれぞれ異なっている。羽根先厚さ(八ミリメートル)、羽根元厚さ(一四ミリメートル)は同一である。
正面図は、円形状の中心軸から四本の羽根が出ている形状において同一である。
以上のとおりであって、部分的に数値が同一の部分があるが、羽根の角度等重要部分の数値にかなりの差異があり、両図面は類似しているとまでは言えない。
c 送出し羽根図
断面図と正面図とからなる。但し、被告図面の正面図は右側半分のみが描かれている。
断面図は中心軸の上部、下部に羽根の部分が取付けられているが、全体としては長方形状である点において両図面同一である。但し、被告図面では中心軸入口部分に斜めのカットが入っている点、軸上下にビス穴がある点でそれらがない原告図面と異なる。寸法は、歯先間の距離(原告図面二〇二ミリメートル、被告図面二〇五ミリメートル)、歯の幅(原告図面一〇四ミリメートル、被告図面一〇三ミリメートル)と微差があるものの、中心軸の外径(一二〇ミリメートル)、内径(八五ミリメートル)、歯元厚み(一四ミリメートル)、歯先厚み(八ミリメートル)、歯の円弧状部分の半径(六〇ミリメートル)は同一である。正面図は、二重円形の中心軸から羽根部分が横に出ている形状において同一である。但し、原告図面には内径上部に接続のためと考えられる凹みがある点は異なる。
全体として両図面はよく似ている。
d シールハウジング図
三段階に内径が形成された中空部分の周囲に、内径が最も大きい部分の上下に長方形状のフランジがありその根本から内径が最も小さい部分の上下の外周までテーパー状に外径が変化する外周部分が形成され、上部の長方形のフランジには上下に通じるピン穴が、下部の長方形のフランジには左右に通じるボルト用穴が形成されているという形状において両図面は同一である。寸法は、全体の外径(一八二ミリメートル)、三段階の内径の最も広い径(一一五ミリメートル)、中位の径(九五ミリメートル)、全体の厚み(四〇ミリメートル)、ピン穴頭部の径(一/八インチ)等殆どの寸法が一致し、内径の最も狭い径の寸法(原告図面で八一ミリメートル、被告図面で八二ミリメートル)も微差である。全体として両図面は酷似している。
(4) 以上によれば、撹拌羽根について設計図の相違があるものの、冷却筒の構造、駆動系統、スクリューというノウハウ部分の設計図のみならず、他の多数の設計図が酷似又はよく似ており、これら及び前記二の事実によれば、被告中宿は原告在職中に原告機械九の設計図を原告に無断で複写し、これを被告会社に持参し、被告会社は右事情を知りながら原告機械九の設計図を模写又は参照して被告機械九の設計図を作成し、これに基づいて被告機械九を製造、販売し、原告機械九の設計図に化体された原告機械九のノウハウを侵害したものと認めることができる。
11 原告機械一〇について
(一) 機械の概要
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第九号証の三によれば、原告機械一〇はチョコレート等の粘度の高い液体中の異物を除去する高速分離機であり、高粘性液体中の異物(不純物)をスクリーンの高速回転による遠心力の作用により除去するものである。
(二) ノウハウ
(1) スクリーンの形状等
成立に争いのない甲第五号証の三によれば、同書証は原告機械一〇のスクリーン断面図であり、昭和三七年一〇月三日に作成されたことが認められる。
右図面によれば、スクリーンは断面台形状であり、上部リング、下部リングが取り付けられている。下部リング部分を含めた下部径は二六八ミリメートル、上部リングを含めた上部径は一五五ミリメートルメートル、高さは一一一ミリメートルである。スクリーンの厚みは〇・八ミリメートルである。スクリーン孔は円形で、千鳥状に配列され(さいころの五の目のように、四個の孔を頂点とする正方形の対角線の交点にもう一つ孔がある配列の繰り返し)、孔の径は〇・八ミリメートル(但し、甲第六一号証の三のパンフレット記載の仕様によれば、一・二ミリメートルとされている。)、上下の孔の中心間の距離、左右の孔の中心間の距離はいずれも二ミリメートルメートル、孔の配列を一列ごとに見た場合、列間の距離は縦、横とも一ミリメートルである。
(2) スクリーン取付軸のベアリングの個数等
成立に争いのない甲第五号証の一によれば、同書証は原告機械一〇の組立図であり、昭和四一年三月一四日に作成されたことが認められる(なお、甲第五号証の一をCADで再製した図面が弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第八一号証である。)。右図面によれば、スクリーンが取り付けられている主軸の周囲に上部二か所、下部一か所にベアリングが取り付けられている。
成立に争いのない甲第五号証の一〇によれば、主軸は上部ベアリングの直上の部分が円錐台形のテーパ形状となっており、その部分下部に水平方向にテーパピンが差し込まれている。
(3) 安全装置
甲第五号証の図面には、原告が主張するクリーナーの蓋を外すだけで電源が切れる安全装置自体の記載はなく、その存在、位置形状を認めるに足りる証拠がない。
(4) クリーナー本体の材質等
前記甲第五号証の一によれば、スクリーン本体の材質はステンレスであることが認められる。また、同号証の本体ドラムの材質はAC-一、成立に争いのない甲第五号証の四によれば本体ベースの材質はAC1-一とされており、アルミニウムと認められる。
(5) 以上の点がノウハウと認められるか否かについて判断する。
スクリーンの形状及びスクリーン取付軸のベアリングの個数は、産業上利用できる技術的思想の創作を実施するための具体的技術的知識であって原告が秘密にしていたもので、公然と知られたものでないと認められるから、原告の有するノウハウと言うことができる。
しかし、本体の材質等はステンレス及びアルミニウムとも一般的に選択される材質であって、これをもってノウハウと言うことはできない。
被告らは、一般に高粘度液体中の異物を除去するための高速分離機は公知であるとして、弁論の全趣旨によって原本の存在及び成立の認められる乙第三四号証の一のパンフレットを挙げるが、そこには機械内部の様子まで開示されていない。
(三) 設計図の盗用、模写によるノウハウ侵害の有無
(一) スクリーンの形状等の設計図
原告機械一〇の設計図面におけるスクリーンの形状、厚み、スクリーン孔の形状、配置ば前記(二)(1)のとおりである。
成立に争いのない乙第二二号証の一一によれば、同書証は被告機械一〇のスクリーン断面図であり、昭和五五年七月一九日に作成されたことが認められる。右図面によれば、スクリーンは断面台形状であり、上部リング、下部リングが取り付けられている。下部リング部分を含めた下部径は二七〇ミリメートル、上部リングを含めた上部径は一六四ミリメートル、高さは一二〇ミリメートルである。スクリーンの厚みは〇・八ミリメートルである。スクリーン孔は円形で、千鳥状に配列され(三つの孔を頂点とする正三角形の繰り返し)、孔の径は〇・八ミリメートル、左右の孔の中心間の距離は二ミリメートルメートル(上下の孔の中心間の距離については記載がないが、図面上は二ミリメートルよりはかなり大きな距離である。)、孔の配列を一列ごとに見た場合の列間の距離については記載がないが、図面上、縦列間の距離は約一ミリメートル、横列間の距離は約二ミリメートルである。
以上によれば、スクリーンの形状、寸法は、一部相違もあるが全体として類似しているということができる。スクリーン孔は千鳥状である点は共通であるが、その配置は両図面でやや異なっている。全体としては両図面は類似しているということができる。
(2) スクリーン取付軸のべアリング数等の設計図
前記のとおり甲第五号証の一の図面によれば、スクリーンが取り付けられている主軸の周囲に上部二か所、下部一か所にベアリングが取り付けられている。成立に争いのない乙第二二号証の二六、書込み部分を除いて成立に争いがなく弁論の全趣旨により書込み部分については曽山貢作成と認められる甲第八二号証によれば、右書証は被告機械一〇の設計図であり、昭和五五年七月二三日に作成されたことが認められる。被告図面においても、スクリーンが取り付けられている主軸の周囲に上部二か所、下部一か所にベアリングが取り付けられており、ベアリングの取付け位置は同一である。
前記のとおり、甲第五号証の一〇の図面によれば、主軸は上部ベアリングの直上の部分が円錐台形のテーパ形状となっており、その部分下部に水平方向にテーパピンが差し込まれているが、右テーパ状部分の下端径は四〇ミリメートル、上端径は二五ミリメートル、テーパピン差込み穴の径は六ミリメートルである。前記乙第二二号証の二六によれば、被告機械一〇の主軸は上部ベアリングの直上の部分が円錐台形のテーパ形状となっており、その部分下部に水平方向にテーパピンが差し込まれているが、右テーパ状部分の下端径は四〇ミリメートル、上端径は二五ミリメートル、テーパピン差込み穴の径は六ミリメートルであって、原告機械一〇と同一である。全体として両者の形状、寸法はよく似ている。
(3) クリーナー本体の材質等の設計図
前記乙第二二号証の二六によれば、スクリーンの材質はステンレスであり、本体ドラムの材質はAC-七Aとされており、アルミニウムと認められる。
(4) 全体の構造に関する設計図
前記甲第八一号証、甲第五号証の一及び弁論の全趣旨によれば、右甲第八一号証の図面は甲第五号証の一(昭和四一年三月一四日作成)の図面をCADで再製し、部品番号の指示方法、各部品番号の部品の説明の体裁に変更を加えた図面であり、図面の内容自体は、機械の構造を把握する限度においては、右甲第五号証の一の図面と実質的にはほぼ同一と認められる。
書込部分を除いては成立に争いがなく弁論の全趣旨により書込部分については曽山貢作成と認められる甲第八二号証によれば、同書証は前記乙第二二号証の二六の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。
右甲第五号証の一、甲第八一号証(原告図面)と乙第二二号証の二六、甲第八二号証(被告図面)とを対比する。
機械全体は大きく異物除去工程と駆動系統とに分けることができる。
ア 異物除去工程
両図面とも、全体の外形は、その上部は内部にスクリーンが収められ、これを覆う本体ドラムの上部の形状はスクリーンの断面形状より幅の広い、わずかに上辺がすぼまった断面台形状となっている。上部には蓋が設けられ、蓋の中央に浅いホッパー状のチョコレート投入口が設けられている。本体ドラムの下部は図面上左上から右下へと傾斜した斜面となっており、チョコレート投入口からスクリーン内部に投入されたチョコレートは、高速回転の遠心力によってスクリーンの孔を抜けて本体ドラム内に流出し、斜面を流れ落ちたチョコレートが右下方に象の鼻のように延びた製品取出口から排出される構造となっている。被告図面においては、リミットスイッチが蓋の下部に接続して本体の内部に設けられているのに対し、原告図面では甲第五号証の一にはリミットスイッチの記載がないという差異がある(もっとも、成立に争いのない甲第五号証の一七によれば、原告機械一〇においても、昭和五二年七月二八日までにはリミットスイッチを設ける装置に変更されたことが認められるが、甲第八一号証によれば、その位置は本体の外部である。)。また、被告図面においてはモーターがブレーキモーターであるのに対し、原告図面では単なるモーターであるとの差異、本体ドラムの台形部分の斜辺の角度のわずかな差異もある。しかし、右差異は、いずれもチョコレートを本体内のスクリーンで異物と分離し排出するという機械の構造の本質的な部分にかかわるものとはいえず、全体の構造及び形状はよく似ているものということができる。
イ 駆動系統
両図面とも駆動系統は本体に並列に置かれたモーターからモータープーリー、駆動ベルトを経由して、主軸下部に接続されたプーリーを通じて上部でスクリーンに接続された主軸が回転させられる構造となっている。右のとおりモーターの配置場所及びそこから主軸への伝動経路は同一である。甲第五号証の一と被告図面とではコントロールボックスの大きさ形状が異なるが、この点は本質的な相違とはいえない。以上によれば、機械全体の構造に関する原告図面と被告図面とはよく似ているということができる。
(5) その他の設計図
ア 保温用ヒーターの設計図
成立に争いのない甲第五号証の一六によれば、同書証は原告機械一〇の保温用ヒーターの設計図であり、昭和三七年一〇月七日に作成されたことが認められる。成立に争いのない乙第二二号証の二五によれば、同書証は被告機械一〇のリングヒーターの図面であり、昭和五五年七月二三日に作成されたことが認められる。
両図面を対比すると、端子の取付け方法等は異なっているが、平面図におけるリング形状の外径(一六〇ミリメートル)、内径(一〇〇ミリメートル)が同一である。
保温用ヒーターという性質からみて、右部分の寸法が同一となる必然性は認められず、両図面は類似しているということができる。
イ 本体ベース図、底板図
a 本体ベース図
前記甲第五号証の四によれば、同書証は原告機械一〇の本体ベース図であり、昭和三八年一月三一日に作成されたことが認められる。成立に争いのない乙第二二号証の四によれば、同書証は被告機械一〇のコモンベースの図面であり、昭和五五年七月一七日に作成されたこと、原告の本体ベース図に対応する図面であることが認められる。
両図面を対比すると、その形状は平面図においていずれも左右に長い長方形であり、四隅が円弧状にされている。右長方形の内側のほぼ全体に左右に長い長円形状部分があり、原告図面においては右長円内の右側部分に円形に近い長円が、左側部分に円形が描かれている。また、右両者の間に長方形の突出部分があるが、これは×で消されている。被告図面においては長円内の右側部分に円形が、左側部分に円形に近い楕円が描かれている。両者の間には縦に細長い長方形が描かれている。断面図は、両図面とも底板があり、その上に中空の台が乗った形である。当初の原告図面では台中央から上部に中空の突出部が設けられていたが、その部分が×で抹消され、図面右下には「訂正S51・7・27」との記載がある。
両図面の寸法は、平面図における長辺が原告図面で七一〇ミリメートル、被告図面で七〇二ミリメートル、短辺が原告図面で三三〇ミリメートル、被告図面で三〇六ミリメートルである。
右全体の形状は、似ている点もあるが、単純な形状であるにしては、細部の相違があるし、寸法もある程度の相違が見られる。全体的にみて両図面は類似しているとまでは言えない。
b 底板図
成立に争いのない甲第五号証の一一によれば、同書証は原告機械一〇の底板の図面であり、昭和四一年三月一六日に作成されたことが認められる。成立に争いのない乙第二二号証の五によれば、同書証は被告機械一〇の底板の図面であり、昭和五五年七月一七日に作成されたことが認められる。
両図面とも左右に細長い長方形で四隅が円弧状となっている。寸法は両図面とも長辺、短辺について、右aの本体ベース図の寸法と同一であるから、ある程度の類似が認められる。しかし、両図面で穴の個数億異なっており、極めて単純な形であることから、右類似点があるからといって、全体として類似しているとまで言うことはできない。
ウ スペーサー
成立に争いのない甲第五号証の一二によれば、同書証は原告機械一〇のスペーサー(イ、コ)の図面であり、昭和四四年一二月一九日に作成されたことが認められる。成立に争いのない乙第二二号証の一五、一七によれが、右各書証は被告機械一〇のスペーサーA、スペーサーBであり、いずれも昭和五五年七月を九日に作成されたことが認められる。前記甲第五号証の「及び乙第二二号証の二六によれば、両図面は両機械の主軸の下部ベアリングと上部ベアリングの内下のものとの間のスペーサー(イ及びB)並びに上部の二つのベアリング間のスペーサー(ロ及びA)の図面であることが認められる。スペーサー(イ及びB)は円筒形のものであり、被告図面では両端の外縁が面取りされている。
原告図面では全長が七八ミリメートル、外径が四〇ミリメートル、内径が三〇・二ミリメートルであり、被告図面では全長が七五ミリメートル、外径が四〇ミリメートル、内径が二九・九ミリメートルである。スペーサー(ロ及びA)は、平板な円環であり、原告図面では厚さが三ミリメートル、外径が四〇ミリメートル、内径が三〇・二ミリメートルであり、被告図面では、厚さが三ミリメートル、外径が四〇ミリメートル、内径が三〇・一ミリメートルであり、単純な形態ではあるが一応両者はそれぞれ類似しているということができる。
(6) 以上によれば、原告機械一〇の設計図と被告機械一〇の設計図とでは、異なるものもあるが、原告機械一〇のノウハウと認められる部分を含めて、重要な点でかなり類似性が認められ、これと前記二の事実を総合すると、被告中宿は原告在職中に原告機械一〇の設計図を原告に無断で複写し、これを被告会社に持参し、被告会社は右事情を知りながら被告機械一〇の設計図を作成するに当たり、原告機械を〇の設計図を模写し又はこれを参考にし、それに基づいて被告機械一〇を製造、販売することにより、原告に無断で原告機械一〇の設計図に化体したノウハウを使用したものと認められる。
12 原告機械一一について
(一) 機械の概要及びノウハウ
原告機械一一が、原告機械一〇と構造、機能、原告がノウハウと主張する事項において同一であることは当事者間に争いがない。
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第九四号証、甲第一二二号証によれば、右書証は、原告機械一一のスクリーン部図であり、昭和五一年四月八日に作成されたことが認められ、右書証によれば、原告機械一一は原告機械一〇と同様のスクリーン構造に加えて、スクリーンが二重となっているものであることが認められる。
被告らは、高速分離機における二重スクリーン構造が公知技術であるとして弁論の全趣旨によって原本の存在及びその成立の認められる乙第三四号証の二の特許公報を引用するが、右公報の記載によれば右特許出願の公開は昭和六一年一二月九日であって、原告機械一一の製造、被告機械一一の製造、販売開始より後のことであり、かつ、その内容も生活排水、原油、重油等に関するストレーナであって、これによってチョコレート機械の分野の公知技術とすることはできない。
(二) 設計図の盗用、模写によるノウハウ侵害の有無
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第六一号証の二、三によれば、前者は原告機械一一の外形写真であり、後者は原告機械一〇、一一のパンフレットであり、原告機械一一の外形写真が掲載されていることが認められる。
成立に争いのない甲第七号証の一四、甲第六一号証の一によれば、同書証は被告機械一一の外形写真であることが認められる。
右両写真を対比すると、わずかに上部がすぼまった円錐台形状の本体に象の鼻のような取出口が付いているクリーナーの形状及びその後にモーターが配置されている形状において類似している。また、成立に争いのない甲第七号証の一三の被告機械一〇の外形写真と対比すると、操作盤の有無は異なるものの、被告機械一一と被告機械一〇の外形は似ている。
以上の点に加え、被告機械一一は被告機械一〇と同じくLCという名称が付されていること及び前記七機種の設計図の対比及び前記二認定の事実を総合すれば、被告中宿は原告在職中に原告機械一一の設計図を原告に無断で複写し、これを被告会社に持参し、被告会社は右事情を知りながら原告機械一一の設計図を原告に無断で模写又は参考にして又は原告機械一〇の設計図を参照して被告機械一一の設計図を作成し、これを使用して被告機械一一を製造、販売し、原告機械一〇又は一一の設計図に化体されたノウハウを侵害したものと認めるのが相当である。
13 原告機械一二について
(一) 機械の概要
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第九号証の四によれば、次の事実が認められる。
原告機械一二はチョコレートを撹拌しながら徐々に冷却するタンクである。チョコレートがコンチング工程を終わり、エンローバー又はデポジッターに供給できる状態では、チョコレートは摂氏約六〇度の高温である。これを摂氏約三〇度まで急激に冷却すると、チョコレートのβ結晶を完全に作る時間的余裕がなく、チョコレートは組成が粗くなり、収縮しなくなって、チョコレートの品質に悪影響を及ぼす。そこで、原告機械一二により温水で暖めながら徐々に冷却することによって、高品質のチョコレートを作ることが可能となる。
原告機械一二は、その容量(単位キログラム)によって五〇〇、一〇〇〇、二〇〇〇、三〇〇〇に分かれるが、右各機種は容量の相違による寸法、モーターの大きさの相違はあるが、基本的な構造は同一と認められる。例えば、成立に争いのない甲第六号証の四(容量五〇〇キログラムのものの撹拌翼組図、昭和四四年五月八日作成)と弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第九五号証の二(容量一〇〇〇キログラムのもの、昭和四五年六月一三日作成)とを対比すると、原告機械一二はその容量によって基本的構造に差異がないことが認められる。同様に、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第九五号証の四(容量二〇〇〇キログラムのものの撹拌翼組立図、昭和四五年五月三〇日作成)、甲第九五号証の五(容量三〇〇〇キログラムのものの撹拌翼組立図、作成年月日不明)とを対比しても、撹拌翼の数は異なるものの基本的構造は同一であることが認められる。このことは、成立に争いのない甲第六号証の七のタンク図と弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第九五号証の一(容量一〇〇〇キログラムのもののタンク図、昭和四五年五月二七日作成)、甲第九五号証の三(容量二〇〇〇キログラムのもののタンク図、昭和四五年四月二日作成)との対比についても同様である。以下、原告機械一二、被告機械一二について、特に断らない限り、いずれも容量五〇〇キログラムについての設計図を検討の対象とする。
(二) ノウハウ
(1) 特殊構造の撹拌翼
前記甲第六号証の四によれば、原告機械一二の撹拌翼について次のとおり認められる。
原告機械一二のタンク内に挿入された軸には、上下三段にわたり左右一枚ずつ合計六枚の撹拌羽根が取り付けられている(以下、タンク設置の際の上下方向を図面の上下方向として表現する。)。上段の撹拌羽根は、いずれも長方形の細長い平板からなっており、右側の羽根が水平方向から図面後方方向に三〇度下向き、左側の羽根が水平方向から図面手前方向に三〇度下向きとなっている。中段の撹拌羽根は、上段と同様、いずれも長方形の細長い平板からなっており、右側の羽根が水平方向から図面手前方向に三〇度下向き、左側の羽根が水平方向から図面後方方向に三〇度下向きとなっている。上段の撹拌羽根と中段の撹拌羽根はそれぞれ右側同士、左側同士がその先端部分において細長い縦方向の平板で接続されており、左側の縦方向の平板にはスクレーパーが取り付けられている。下段の撹拌羽根は下辺が緩やかに上方に傾斜して縦辺につながるコの字形であり、左側の撹拌羽根にのみ下辺部分及び縦辺部分にスクレーパーが取り付けられている。
(2) 駆動系統
成立に争いのない甲第六号証の一、弁論の全趣旨により書込み部分を含めて真正に成立したものと認められる甲第八九号証の四によれば、右書証のうち前者が原告機械一二の駆動部組立図であり、昭和五三年二月一五日に作成されたことが、後者は右甲第六号証の一の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。右図面によれば、モーター軸は撹拌翼が付けられる主軸に直接連結されるのでなく、それぞれの軸の先端に取り付けられたチェーンカップリングが接続部分によつて連結される構造となっている。
(3) 軸受部
成立に争いのない甲第六号証の二、書込み部分を除いた部分の成立に争いがなく弁論の全趣旨により書込み部分は曽山貢作成と認められる甲第五三号証の一の一によれば、右書証のうち前者は原告機械一二の底部軸受部の図面であり、昭和五三年一月二〇日に作成されたことが、後者は右甲第六号証の二の図面に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる甲第一二三号証によれば、同書証は原告機械一二(容量一〇〇〇キログラムのもの)の底部軸受部図であり、昭和五三年一月二〇日に作成されたことが認められる。
右各図面によれば、原告機械一二の主軸はタンク底部を通過して、タンク外へ突出している。この突出部分を覆い支持するのが底部軸受部であり、大きく上段の底部形成部分、中段の接続部分(この部分では主軸が一部露出している。)、下段のベアリングハウジング部分、最下部のベアリング押え部分とからなる。その形状は断面図において、底部形成部分がL字形、逆L字形、接続部分がほぼコの字形、ベアリングハウジング部分が左右対称の階段形、ベアリング押え部分が皿状になっている。
(4) タンク底部の形状
前記甲第六号証の七、書込み部分(甲第六号証の七の原本より作成との書込み部分)を除いた部分の成立に争いがなく弁論の全趣旨により書込み部分は曽山貢作成と認められる甲第五三号証の四の一によれば、右書証のうち前者は原告機械一二のタンク図であり、昭和四四年五月七日に作成されたことが、後者は右甲第六号証の七と同一の図面であることが認められる。前記甲第九五号証の一によれば、右図面は原告機械一二のうち容量一〇〇〇キログラムのもののタンク図であり、昭和四五年五月二七日に作成されたことが認められる。右原告図面によれば、原告機械一二のタンク底部は、垂直方向のタンク壁部から、水平になっているタンク底部中央へ向けてゆるやかに円弧状に傾斜する原告の称するへら絞り形状であることが認められる。
(5) 以上の各部分がノウハウといえるか否かについて判断する。
被告らは、タンク底部のへら絞り型及びチェーンカップリングは公知技術であるとして弁論の全趣旨によって原本の存在及びその成立が認められる乙第三五号証の一、二を引用する。しかしながら、同号証の一は絹田工業株式会社の設計図であって、この図面の存在をもって公知技術老は言えないし、同号証の二は昭和五八年発行の外国の雑誌文献であって、これまた我が国において公知であって原告のノウハウを否定するものとは言えない。
右(1)ないし(4)の各点は、産業上利用できる技術的思想の創作を実施するための具体的技術的知識であって、原告が秘密としているものであるから、原告のノウハウと認めることができる。
(三) 設計図の盗用、模写によるノウハウ侵害の有無
(1) 撹拌翼に関する設計図
ア 撹拌翼の構造
前記のとおり、甲第六号証の四は原告機械一二の撹拌翼組立図で、昭和四四年五月八日に作成されたものであり、甲第五三号証の二の一、甲第八九号証の三(書込み部分を除いては成立に争いがなく、書込み部分については弁論の全趣旨により前者については國和修が、後者については曽山貢が作成したことが認められる。)は、右甲第六号証の四に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。原告図面における撹拌翼の形状は前記のとおりである。撹拌翼に関する寸法を見ると、上段の撹拌翼の幅が七五ミリメートル、上段、中段の右側の撹拌翼の長さが取付部分の長さを除いて三四八・五ミリメートル、下段の撹拌翼の幅が上辺、縦辺、下辺とも七五ミリメートル、上中段にまたがったスクレーパーの幅が六五ミリメートル、長さが四七〇ミリメートル、下段の縦辺のスクレーパーの幅が五五ミリメートル、長さが一八〇ミリメートル、下辺のスクレーパーの幅が七〇ミリメートル、長さが二〇〇ミリメートルである。また、右側撹拌翼とタンクの内壁との隙間が二〇ミリメートルである。
成立に争いのない乙第二三号証の九、弁論の全趣旨により書込み部分を含めて真正に成立したものと認められる甲第九〇号証の二によれば、右書証のうち前者は被告機械一二の撹拌翼部図で昭和五七年四月二七日に作成されたことが、後者は右乙第二三号証の九の図面(但し、そのほか乙第二三号証の一〇ないし一三の図面も含まれている。)に説明のための書込みを加えた図面であることが認められる(書込み部分以外は成立に争いがなく、弁論の全趣旨によれば書込み部分は曽山貢が作成したものと認められる甲第五三号証の二の二も同趣旨の図面である。)。被告図面によれば、上段の撹拌羽根は、いずれも長方形の細長い平板からなっており、右側の羽根が水平方向から図面後方方向に三〇度下向き、左側の羽根が水平方向から図面手前方向に三〇度下向きとなっている。中段の撹拌羽根は、上段と同様、いずれも長方形の細長い平板からなっており、右側の羽根が水平方向から図面手前方向に三〇度下何き、左側の羽根が水平方向から図面後方方向に三〇度下向きとなっている。上段の撹拌羽根と中段の撹拌羽根はそれぞれ右側同士、左側同士がその先端部分において細長い縦方向の平板で接続されており、左側の縦方向の平板にはスクレーパーが取り付けられている。下段の撹拌羽根は下辺が緩やかに上方に傾斜して縦辺につながるコの字形であり、左側の撹拌羽根にのみ下辺部分及び縦辺部分にスクレーパーが取り付けられている。以上の形状において、被告図面は原告図面と同一である。寸法は、上段の撹拌翼の幅が七五ミリメートル、上段、中段の右側の撹拌翼の長さが取付部分の長さを除いて三三八ミリメートル、下段の撹拌翼の幅が上辺、縦辺、下辺とも七五ミリメートル、上中段にまたがったスクレーパーの幅が八〇ミリメートル、長さが三五五ミリメートル、下段の縦辺のスクレーパーの幅が八〇ミリメートル、長さが一五〇ミリメートル、下辺のスクレーパーの幅が最大九〇ミリメートル、長さが二三〇ミリメートルである。また、右側撹拌翼とタンクの壁との隙間が二〇ミリメートルである。以上のとおり、スクレーパーの寸法には相違があるが、その他の寸法は同一または酷似している。
以上を総合すると、両図面における撹拌翼の形状、寸法はよく似ているということができる。
イ 撹拌翼の部品の設計図
成立に争いのない甲第六号証の九、一〇、一六、一九、一二は順次原告機械一二の主軸図(昭和五三年二月一六日作成)、ピン図(昭和四四年五月一二日作成)、撹拌翼図(同日作成)、底部撹拌翼図1(昭和四四年五月一〇日作成)、底部撹拌翼図2(同日作成)である。
これらと、これに対応する部分の記載がある前記乙第二三号証の九、成立に争いのない乙第二三号証の一一(いずれも昭和五七年四月二七日作成)とを対比する。
<1> 主軸図(甲第六号証の九と乙第二三号証の九)
原告図面において、軸心はテーパ面、切り込み等を除いてその径がタンク上部から六〇ミリメートル、八〇ミリメートル、六四ミリメートル、八〇ミリメートル、七五ミリメートル、六五ミリメートルと六段階に変化する。撹拌翼の取付板が全部で八枚あり、そのうち下部四枚の高さは七五ミリメートル、幅は八五ミリメートルである。軸長は一三五二ミリメートルである。
被告図面において、軸心はテーパ面を除いてその径がタンク上部から六〇ミリメートル、八〇ミリメートル、九〇ミリメートル、八〇ミリメートル、六五ミリメートルと五段階に変化する。撹拌翼の取付板が全部で八枚あり、下部四枚の高さは七五ミリメートル、幅八五ミリメートルである。軸長は一二九六ミリメートルである。
両図面は全体として類似している。
<2> ピン図(甲第六号証の一〇と乙第二三号証の一一)
原告図面では、頭部径が二〇ミリメートル、全長が昭和四五年一月二八日の訂正後で一四〇ミリメートル、ピン頭部下部から先端までの長さが同じく訂正後で一三〇ミリメートル、割ピン用孔径が三ミリメートルである。被告図面では、頭部径が二〇ミリメートル、全長が一四〇ミリメートル、ピン頭部下部から先端までの長さ一三〇ミリメートル、割ピン用穴径二ミリメートルである。以上によれば、両図面は類似している。なお、成立に争いのない乙第二三号証の一三によれば、被告機械一二には、寸法の異なるもう一種類のピンが使用されている。
<3> 撹拌翼図(甲第六号証の一六と乙第二三号証の九)
原告図面によれば、撹拌翼の長さは三四八・五ミリメートル、幅は七五ミリメートル、板厚が九ミリメートル、撹拌翼先端をつないで取り付けられている平板の長さが四九〇ミリメートル、幅が七五ミリメートル、板厚が九ミリメートルである。被告図面によれば、撹拌翼の長さは三三八ミリメートル、幅は七五ミリメートル、板厚が一二ミリメートル、撹拌翼先端をつないで取り付けられている平板の長さが三五五ミリメートル、板厚が一二ミリメートルである。
平板の長さがかなり異なり、板厚も異なるが、その他の点では同一又は近似している。
<4> 底部撹拌翼1(甲第六号証の一九と乙第二三号証の九)
原告図面によれば、一辺がやや傾斜した逆コの字形形状であり、取付時の状態で横幅となる部分の寸法が三五七・五ミリメートル、高さとなる部分の寸法が三四二・五ミリメートルである。各辺の幅は七五ミリメートル、角の円弧部分の半径が六五ミリメートルである。
被告図面によれば、一辺がやや傾斜したコの字形形状であり、取付時の状態で横幅となる部分の寸法が三五〇ミリメートル、高さとなる部分の寸法は不明である。各辺の幅は七五ミリメートル、角の円弧部分の半径が六五ミリメートルである。
全体として両図面はよく似ている。
<5> 底部撹拌翼2(甲第六号証の二一と乙第二三号証の九)
原告図面によれば、一辺がやや傾斜したコの字形形状であり、取付時の状態で横幅となる部分の寸法が三五七・五ミリメートル、高さとなる部分の寸法が三四二・五ミリメートルである。各辺の幅は七五ミリメートル、角の円弧部分の半径が六五ミリメートルである。取付時に上辺及び右辺となる部分にそれぞれ二か所の長方形のスクレーパー取付穴があり、その穴の幅は一〇ミリメートル、穴間の幅は一〇〇ミリメートル(縦辺については昭和四五年一月二八日訂正後)である。被告図面によれば、一辺がやや傾斜したコの字形形状であり、取付時の状態で横幅となる部分の寸法について記載はないが底部撹拌翼1と同様の三五〇ミリメートルと推測される。高さとなる部分の寸法の記載はない。下辺の幅は七五ミリメートル、角の円弧部分の半径が六五ミリメートルと推測される。取付時に下辺及び縦辺となる部分にそれぞれ二か所の長方形のスクレーパー取付穴があり、その穴の幅は一〇ミリメートル、穴間の幅はそれぞれ一四五ミリメートル、一〇〇ミリメートルである。
以上によれば、一部の相違はあるものの両図面は類似している。
(2) 駆動系統に関する設計図
前記(二)(2)のとおり、甲第六号証の一、甲第八九号証の四によれば、原告機械一二のモーター軸は撹拌翼が付けられる主軸に直接連結されるのでなく、それぞれの軸の先端に取り付けられたチェーンカップリングが接続部分によって連結される構造となっている。
一方、成立に争いのない乙第二三号証の七、書込み部分の成立は争いがなく弁論の全趣旨により書込み部分は曽山貢の作成と認められる甲第九〇号証の三によれば、右書証のうち前者は被告機械一二(但し、容量二〇〇〇キログラム用又は容量三〇〇〇キログラム用)の頭部組立図であり、昭和五六年三月一二日に作成されたことが、後者は右乙第二三号証の七に説明のための書込みを加えた図面であることがそれぞれ認められる。
右被告図面によれば、被告機械一二のモーター軸と撹拌翼主軸との取付構造は右原告図面と同一である。
(3) 軸受部に関する設計図
原告機械一二の軸受部の構造、形状は前記(二)(3)のとおりである。前記甲第六号証の二、甲第五三号証の一の一によれば、寸法は、底部形成部分の外径が三〇五ミリメートル、両端のボルト孔中心円径が二六〇ミリメートル、内部に取り付けられたバルフロン成形パッキング間の内径が七五ミリメートルである。ベアリングハウジング内径が下から一四〇ミリメートル、一二〇ミリメートル、一〇〇ミリメートル、九五ミリメートル、ベアリング押え部分の外径が二一〇ミリメートル、内径が一二〇ミリメートルである。
成立に争いのない乙第二三号証の六、書込み部分の成立は争いがなく弁論の全趣旨により書込み部分は曽山貢の作成と認められる甲第五三号証の一の二によれば、右書証のうち前者は被告機械一二(容量二〇〇〇キログラム又は三〇〇〇キログラム用のもの)の底部組立図であり、昭和五六年三月一一日に作成されたことが、後者は右乙第二三号証の六の図面の一部の写しに説明のための書込みを加えた図面であることが認められる。被告図面によれば、被告機械一二の主軸はタンク底部を通過して、タンク外へ突出している。この突出部分を覆い支持するのが底部軸受部であり、大きく上段の底部形成部分、中段の接続部分(この部分では主軸が一部露出している。)、下段のベアリングハウジング部分、最下部のベアリング押え部分とからなる(成立に争いのない乙第二三号証の三によれば、底部形成部分、接続部分、ベアリングハウジング部分は一体のブラケットであることが認められ、成立に争いのない乙第二三号証の一は、ベアリング押さえの図面である。)。その形状は断面図において、底部形成部分がL字形、逆L字形(但し、原告図面と異なり縦辺部分が厚い)、接続部分がほぼコの字形状、ベアリングハウジング部分が左右対称の階段形状、ベアリング押え部分が皿状になっている。
寸法は、前記乙第二三号証の一、三、の記載も合わせれば、底部形成部分の外径が二九〇ミリメートル、両端のボルト孔中心円径が二六五ミリメートル、内部に取り付けられたバルフロン成形パッキング間の内径が八〇ミリメートルである。ベアリングハウジング内径は、下から一四〇ミリメートル、一二〇ミリメートル、一〇五ミリメートル、九五ミリメートルである。ベアリング押え部分の外径が一八五ミリメートル、内径は一二〇ミリメートルである。
被告らは乙第二三号証の六には部品番号六のOリングがあるのに対して、甲第六号証の一、二にはそれがない旨主張し、それは右書証の対比により被告らの主張のとおりであると認められるが、その点は細部の相違に過ぎないものと言うべきである。
以上によれば、寸法において多少の差はあるが、全体として両図面はよく似ているということができる。
(4) タンク底部の形状ほか
前記(二)(4)のとおり、原告機械一二の底部はへら絞り形であることが認められる。前記甲第六号証の七、甲第五三号証の四の一により、その他、原告機械一二のタンクの形状をみると、全体が上部の平らな湯呑み型の内外二重構造となっており、四本の足で支えられている。下部横にはチョコレート取出口が取り付けられている。右上にはオーバーフロー用ソケットが、底部右寄りにはドレン用ソケットがある。また、左横部には温水の温度を測るための温度計用の差込み穴が、その下にはタンク内部のチョコレートの温度を測るための温度計用の差込み穴が設けられている。寸法は、脚部を含めたタンク全体の高さが一五五一ミリメートル、タンク本体の高さが一一九〇ミリメートル、タンク外壁外径が九六二ミリメートル、タンク内壁内径が八五〇ミリメートル、二重壁の間隔は四二ミリメートル、タンク底部の穴の径が一三四ミリメートル、チョコレート取出口のフランジの外径が一七五ミリメートル、チョコレート温度測定用の温度計差込み口の外径が一〇八ミリメートルである。また、タンク底部屈曲部の半径が外壁で九五ミリメートル、内壁で八五ミリメートルであり、タンク底部中央近くの円弧の半径が外壁で九五〇ミリメートル、内壁で八五〇ミリメートルである。
成立に争いのない乙第二三号証の八、書込み部分の成立は争いがなく弁論の全趣旨により書込み部分は曽山貢の作成と認められる甲第五三号証の四の二によれば、右書証のうち前者は被告機械一二のタンク部品図であり、昭和五七年三月三一日に作成されたことが、後者は右乙第二三八号証と同一の図面であることが認められる。まず、タンク底部の形状についてみると、タンク底部は、垂直方向のタンク壁部から、水平になっているタンク底部中央へ向けてゆるやかに傾斜する形状であって、原告の称するへら絞り形状とほぼ同一形状であることが認められる。タンクのその他の形状をみると、全体が上部の平らな湯呑み型の内外二重構造となっており、四本の足で支えられている。下部横にはチョコレート取出口が取り付けられている。右上には空気抜きソケットが原告機械一二のオーバーフロー用ソケットと同一位置に設けられ、底部右寄りには原告機械一二のドレン用ソケットの位置に温水パイプヒーター用ソケットがある。ドレン用ソケットはチョコレート取出口の下部に設けられている。また、左横部には温水の温度を測るための温度計用の差込み穴が、その下にはタンク内部のチョコレートの温度を測るための温度計用の差込み穴が設けられている(なお、前記乙第二三号証の七によれば、被告機械一二には、タンク上部軸受部に原告機械一二の設計図には見当たらない油受皿があることが認められる。)。寸法は、脚部を含めたタンク全体の高さが一五二三ミリメートル、タンク本体の高さは不明、タンク外壁外径が九六二ミリメートル、タンク内壁内径が八五〇ミリメートル、二重壁の間隔が四一ミリメートル、タンク底部の穴の径が一九〇ミリメートル、チョコレート取出口のフランジの外径が一五五ミリメートル、チョコレートの温度測定用の温度計差込み口の外径が五〇ミリメートルである。また、タンク底部屈曲部の半径が外壁で九五ミリメートル、内壁で八五ミリメートルであり、タンク底部中央近くの円弧の半径が外壁で九五〇ミリメートル、内壁で八五〇ミリメートルである。
以上によれば、細部における相違はあるものの、タンク外壁外径、内壁内径、タンク底部屈曲部の曲がり、タンク底部中央近くの曲がり等、主要又は重要な部分の数値が一致しており、両図面はよく似ているということができる。
(5) その他
ア 被告らは、成立に争いのない乙第二三号証の五の六角穴付きボルトと成立に争いのない乙甲第六号証の二二のスタッドボルトとを対比すると、形状、寸法が異なる旨主張する。
確かに、成立に争いのない右両書証の図面を対比すると、形状、寸法とも異なるということができる。両ボルトが対応箇所の部品であることは右書証のみからは明らかではないが、そうであるとしても、細部の部品の相違に過ぎないと言える。
イ 被告らは、また、乙第二三号証の一四の頭部モーターベース&蓋取付図と甲第六号証の六のモーターベース及び蓋図とを比較すると、全体として書き方、寸法が異なるほか、蝶番の長さ、ボルトの数、チョコレート入口の大きさ等に相違があると主張する。そこで、両図面について対比する。
成立に争いのない甲第六号証の六によれば、右書証は原告機械一二のモーターベース及び蓋図であり、昭和五三年三月一六日に作成されたことが認められる。成立に争いのない乙第二三号証の一四によれば、右書証は被告機械一二の頭部モーターベース&蓋取付図であり、昭和五七年五月一一日に作成されたことが認められる。
両図面はいずれも、平面図を中心としてその右側に横断面図が、その下側に縦断面図が配置されている。
<1> 平面図
両図面とも、右側の円形の蓋の部分の上に細長い長方形のモーターベース板が右端がほぼ蓋の円周に沿う位置まで、左端が円周の左端から蓋の円の直径に近い長さ突出した形となっている。タンクの上部の中心部分には主軸が通る円形の穴が、その左方にはチョコレート流入口の円形管状の穴が、それぞれモーターベース板を貫いて設けられている。以上の基本的形状において、両図面は同一である。但し、蓋とモーターベース板を取り付けるボルトの数は、原告図面が左右合計四個であるのに、被告図面では左右合計六個という差異がある。また、蓋とモーターベース板の長辺方向の取付部分に、原告図面では短い蝶番を使用しているのに、被告図面では長い蝶番を使用しているという点も異なっている。寸法は蓋の直径が九五〇ミリメートルで同一であり、モーターベース板の長辺は原告図面が一六〇二ミリメートル、被告図面が一五三一ミリメートル、短辺は原告図面が三七〇ミリメートル、被告図面が三二〇ミリメートルである。
以上のとおり、両図面は細部等の差異はあっても基本的形状が同じであるほか、寸法も同一又は類似の範囲にある。
<2> 横断面図
蓋の平板の中央部分にモーターベース板部分が長方形に突出している基本的形状は同一である。但し、被告図面には上部、下部にステンレスの丸棒取手が存在する点が異なっている。原告図面と被告図面とでは寸法の記載位置が異なるので、寸法の対比はできない。
<3> 縦断面図
蓋の平板の上部及び更に左側に突出してモーターベース板が乗っている点、蓋の中央部にはモーターベース板を貫く主軸の通る穴が設けられている点、主軸の通る穴の左側にはチョコレートクリーナーと接続することが可能なチョコレート流入口の管状部分が設けられている点、以上の基本的形状において同一である。寸法は、前記のとおりモーターベース板の長さは異なるが、主軸の通る穴の短径部分(一六〇ミリメートル)、その周囲のボルト中心軸間の距離(二三〇ミリメートル)は同一である。チョコレート流入口は、原告図面が外径一三九・八ミリメートル、内径一三〇・八ミリメートル、高さが一一〇ミリメートル、被告図面が外径一一四・三ミリメートル、内径一〇五・三ミリメートル、高さ一五〇ミリメートルと異なる。
両図面は細部の相違はあるものの基本的形状及び寸法の一部が同一である。
(6) 見積図の対比
書込み部分を除いて成立に争いがなく弁論の全趣旨により書込み部分の成立が認められる甲第六二号証の二、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第六二号証の一、前記甲第九号証の四によれば、前者は被告機械一二の見積図であり、後者のうち甲第六二号証の一は原告機械一二のカタログ、甲第六二号証の二は原告機械一二の見積図及びカタログであることが認められる。
右被告機械一二の見積図と原告機械一二のカタログとを対比すると、いずれも各容量ごとに機械各部の寸法が表としてまとめられており、その寸法の測定部位が機械の図面中AないしHとして指示されている。右AないしHの各部位は両者で全て一致している。また、その各部位の寸法もA、C、E、Hの四か所については一致している。
以上によれば、各容量のものとも寸法については一致する部分が多いことが認められる。
(7) 以上を総合して判断すると、原告図面と被告図面には一部異なる図面もあるものの、全体としてはよく似ており、これに前記二で認定した事実を総合すると、被告中宿は原告在職中に原告に無断で原告機械一二の設計図を複写し、これを被告会社に持参し、被告会社は右事情を知りながら原告機械一二の設計図を模写又はこれを参考として被告機械一二の設計図を作成し、これに基づいて被告機械一二を製造、販売することによって原告機械一二のノウハウと認められる部分を使用し、これを侵害したものと認められる。
14 原告機械一三について
(一) 機械の概要
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第六三号証の一、二によれば、原告機械一三は、チョコレートを溶解し、調温する機械であることが認められる。
(二) ノウハウ
(1) スクリュー式二重撹拌装置
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一二四号証、甲第二五号証の一によれば、同書証のうち前者は原告機械一三の主軸駆動部組立図であり、昭和四四年一二月一八日に作成されたこと、後者は原告機械一三の見積図であり、昭和四三年一二月二五日に作成されたことが認められる。
右各図面によれば、原告機械一三は、チョコレートを溶解する円筒形のタンク内に、下部がほぼU字形状、上部が右U字形の二本の縦軸のうち、主軸に近い縦軸がより主軸に接近するよう横に一段ずれた形で上方へ伸びた形状の撹拌羽が、主軸をはさんで一八〇度方向に二つ取り付けられ、更に、右二個の撹拌羽それぞれのU字形の縦軸の間には横方向に軸の走るスクリューが取付けられている。
(2) ピンギヤー
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第六三号証の五によれば、同書証は原告機械一三のピンギヤー咬合関係図であり、昭和四三年三月二九日に作成されたことが認められる。右書証及び前記甲第一二四号証によれば、原告機械一三には、主軸の周囲を覆う上方が細くなった円柱状の支柱の中央よりやや下よりに、支柱を取り巻き放射状に一八本のピンが突出したピンギヤーが設けられている。右ピンギヤーの突出したピンと、前記各スクリュー軸の支柱側の端部に円周状に取り付けられ、放射状に一二本のピンが突出したピンギヤーのピンが咬み合い、これによって、主軸によって駆動される撹拌羽の支柱周囲方向の円周回転がスクリュー軸の回転に変えられる仕組みとなっている。
(3) 支柱
前記甲第一二四号証によれば、原告機械一三においては、右(2)で述べたとおり、支柱が主軸の周囲をタンクの底部まで完全に覆う構造となっており、主軸はタンク内で溶解するチョコレートの上限より上部で撹拌羽と接続され、主軸はタンク内部のチョコレートと接触しない構造となっている。
(4) 右各構造がノウハウと言えるか否かについて判断する。
右(1)ないし(3)は、いずれもチョコレートの撹拌を効率よく、かつ安定的に行なうための構造に関するものであって、産業上利用できる技術的思想を実施するのに必要な具体的な技術的知識であり、原告が秘密にしていたもので、公知でないから、原告のノウハウと認められる。
被告らは、スクリュー式二重撹拌装置が公知の技術であったとし、弁論の全趣旨によつて成立の認められる乙第三六号証の一(成立に争いのない乙第一二号証の三七一頁)を引用する。右乙第一二号証は「チョコレート・ココア製造の理論と実際」と題する書物であり、昭和四〇年一月七日に発行されたことが認められる。右書物には、テンパリングケットルとして、Heuze,Malevez&Simon社の混合テンパリング機KO型の外部写真が示され、その説明では「テンパリング用の二重タンクで、中央にかき取り装置と、これに自転しながら公転するプロペラ式の撹拌羽根が2個ついていて、内容物を十分にかき取りながら混合撹拌する。」とされている。しかし、それ以上に右機械の自転しながら公転するという撹拌羽の構造を認めるに足りる証拠はなく、右機械が公知であったからといって、原告機械一三のスクリュー式二重撹拌構造が公知であったとは言えない。また、被告らは、ピンギヤー方式は動力伝達機構として周知慣用技術であったとし、弁論の全趣旨により原本の存在及び成立の認められる甲乙第三六号証の二を引用する。右乙第三六号証の二は「機械の素」と題する昭和六年一一月に訂正増補第六版が発行された書物であり、その四九頁には、ピン面歯車として、ピン同士を咬み合わせて縦方向の回転を横方向の円周に変える縦横二個の歯車が示され、玩具等に適するとの説明が付されている。確かに、右ピン面歯車の原理と原告機械一三のピンギヤー方式は原理において同一であると言えるが、支柱に設けられたピンギヤーはそれ自体で、あるいは支柱と共に回転するものではなく、支柱の周囲を回転する攪拌羽の支柱周囲方向の回転力を支柱と垂直方向のスクリュー軸の回転に変換するものである点で応用の形式が異なるのみか、一般的な原理が知られているからといって、それをある産業分野の機械にどのように使用するかということが直ちに出てくるものではなく、右書物の記載をもって、原告機械一三のピンギヤー技術が原告機械一三のような分野での公知の技術であったと認めることはできず、この点の被告らの主張も理由がない。
(三) ノウハウ侵害の有無
前記甲第六三号証の一、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第八号証の一〇、甲第六三号証の三によれば、右書証のうち前二者は原告機械一三の外形写真であり、後者は原告機械一三の見積図であり、昭和五五年七月一八日に作成されたことが認められる。成立に争いのない甲第七号証の一〇、甲第六三号証の四の左の写真、甲第二五号証の二によれば、右書証のうち前二者は被告機械一三の外形写真であり、後者は被告機械一三の見積図であることが認められる。右両機械の外形を対比すると、両機械は、いずれも円筒形本体が脚部により支えられ(但し、甲第八号証の一〇、甲第六三号証の一では脚部部分にカバーが設けられている。)、円筒形本体の上部は蓋となっており、円筒形本体の横に操作盤が取り付けられ、脚部の横にモーターが設置されているという形状であり、全体の形状は類似している。
成立に争いのない甲第七号証の一一、前記甲第六三号証の四の右の写真によれば、同書証は被告機械一三のタンク内部の写真であることが認められる。右写真にはタンクの内部の約半分が写っているが、それによれば中央部分にピンギヤーが、その横に下部がほぼU字形状、上部が右U字形の二本の縦軸のうち、主軸に近い縦軸がより主軸に接近するよう横に一段ずれた形で上方へ伸びた形状の縦軸とからなる撹拌羽が取り付けられ、更に、右撹拌羽のU字形縦軸の間には横方向に軸の走るスクリューが取付けられている。写真に写った半分で見る限り右構造は、原告機械一三の構造と全く同一である。
右事実と、前記設計図の対比がされた七機種(原告機械一、二、五、七、九、一〇、一二と被告機械一、二、五、七、九、一〇、一二)についての設計図の無断盗用の事実並びに前記二の事実を総合すると、被告らは原告機械一三の設計図を原告に無断で複写して持ち出し、これに化体された原告の前記ノウハウを使用して被告機械一三を製造、販売したものであって、原告のノウハウを侵害したものと推認される。
15 原告機械一四について
(一) 機械の概要
弁論の全趣旨によれば、原告機械一五はチョコレートの模様を掛ける機械であることが認められる。
(二) ノウハウ
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第九六号証、甲第一二五号証によれば、右書証は原告機械一四(六〇〇)の組立図であり、昭和五三年八月二五日に作成されたことが認められる。
原告は右書証に原告の主張するノウハウが示されている旨主張するが、右書証からは、原告が主張するようなパイプが規則的に自由自在に動くようにした機構上の工夫及び異物混入防止のためのフィルター装置を認めることはできない。
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二六号証の一の二によれば、右書証は原告機械一四(一〇〇〇)のストレーナー図であり、昭和五四年一月八日に作成されたことが認められる。同図面によれば、原告機械一四のストレーナーは網篭及びこし網とからなる構造であることが認められる。被告らは、弁論の全趣旨により原本の存在及びその成立の認められる乙第三七号証の一ないし三にはストレーナーによって不純物を排除することが明記されていると主張するが、右書証によっても、原告機械一四と同様のストレーナーが開示されているものとは認められないし、乙第三七号証の二は、昭和六〇年二月一八日出願にかかる発明の特許公報である。そして、右ストレーナーの構造は、産業上利用できる技術的思想の創作を実施するための具体的な技術的知識であって、原告によって秘密にされているもので、公然と知られたものではないから、原告機械一四のノウハウと認めることができる。
(三) ノウハウ侵害
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第六四号証の一は原告機械一四の外形写真であり、成立に争いのない甲第七号証の五、甲第六四号証の二は被告機械一四の外形写真であることが認められる。そして、両機械の外形は類似しているということができるが、そこから被告機械一四が原告機械一四の設計図に化体されたノウハウを侵害して製造、販売されたものとまで認めることはできない。
また、成立に争いのない甲第二六号証の二は被告機械一四の見積図であり、その右側部分には温水ジャケット付チョコレート用フィルターの図が描かれている。そして、その外形は前記甲第二六号証の一の二の原告機械一四のストレーナーの外形と類似しているが、そこから内部まで類似しているとまで認めることはできない。
以上によれば、前記二の事実を考慮しても、原告機械一四について、被告らによるノウハウ侵害を認めることはできない。
16 原告機械一五について
(一) 機械の概要
原告機械一五が原料チョコレートをチップ・チョコ用に少量充填(デポジット)する機械であることは当事者間に争いがない。
(二) ノウハウ
(1) 縦型ピストン
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第九七号証の一、甲第一二六号証の一によれば、右書証は原告機械一五のヘッド部正面図であり、昭和五四年五月一六日に作成されたことが認められる。
右図面によれば、原告機械一五においては、配管内を右から左に流れるチョコレートに対して、上部から図面上九本の縦型ピストンが上下してチョコレートを下に押し出し、押し出されたチョコレートがピストン一つについて二つの吐出口から吐出され、充填する構造となっていることが認められる。
(2) シャッター方式
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一二六号証の二によれば、同書証は原告機械一五のシャッター部図であり、昭和五五年八月二六日に作成されたことが認められる。同図面は平面図、長辺方向の断面図、短辺方向の断面図からなるが、平面図によれば、チョコレートの出口穴が多数開けられ、長辺方向の断面図を見ると、その穴の列の横にチョコレートの流れる溝が設けられている。原告の主張によれば、シャッター板は水平方向に移動して、ピストンが降下してシャッター板の穴を通ったり、ピストンが充填用のチョコレートを吸引可能にしたりするということであるが、右図面から原告右主張まで認定することはできない。
(3) プレートカム部
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一二六号証の三によれば、同号証は原告機械一五のプレートカム部の図面であり、昭和五四年六月一六日に作成されたことが認められる。右図面によれば、プレートカムには原告が特殊溝と称する細長い長円形の溝及び特殊ベアリングと称するベアリングが設置されているが、右図面のみでは、原告が主張するような技術的意義を十分に把握することができない。
(4) 駆動カム部
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一二六号証の四によれば、同号証は原告機械一五の駆動カム部の図面であり、その作成年月日は不明である。
右図面及びその書込み説明によれば、原告機械一五の充填ヘッド部はカム機構により水平及び垂直の二方向に動くことが窺われるが、同図面のみでは原告が主張するような技術的意義を十分に把握することはできない。
(5) 右のうち、その技術的内容を把握することが可能な縦型ピストンについては、産業上利用できる技術的思想を実施するために必要な具体的な技術的知識であって、原告が秘密にしているものであるり、公然こ知られていないから、原告のノウハウと認めることができる。
被告らは、充填量が少量であるデポジッターの基本的な技術は、弁論の全趣旨によって成立の認められる乙第三八号証の文献から明らかであったと主張するが、その記載及び外形写真から機械の細目を把握することはできず、被告らの右主張は理由がない。
(三) ノウハウ侵害
(1) 外形写真の対比
弁論の全趣旨により原告機械一五の外形写真であると認められる甲第六五号証の二、甲第一一八号証の一、弁論の全趣旨によりその成立が認められ原告機械一五の基本設計図と認められる甲第六五号証の四と成立に争いがなく被告機械一五の写真と認められる甲第七号証の三五、甲第六五号証の三、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一一八号証の二とを対比すると、両機械は下部のカム機構部分が水平方向のロッドの位置を除いてよく似ている。しかしながら、前記原告のノウハウと認められる縦型ピストンについては、被告機械一五の写真は不鮮明であり、十分な対比を行なうことはできない。以上の点は前記甲第六五号証の四と右被告機械一五の外形写真との対比についても同様である。
(2) 公開特許公報との対比
原告書込み部分を除いて成立に争いのない甲第一一八号証の四によれば、同号証は被告会社を出願人とするデポジッターに関する特許出願の公開特許公報であり、その図面第4図と第5図に機械の内部構造が示されている。原告は、これらの図面が被告機械一五の図面であることを前提として原告機械一五の設計図との対比をしているが、被告機械一五の構造、形状が右公開公報の図面と同一であることを認めるに足りる証拠はないから、右対比自体適切なものとは言えない。また、右公報の図面は概略図であるから、原告機械一五の図面との対比に適しているとも言えない。
(3) 以上によれば、前記七機種についての設計図の対比、前記二に認定した事実があるとしても、被告らが原告機械一五についての原告分ノウハウを侵害したものと認めることはできない。
17 原告機械一六について
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第九八号証の一によれば、同書証は原告機械一六のプラント設計図であり、昭和五八年三月一七日に作成されたことが認められる。しかしながら、原告機械一六については、これに対応する被告機械一六の資料(設計図、見積図、写真等)が何ら提出されていないので、前記七機種についての設計図の対比、前記二に認定した事実があるとしても、被告らによる原告機械一六のノウハウ侵害を認めることはできない。
18 原告機械一七について
(一) 機械の概要
原告機械一七はチョコレート製品の二次工程においてチョコレートをモールドに充填する機械であり、最終製品として板チョコレートを製造する目的で使用されるデポジッターであること、原告機械一七によりチョコレートモールドに充填されたチョコレートはその後タッピング工程、冷却工程を経て最終的に冷却固化されることは当事者間に争いがない。
(二) ノウハウ
(1) サーミスターによる温度調整
この点については、これを認めるに足りる証拠がない。
(2) 充填量調整ハンドル及びディスコネクション方式
ハンドルによる充填量の調整についてはこれを認めるに足りる証拠がない。
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一二七号証の一によれば、同書証は原告機械一七のピストン部分の図面であり、平成七年三月一〇日に作成されたことが認められる。右図面によれば、ピストンは連結ピンによってピストンリングに連結されており、連結ピンを外すことによって、ピストンを取り外すことが可能であることが認められる。
(3) 左右一八本以上のピストン及びノズルプレート方式
左右一八本以上のピストンについてはこれを認めるに足りる証拠がない。
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一二七号証の五、六によれば、右各書証は原告機械一七のノズルプレート図であり、前者は平成七年四月二二日に、後者は同年三月一〇日に作成されたことが認められる。右各図面によれば、原告機械一七においては、右ノズルプレート方式を採用することにより、チョコレート充填位置を自由に調整できることが認められる。
(4) 充填速度の調整
この点についてはこれを認めるに足りる証拠がない。
(5) 特殊カム
原告は二段階の引戻り運動を可能にするため特殊カムを開発したと主張し、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一二七号証の二のカム図(その取付位置については甲第一二七号証の三)を提出しているが、右各書証によっては、特殊カムの機能を把握することはできない。
(6) 撹拌羽
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一二七号証の三によれば、同書証は原告機械一七のホッパー部分の図面であり、昭和五八年四月二八日に作成きれたことが認められる。右図面によれば、原告機械一七のホッパー内には、長方形及びV字形の撹拌羽が設けられていることが認められる。
(7) モールド検出装置
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一二七号証の四によれば、同書証は原告機械一七のモールド検出装置の図面であり、昭和五八年六月一〇日に作成されたことが認められる。
右図面によれば、原告機械一七には、アーム部分に設けられた爪がコンベア上を運ばれてくるモールドに接触し、それによってモールドの有無を検知するモールド検出装置が設けられていることが認められる。
(8) バイブレータースクリーン
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一二七号証の七によれば、同書証は原告機械一七のバイブレーションスクリーン組立図であり、昭和六〇年八月二二日に作成されたことが認められる。
右図面によれば、原告機械一七にはバイブレータースクリーンが設けられていることが認められるが、その機能は右図面からは明らかでなく、他にその機能を明らかにする証拠はない。
(9) 以上のうち、その存在及び機能が証拠上認められるディスコネクション方式、ノズルプレート方式、撹拌羽、モールド検出装置について、これがノウハウと言えるか否かについて判断する。
被告らは、ノズルプレート方式について、乙第三九号証の五の存在を主張する。右乙第三九号証の五はチョコレート等の流動性物質のモールド機械についてのドイツ共和国特許の特許公報らしきものの訳文の写であり(特許出願一九五六年一一月二二日とされる。)、これには図面3においてノズルプレートが開示されている。しかしながら、右のように特許権において新規性の妨げとなるような公知文献があるからといって、そこから直ちにノウハウ認定の妨げとなるとは言えない。ここでノウハウとは不法行為における損害賠償請求の対象となり得る程度のものであるから、特許法における新規性ほど厳格な絞りをかけるのは相当でなく、当時の我が国における技術水準において当業者において公然知られていないものであれば保護の対象となり得るものである。よって、右ドイツ共和国の特許公報はその存在のみでは、ノウハウ性を否定するものではない。また、乙第四〇号証の三の図面においては、被告が主張するようなノズルプレートの存在を明確に確認することはできない。
また、被告らはホッパー内の撹拌羽が公知技術であったとして、乙第三九号証の三と乙第四〇号証の四を提出している。しかし、乙第三九号証の三については、その体裁から見て設計図と考えられ、これが公知のものであったか疑問があるし、そこに描かれている撹拌羽も原告機械一七のものとは形状が異なる。この点は乙第四〇号証の四についても同様である。
更に、被告らは、検出装置が公知の技術であったことを示すものとして、乙第三九号証の四、乙第四〇号証の三を提出している。しかし、このうち乙第四〇号証の三については、その体裁から見て設計図の一部と考えられ、公知のものと言えるかについては疑問がある。乙第三九号証の四の写真には、デポジッターの検出装置と見られるものが撮影されており、その形態も原告機械一七の検出装置に類似している。しかし、その機械の設置時期、場所等が明らかでなく、これをもって、被告会社が被告機械一七を最初に製造した時期において公知のものと認めることはできない。
以上の検討によれば、原告機械一七のディスコネクション方式、ノズルプレート方式、撹拌羽、モールド検出装置は、産業上利用できる技術的思想を実施するために必要な技術的知識であって、原告が秘密にしていたもので、公知技術でないから、原告のノウハウと認められる。
しかしながら、原告機械一七の構造の認定に供した原告図面は、いずれも被告中宿の原告退社以後のものであり、被告中宿の原告退社までの原告機械一七の構造が前記のとおりであったという点は疑念が残る。
(三) ノウハウ侵害
弁論の全趣旨により原告機械一七を撮影したものと認められる甲第八号証の一二、一三、甲第六七号証の一、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第六七号証の四(原告機械一七の見積図)、成立に争いがなく被告機械一七を含むプラントである被告機械一八を撮影したものと認められる甲第七号証の二八、二九、甲第六七号証の三、弁論の全趣旨によりその成立及び原告機械一七の組立図であることが認められる甲第九九号証の一(昭和四四年四月一六日作成)によれば、原告機械一七と被告機械一七の外形は極めてよく似ていることが認められ、このことと、前記七機種についての設計図対比の結果及び前記二に認定の事実によれば、被告らが原告機械一七の設計図を無断で使用してそのノウハウを侵害したのではないかとの疑いを否定できない。しかしながら、被告機械一七において、原告が原告機械一七のノウハウと主張し、それが一応認められる部分の設計図等は提出されておらず、右疑いがあるからといって、被告らが原告機械一七の設計図に化体されたノウハウを侵害したものと認めることはできない。
19 原告機械一八について
(一)機械の概要
原告機械一八がチョコレートの二次工程において、板チョコレートを製造する目的でモールドにチョコレートを充填し、これを冷却するプラントであることは当事者間に争いがない。
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第六七号証の五によれば、原告機械一八は、原告機械一七のほか、モールド自動供給装置、横振動装置、チェーンコンベアー及びタッピングマシーン、クーリングトンネル及びクーリングコンベアー及びリターンコンベアー及びモールド加熱装置等により構成されていることが認められる。
(二) ノウハウ
(1) エアーシリンダーによるストッパー装置
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一〇〇号証の一によれば、同書証は原告機械一八のモールド自動供給装置(コージネーター)の図面であり、昭和四二年八月二日に作成されたことが認められる。右図面によれば、原告機械一八のモールド自動供給装置の固定ガイドの一方の終端には同期ストッパーが設けられていることが認められる。
(2) 横振動装置の偏心カム
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一〇〇号証の三によれば、同書証は原告機械一八の横振動装置の組立図であり、昭和五四年四月一一日に作成されたことが認められる。右図面に弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一二八号証の一を総合すれば、原告機械一八の横振動装置には偏心カムが取り付けられており、偏心カムが回転することによって、シャフトが左右に揺動され、これによってシャフトに取り付けられた二本のアームも同様左右に揺動され、アームの間にはさまれたモールドが水平方向に振動することが認められる。
(3) タッピングマシーンの駆動装置
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一二八号証の二によれば、同号証は原告機械一八のタッピングマシーン(図面上ではシェーキングマシンと呼ばれている。)の伝動部本体図面であり、昭和三五年一一月二九日に作成されたことが認められる。右図面によれば、水平方向の偏心軸が回転することによって、それにクランクアームを介して垂直方向に取り付けられたピストンが上下に振動し、更にピストンの上部に取り付けられたテーブルが上下に振動することによって、テーブル上のモールドが上下に振動することが認められる。
(4) チェーンコンベアーの回転数等
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一〇〇号証の六、七は原告機械一八のクーリングコンベアーの図面であるが、これらからは原告の主張するようなノウハウの存在を認めることはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
(5) クーリング装置
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一二八号証の三によれば、同号証は原告機械一八のクーリングトンネルの設計図であり、昭和四三年四月一二日に作成されたことが認められる。
右図面によれば、原告機械一八のクーリングトンネルは、側面図において長方形の部屋が八個横に接続し、その中をモールドがクーリングコンベアーに乗せられて通過する構造となっている。右長方形の部屋のうち五つの部屋には冷却器が取り付けられ、冷却器により冷やされた空気が換気扇によって部屋の中を循環させられ、その冷気の通り道の間を通過していくモールドが上下から順次冷却される構造となっている。また、冷却器の取り付けられた各部屋には温度計が取り付けられ、内部の温度を測定して温度調整ができるようになっている。
(6) モールド加熱装置
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一〇〇号証の九、甲第一二八号証の四によれば、後者の書証は原告機械一八のモールド加熱部組立図であり、昭和四一年七月一一日に作成されたことが認められる。
右図面によれば、原告機械一八のモールド加熱装置においては、コンベアー上を通過するモールドに対して、コンベアーの上部に設けられたヒーターによって暖められた空気が、送風機によって、吹き付けられる構造となっていることが認められる。
(7) 以上によりその存在が認められるストッパー装置、横振動装置の偏心カム、タッピングマシーンの駆動装置、クーリング装置、モールド加熱装置について、それらが原告のノウハウと言えるか否かについて検討する。
乙第四〇号証の八には、原告機械一八のモールド加熱装置と同様の構造の装置が示されているが、右書証はその体裁からみて外国会社の機械の設計図であり、これに記載されていることをもって公知技術と言えるかは疑問である。また、乙第四〇号証の一〇はクーリングトンネルの図面と認められるが、原告機械一八のものと異なりコンベアの長手方向にわたり、一台の冷却機で冷却された冷風がモールドの上のみを通過する構造である。弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第四〇号証の一三によれば、三〇二七七二八号米国特許公報(昭和三七年四月三日特許付与)の図面(本文については訳文不提出)には長手方向に多数の部屋に区切り、各部屋毎に冷却する構造で、各部屋ではコンベアで移動するモールドの上下を冷風が通過するクーリングトンネルの構造が開示されていることが認められるが、そこで冷却されるのがモールドに充填されたチョコレートであるか否かは明らかではなく、この程度の記載をもって右(5)の技術が直ちに、我が国における公知技術としてノウハウ保護の対象から除外されると言えない。
そうすると、原告機械一八の右各装置に表現されているのは、いずれも産業上利用できる技術的思想の創作を実施するのに必要な具体的な技術的知識であって、原告が秘密にしているものであり、公然と知られたものではないから、原告のノウハウと認められる。
(三) ノウハウ侵害
原告機械一八のうち、それに組み込まれた原告機械一七と被告機械一八に組み込まれる被告機械一七との対比は前記18(三)国のとおりである。
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第八号証の一四、甲第六八号証の二ないし四、同号証の七ないし一〇によれば、甲第八号証の一四、甲第六八号証の二(下の写真)は、原告機械一八のプラント操作盤の写真、甲第六八号証の三は原告機械一八の横振動装置の写真、甲第六八号証の四は原告機械一八のリターンコンベアー及び加熱装置の写真であることが、甲第六八号証の七は原告機械一八のチェーンコンベアー及びタッピングマシーンの見積図、甲第六八号証の八は原告機械一八の横振動装置の見積図、甲第六八号証の九は原告機械一八のコージネーター(モールド自動供給装置)の見積図、甲第六八号証の一〇は原告機械一八のリターンコンベアー及びモールド加熱装置の見積図であることが認められる。
他方、成立に争いのない甲第七号証の四七、書込み部分を除いて成立に争いがなく、弁論の全趣旨によって書込部分は原告の担当者が記入したものと認められる甲第六八号証の五、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第六八号証の六によれば、甲第七号証の四七、甲第六八号証の五は被告機械一八のプラント操作盤及び横振動装置等の写真であることが、甲第六八号証の六は被告機械一八のリターンコンベアー及び加熱装置の写真であることが認められる。
右によれば、プラント操作盤及びリターンコンベアー、加熱装置はその外形が類似していることが認められる(横振動装置については被告機械一八の写真が遠景であるため対比できない。)。しかしながら、右外形の対比のみからは、被告機械一八が原告機械一八のノウハウを侵害して製造されたものであると言うことはできず、前記七機種についての対比の結果及び前記二に認定した事実を加えてもノウハウ侵害の事実を肯定することはできない。
20 原告機械一九について
(一) 機械の概要
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第六九号証の一ないし九、一一及び前記甲第六八号証の五によれば、原告機械一九は原告機械一八のプラントのうちクーリングトンネルに替えて竪型クーラー(バーティカルクーラー)を設置し、更にディモルダーを新たに設置したものであることが認められる。
(二) ノウハウ
(1) 竪型クーラー
ア 竪型クーラー構造
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一〇一号証の一、甲第一二九号証の一によれば、右書証のうち前者は原告機械一九の竪型クーラー組立図であり、昭和五三年四月二八日に作成されたものであること、後者はDC四〇〇デポジッタープラントの竪型クーラー組立図であり、昭和五八年七月一日に作成されたことが認められる。
右前者の図面に後者の図面を参照すれば、コンベアによって運ばれてきたモールドは水平方向に多数、上下に間隔を置いて積み重ねられたレールの上に乗せられる。各レールは順次上昇し、最上部まできたモールドは横へ押し出され、隣の同じく積み重ねられたレールの最上部に乗せられる。その後、レールは順次降下し、最下部でコンベア方向へ押し出され次の工程へ運ばれる。このようにモールドが上昇、下降する間に冷却される構造となっている。
イ レール駆動装置
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一二九号証の二によれば、同書証はDC四〇〇デポジッタープラントの竪型クーラーの組立図であり、昭和五八年七月一日に作成されたことが認められる。
右図面にはレール上昇側の駆動装置が描かれている。下部に設置されたモーターとベルトによって接続された上部ギヤーボックスの回転板が回転させられる。回転板によってレールを乗せる片側の突出具が順次上昇し、更に回転板を通過すると下降して循環回転する。上部ギヤーボックスは連結軸によって他方の側の上部ギヤーボックスに連結され、同ギヤーボックスの回転板が同様、レールを乗せる他方の側の突出具を回転させ順次上昇、下降させる。これによって、両側の突出具に乗せられたレール(平板)が順次上昇する構造となっている。
しかし、被告中宿が原告を退職するより前の原告機械一九のレール駆動装置の構造を認めるに足りる証拠はない。
ウ 冷風の循環装置
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一二九号証の三によれば、同書証は原告機械一九の竪型クーラーの冷風循環改造図であり、昭和五五年一一月四日に作成されたことが認められる。
右図面によれば、竪型クーラーは縦方向に区切られ、前方にモールドがレールに乗せられて上方へ、あるいは下方へ送られる部屋が、後方の部屋には冷却器が設けられている。冷却器によって冷却された空気は、上段に八個、下段に六個取り付けられた送風機によってレールの上のモールドの上下を吹き抜ける構造となっている。
しかし、被告中宿が原告を退職するより前の原告機械一九の冷風循環装置の構造を認めるに足りる証拠はない。
エ 安全装置
この点については、その構造を認めるに足りる証拠がない。
(2) ディモルダー
ア スタッカー
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一二九号証の四によれば、同書証は原告機械一九のディモルダーのスタッカーの図面であり、昭和五三年六月一日に作成されたことが認められる。
右図面によれば、エアーシリンダーによりアームが水平方向に移動し、アームに取り付けられた取り板を落とすための枠が水平方向に移動することによって取り板が落とされる構造となっている。
イ 第一反転装置
この点については、これを認めるに足りる証拠がない。
ウ ハンマー装置
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一二九号証の五によれば、同図面は原告機械一九のディモルダーのハンマー部組立図であり、昭和五四年五月一四日に作成されたことが認められる。
右図面によれば、垂直方向のロッドにハンマーの保持部が取り付けられ、ハンマー保持部からは水平方向にスプリング付きの柄が二本突出し、それぞれの柄の先端に二枚の厚目の円盤をボルト、ナットで接合した型のハンマー部分が二個取り付けられている。ロッドが垂直方向に上下動すると、ハンマーが上下動してその下部に置かれたモールドの底を叩き、モールド内のチョコレートがその下の取り板の上に落ちる構造となっている。
エ 第二反転装置
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一二九号証の六によれば、同書証は原告機械一九のディモルダーの第二反転装置の図面であり、昭和六三年三月一二日に作成されたことが認められる。右図面によれば、空になったモールドを反転させるための反転軸三本のうち一番上の反転軸には瓢箪形に近く中心の円形穴の上下に湾曲した細長い楕円形の穴が設けられた空モールド持上げ運動用カムが設けられていることが認められる。
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一二九号証の七によれば、同書証は原告機械一九のディモルダーのモールド反転用特殊歯形ギヤーの図面であり、昭和六三年三月一四日に作成されたことが認められる。右図面によれば、右ギヤーは第一反転用のものか第二反転用のものかは必ずしも明らかではないが、左側の駆動側歯車は半円形部分と五つの歯が設けられた部分とを接続した形であり、右側の従同側歯車は楕円形状の中心部分から上下四個ずつの歯が突出し、左右には盃形に近い形で駆動軸との摺動接触部分が凹んだように緩やかに湾曲した歯が突出した形である。駆動側、従動側とも歯車の形は極めて特殊である。
しかし、被告中宿が原告を退職するより前の原告機械一九の第二反転装置の構造を認めるに足りる証拠はない。
オ 各装置連動用ギヤー、リターンコンベアーの返却タイミング調整これらの点については、これを認めるに足りる証拠がない。
(3) 以上のうち、その存在を認定できる竪型クーラー構造、スタッカー、ハンマー装置について、それらがノウハウと言えるか否かについて検討する。
被告らは竪型クーラーは周知の機械であるとして、乙第四〇号証の一、二、五、六、一二、乙第四一号証を引用する。確かに、右のうち乙第四〇号証の五、六及び乙第四一号証には竪型クーラーの内部構造が示され、それによれば、原告機械一九の竪型クーラーの内部構造に類似していることが認められる。しかしながら、右書証はその体裁からみて外国会社の機械の設計図であると認められ、それに記載された事項を周知あるいは公知技術として原告機械一九の対応する技術がノウハウと言えないとすることはできない。また、被告らは、スタッカー、ハンマー装置は公知の技術であるとして乙第四〇号証の一、七、九、一二を引用する。しかし、右各図面は大部分が概略図であって、そこから原告図面のような内部の詳細を知ることができない。
以上によれば、原告機械の右各装置は、産業上利用できる技術的思想の創作を実施するのに必要な具体的技術的知識であって、原告が秘密としていたもので、公然知られたものでないと認められるから原告のノウハウと言うことができる。
(三) ノウハウ侵害
前記甲第六九号証の一一によれば、同書証は原告が株式会社メリーチョコレートカムパニー宛てに提出した原告機械一九の見積図であり、昭和五六年二月九日に作成されたことが認められる(なお、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二九号証、甲第三九号証も原告機械一九の見積図と認められる。)。
書込み部分を除いて成立に争いがなく弁論の全趣旨により書込み部分については曽山貢作成と認められる甲第六九号証の一〇(弁論の全趣旨により成立の認められる乙第一一号証は甲第六九号証の一〇に書込みがされる前のものと同一図面である)によれば、右書証は被告機械一九のプラント計画図であり、昭和五六年二月二七日に作成されたことが認められる。
右両図面を対比すると、プラントを構成する機械の間隔の寸法に同一の箇所が多く見られる。しかしながら、それが同一であることは被告機械一九が原告機械一九のノウハウを侵害して製造されたことと直ちに結びつくものではなく、前記七機種についての設計図の対比の結果及び前記二に認定の事実を総合しても、被告らが原告機械一九の設計図に化体されたノウハウを侵害したものと認めることはできない。
21 原告機械二〇について
(一) 機械の概要
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第七〇号証の二によれば、原告機械二〇は板チョコレートの多品種少量生産に適した小型のチョコレートデポジッターであることが認められる。
(二) ノウハウ
(1) 充填量の調節
弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる甲第一三〇号証の一によれば、同書証は原告機械二〇のモールドとデポジッターノズルの図面に説明を記入したものであり、図面は昭和四八年八月九日に作成されたことが認められる。
右図面によれば、原告機械二〇にはチョコレート吐出口が六個設けられ、そのそれぞれにチョコレート量調節コックが付いていて、一度に多くの充填が可能であるとともに、各吐出口のチョコレート吐出量を調節できるようになっている。
但し、吸引、吐出切替えバルブについては、後記甲第一三〇号証の二に円筒バルブの記載はあるが、これが吸引、吐出切替えバルブにあたるものであるか否か明らかでなく、他にこれを認めるに足りる証拠がない。
(2) ホッパー内のチョコレート撹拌羽
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一〇二号証の一、甲第一三〇号証の二及び弁論の全趣旨によれば、前者は原告機械二〇の組立図であり、昭和三三年一月二四日に作成されたこと、後者は前者の図面に説明用の記入をしたものであることが認められる。
右図面によれば、原告機械二〇のホッパー内には、中心軸の片側に水平方向に伸びた羽根二本、他方の側にホッパーの側面に沿って斜めに伸びた部分と、同部分を支持し中心軸に連結する上下二本の支持部材とからでなる羽根一本が設けられ、これが軸の回転とともに回転することによってホッパー内のチョコレートがぼたついたり、ホッパー内で結晶同士が付着することを防ぐ構造になっている。
(3) ピストンストローク調節金具
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一三〇号証の三及び弁論の全趣旨によれば、同書証は原告機械二〇の溝カム付歯車軸部組立図であり、昭和三三年二月三日に作成されたこと、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一〇二号証の二によれば、同書証は原告機械二〇のピストン部組立図であることが認められる。
右各図面によれば、原告機械二〇の溝カム付歯車の軸部先端にはピストンストローク調整金具と称されるものが付されていることが認められるが、同図面と前記甲第一三〇号証の二の図面とを総合すると、右ピストン調整金具の調整によってピストン運動量を調整できる機構となっていることが認められる。
(4) 温水ジャケット方式
前記甲第一〇二号証の一、二、甲第一三〇号証の二及び弁論の全趣旨によれば、原告機械二〇のホッパーの内壁と外壁との間は保温用ジャケットとされ、給水口から給水された水が湯沸ヒーターにより温められ、ホッパー内部のチョコレートを保温できるようになっており、ピストン部の周囲も温水ジャケットとなっていることが認められる。
(5) 以上の各点が原告機械二〇のノウハウと言えるか否かについて判断するに、以上の点は産業上利用できる技術的思想の創作を実施するための具体的技術的知識であって、原告が秘密としているものと認められるから、原告のノウハウと言える。
(三) ノウハウ侵害
前記甲第七〇号証の二、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三四号証、甲第七〇号証の一、四によれば、同号証の一は原告機械一の外形写真、同号証の二及び甲第三四号証は同機械のパンフレット(原告機械二〇の外形写真及び構造説明図が記載されている。)、甲第七〇号証の四は同機械の外形見積図であることが認められる。
成立に争いのない甲第七号証の二六、二七(弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる甲第七〇号証の三は両写真を複写したもの)は、被告機械二〇の外形写真である。
右書証により、両機械の外形を対比すると、ホッパーの外形は似ているものの、ノズル部分の形状、ホッパーへの給水口の形状、プーリーの形状、モーターの位置、基台の形状、操作盤の形状等がそれぞれ相当異なっていることが認められる。
以上の点と被告機械の内部構造についてはこれを明らかにする証拠がないことから、原告機械二〇について、被告らがその設計図を原告に無断で複写し、そこに化体されたノウハウを使用して被告機械二〇を製造、販売したものと認めることはできない。
22 原告機械二一Aについて
(一) 機械の概要
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第七一号証の一によれば、原告機械二一Aは、ビスケット、クッキー等の菓子の表面にチョコレートをコーティング(被覆)する機械であることが認められる。
(二) ノウハウ
(1) 内蔵テンパリング装置
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一〇三号証の一、甲第一三一号証の一によれば、前者は原告機械二一A(OE六〇〇)の総組立図であり、昭和四五年九月五日に作成されたこと、後者は前者に説明を記入したものであることが認められる。
右図面及び前記甲第七一号証の一によれば、原告機械二一Aにはテンパリング装置が内蔵されていることが認められる。
(2) 仕切装置
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一三一号証の二によれば、同書証は原告機械二一A(OE六〇〇)のタンク(裏面側)図であり、昭和四五年七月一一日に作成されたことが認められる。右図面及び前記甲第七一号証の一によれば、原告機械二一Aのリヒートタンクには仕切板と呼ばれる板が設置されていることが認められる。
(3) 循環用ベーンポンプ
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一三一号証の三によれば、同書証は原告機械二一A(OE六〇〇)のチョコレート循環用ベーンポンプ部の図面であり、昭和四五年五月二七日に作成されたことが認められる。
右図面によれば、円筒状の内部空間を有するポンプケーシング内に運ばれたチョコレートは、ローターによって回転させられる十字形のベーン(羽根)によって上部の管へ吐出される構造となっていることが認められる。
ベーンポンプの取付位置は証拠上明らかでない。
(4) ボトミングロール等
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一三一号証の四によれば、同書証は原告機械二一A(OE六〇〇)のボトミング装置図であり、昭和五六年五月一八日に作成されたことが認められる。
右図面及び前記甲第七一号証の一によれば、原告機械二一Aにおいては、ワイヤーベルトの下部にはボトミング用レシービングタンクが設けられ、そのタンクに貯蔵されたチョコレートがボトミングロールによつて巻き上げられ、スクレーパーにより掻き取られてワイヤーネット上に達し芯菓子底部の被覆ができる構造となっていることが認められる。また、ボトミングロールで巻き上げられるチョコレートの量を調整するための調整板がボトミングロールに接して設けられている。
(5) フローパン部
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一三一号証の五によれば、同号証は原告機械二一A(OE六〇〇)のフローパン部の図面であり、昭和五六年五月一三日に作成されたことが認められる。
右図面及び前記甲第七一号証の一によれば、フローパンはワイヤーベルトに乗せられた芯菓子の上からチョコレートをカーテン状に垂らして被覆するための装置であり、フローパン内のチョコレートはフローパン内で揺動する二本の撹拌翼により撹拌されること、フローパンのチョコレート放出口は二股に分かれており、チョコレートが二列の幕状になって降り注がれる構造となっている。
(6) エアチャンバー部
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一三一号証の六によれば、同号証は原告機械二一A(OE六〇〇)のプレートファン用サクションチャンバーの図面であり、昭和四五年六月二五日に作成されたことが認められる。
右図面によれば、原告機械二一Aの送風機のエアチャンバー部においては、機械内部及び外気からの取入れ空気量を調整するための調節板がそれぞれ下部及び上部に設けられていることが認められる。
(7) 温熱ヒーター
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一〇三号証の二、甲第一三一号証の七、甲第一〇三号証の三、五によれば、同書証のうち前二者は原告機械二一A(OE六〇〇)の出口側先端ロール部組立図であり、昭和四五年六月一三日に作成されたこと(甲第一三一号証の七は、それに説明が記入されたものである。)、甲第一〇三号証の三は原告機械二一A(OE八〇〇)の出口側先端ロール部組立図であり、昭和四七年三月六日に作成されたこと、甲第一〇三号証の五は原告機械二一A(OE一二〇〇)の入口側及び出口側先端ロール部図であり、昭和四三年一月一七日に作成されたことが認められる。各図面のうちOE六〇〇とOE八〇〇の図面は同一部分の図面であり、断面図における左右の向きの違い、細部の寸法に若干の相違はあるものの、構造及び大部分の寸法、形状は同一の図面である。
右各書証及び前記甲第一三一号証の四によれば、原告機械二一Aのボトムパン部及び出口先端ロール部には温熱ヒーターが設けられている。
なお、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第三五号証によれば、原告製OE九〇〇エンローバーのボトムパン部分にも温熱ヒーターが設けられていることが認められる。
(8) ディテリングロール
前記甲第一〇三号証の二、甲第一三一号証の七によれば、原告機械二一Aにはディテリングロールが設けられ、被覆され、搬送される際に被覆されたチョコレートの一部が後方に引っ張られた結果生じるチョコレートの尻尾切りをすることが認められる。
(9) 右各点が原告機械二一Aのノウハウと言えるか否かについて検討する。
被告らは、テンパリング装置が公知の技術であったとして、乙第四三号証の二を提出している。同書証は「CONFECTIONARY PRODUCTION」と題する雑誌の昭和四二年二月号中の記事であり、その中のエンローバーの図面にはエンローバー本体内に「tempering tube」が図示されていて、テンパリング装置が設けられているものと認められる。したがって、テンパリング装置を内蔵すること自体を原告機械二一Aのノウハウと認めるのは相当でない。
右乙第四三号証の二のエンローバーではオーバーフロー方式が採用されているものと認められるが、そこから仕切板の存在を認めることはできない。
弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる乙第四三号証の三の「機械の素」と題する書物(昭和六年一一月第六版発行)には、ベーンポンプと類似形状のポンプが示されているが、この書物をもってエンローバーにおいてベーンポンプを使用することが公知の技術であったと認めることはできない。乙第四三号証の四のILLIES社のクロイターエンローバーのパンフレットにはベーンポンプらしきものが図示されているが、ベーンポンプであることが明確であるとは言えないし、その作成年月日も明らかでない。
乙第四三号証の五のKREUTER社のコーティングマシーンのパンフレットにはボトミングロールと見られるものが描かれているが、これまたその作成年月日、配布対象は明らかでなく、また調整板については記載がない。
乙第四三号証の一の「CONFECTIONARY PRODUCTION」と題する雑誌昭和四〇年一一月号にはエンローバーについてフローパンの記載があり、前記乙第四三号証の五にはフローパンから二股にチョコレートが分かれて放出される構造と思われる図が示されているが、前者、後者とも撹拌翼については示されていないし、二股のチョコレート放出機構が示されている後者についてはその作成年月日、配布対象が明らかでない。
乙第四三号証の六(sollich社のパンフレット)、同号証の七(昭和五八年にドイツで発行された図書)には、ディテリングロールが図示されているが、前者についてはその作成時期、配布対象が明らかでなく、後者も被告中宿の原告退職時以後に発行された外国の図書であって、それらによって原告のノウハウを否定することはできない。
以上によれば、原告の主張するノウハウのうち、テンパリング装置の内蔵の点を除いては、産業上利用できる技術的思想の創作を実施するための具体的技術的知識であって、原告が秘密にしているもので、公知ではないと認められるから原告のノウハウと言うことができる。
(三) ノウハウ侵害
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第七一号証の三ないし七によれば、同号証の三は原告機械二一A(OE一〇〇〇)の外形写真、同号証の四は原告機械二一A(OE一二〇〇)の外形写真、同号証の五は原告機械二一A(OE八〇〇)の外形写真、同号証の六は原告機械二一A(OE八〇〇)の外形見積図、同号証の七は原告機械二一A(OE一〇〇〇)の外形見積図である。
成立に争いのない甲第七号証の二二、一八はそれぞれ被告機械二一A(TSE八〇〇)、被告機械二一A(TSE一〇〇〇)の外形写真である。
右両者を対比すると、外形の類似性は認められるものの、被告機械二一Aの写真からは、その細部の詳細まで把握することはできず、前記七機種についての設計図の対比、前記二に認定した事実を考慮しても、被告らが原告機械二一Aについての原告のノウハウを侵害したものと認めることはできない。
23 原告機械二一Bについて
(一) 機械の概要
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一〇三号証の六、前記甲第一〇三号証の一、甲第一三一号証の一によれば、原告機械二一Bは、オートテンパーを内蔵しないエンローバーであることが認められる。
(二) ノウハウ
(1) ボトミングロール方式
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一〇三号証の七によれば、同書証は原告機械二一Bのボトミングロール部組立図であり、昭和四八年三月一二日に作成されたことが認められる。
右図面によれば、原告機械二一Bにおいては、ワイヤーベルトの下部にはタンクが設けられ、そのタンクに貯蔵されたチョコレートがボトミングロールによって巻き上げられ、スクレーパーにより掻き取られてワイヤーネット上に達し芯菓子底部の被覆ができる構造となっていることが認められる。
右構造は、産業上利用できる技術的思想の創作を実施するための具体的、技術的知識であって、原告が秘密にしているもので、公知技術ではないから、原告のノウハウと認められる。
(2) その他
原告が主張するその他のノウハウについては、これを認めるに足りる証拠がない。
(三) ノウハウ侵害
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第八号証の一八(甲第七三号証の一はその写し)、甲第八号証の一九(甲第七三号証の二はその写し)によれば、右書証は原告機械二一B(OEP六〇〇)の外形写真であることが認められる。
成立に争いのない甲第七号証の二四、二五(甲第七三号証の三はその写し)によれば、右書証は被告機械二一B(TSE三〇〇)の外形写真であることが認められる。
右両写真を対比すると上部パイプの位置、形状に類似点はあるものの、この写真の対比によって、被告らが原告機械二一Bの設計図を無断で使用して原告のノウハウを侵害したものと認めることはできない。
また、原告は、原告機械二一Aの設計図と原告機械二一Bの設計図が基本的に同一であることを前提として、原告機械二一A(OE六〇〇)の総組立図と被告機械二一Bの総組立図とを対比しているが、右前提自体を認めるに足りる証拠がないので、右対比をもって原告機械二一Bについて被告らのノウハウ侵害を認めることはできないし、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
24 原告機械二二について
(一) 機械の概要
原告機械二二がエンローバー本体により被覆されたチョコレート、芯菓子をクーリングトンネルを通過させて冷却固化して搬送するプラントであることは当事者間に争いがない。
前記甲第七一号証の一、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一〇四号証によれば、原告機械二二は、エンローバー本体(原告機械二一A)のほか、被覆したチョコレート菓子を冷却するためのクーリングトンネル及び被覆したチョコレート菓子を乗せてクーリングトンネル内を通過させるためのクーリングコンベアー等から構成されていることが認められる。
(二) ノウハウ
エンローバー本体についてのノウハウは前記22(二)のとおりである。
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第七四号証の一、甲第九八号証の二によれば、原告機械二二のクーリング装置においては、クーリングトンネル内において、コンベアーベルトの上下それぞれ独立に冷風が循環する構造となっていること、かつ、冷風はトンネルの中央部から入口、出口の両端部へ向けて流れる構造となっていること、これらの構造により過剰冷却を防ぎ、かつ、製品出入口部での製品の急冷、製品への結露を防ぐことが可能となっていることが認められる。なお、弁論の全趣旨によって真正に成立したものと認められる甲第七四号証の三のプラント図には蛇行修正装置の名称が見られるが、右図面からはその具体的内容を知ることができない。
被告らは乙第四四号証の各文献等によって、各装置の構成は公知であったと主張するが、それらを見ても、機械の構造の概略が示されているのみであって、しかもその概略自体も前記原告機械二二のクーリング装置の構造と同一内容を開示したものは見当たらない。
そうすると、エンローバー本体の構造は前記22(二)の限度でノウハウと言えるほか、右クーリング装置の構造は、産業上利用できる技術的思想の創作を実施するための具体的、技術的知識であって、原告が設計図に表現されるその詳細を秘密にしているもので、公知ではないから、原告のノウハウと認めることができる。
(三) ノウハウ侵害
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第七四号証の二は原告機械二二の部分的な外形写真であり、前記甲第七一号証の一にも原告機械二二の外形写真が掲載されている。前記甲第七四号証の三は原告機械二二の見積図である。
しかしながら、これと対比すべき被告機械二二の設計図、見積図、外形写真等は証拠として提出されておらず、前記七機種についての設計図の対比、前記二に認定の事実を考慮しても、被告らによる原告機械二二についての原告のノウハウ侵害を認めることはできない。
25 原告機械二三について
(一) 機械の概要
原告機械二三が、チョコレートフレークを溶解し、これらをバター、レシチン等のチョコレート原料とミキシングする機械であることは当事者間に争いがない。
(二) ノウハウ
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一〇五号証、甲第一三三号証によれば、前者は原告機械二三の総組立図であり、昭和三九年六月二九日に作成されたこと、後者は前者に説明を記入したものであることが認められる。
右図面によれば、原告機械二三の内部には側面図においてX字形の左上頂部と左下先端部、右上頂部と右下先端部をそれぞれ長方形の細長い形状の翼でつないだ撹拌翼が左右に二個取り付けられていることが認められる。
被告らは右撹拌翼は公知の技術である旨主張し、乙第四五号証の一ないし四を提出しているが、右書証に示されている撹拌翼の形状はいずれも原告機械二三の撹拌翼の形状とは異なっており、被告らの主張には理由がない。
以上によれば、原告機械二三の設計図に示される撹拌翼の構造は、産業上利用できる技術的思想の創作を実施するための具体的、技術的知識であって、原告が秘密にしているもので、公知ではないから、原告のノウハウと認められる。
(三) ノウハウ侵害
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第八号証の一一(甲第七五号証の一の上の写真はその写しである。)は原告機械二三の外形写真であり、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第七五号証の二、三は原告機械二三の見積図である。
成立に争いのない甲第七号証の一五(甲第七五号証の一の下の写真はその写しである。)は被告機械二三の外形写真である。
右両者を対比すると、被告機械二三の外形は原告機械二三の外形に類似していることが認められるが、その外形からは原告のノウハウについて被告らが侵害したものか否かを判断することができず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
26 原告機械二四について
(一) 機械の概要
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第七六号証の一によれば、原告機械二四はミキサーなどの高所に粉体を投入するため、スクリューコンベアーを取り付けた粉フルイ機であることが認められる。
(二) ノウハウ
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一〇六号証の一、二、甲第一三四号証によれば、右書証のうち甲第一三四号証は原告機械二四の全体の構造図であり、昭和四一年一一月七日に作成されたものに説明を記入したものであること、甲第一〇六号証の一は原告機械二四のスクリーン図であり、昭和四〇年一二月九日に作成されたこと、甲第一〇六号証の二は原告機械二四のスクリュー図であり、昭和四一年七月二二日に作成されたこと(但し、同図面中には「廃図H3.10.18渡辺」との記載があり、図面全体に×印が記載されている。)が認められる。
右各図面及び前記甲第七六号証の一によれば、原告機械二四はホッパー内に供給された粉を、ホッパー内のプロペラで垂直方向に設けられたシリンダー内のスクリューコンベアの下部へ送り込み、シリンダー内を通るスクリューで上部のシフティングドラムまで持ち上げ、高速回転ドラムの遠心力によりドラム内に設けられたスクリーンで粉をふるって、これをシユートを通じて落下させる構造であることが認められる。
右設計図に示された原告機械二四の構造は、産業上利用できる技術的思想の創作を実施するための具体的、技術的知識であって、原告が秘密にしているもので、公知ではないから、原告のノウハウと認められる。
(三) ノウハウ侵害
前記甲第七六号証の一には原告機械二四の外形写真が掲載されている。成立に争いのない甲第七号証の二〇(甲第七六号証の二はその写しである。)は、原告が被告機械二四の写真であると主張するものである。
両者を対比すると、外形に類似点は認められるものの、それをもって原告が右ノウハウと主張する部分が類似しているか否かを判断することはできないし、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
四 著作権侵害
各原告機械の各設計図は、原告機械の製造を行う原告の工場担当者が、設計者の意図したとおりに原告機械を製造することができるよう、具体的な原告機械の構造を細部にわたって通常の製図法によって表現したものである。工業製品の設計図は、そのための基本的訓練を受けたものであれば、誰でも理解できる共通のルールに従って表現されているのが通常であり、その表現方法そのものに独創性を見出す余地はなく、原告機械の設計図もそのような通常の設計図であり、その表現方法に独創性、創作性は認められない。設計図から読みとることのできる原告機械の具体的構造は、設計図との関係でいえば表現の対象である技術思想であり、その具体的な技術思想を設計図として通常の方法で表そうとすると、各設計図上に現に表現されている直線、曲線等からなる図形、補助線、寸法、数値、材質等の注記と大同小異のものにならざるを得ないのであって、各設計図上に現に表現されている直線、曲線等からなる図形、補助線、寸法、数値、材質等の注記等は、表現の対象の技術思想である原告機械の具体的構造と不可分のものである。各設計図の右のような性質と、設計図に表現された原告機械の実物そのものは、技術思想を具現したものとはいえ、工場生産される産業用機械であって、著作物とはいえないことを考え合わせると、各設計図を著作物と認めることはできない。
各設計図を著作物と認めることができない以上、原告の複製権、変形権、翻案権の侵害を理由とする請求は、いずれも理由がない。
しかも、前記三のとおり原告機械についてのノウハウ侵害が認められる原告機械一ないし七、九ないし一三を除くその余の機械については、原告機械の設計図はその一部が提出されているものの、被告機械についてはその設計図が提出されていないので、その対比を行なうことができない。
よって、右その余の機械についての被告らによる原告機械の設計図の複製、変形、翻案による著作権侵害は、この点からも認めることができない。
五 承諾の抗弁について
1 前記甲第一一三号証、乙第二七号証並びに原告及び被告各代表者尋問の結果によれば、次の事実が認められる。
(一) 被告代表者は、昭和五二年から昭和五七年にかけて、東京糧食機工業協同組合(旧称東京都糧食機工業協同組合)の専務理事を務めていた。同組合は東京都を中心とした食品機器製造関係の中小企業三〇数社で構成され、主な活動として、機械の展示会を行ったり、講師を招いて講演会を行なったりしている。同組合においては、理事会社のみが参加して開催される月一回の例会と組合員全員が参加して年一回開催される総会とがある。
(二) 原告も右組合に加入しており、原告代表者であった長喜久松は、昭和四六年五月から昭和四九年五月まで、同組合の理事長を務めた。しかし、長喜久松は、他方、日本食品機械工業会の副会長も務め多忙であったこともあって、原告は、昭和四九年、一旦同組合を脱退し、昭和五三年一一月に再加入した。この間、長喜久松は、昭和五一年八月には右工業会の会長となったが、足を骨折したり余病を併発したりして職務の遂行が困難となり、八〇歳という高齢もあって、任期途中の昭和五二年五月には右会長の職を辞した。
原告が前記組合に再加入した昭和五三年一一月頃は、長喜久松は、自宅で療養しつつ入退院を繰り返すような状況であり、原告の経営には当時専務取締役であった現在の原告代表者の兄である長宏久があたっていた。
(三) 右のとおり、長喜久松が病床にあったため、原告においては、前記組合の理事会には、長宏久又は総務部長であった赤塚耕造(以下「赤塚」という。)が出席していた。昭和五五年当初、赤塚は取締役ではなく、同人が取締役に就任したのは、被告中宿が退職した直後の昭和五五年五月二七日のことであった。長喜久松は昭和五六年九月に死亡するまで代表取締役の地位にあり、その後、昭和五六年九月一六日に長宏久が代表取締役に就任した。
(四) 被告中宿は昭和五四年一〇月原告を定年退職し、原告の慣例に従い嘱託となったが、給料が下がったことを不満に思い、赤塚に再就職先の斡旋を依頼した。赤塚は中宿に同情し、某社を紹介したが条件が合わず、当時の被告会社の谷沢秀夫社長に被告中宿の再就職を依頼し、上野の喫茶店で二回位、被告中宿を谷沢社長に引き合わせた。その結果、被告中宿は被告会社に採用された。
2 被告代表者の陳述書である乙第二七号証には、「昭和五五年三月の例会の際に赤塚氏より、長社長の意向として、うちの会社の中宿は定年退職になるが、良い会社に再就職させたい。ついては、おたくの会社で採用してもらえないかとの要請を受けました。赤塚氏は、中宿氏について、オサ機械に二〇年以上も勤めており、オサ機械の設計は全て同人が担当し、チョコレート機械のすべてについて堪能で、優れた人材である。必ず谷沢さんの会社の役に立つ人であるとの説明をするとともに、現在オサ機械は受注が多く、納入が間に合わない状態で、予定の注文を受けた後は断わっている。もし、谷沢さんが中宿を雇ってくれれば、残った注文を受けて頂いても良い。中宿の力からすれば、採用されれば採用された際の人件費位にはなると思う。この話はオサ機械の社長、専務も承知しているので心配無いということを述べておりました。」旨の記載があり、同人の尋問においても同趣旨の供述をしている。
右1(四)認定のとおり、赤塚は被告代表者に対し、被告中宿の被告会社への再就職を依頼し、二回にわたり被告中宿を被告会社代表者に引き合わせたものであり、それまで特段の親密な関係があつたものとは認められない被告会社に対し、チョコレート製造機械の設計関係の業務を長年行ってきた被告中宿を紹介する以上、被告会社がチョコレート製造機械の分野に進出することを容認する発言を赤塚がした可能性がある。
しかし、仮にそのような発言があったとしても、それが原告代表者の了解の下に行われたことを認めるに足りる証拠はないのみか、赤塚の発言の趣旨は、せいぜい、被告中宿が身に付けた、チョコレート製造機械についての一般知識あるいは原告の顧客の担当者との面識を活用することの容認の趣旨に止まるもので、原告機械の設計図の写しの持ち出しや、原告機械に関するノウハウの提供、原告機械の模倣品の製造を許諾する趣旨でないことは健全な常識を有する経営者であれば理解することができて当然のことである。
被告らの前記認定のようなノウハウの侵害行為について原告の承諾があったことは認めることができない。
六 損害
前記認定のノウハウ侵害は、被告らの故意による共同不法行為であるから、被告らは共同不法行為者として、原告の受けた損害を賠償する義務がある。
1 損害の算定方法
原告は、逸失利益の算出方法として、現在我が国において本件対象機械を製造、販売しているのは原告と被告会社の二社しかないので、被告会社が被告機械を一台製造、販売するごとに原告の対応する機械が売れなくなるという関係にあり、それによって原告が失った利益を原告の損害と主張するので、以下、この点について検討する。
成立に争いのない乙第一二号証及び原告、被告会社各代表者尋問の結果によれば、チョコレート製造用機械については、外国には有力な製造業者があるものの、国内においては数社がある程度であり、しかも、前記違法行為と認定した被告機械一ないし七、九ないし一三の機械については、昭和五五年頃、原告が市場を独占している状況であったこと、そして、現在では、原告と被告会社が市場を分けあっていることが認められる。
そうすると、原告が主張するとおり、右各機械に関する限り、被告機械が販売されるとそれに対応する原告機械が売れなくなる関係にあることが認められる。
もっとも、被告会社は被告中宿の入社により、昭和五五年夏頃からチョコレート製造用機械の製造、販売を開始したものであり、違法行為を行なうことなく被告中宿の知識、経験を利用して独自にチョコレート製造用機械の開発を行い、その製造、販売を開始したとしても、年月をかけて徐々に被告機械の販売シェアーを拡大し、原告機械と対抗し得るようになった可能性もあると考えられるから、その意味で長期間にわたって被告機械の売上分は全て原告機械の売上げを奪ったものとして算出し、違法行為との相当因果関係を認めるのが相当かという問題が生じる。しかしながら、現実には被告会社は、一二機種については違法行為によって得たノウハウを利用して製造された本来是認することのできない被告機械を販売しているのであるから、被告会社が正当な販売行為をした場合の仮定に基づいて相当因果関係のある損害の範囲を制限するのは相当でなく、被告会社が違法行為を継続する限り、原告機械の販売による利益が失われたものと認めるのが相当である。よって被告機械に対応する原告機械の売上げによる利益を原告の逸失利益と認めることができる。
同様、利益率についても、被告が参入する前の原告の利益率に変動がないものとして算出するのが相当かという問題が生じるが、この点も同様、被告会社の参入による利益率の減少は考慮しないのが相当である。
右に説示したところによれば、被告機械一ないし七、九ないし一三の売上台数に、これに対応する原告機械一ないし七、九ないし一三の単価を乗じて、原告機械の各機種の逸失売上高を算定し、これに原告の利益率を乗じたものを合計して原告の逸失利益を算定すべきものである。
しかし、右被告機械の各機種に対応する原告機械の価格を認定するに足りる証拠はない。他方、前記甲第一一三号証及び証人曽山貢の証言によれば、被告機械は対応する原告機械より相当に安く価格設定されていたことが認められるから、被告機械の売上高に原告の利益率を乗じて得た額を、原告の逸失利益を内輪に算定した額として認定することができるものである。
2 被告機械の売上高
(一) 前記乙第四六号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第四七号証によれば、別紙機種別売上集計表は被告会社において売上帳を基に売上金額を各機種毎に集計して作成したものであって、その内容は信憑性があるものと認められ、昭和五五年一一月から平成五年一二月までの被告機械の売上高は、別紙機種別売上集計表記載のとおりと認められる。
したがって、前記のとおり違法行為と認められる被告機械一ないし七、九ないし一三の売上高も右機種別売上集計表の各機種の欄記載のとおりであり、その合計は四億五四八三万三〇〇〇円である。
(二) もっとも、被告らは、平成三年一二月一一日付準備書面において、被告機械六については、昭和五八年一〇月頃までに製造、販売したことを認めているのに対し、右集計表では昭和六一年三月まで販売がないことになっており、両者にくい違いがある。しかしながら、右は部分的なくい違いであり、直ちに集計表の信憑性を失わせるものではないと言うべきである。むしろ、その販売額については、昭和六一年四月以後の販売実績として集計されているものと認めるのが相当である。
原告が別紙販売機械一覧表で右被告機械一ないし七、九ないし一三について主張している売上台数と右機種別売上集計表の同機種の売上台数とを比較すると、原告の主張する売上台数は、販売の時期について多少ずれのある部分はあるものの、合計台数として右機種別売上集計表記載の台数を超えるものはなく、右機種別売上集計表の中に含まれているものと認められる。
また、右機種別売上集計表の売上高中、被告機械九については原告主張の売上台数と一致しているが、売上高を四二〇万円下回っており、その余のものについては、原告主張の売上高を上回っている。
したがって、本件訴訟全体の経過をも合わせ考えると、被告機械九の売上高について原告の主張を下回ることを考慮しても、被告会社の開示した別紙機種別売上集計表の開示で充分であり、原告が求めている被告会社の損益計算書、売上台帳等の帳簿類等について文書提出命令の申立ては、被告機械の売上高を明らかにするために求めている部分は、これを採用する必要性が認められない。
他方、原告は被告機械の売上高の推計による損害の主張もしており、その主張する被告機械の売上高は右機種別売上集計表記載の売上高を超えており、右集計表記載の売上高を含む主張をもしているものと認められる。
3 被告機械に対応する原告機械の利益率
成立に争いのない甲第一一九号証の一ないし四によれば、原告の会計年度は四月一日から翌年の三月三一日までであるところ、原告の営業利益率は、昭和五五年度は約一八・四パーセント(72,402,020÷393,403,574)、昭和五六年度は約一二・五パーセント(70,636,744÷563,624,776)、昭和五七年度は約二一・四パーセント(162,113,450÷754,549,395)、昭和五八年度は約八・四パーセント(62,877,068÷740,690,483)であることが認められる。
被告らは被告会社のチョコレート製造用機械部門の昭和五五年一一月から平成五年三月までの営業利益率の推移は、別紙被告会社営業利益率推移表記載のとおりであると主張し、その証拠として成立に争いのない乙第三一号証の一ないし八、前記乙第四六号証を提出している。しかし、右証拠によっても、被告らが右表で主張するチョコ営業利益の額の算出根拠は明らかでなく、したがって、右表によって算出された営業利益率についてもこれを的確に裏付ける資料はない。しかしながら、仮に、被告会社のチョコレート製造用機械部門の営業利益率が被告らの主張のとおりであるとしても、損害額算定の基礎となる営業利益率については次のように考えるべきである。
すなわち、原告の営業利益率と被告会社の主張する営業利益率は相当異なっているが、原告が先発の独占メーカーであって、被告会社が後発の参入会社であったことを考えると、経費等も異なることは自然であり、その意味で、原告の得べかりし利益を算出するには、あくまでも原告の利益率を用いるのが相当である。
原告の昭和五五年度から昭和五八年度までの営業利益率の平均は約一五・二パーセントであり、被告会社の参入が始まる前から始まった直後にかけての昭和五五年度、昭和五六年度の二年度の平均をみても約一五・五パーセントであるから、被告会社の違法行為による参入がなければ、独占的メーカーとして少なくとも一五パーセントの利益率を維持し得たものと考えられる。
4 損害額の算定
右2、3に認定判断したところによれば、原告が被告の違法行為により受けた損害の額は、次の計算式のとおり、六八二二万四九五〇円と認められる。
454,833,000×0.15=68,224,950
5 遅延損害金
(一) 原告は、その請求額のうち訴状で請求した二二九四万六五五〇円については不法行為の後である昭和五八年一二月三〇日から、昭和六〇年七月八日付請求の趣旨拡張申立書で請求を追加した二八〇三万二〇〇〇円については不法行為の後である昭和六〇年七月九日から、平成元年一二月七日付訴え変更の申立書で請求を追加した一億三三五三万二五〇〇円については不法行為の後である平成元年一二月七日から、平成五年一〇月二一日付の請求の趣旨拡張の申立書(第二)で請求を追加した一億円については不法行為の後である平成五年一〇月二三日から、それぞれ支払済みまでの遅延損害金の支払いを求めている。
右のうち、平成五年一〇月二一日付の請求の趣旨拡張の申立書(第二)で請求を追加した一億円を除いては、個別の機械の販売に基づく請求が含まれているから、そこで主張されている損害と別紙機種別売上集計表に基づいて認定した前記損害とについては、その対応関係を明らかにしたうえで、対応するものについて、原告の請求額が認定額を上回る場合は認定額の限度で、原告の請求額が認定額を下回る場合は認定額の限度で遅延損害金算定の基礎とする必要がある。
(二) 訴状での請求分
原告が訴状で請求していた損害にかかる被告機械の販売は別紙販売機械一覧表の請求した書面欄に「訴状」とあるもののとおりであり、これを当裁判所が認定した別紙機種別売上集計表の該当時期と対応させると次のとおりである(当裁判所の認定する原告の利益率と原告の主張する原告の利益率の主張は同一であるので、以下では販売額を比較する。)。
(1) 被告機械一
原告の主張 台数四台、販売額一八七九万円
当裁判所の認定 台数四台、販売額一八五〇万円
当裁判所認定の一八五〇万円の限度で遅延損害金算定の基礎とするのが相当である。
(2) 被告機械二
原告の主張 台数一〇台、販売額五六八九万円
当裁判所の認定 台数一〇台、販売額四五〇〇万円
当裁判所の認定する四五〇〇万円の限度で遅延損害金算定の基礎とするのが相当である。
(3) 被告機械五
原告の主張 台数一一台、販売額七二五万七〇〇〇円
当裁判所の認定 台数一九台、販売額一一八八万円
原告の主張する七二五万七〇〇〇円の限度で遅延損害金算定の基礎とするのが相当である。
(4) 被告機械七
原告の主張 台数五台、販売額二七〇〇万円
当裁判所の認定 台数七台、販売額二六八六万円
当裁判所の認定する二六八六万円の方が額が少ないので、右二六八六万円を遅延損害金算定の基礎とするのが相当である。
(5) 被告機械九
原告の主張 台数二台、販売額一五六〇万円
当裁判所の認定 台数二台、販売額一一四〇万円
当裁判所の認定する一一四〇万円の限度で遅延損害金算定の基礎とするのが相当である。
(6) 被告機械一〇
原告の主張 台数八台、販売額四五六万円
当裁判所の認定 台数一五台、販売額七七〇万円
原告の主張する四五六万円の限度で遅延損害金算定の基礎とするのが相当である。
(7) 被告機械一二
原告の主張 台数七台(TT五〇〇・一台、TT一〇〇〇・二台、TT二〇〇〇・一台、TT三〇〇〇・三台)、販売額二二八八万円
当裁判所の認定 台数一七台(TT五〇〇・七台、TT一〇〇〇・三台、TT二〇〇〇・四台、TT三〇〇〇・四台)、販売額四二五五万円
原告の主張する二二八八万円の限度で遅延損害金算定の基礎とするのが相当である。
(8) 以上を合計すると遅延損害金算定の基礎となる販売額は一億三六四五万七〇〇〇円であり、これに利益率一五パーセントを乗じると、遅延損害金算定の基礎となる損害額は二〇四六万八五五〇円となる。
(三) 昭和六〇年七月八日請求の趣旨拡張の申立書での請求分
原告が右申立書で請求していた損害にかかる被告機械の販売は別紙販売機械一覧表の請求した書面欄に「60・7・8申立書」とあるもののとおりであり、これを当裁判所が認定した別紙機種別売上集計表の該当時期と対応させると次のとおりである。
(1) 被告機械一
これについては、当裁判所認定の昭和五八年九月までの被告機械の売上台数四台は訴状での原告の請求分と対応しているので、右拡張申立書に対応する裁判所の認定額はない。
(2) 被告機械二
原告の主張 台数二台、販売額一一四〇万円
当裁判所の認定 台数三台、販売額一一九〇万円
原告の主張する一一四〇万円の限度で遅延損害金算定の基礎とするのが相当である。
(3) 被告機械三
原告の主張 台数一台、販売額七八〇万円
当裁判所の認定 台数一台、販売額八〇〇万円
原告の主張する七八〇万円の限度で遅延損害金算定の基礎とするのが相当である。
(4) 被告機械五
原告の主張 台数三台、販売額一九五万円
当裁判所の認定 台数四台、販売額二六〇万円
原告の主張する一九五万円の限度で遅延損害金算定の基礎とするのが相当である。
(5) 被告機械六
これについては、当裁判所が対応する時期の被告会社による販売を認定していない。
(6) 被告機械一一
原告の主張 台数一台、販売額一〇八万円
当裁判所の認定 台数一台、販売額五〇万円
当裁判所の認定する五〇万円の限度で遅延損害金算定の基礎とするのが相当である。
(7) 被告機械一三
原告の主張 台数一台、販売額一八四万円
当裁判所の認定 台数一台、販売額一八五万円
原告の主張する一八四万円の限度で遅延損害金算定の基礎とするのが相当である。
(8) 以上を合計すると遅延損害金算定の基礎となる販売額は二三四九万円であり、これに利益率一五パーセントを乗じると、遅延損害金算定の基礎となる損害額は三五二万三五〇〇円となる。
(四) 平成元年一二月七日の訴えの変更申立書による請求分
原告が右申立書で請求していた被告機械の販売は別紙販売機械一覧表の請求した書面欄に「元・12・7申立書」とあるもののとおりであり、これを当裁判所が認定した別紙機種別売上集計表の該当時期と対応させると次のとおりである。
(1) 被告機械四
原告の主張 台数二台、販売額一五一四万円
当裁判所の認定 台数二台、販売額一二五〇万円
当裁判所の認定した一二五〇万円の限度で遅延損害金算定の基礎とするのが相当である。
(2) 被告機械六
原告の主張 台数一台、販売額一六〇万円
当裁判所の認定 台数二台、販売額二七五万円
原告の主張した一六〇万円の限度で遅延損害金算定の基礎とするのが相当である。
(3) 被告機械七
原告の主張 台数一台、販売額五八〇万円
当裁判所の認定 台数一台、販売額四五〇万円
当裁判所の認定する四五〇万円の限度で遅延損害金算定の基礎とするのが相当である。
(4) 被告機械一二(TT六〇〇)
原告の主張 台数一台、販売額三五〇万円
当裁判所の認定 台数一台、販売額二六五万円
当裁判所の認定する二六五万円の限度で遅延損害金算定の基礎とするのが相当である。
(5) 被告機械一三
原告の主張 台数二台、販売額三九〇万円
当裁判所の認定 台数三台、販売額五五三万円
原告の主張する三九〇万円の限度で遅延損害金算定の基礎とするのが相当である。
(6) 以上を合計すると遅延損害金算定の基礎となる販売額は二五一五万円であり、これに利益率一五パーセントを乗じると、遅延損害金算定の基礎となる損害額は三七七万二五〇〇円となる。
(五) 平成元年一二月七日付の訴え変更申立書及び平成五年一〇月二一日付請求の趣旨拡張申立書(第二)においてされた、推計に基づく損害の主張については、当裁判所の採用するところではないが、それによって算出された損害についての遅延損害金の請求については、右(二)ないし(四)四の認定額合計二七七六万四五五〇円を本訴認容額六八二二万四九五〇円から控除した残額四〇四六万〇四〇〇円についての全額が発生した後である平成六年一月一日からの遅延損害金請求を含む趣旨と解することができるから、右額についてはその限度で遅延損害金を認容することとする。
七 消滅時効の抗弁について
1 被告らは、原告が平成元年一二月七日付訴え変更申立書で追加した機械については、同日には既に時効により消滅していると主張する。
しかしながら、被告らの本件違法行為は、被告会社が原告機械のノウハウを侵害した被告機械を製造、販売することによって完成するものであり、損害も後記のとおり、被告機械が販売されることにより生じるものと解される。したがって、原告において被告らの不法行為によって生じた損害を知ったときとは、個々の機械について被告らによる販売行為を知ったときである。
そこで、原告において、右訴え変更申立書で、被告らの行為による損害を主張した機械のうち前記被告らの違法行為を認定できる日新化工株式会社に対する被告機械四の販売、ハンター製菓株式会社に対する被告機械七の販売、モロゾフ株式会社に対する被告機械六及び一二の販売、株式会社梅林機械に対する被告機械一三の販売について、それぞれ原告がその販売を知った時点を検討する。
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一三八号証の二、三によれば、原告代理人は、昭和六三年頃、被告機械の販売状況を把握するため、第一東京弁護士会に対し、被告会社の顧客先と推定される照会先に対する弁護士法二三条の二に基づく照会の申し出をし、これに基づく弁護士会からの照会が行なわれた結果、モロゾフ株式会社は、被告会社から被告機械六及び被告機械一二(TT一六〇〇)をそれぞれ、昭和六一年一一月、昭和六二年一一月に各一台購入した旨回答し、その回答書は、昭和六三年一一月一六日に第一東京弁護士会に到達したこと、同照会に対し、株式会社梅林機械は、被告会社から被告機械一三を二台購入した旨回答し、その回答書は、昭和六三年一一月一一日に第一東京弁護士会に到達したことが認められる。
そうすると、原告が右各機械の両社への販売による損害を知ったのはいずれも昭和六三年一一月以降のことであるから、右訴え変更申立ての時点で消滅時効は完成していない。
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一三九号証によれば、日新化工株式会社に販売された被告機械四については、現在の原告代表者が、昭和六三年、日新化工株式会社船橋工場にかって納入した他の機械の修理のため立ち入った際に、初めて被告機械四が二台納入されているのを現認したものであること、ハンター製菓株式会社に販売された被告機械一については、原告従業員新井信明が、昭和六三年、右ハンター製菓株式会社に販売活動を行なうため赴いた際に、同社から被告機械一の購入を知らされたものであり、このとき初めてその事実を知ったものであることが認められる。そうすると、これらの機械についても、原告が右機械の販売による損害を知ったのは昭和六三年のことであるから、右訴え変更申立ての時点で消滅時効は完成していない。
そうすると、この点について消滅時効を主張する被告らの主張には理由がない。
2 被告らは、各決算期毎に損害が発生するとする原告主張に対し、消滅時効の抗弁を援用しているが、その前提となる原告の請求原因4(二)の損害の主張について、当裁判所の採用するところでないので、この点は判断するまでもない。
しかし、後記のとおり当裁判所の損害の認定は、被告ら提出の機種別売上集計表に基づいて行なうものであり、その際、損害の認定は各決算期毎に行なわれるので、右原告の主張に対する被告らの抗弁と類似の問題を生じるのでこの点について検討する。
原告が請求の拡張で指摘している個々の機械については、消滅時効が成立しないことは前記のとおりであり、それと重複しない右機種別売上集計表記載の機械については、原告は右表の内容が確定的に提出されるまで、その販売の事実を知らなかったものと認められる。そうすると、原告が損害を知ったのは、平成元年一二月七日及び平成五年一〇月二一日の各請求の趣旨拡張の後で、右表の確定的提出時である平成六年九月八日であり、どれだけさかのぼっても、元となった平成六年三月一六日付け被告ら準備書面添付の機種別売上集計表が提出された、平成六年三月一一日より早くはないから、右表に記載された原告が個別的に請求しない損害についての消滅時効も完成していない。
八 不当利得返還請求について
被告会社に対する不当利得返還請求については、前記不法行為に基づく損害賠償請求において損害が認められる限度で原告の損失が認められる関係にあり、選択的請求と認められるので、被告会社に対する不法行為に基づく損害賠償請求が認められる部分については、判断しない。原告の損害賠償請求が認められなかった部分については、原告の損失が認められないので、その請求は理由がない。
第二 乙事件について
一 請求原因1のうち、原告(乙事件被告)が被告(乙事件原告)中宿を警視庁玉川警察署に、設計図の窃盗容疑で告訴したことは当事者間に争いがなく、原告が被告(乙事件原告)会社を告訴したことについては、これを認める証拠がない。被告らは、右告訴が甲事件の訴訟手続においてさえ被告中宿の窃取行為が認められる見込みもない状況で行われた、単に被告らに精神的苦痛及び圧迫を加えることを目的としたいやがらせであって、原告の権利の濫用であると主張するが、前記甲事件について認定、判断したところによれば、原告の告訴には根拠がないわけではなく、むしろ、一般人が他人を告訴するに充分な根拠があったと認められ、したがって、単に被告らに対するいやがらせであるとも認められないので、原告の主張には理由がない。
二 請求原因2のうち、第一回書面及び第二回書面を原告がその得意先に送付したことは原告の認めるところであり、前記のとおり、昭和五五年頃は原告がチョコレート製造機械の国内市場を実質的に独占し、その後、被告会社の参入によって原告と被告会社が市場を分けあっている状態にあるから、原告の得意先は被告会社の得意先と競合しているものと認められる。
1 被告らは、第一回書面における「工業所有権上の財産たる設計図、マニュアル等」の記載が虚偽であると主張する。
(一) しかし、前記認定のとおり、原告機械の設計図は原告機械のノウハウを化体したものであって、ノウハウは広義の工業所有権に属する財産とされていることは当裁判所に顕著である。
(二) 前記甲第一一号証によれば、原告のNAT-オートテンパーについての取扱説明書である「NAT TYPE AUTO-TEMPER SERVICE MANUAL」(以下、「原告説明書一」という。)は、「NAT-六〇〇オート・テンパー外形図」、「型式と標準仕様」、「テンパーリングの目的と其の概要」、「テンパーリング・カーブ」、「機械の特徴と構造の概要」、「据付と配管」、「運転」の各項目及び全体の配管図、配管接続図、給水・冷水・冷却水配管参考図、ポンプ図とから構成されていて、合計二三頁からなること、その内容は、原告機械一及び二の概要や配管の方法、操作方法等について説明したものであって、一部に他人の著書からの抜粋を含むが全体としては作成者の原告機械一及び二ついての思想を創作的に表現したものであることが認められ、原告説明書一は著作物と認めることができる。そして、原告説明書一は、その体裁、内容からみて、原告の発意に基づき原告の従業員がその職務上作成したものであって、原告が原告の著作名義で公表しているものであるから、原告の著作物と認められる。
また、前記甲第一四号証によれば、右書証は「チョコレート製品の出来るまで」と題する書面であり(以下、「原告説明書二」という。)、表紙を除いて一〇頁からなり、一頁目は上部に枠で囲んで「ロマンの香り高く ほほえましい 可愛いい チョコレート製品製造工程と機械」との記載があり、その下にチョコレートの沿革についての説明が記載され、二頁目はチョコレートの製造工程をフローチャートとして一覧できるようにした図表、三頁から九頁途中までは、一次工程と二次工程とに分けてチョコレートの製造に使用される機械の製造工程順の説明、九頁下段から一〇頁にかけてはチョコレートに関する用語の説明がそれぞれ記載されていること、これらの内容は、チョコレートの製造工程及び使用される機械が分かりやすく説明されているもので、この点についての作成者の思想を創作的に表現したものであることが認められるから、原告説明書二は著作物と認めることができる。そして、原告説明書二は、その体裁、内容からみて、原告の発意に基づき原告の従業員がその職務上作成したものであって、原告が原告の著作名義で公表しているものであるから、原告の著作物と認められる。
(三) 厳密な学問上の定義はともかく、専門家ではない一般人が著作権を工業所有権上の財産と称しても、知的財産権一般を指す趣旨で広義に工業所有権の語を用いているものとして誤りとはいえないから、右記載が虚偽であるということはできない。
2(一) 被告らは、甲事件の訴えが提起されただけでは、いかなる状況になっても購入先に対して購入した機械の使用停止、損害賠償請求がされることはないから、その旨の第一回書面の記載は紛らわしい記載であると主張する。
しかしながら、右書面では甲事件の結果についてのみ限定して述べているわけではなく、一般論として、具体的状況によっては被告会社の違法行為を知りながら購入した者が共同不法行為者(七一九条)として損害賠償義務を負うことはないとはいえないから、右記載をもって虚偽であり、第一回書面の送付が違法な行為ということはできない。
(二) 被告らは、第二回書面送付の三か月前に、告訴事件が不起訴処分となっているのに、原告が第二回書面で「現在東京地方検察庁で取り調べ中でございますので、検察庁担当検事より貴社、担当の皆様に御問合わせする場合も考えられます」と記載したことは虚偽であると主張する。
確かに、成立に争いのない乙第一三号証によれば、被告中宿に対する窃盗被疑事件は、昭和六〇年四月二一日不起訴処分となっていることが認められる。しかしながら、原告が第二回書面を送付したのが昭和六〇年七月下旬であることを認めるに足りる証拠はないが、仮にその時期であるとしても、被告中宿に対する右告訴事件の不起訴処分告知書が作成されたのは、昭和六〇年九月一一日であって(前記乙第一三号証)、原告がその告知を受けたのもその頃である可能性があり、そうであるとすると、原告は被告中宿に対する告訴事件がなお捜査中であると認識したまま、第二回書面を送付したことになる。
以上によれば、右記載を虚偽あるいは違法なものと認めることはできない。
(三) また、被告らは、第二回書面の前半の、「被告中宿は原告退職時、企業秘密である弊社の大量の設計図をコピーして不法に持ち出し、転職先の被告会社にて同設計図を使用し多種の同一機械を製造販売したのであります。」との記載が断定的表現で違法であると主張するが、既に甲事件について認定、判断したところに照らせば、事実に反する点はなく違法ということはできない。
三 以上によれば、被告らの乙事件における請求は、その余の点について判断するまでもなく、いずれも理由がない。
第三 結論
以上のとおりであって、原告の甲事件の請求は、被告らに対し、金六八二二万四九五〇円及び内金二〇四六万八五五〇円については不法行為の後である昭和五八年一二月三〇日から、内金三五二万三五〇〇円については不法行為の後である昭和六〇年七月九日から、内金三七七万二五〇〇円については不法行為の後である平成元年一二月七日から、内金四〇四六万〇四〇〇円については不法行為の後である平成六年一月一日からそれぞれ支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、被告らの乙事件の請求はいずれも理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条「項を、仮執行宣言、仮執行免脱宣言につき同法一九六条一項、三項を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 高部眞規子 裁判官大須賀 滋は転官のため署名押印することができない。 裁判長裁判官 西田美昭)
原告機械目録
一 NAT-三〇〇オートテンパー
二 NAT-六〇〇オートテンパー
三 NAT-一五〇〇オートテンパー
四 NAT-一〇〇〇オートテンパー
五 SGチョコレートポンプ
六 移動式チョコレートポンプ
七 AT-三〇〇オートテンパー
八 PAT-五〇オートテンパー
九 H三〇ホンダントビーター
一〇 PC一ペーストクリーナー
一一 PC三ペーストクリーナー
一二 STストレージタンク五〇〇、一〇〇〇、二〇〇〇、三〇〇〇
一三 M一〇〇メルチング・アンド・テンパリングケトル
一四 SMストリングマテック六〇〇、一〇〇〇、一二〇〇
一五 CMD型チップチョコ・デポジッター
一六 キスチョコ製造プラント
一七 DC二七五デポジッター
一八 DC二七五デポジッター・プラント(標準型)
一九 DC二七五デポジッター・プラント(新型)
二〇 DS一五〇チョコレート・小型デポジッター本体
二一 OE型エンローバー六〇〇、八〇〇、一〇〇〇、一二〇〇
OEP型エンローバー三〇〇
二二 OEエンローバー・プラント
二三 リック・ファイヤー七五〇
二四 粉フルイ機
被告機械目録
一 SAT-三〇〇オートテンパー
二 SAT-六〇〇オートテンパー
三 SAT-一五〇〇オートテンパー
四 SAT-一〇〇〇オートテンパー
五 TG六五AVチョコレートポンプ
六 移動式チョコレートポンプ
七 PAT-三〇〇オートテンパー
八 DAT-八〇オートテンパー
九 FB四〇ホンダントビーター
一〇 LC一リキッドクリーナー
一一 LC五チョコレートクリーナー
一二 TTストレージタンク五〇〇、一〇〇〇、二〇〇〇、三〇〇〇
一三 MKT一〇〇メルチング・アンド・テンパリングケトル
一四 DMデコレーター六〇〇、一〇〇〇、一二〇〇
一五 チップチョコ・デポジッター
一六 キスチョコ製造プラント
一七 TMP二七五デポジッター
一八 TMP二七五デポジッター・プラント(標準型)
一九 TMP二七五デポジッター・プラント(新型)
二〇 TMD一五〇チョコレート・小型デポジッター
二一 TSE型エンローバー六〇〇、八〇〇、一〇〇〇、一二〇〇
TSE型エンローバー三〇〇
二二 TSEエンローバー・プラント
二三 LQ七五〇リック・ファイヤー
二四 粉フルイ機
設計図用コピー用紙購入一覧表
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説明図1 NAT-300.600オートテンパー
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説明図2 AT-300オートテンパー
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NAT-300とSAT300
両設計図の図面対応表
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NAT-600とSAT600
両設計図の図面対応表
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AT300・PAT300対応表
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ストレージタンク図面対応表
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機種別売上集計表
※チョコ関運売上額の構成比は総売上額に対するものです。
※各機種の構成比はチョコ関連売上額に対するものです。
NO.1
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機種別売上集計表
※チョコ関運売上額の構成比は総売上額に対するものです。
※各機種の構成比はチョコ関連売上額に対するものです。
NO.2
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機種別売上集計表
※チョコ関運売上額の構成比は総売上額に対するものです。
※各機種の構成比はチョコ関連売上額に対するものです。
NO.3
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被告会社営業利益率推移表
単位:千円
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設計図作成経過一覧表
1 乙第14号証(被告機械1)
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2 乙第16号証(被告機械2)
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3 乙第19号証(被告機械5)
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4 乙第20号証(被告機械7)
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5 乙第21号証(被告機械9)
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6 乙第22号証(被告機械10)
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7 乙第23号証
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販売機械一覧表
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